とわ

 永遠の命も、永遠の愛も、永遠の英知も、存在しないと知っていた。唯一の永遠が存在するとしたら、いや、生まれるとしたら、君の命。君の命はこれから何十回何百回何千回と体を忘れて生きてゆく。それこそ、唯一つの永遠で、君の命だ。雨となったり雲となったり海となったりしてくりかえす水を真似て君はさ迷う。僕等が亡びても、帰る場所が無くなっても、世界が終わっても、生き物が在るから。どんな世界でも生き物が在るから。
 朝。朝はマドを開け、せんたくをすることから始まる。マドから君の居る塔が見え、せんたくカゴを持ったまま君の居る塔の形を上から上からきおくしてゆく。昨日と変わらず、細長くて、硬そうだと分かった。カゴを持つ手が痺れ、すとんと昨日のきおくから戻って来る。昨日は、今日と似ていた。考えが正しければ、今日は、明日と似ている。
 朝食を食べる時、どうして自分は右利きなのかと考えた。それと同時に、どうして右手の人の方が多く存在するのかと考えた。確か、きおくの中で君は左利きだった。何をする時も、左手ばかり使った。僕が右で君が左。やっと人と云う文字の成り立ちを理解したような気がして嬉しく、卵をたくさん食べ、終わった頃、それでも君の左手は君の左手で君の右手は君の右手だから結局、退屈を泳ぐ右手と左手が二つあるだけだった。やっぱりこれが、人って事だろうか。
 ぐらぐらとあっても無くてもいい事を考えても君の永遠性がちらちらと生れ死んでゆくので、うっかり君と会える可能性へとび込んでしまう。どうしたら、とか、そんなんじゃなく、唯、君の顔、君の声(その声は全く正しく無かった。)から始まって会う場所、初めの言葉、ねえ、待ってた会えるのを、星座の中身を盗んでしまう迄、待ってたよ、あの日の続きを考える、君がやくそくの場所へ来ることを、責めたらどんな顔をするかな、喜んだら君も喜ぶかな、どうだろう、もしかしたら一人で永遠へ行くのはあの日の二人を助ける為じゃなくて、あの日の僕を嫌ったからかもね。悪くも無かった些末事を、悪かった事として延々思って謝る夜も、あと雨の日も、あるよ。
 でもたかだが延々。四十パーセントの確率で、君は許してくれなかった。そうして五十五パーセントの確率で何も返って来なくて、残りの五パーセントで僕を許してくれた。恐らく、うん、恐らく、現実でも五パーセントの確率で許してくれると思う。ああ、でも、もし僕が、君の永遠への旅を見送る事さえしなかったら、なんて。考えるだけでぞっとする。

とわ

とわ

20191212

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-19

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