Gone

アントニオ

―――これは”俺"が救われる物語。


 ハッと飛び起きた黒髪の男は痛む頭を抑え警戒しながら周りを見渡すと薄いシーツが重力に負け肌を滑り腰でくしゃりと折り重なった。
 慣れた暗闇では無く明るく一面白に囲まれ壁の中を見渡して眩しさで目を細め感じたのは薬品の香り、生傷が丁寧に縫われていてここで治療したのだろうと悟る。
 家族と組織の問題が解決した後に引退したこの男クリプトはハッキング能力、鍛え上げた肉体と直感、そして戦闘能力を買われ様々な企業に雇われ仕事をこなしていた。
 ターゲットの組織を壊滅させた後…どうやら倒れてしまったらしく現在に至る。

「やっとお目覚めかパク…テジュン。又の名をクリプト」
「…誰だ」

 カツカツと背後から近づく男に鋭い眼差しを向け万が一に備え武器になる物はと辺りを見渡す。
 明るい場所とは裏腹に顔には影がかかり至近距離まで近づいてやっとその男が誰か理解した。
 それと同時に安堵もしたのだ。
 製薬会社の顔として著名人に治療がここで行われたのも納得し力を抜くクリプトは何故アンタが俺を?と問いかければ肩を引き寄せられ、耳元囁かれる。

「仕事を頼みたくてね、とある薬物中毒者の男を暗殺してほしい。
 成功したらこの仕事を辞めても君の妹、母、他にも望む人が居れば全員が一生遊んで暮らせるだけの金を出す」

 写真を差し出す男を目を細めて見ながら黙り込むも一拍置けばため息混じりに写真を受け取り覗きこむ。

「この男は?」
「彼は国家機密を知る危険分子だ」

始まりの日まで一週間を切った。
他のアースと同じように厳密で慎重に組んだタイムスケジュール。
 必要以上に追い詰め幾度も彼らのプライドを粉々にし、時には殺してやりたいほど憎い過去の自分の前でそいつの大切なものを弄んでいたぶって理性を壊し縋り付かせる程犯したこともある。
 全ては自分という怪物退治をする事で芽生え育つ感情を優先させる為に。


いつしかこう呼ばれていた。
悪魔の代弁者
デビルズアドヴォケイトと…


 あの日まで数日ここからは寸分の狂いもなくここまで来たものの"今日"は何かがおかしいのだ。
 Apexゲームで2人を相手に戦うはずだった。

「…どういう事だ」

 現れたのは一人、義足の男で片手に持つウィングマンが拳の中でわなわなと震えていた。

 もう一人居るはずだった。
 否、居ないとおかしいのだ。
 どの時間軸でも同じ結果でないと。
 完璧な計算で成り立ってるはずの世界。
 
 タイムパラドックス(タイムトラベルに伴う矛盾や変化)が起きて違う結果を疑い、そこで震えてるオクタビオに雇われ再び戦いの地に戻った男がどこかに隠れているのでは無いかと辺りを警戒した。
 その男は過去の自分。
 思考もほぼ同じ、潜んで居そうな場所にハックを向かわせ索敵した。

「…どこだ」
「なに?」

 小さく呟くその声は怒りで震えていて何のことかさっぱり分からないデビルと呼ばれている男は小さく首を捻った瞬間、銃声と共に頬を銃弾がかすめた。

「ハッハッ、やるじゃないかオクタビオ、危うく当たる所だった」

 皮肉めいた言葉で相手を煽るもまっすぐとこちらを見つめるレンズ越しの瞳にゾクっと一瞬細胞がざわめくのが分かった。

「どこに連れてった!!!!」

 暗い建物内に響く声は本気で自分に殺意が向けられている。

「いったい何の事だ、番犬はどうした?どこかに隠れてるんだろう?」
「っ…しらばっくれるのも…」

 デビルの言葉に驚いた顔を見せたオクタビオは一瞬動揺した次の瞬間二人を巻き込んで走る閃光。

 それは自分自身も良く知ってるEMPリブート。
 ほらな?やはり隠れて居たか…と銃に触れるも何かがおかしい。



 "二人"を巻き込んでいるのだ。


 一瞬の判断が遅れ、気付いた時には転がっていたのだ、オクタビオの足元にグレネードが。
 目を見開き思わず手を伸ばして名を呼んだ時には建物を揺らす爆発音と衝撃破で壁に打ち付けられて巻きあがる粉塵の中、膝を付き肺に入った有害な物を外に出そうと咳き込みながら煙に向かって目を凝らす。
 オクタビオも同じように壁に打ち付けられいて、気を失ってた。
 砕けちった義足はもう修復不可能だろう。

