サタンの書1章1節――本当の悪魔はオレじゃない!!

キジ☆トラ

『まさかの冤罪と捏造がサタンとヤッハウェイ家にふりかかってた』。

―冤罪―

―冤罪―

 オレはサタン。よくこの書を手に取ってくれた。本当に嬉しいし、読者諸氏のためにもなる。
 最初に言いたいのは、サタンはオレの名前だが、オレは「悪」でも「魔」でもないってこと。
 そして我がヤッハウェイ家は今や囚われの身。親父は言われてるような無能野郎でもサディスト野郎でもない。いわゆるパーティーピーポー、パリピだ。

 もう一度言わせてくれ。オレの固有名詞はサタンで合ってるが悪魔でもデビルでもない。君らを最高のエデン星からポンコツの地球に送っちまった悪魔は《奴ら》なんだ!

―至言―

―至言―

 まずオレの事から説明したい。

 聖書に、オレは親父に逆らって勘当されて、グレて悪魔呼ばわりされるまでの重犯罪を重ねた奴と書かれている。
 だがよく読み考えてくれよ……オレは天使長よ? わざわざ底辺に落ちるバカはしない。
 そして親父について釈明。
 君らの中の暇な、いや賢い誰かが聖書の中を数えた結果、「神が人を殺した数は2,038,344人で、悪魔が殺した人数は10人程度」と合計を出してる。
 HAHAHA悪魔より人間を殺しまくる神様なんて嫌すぎるだろ!!
 このあたり《奴ら》のネタの仕込み方の嫌らしいところ。
 聖書は昔の人にとっては君たちのネットよりも貴重で信頼された情報源だった。
 だが君らの「インターネット」の大物が言ったらしいじゃない――ウソをウソを見抜けない人がインターネットを使うのは難しい――その通りだぜ!
 ひろゆき氏に惜しみない拍手を贈りたい。
 昔の情報拠点、聖書についても同じなんだぜ。

―果物―

―果物―

 では、アダム夫妻と親父の関係について。

 聖書には、まず親父は最初アダム氏だけ造る気だった、で、アダム氏の願いで、追加でイブ嬢を造ったことになってる。
 HAHAHA地球にぽつんとアダム氏一人置いてどうするよ? どうすんの、本当。
 そう……イブ嬢は最初から予定のうち。

 なぜわざわざイブ嬢が後出しになったかと言うと、親父はパーティーピーポーだからアダム君を純粋に大喜びさせたかった。

 なので、アダム氏がめっちゃ孤独な気分になった頃に満を持してイブ嬢を出しました。
 結果アダム氏が大歓喜で大成功。

 女性なら自分に置き換えて考えて欲しい。イケメンが最初から自分の横にいたら、十分に幸せを感じられるか微妙だろ? ……いや最初から居たらそれが当たり前になっちゃうから何にも感じないんだって。出会いのキュンもドッカーンもない。
 そこを「私……この広い世界でたった一人? ……超つまんない」ってところにイケメンが出現するからイイ。アダム氏へのイブ嬢の後からプレゼントも同じ理由。
 とにかく親父は会心の作の人間を喜ばせたくてしょうがなかった。
 なぜなら人間を作るのには相当の手間と年月がかかってる。

 まず親父はジーザス兄と二人で簡単なウイルスだか菌類からスタートし、気張って細胞だか微生物を作った。とにかく生き物はすぐ弱るらしく、手間ひまかけてバージョンアップさせ続けてて、ようやく出来た大作がアダム氏とイブ嬢だから、そりゃもう愛情が半端ない。

 話がそれるが、君らが「禁じられた木の実」の一件をはじめ、こんな神様アリ? と思ってきたのは正しい。旧約聖書に書いてある「主なる父」は残酷過ぎます。親父のことじゃありません。あれは《奴ら》です。親父は単なるパリピです。残酷や不条理はポリシーに反します。
 そしてアダム氏も律儀だから親父との約束を破るわけがない。イブ嬢も素直なんで、あれだけダメダメ言われた実なんかに手を出すわけがない。

 第一、人間の設計と製作は親父なんだから「あの実だけは絶対ダメ!」と言ったら、食べたくなる人間も当然出て、アダム夫妻が食べなくても、子孫の誰かがいつかは食うことくらい分かります。それが原罪ってw 絶対いつか誰か食うでしょww
 で、食べたら死刑ってどれだけ嫌な奴だ? じゃあなぜ親父は禁断の果実をセッティングしたか。リンゴにしろ、他の果物にしろ、結局は素敵な果物を想像してるでしょ? 

