「あのバス停で待つ。」

haruha

ここにあげている詩を広げた恋愛を書きました。

あの夏の向こうへ

 僕は、この体が綻ぶのを待つ。

 この、体に張り付く日差しを払いたいと思う。
だが、彼女はこれが好きなのだ。
だから、出来ない。

 山の麓の川には、もっと日差しが降っていた。
彼女は、その安っぽいスポットライトの下で楽しそうに舞っている。
 今、もし目が見えなくなってもこの光景を何度も思い出せるのなら、それも悪く無いのかもしれない。
 この感情を愛と表現するのは、違うと思う。

彼女は、木漏れ日の中を歩いた。
とても美しい。

 ある時、彼女は、こんな人生、忘れて逃げたい。と僕が言うと、あのベンチに座り、桜の花を拾い僕に手渡した。
「私には何も出来ないよ。貴方の傷を理解できるのは貴方だけ、私は、自分の傷が分からないの、でも貴方と居ることが出来ればなんでも良い。
死んでも構わない」
その言葉を聞いて僕は、
「じゃあ死ぬ時は、一緒だ」
とありがちなことを言った。
「死ぬなら、夏の月明かりが眩しい海が良い。そこならたくさん死にたい。
貴方と愛を誓って、毒を飲んで、それで、一緒に歩いている最中にいきなり倒れて、砂浜に寝そべって死ぬ。良いでしょう」
と自慢げな笑顔で問いかけてきた。
「でも、それをするのは、今じゃないよ。きっと」
こんなに楽しそうに話をする彼女を僕は、一度も見たことがない。

 僕は、自分の芸術の死際を見た。
それは、俯く僕に儚く、微睡むような声だった。
「ねえ。この夏、あの海に行こうよ。
花火のカウントダウンをして、提灯が輝く祭りに行って、次の日の朝日を浜辺に座って、眺めよう。
そしたら何かが変わる気がするの。
ねえ。どう」
それを言った彼女にも、僕にも、それが出来ないことだと分かっていた。
 いや、出来ないと思い込んでいただけなのかも知れない。

 だが、僕らは、やり遂げた。

 夏、海へ行って、花火のカウントダウンをして、提灯の輝く祭りに行き、朝日を見た。

 とても、綺麗だった。

 硝子で出来た君の目を、僕は覚えている。
最後の、色彩がなくなる最後まで、
君の書いた詩が宙を舞い、僕らの芸術が死ぬまでを。
 僕は見たのだ。
 あの夏とは比べ物にならないほど。

 とても、綺麗だった。

「あのバス停で待つ。」

「あのバス停で待つ。」

「あのバス停で待ち合わせようよ」 それが彼女の最後の言葉だった。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-17

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  1. あの夏の向こうへ