同化

 骨の温度、は。存在しないものに、憧れる頃の、夜空の月に対する一種の、神秘めいた感情。二十七時に出逢う、もうひとりのわたしと、いつかの恋人だったひと。わざわざ、テレビが放送するまでもなく、この街が森にのみこまれていることは、一目瞭然である。カジオとミドリは、自ら望んで養分になり、でも、ふたりは森の一部なのだと想うと、さみしくはなかった。つる植物におかされたビル群に、なまえもしらないうつくしい鳥が巣をつくっている。博物館の骨格標本に見惚れているあいだに、恋人は星に帰り、真夜中のバケモノは、やさしくそっと、わたしの純潔を奪い、もうひとりのわたしは、アイスクリーム屋さんの幽霊と懇ろの関係になって、とにかくもう、恋だの、愛だの、肉欲だのに現を抜かしているひとびとは、なにもかもあきらめているのかもしれなかった。カジオとミドリの気配をわずかに感じる、三丁目の地下鉄の入り口。

同化

同化

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-18

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