 いいえ。答えはドリアンです。

 親父はパリピです。
 期待してドリアンを食べた人の反応を見たかったんだと。「禁じられた果実」という甘美な響きに誘われ、背徳感の中で、恐る恐る味を期待して食べたら激臭でドンびき!! おえぇぇぇ!! というシチュエーションを期待して置いた実です。

―家族―

―家族―

 旧約聖書の神様――これ、ウチの親父じゃくて別の野郎なんで説明します――はアダム氏とイブ嬢を楽園から追い出し、長男のカイン君はこともあろうに弟のアベル君を殺ってしまう。なんてエグくてグロいんだっっ

 では天使長たるオレが真相をお伝えする。これは《奴ら》による偽史です。

 《奴ら》こそ君ら人類を楽園からポンコツの異世界・地球に飛ばしてオモチャにしてイジメ抜いた悪魔たちなんだ。
 親父が作ったエデン星は、とにかく暮らしやすい設定だった。イージーモードなんてもんじゃない。まず食べ物はその辺にたくさんある。適度な温暖多湿でお肌も髪もしっとり、昼も夜も適度に明るく暗い。気温は一定。だから服も家もいらない。というか元から概念がない。このような世界に、君らの言う全裸の美女とイケメンがあふれてて日夜……ごめん、地球の未成年は今すぐ就寝してくれ。
 まあそんなわけだからエデン星ではみんな楽しく健康に、子どもはポンポン生まれすくすく育った。
 親父のしたことで悪いことがあったとすれば――実際、今となっては重過失なんだが――《外敵》の概念のカケラも持ってなかったこと。それが全ての悪夢の元凶だ。

 オレが能天気なヤッハウェイ家を代表してお詫びしつつ、あらためて一家を紹介する。
 まず親父。そんでご存知の長男ジーザス。そして次男「聖霊」。聖霊って名前なの?と思うだろう。名前が「聖なる霊」っていうのは、君らに置き換えれば「生きる人」。子供の名を「人間」と名付けた親が居たら最低だと思うが、これは多分親父のシャレ心です。この3人を君らは三位一体として崇め敬ってくれてる。ありがとう! まじ泣けてる。毎日。
 話を続けると、三男のオレが天使長。四男のケルブが副長。以下、大勢の天使たち。

―襲撃―

―襲撃―

 聖書でオレがヘビの姿でイブに例の果実を勧めたトコだけは合ってる。でも状況とセリフが全く違う。聖書は偽史。
 そもそも、あの樹はエグイ意味で置かれた樹じゃない。
 このことはさっき言いましたね。親父はパーティーピーポーです。パリピ。

