爽秋の候
中身がからっぽな夢にいたことだけは覚えている、見ず知らずの広告に溺れてうずもれて視界ばっかり煩くて、聞こえる声はいつだってしくじったみたいにぼやけていた。どこにいても繋がっていられるのに一人ぼっちみたいだね、なんて汎用性の高い台詞だ、量産された寂しさだ、特別でいたいと自尊心が駄々を捏ねたから簡単な筈の共感は今日も一等星を見つけるよりずっと困難で、また青じろい世界の枠内で過ごしている。
やりたい事だらけだったスケジュール帳にバツ印を書き込むのが日課になってもうどれくらい経つだろう、明日になるのが夜が明けるのが怖いから眠りたくないと願うようになってもう七年だ。あなたしかいない、を西側に、あなたの代わりなんていくらでもいる、を東側に乗せた天秤をひっくり返して世界をまぜこぜにする妄想でやっと目を閉じられるのだ、かすかなゆりの匂いがした二十四日の日暮れを思い出しながら。
夏が終わっていく、氷が溶けたコーヒーみたいに薄くなる、忘れたくなかったことを思い出にしながら何度も何度も朝を迎えて、地球儀に挿したピンみたいに身動ぎできないまま夏が終わる。懐かしいなどと言えばフラミンゴ色した雲にまで笑われそうだからお気に入りの曲を鼻歌にしながら歩く、今日も時計台が六時を打つ。
爽秋の候