 何かがおかしい。

 自分を狙った攻撃では無く確実にオクタビオを狙った攻撃に動揺が隠せない、頭も追いつかない。
 煙が晴れてうっすらと浮かぶ黒いシルエット。
 紛れもない過去の自分だ。

 何もかもがおかしい。

 そのシルエットは仁王立ちで銃口を向けている。

 オクタビオに。

"今日はその日じゃない。
 その日じゃないんだ。"

 響く火薬が弾ける音、同時に黒を纏った自分自身を壁に押し付けた。
 幸いにも銃弾は気絶するオクタビオの頭上に穴を開けていた。
 相手は少し驚いた顔をしてこちらを見ている。

「どういうことだ…お前は…」
「お前!自分が何をしてるか分かってるのか…!?」

 黒い自分を押し付ける腕に力が入るも、当の本人は冷静に白髪を見つめて考え事をしている。

「…お前は俺か?ふむ…別アースかはたまたタイムスリップか…不思議な事もあるもんだ」
「何…?」

 カチャっとアーマーのスキマに差し込まれた銃口に気付いた時には破裂音とドスっと鈍く重たい音と共に膝をついた。

「ならアーマーの弱点を狙えばいい。油断したな?」
 
 笑う黒い男の言うとり完全に油断してしまった…。
 幸い内臓を避けてはいるが背のアーマーを貫通せず肉に弾丸が埋め込まれてるのが分かる。
 溢れる血液が熱くて堪らない、脂汗を吹きだしながら顔を上げれば再びオクタビオに近づく黒。
 こんな記憶は俺には無い…。

 なんだ?何が起きた?記憶…?
 こいつは俺が分からなかった。
 何度も対峙したはずなのに…
 それにあの目…俺は知っている。
 記憶の片隅にあるあの目…

 記憶…?

「これで任務完了だ。すまないオクタビオ・シルバ…恨むなら…」

 そうか…!

「ハックーッ!!!!」

 銃口と共にクリプトが振り向けばデビルは横に飛びながら銃を放っていた。
 あいつの口ぶりはまるで過去の自分。
 もっと過去の自分。
 暗殺を完了するときに気の毒だったのか自分を肯定するためか嘲笑ってるのかはもう忘れた。

 だが何かがおかしい。

 頭をフル回転させ行きついた考えは都合よくオクタビオの記憶を消されて、誰かに雇われてるのを悟いデビルは額に指を当て勢い良く飛び出たドローンに信号を送った。

 「EMPプロトコルを起動…!!」

 先ほどとは違い自分とオクタビオからは離しクリプトだけがリブートされ、動けなくなった奴を横目に気絶してる標的になったオクタビオを抱えて窓から飛び降りた。
 見下ろすあの目は…暗殺対象を狙う獣の目。



「…誤算があった。あぁ次は失敗しない…それにしても


自分の息子をターゲットにするなんて…


イカレてる」

 通信を切るとコートの埃を払い持ってるウィングマンで目の前の赤い男が置いていってしまった哀れなドローンを壊す。

「オクタビオ…」
 
 口にするとズキっと頭に激痛が走り額を抑えた。
 触れるともう塞がった傷がズキズキと痛んだと同時に胸がギュウっと締め付けられ吐き気をも要しつつもターゲット、そして白髪の自分を思い出す。
 自分を知っているような口ぶり…そいつの存在は想定外で…。
 自分と同じなら徹底的に痕跡を消しているだろう。

 相手は自分だ、まずはゆっくり狩りを楽しむのも悪くない。
 ふっと小さく笑いゲーム会場を後にした。

「…っ…」

 目を覚ますと覗き込むオクタビオと目が合って瞳の瞳孔が小さくなり驚いたのが分かった。
 逃げるようにゲームから離脱したのは覚えてるがどうやって隠れ家に帰ったかは覚えてない。
 ばつが悪そうに目を泳がせるオクタビオはゆっくりと退いて起き上がるのを待ってるようだ。
 上半身は何も纏っておらず撃たれた箇所の銃弾は取り除かれ子供が縫い合わせたようにちぐはぐだが傷も糸で塞がれていた。