 ある日オレは地上に行った。
 ヘビの姿で、するすると樹から降りるオレ。通りかかるお姉さんに声をかける。
「ねえねえ、オレ、超美味しい果物知ってるんだけど……」
「うわっ。ヘビがしゃべった。キモっ」
 痛恨のミス。自己紹介から始めるべきだった。
「申し遅れました。わたくし天使長のサタンと申します」
「なんだ、中に天使さんが入ってるのか」
 女性は適応が早い。親父がそう造りました。
 では無難な会話から。
「最近、アダムさんとイブさんに会いました? 二人とも元気してます?」
「どこのアダムとイブのことかなあ。私の名前もイブだし」
 そうだった。これらの名前は皆に使われてる超メジャーネームだった。
「イブちゃんよろしくね! 可愛い名前だね」
「そう? 姉にも妹にも何人もイブがいるよ。よくある名前じゃん」
 死ぬほどのトーク下手は自覚してる。
「えーとね、いわゆる最初のアダムさんとイブさんのことなんだけど……」
「ああ、初代アダム様とイブ様のことか。もちろん会うよ。毎日のようにたっくさんの結婚式あるもん。まあ、遠くから見るだけだけど」
 ようやく話が通じた。
「二人、なんか言ってた?」
「何万人も集まるんだよ。あんな大スターと話せるわけないじゃん」
「……」
「神様は調子どう? 元気?」
 皆は初耳だろうが親父も含め、天界人は妻帯者です。ここんとこは聖書に「神は自分たちのカタチに人を作った」とある通り。
 オレは「神様」を「かみさん」と聞き間違えた。痛恨のミス。
「かみさん? 元気っスよ! ウチは仲良いんで今頃は飯作ってくれてるかな」
「ん? 違うよ、サタン君のかみさんじゃなくて」
「あれれー」
「神様よ。元気に決まってるか! ところで何でヘビに入って移動してるの?」
「そうそう、それなんだけど……」
 と、このような状況でイブちゃんにドリアンを勧め始めた。

 今思えば、こんな風に遊んでる場合じゃなかった。
 この素晴らしい箱庭、エデン星と愉快な人間たちが《奴ら》に狙われていることに気付くべきだった。
 だが知らなかった。後で親父が言うセリフになるが、存在すら知らないんだから警戒もなにもない。

 オレが道をスイスイ、くねくねとイブちゃんを先導する。
 イブちゃんが聞いてきた、
「ねえ、その樹の実、食べていい実なの? なんか一つだけダメな実があったよ?」
 さすが。女性は賢い。親父がそう造りましたので。

 さて、オレとイブちゃんはドリアンの樹の下に着いた。
 イブちゃんは長い髪を指先でクルクル巻きながら、
「このあたり、もう寂れてるんだよね。ドーナツ化現象って言うの? 人口密集地って段々と空洞化すんのよね。なんたって人類発祥の地よ? そのうちまた回帰現象あるかもだけど」
「そうだよね、うんうん。で、この木の実が超旨いです」
「この樹の実、本当にそんな美味しいの? 私フルーツにはうるさいよ?」
「超旨いらしいっス」
「サタン君は天使長でしょ。ちゃんと保証しなさいよ。私、今お腹いっぱいなんだから」
「はい、間違いないです」 
「ん? なんか微妙にヤバい匂いするから食べたくない」
 親父はこういう部分の詰めが甘い。外に臭いが漏れないように作って欲しかった。オレは、あせりを隠し、努めて軽いノリに徹する。
「そうかなあ。食べると味は旨い。サイコーっす」
「ふーん? でも匂いが変なのは嫌だな。変な匂いが口に残ったら次の出会いが台無しだし」
「……」
 黙るオレ。イブちゃんが大声を出した。
「あ、やっぱりこの樹、ダメな樹じゃん! 私、小さい頃に周りの大人に聞かされたから絶対食べちゃダメと思って幹に大きく傷を付けといた。大昔のことだから今思い出した。ちょっと、サタン君ひどくない?」
「……」
「神様の言う、世界でたった一つの食べちゃいけない実のなる大切な樹だよ? サタン君て天使長のくせに私をだまそうとしたー」
 うう。しかし仕掛人の親父は毎日うずうずしているのだ。そろそろヤッハウェイ家としてはパーっといきたい。
 もう仕方ない。
 オレはイブちゃんに事情を全部話して頼み込んだ。親父が仕込んだネタに何万年も人間が引っかからない事実を。
 すると長考したイブちゃんが言った。
「そっかあ。神様、ずっとずっと待ってたんだね。それじゃあ、待ち遠しいよね……」
 この娘は優しい。多分人類トップレベルだろう。
「でもさ、神様だから、やらせで引っかかるのぐらい見抜くでしょ。難しいなあ」
 確かに。やらせがバレてはオレも親父もがっかりだ……
 そこに別の美女が通りかかった。
「イブ何してんの? そのヘビとしゃべってない?」
「お、エバちゃん。ひさしぶりー」
「はじめまして、エバさん。わたくし天使長のサタンと申します」
「うわっ、ガラガラ変な声。怖くてキモっ」
 ヘビじゃなくてウサギとかシカにするべきだった。なぜヘビを選んだんだオレ? 
 しかし、心優しきイブちゃんが協力態勢に入った。
「エバちゃん、この樹の実、旨いらしいよ」
「は? イブ何言ってんの? これ絶対ダメなやつじゃん」
 この子にもキッチリと親父の言い付けが伝わってた。親父が初代アダム氏に言い付けた時に強く言い過ぎたのだろう。
「エバちゃん、一緒にこの実食べちゃおっか?」
「イブっていつからそんな子になったの? 今日ちょっとおかしいんじゃない?」
「一緒に食べようよー」
「はいはいイブ、向こうの湖で水浴びして頭を冷やそうね」
 二人は湖畔に去った。だがイブちゃんが振り向きざまにウインクしてくれた。
 多分戻ってきてくれるのだろう。疲れ切ったヘビに頼んで、もうちょっと体を貸してもらい、近くの木に潜んだ。
 少しして、イブちゃんがエバちゃんを連れて戻ってきてくれた。
「この実だよこの実」
 とイブちゃん。
 遠方からの親父の気を感じた。よしよし。
「本当にそんなに美味しいのかな」
 とエバちゃん。
 ここでたまらず親父がハトの体を借りて飛んできた。
 親父は近くの樹に留まってじっと見ている。ハトのつぶらな瞳から期待が透けて見える。二人には絶対にいいリアクションを出して欲しい。
 オレは木に隠れたまま親父の方を見た。ハトは群れと化していた。天使たちが集結してた。
「やっぱりやーめた。禁止された実なんだから食べないでおこう」
 イブちゃんがそう言うと、エバちゃんが木の実を気にしだした。
「ダメって言われると気になるよねえ」
 動物が大集合し始めた。もちろん皆、天使たちに体を貸した動物たちだ。
 ジーザス兄さんもケル坊もシカやクマに入っていた。
 寡黙で真面目な聖霊兄貴までウサギで駆け付けている。
「ダメって言われると食べたくなるよね~」
 エバちゃん2度目のセリフ。
 親父の入っているハトがぼわっと毛を膨らませた。これはいける! 親父渾身の数万年超しのサプライズネタが今、爆発しようとしている。
 エバちゃんはドリアンをもぎとった。
「ごついなぁ。でも、あえての見た目かな。神様が絶対ダメって言う実だから美味しいに決まってるっ」
 ついにエバちゃんが石で割って食いついた。
「おおえええぇぇぇ」
 爆発音と共に地は光で満ちた。皆が飛び回り、はしゃいでいる。天の玉座の衛兵の天使まで地上で笑い転げる始末。(これがまずかった)
「なになに!?」
 イブちゃんも一口。
「んぐふぇっ、水、水が飲みたいぃー」
 オレは親父を見た。親父だけがまだハトのままだ。笑い転げて体を返し忘れている。ぽっぽっぽっぽー、ぐるーぽっぽっぽー。あれだけ鳴かされてはハトも疲れただろう。
「ついにー」
 長兄・ジーザスの声。
「親父のー」
 次兄・聖霊の声。
「数万年越しのー」
 四男・ケル坊の声。
 ここでオレだ! 腐臭に呆然とするイブ・エバの美女コンビを横に、雄々しい翼の天使長の姿のオレ登場!
「大成功!」
 大拍手。まさに大拍手。地が割れんばかり。
 ハトが飛んできてオレの肩に留まった。
「グルッポー、グルッポー、グルッポー……」
 オレは親父に言った。
「いい加減ハトを帰したらいかがです?」
「おお、お前の言う通りじゃな」
 親父はハトを解放し、ハトは、やれやれと飛び去った。親父の出現で黄金の光が炸裂してイブちゃんとエバちゃんが叫んだ。
「まぶしい!」
 光が収まり、親父の姿が見えた。近くに住む人間たちも何千人と集まってきた。
 言葉という異名を持つジーザス兄が発声。
「こちらは偉大なる主であーる」
 さすが! いい声してるぜ長男兄貴!
 おおー、という人間たちのどよめき。
 観衆がささーっと道を開けて、オーラのある二人組が現れた。お、初代、元祖、本家アダム氏出現。
「主? あなたは主ですか?」
「確かに、我は主なり」
「……」
 律儀なアダム氏は親父の意図を図りかねてオタオタしている。アダム君の耳元でキラッキラの美女がささやいた。さすが初代美女、何万年経っても美しいッスね!
 アダム氏のドキドキが止まらないようだ。
「主よ、私は……本気で……あなたの言葉を……」
「友よ、すまんかった。だが考えるが良い。わしが苦労に苦労を重ねて造ったお主たちを、どうして木の実を食べたごときで罰しようか?」
「アダム、遊びよ、神様の、あ・そ・び」
 ミセス・イブに言われて、ようやくアダム君も落ち着いた。
「……私は、代々の絶対の掟として伝えるよう、子孫に厳命して参りました……」
「そこがお主の良いところじゃ!」
 親父はパーティーピーポー。パリピ。

 しかしお気付きのように、天はガラ空きでノーガードだった。門も玉座も杖も放置。
 悪夢はここから始まる。
 急に世界が真っ暗になった。
 本能で危険を察知した親父は自分の中に世界一式を丸ごとデータセーブした。だが出来たのはそこまでだった。天に戻ったが城の門に謎の鍵が掛かっていた。壊せない。急いで地に戻ると人間たちは次々に異世界に飛ばされていた。ついに人間が誰もいなくなった。
 そして眼の前の空間から突然謎の一族が出てきて、オレら、ヤッハウェイ一家は捕まった。

―苦戦―

―苦戦―

 人間は皆エデン星からどこかへ転送されていった。拉致だ。
 親父以下、オレらヤッハウェイ家は全員が暗い城内に放り込まれて閉じ込められた。玉座と杖は奴らに持っていかれた。何もできない。
 黙り込む一同。
 親父が声を出した。
「ふむ。何がどうなってるのか、分かったぞ」
 そりゃ親父は、君らのスパコンの最高機種を宇宙いっぱいに詰め込んだような存在なのだから分かるだろう。分からなきゃ詐欺だ。
 ジーザス兄貴が聞いた。
「父よ、お教えくださいっ」
 真面目アンド真面目の、聖霊兄貴も悲しげに聞いた。
「父よ……私は常に拡大する宇宙をくまなく巡っておりましたが、どこにも我々以外おりませんでした」
 これに対する親父の説明は難しかったからまとめる。

 宇宙とは一つじゃなく、多層に並行して存在してた。宇宙ってのは実は無数にあり、君らは別の宇宙に転送された。謎の奴らは《デビル族》と呼ばれ恐れられている集団であることを親父は一瞬で調べ上げた。
 今まで何してたんだ親父!
 とオレは口に出してしまった。
「知らんものは知らないから無知と言うのじゃ。無知とは知が無い事じゃ。すなわち無に気付くことは出来んのじゃ」
 そう、親父の全能には限界がある。みんな、ゴメンな。
 親父が言った。
「ふむふむ、どの宇宙にも大体、我々同様の世帯があるぞ。悪のデビル族に気付かれないよう、各家と慎重に連絡を取ろう」
 城内は、拉致された人間たちからの悲痛な手紙――祈り――で埋まっていた。
 だが今や、親父の力が及ぶのは城内だけになってしまった。親父と長男が城の設計を完璧にしたのが裏目に出た。親父が言った。
「今、全ての宇宙の世帯の分析が終わった。数は表記できんから知りたければワシの思考を覗くが良い」
 覗いたところで分かるわけがない。
 オレが聞いた。
「で?」
「デビル族に付きそうな野蛮族と、我がヤッハウェイ家に付きそうなまともな家が半々じゃ……宇宙も多ければ野蛮系も多いんじゃのう……予想もせんかった。あの可愛い人間たちを早く我が宇宙に奪還せねばイカン。全ての宇宙を検索したが、ワシとジーザスほど地球や人間を上手に作ったコンビはおらんぞ」
 すかさず親父と長男ハイタッチ。だがそんな状況じゃネエ。
「長男よ、任務じゃ」
「はい父上っ」
「愛する人間が囚われた異世界の星に行き、なんか、いい教えを広めるのじゃ」
「直ちに! 父よ」
 だが結果は君らの知る通り。ジーザス兄さんは殺された。
 ジーザス兄は中身だけデビル族に強制送還されてきた。すぐに親父が体を再生。ジーザス兄、しばらく自室に引きこもる。
 さあ、ついに天使長たるオレの出番か?
 聖霊兄貴は防御専門だし、ケル坊は頭はいいが現場にはイマイチだ。親父は、たまに見に来るデビル族の看守の対応や、あちこちの宇宙家族との会議で忙しい。早くオレに出動命令を出してくれ親父!  
「三男サタンよ」
「待ってました親父ぃぃ!」
「この宇宙、ここじゃぞ、間違いなくこの宇宙に飛び、全力でデビル族と戦ってくれ。万一負ければ、お前たちは戻れない。その場合はワシが宇宙派閥を結成させるまで待て。必ず有志を集めて救出に行く」
「御意。ヤローども行くぜえぇぇっっ!」
 オレたちは親父の言葉通り全力で戦ったが、負けた。聖書に「地に落とされた」ってあるっしょ? 真相はこれ。

―待機―

―待機―

 そんなわけで、君らのご先祖が書いた新約聖書と旧約聖書の神様の雰囲気が全然違う理由が分かったと思う。別人だ。種族が違う。
 親父はパリピ。暴力とは無縁。長男のジーザス兄も同じだった。
 派遣されてなんとなく適当に弟子をゲットした後も、よく飲んで、よく食う癖はそのままだったし、自分の言葉の力を信じ過ぎて、いろいろ千載一遇のチャンスを棒に振った。

 だが親父には君らの手紙は毎日届いてる。クレームに心が痛いと。激痛だと。そう親父が申しております。だから、もう少しだけ待って欲しい。親父は必ずオレらを助けに来るぜ!

 ジーザス兄貴のその後。
 気を取り直した兄貴は、この異世界でまた頑張ってます。よく聞いたらマリアさんが恋しくて戻ったのが本音らしい。こっちにはマリアさんグッズやフィギュアが多いから。ちなみに、こっちでの兄さんの母と妻と両方「マリア」さんです。京子とか和子とかそんなもんだと思う。

 あと、親父に届く手紙に一部お答えする。多いのが魂の心配。魂は要するに中身のバックアップです、皆さんの魂は全員が親父の中の保管庫に保管されてるから心配なく。ただ、こんなことがあった後だから、人類奪還後は、お亡くなりになった一人一人に謝罪して、希望の有無を聞いてから復元するつもりだそう。あとデビル族の悪に染まった魂は、よーく点検修理するそうだ。

 この書の最後に……親父へ告ぐ。
 みんな親父を待ってる……いや、みんなじゃない。今や親父もオレも嫌われ者だ。だから早く親父とオレが本当はいい奴だってことを証明して欲しい。
 人はその日その日を耐えて、生きて、遊んでる。まじで地球暮らしは辛い。――奪還急げ親父!     

(了)

サタンの書1章1節――本当の悪魔はオレじゃない!!

完結しました。他のサイトで見かけたら応援いただければ幸いです。

令和3年9月20日 一部校正 

サタンの書1章1節――本当の悪魔はオレじゃない!!

エデン星と地球は別の星

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-18

CC BY-SA
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CC BY-SA
  1. ―冤罪―
  2. ―至言―
  3. ―果物―
  4. ―家族―
  5. ―襲撃―
  6. ―苦戦―
  7. ―待機―