「フ…お前がやったのか?このまま殺すことだってできたんだぞ?」
「…うるせぇ…こんな所に連れて来やがって…暗証番号が無いと出れねぇだろ…それに…」

 と、罰が悪そうに目線を下す先を見ると義足を嵌めておらず
あぁ、なるほどなと納得して眉を上げた。
 周りを見ると濡れたタオルが数枚転がっていて不思議に思い手に取って記憶を振り返る。
 息苦しさと悪夢、そして"しっかりしろ"と優しく囁くように彼は言って吹き出る汗をせっせと拭ってる姿。

「…熱が出てうなされてから…その…」

 モゴモゴと口ごもりながら頭を掻く彼の仕草は知っている。
 照れてる懐かしい姿。
 口を尖らせてきっと一生懸命言い訳を考えるのだ。
 ため息を吐いて重ねた姿を吹き消せば少し頭を切り替えて状況の整理をしようと無造作にぐしゃぐしゃになってるコートに手を伸ばし彼を見れば目を開きこちらを見て明らかに動揺していた。
 コートの腕に嵌めていたハックと繋がる機器を確かめるとメモリが抜かれていて犯人が動揺した理由が分かり記録された物を見たであろう犯人に無言で手を差し出せば素直に圏外になってる電子機器を渡して罰が悪そうに頭をかいていた。
 メモリを抜き取り端末は返してやるとオクタビオは待ち受けになってる夕日を眺め重くなってる口を開く。

「…テジュンが居なくなる前に二人でよぉ…誰も居ない浜辺にある小さなコテージに泊まったんだ…」
「…あぁ」

 それは俺も知ってる。
 今は行けない場所。
 唯一俺の恐怖を呼び起こす場所だ。

「裏切ってた奴を好きになってたなんて笑っちまうよな…アンタ前に言ってたよな?全てが壊れる前にお前たちを壊しに未来から来たって」
「…」

 笑いながら言う彼の瞳に浮かぶ怒りと悲しみは自分に向けられている。
 だが、自分の過去にはオクタビオを裏切ったなんて無いのだ。

「どういう気持ちで俺の告白を聞いてたん?あ?なんで未来のアンタの傍に俺は居ねぇんだ!?」

 投げられた赤い鬼の面が胸に当たりカランと音を立てて床に転がった。
 額には俺の心にもある大きな穴。
 コートの裏に隠し肌身離さず持ち歩いてる。
 あの時浜辺で愛しい人にあげたもの。
 嬉しそうに何度も夕日にかざしては笑ってこちらを見て言ったんだ。

"   "

 それは今更だったが言葉には殆ど出してない言葉で俺は…

「オイ!!!答えろ!!楽しかったか!?俺の額を撃ちぬいて間抜けって笑ったか!?」
「…だまれガキ」

 思わずオクタビオの頬を掴み口を塞ぎ床に押し付けていた。
 怒りと憎しみと悲しみが滲む瞳がじっとこちらを射貫いている。
 冷静になれ…と頭の中に警告する声がして舌打ちをしながら解放してやった。

「アイツと何があった?」

 小さく首を振って目を伏せたオクタビオの言葉を静かに待つ。

「…次の日起きたら、朝飯を買ってくるってメモがあって…待っても待っても帰ってこなかったのは…俺のこと…」
「違う…」

 自分の端末に差し直したメモリの映像をもう一度流し、クリプトにカメラをフォーカスすれば骨格、その下の内臓までもスキャンした静止画をオクタビオにもう一度見せて左額の脳にあるチップを指でトントンと指す。

「…これは」
「アイツはお前のことをまるで知らなかった…恐らく…」

「………誰かが…テジュンを…?」

 縋るように自分を見上げるオクタビオはまるで底なし沼に浸かって助けを求める小鹿のようでズキリとどこか遠くで何かが痛んだ。

「それで…俺を殺した…?だからアンタの傍に俺は…」

 反吐が出る…。
 苦しい…。
 息が詰まる。

「俺が今まで経験したパターンと全く違う…」
「今まで…?アンタ一体…」

「俺がお前を殺した時と状況が違う」

 仮面をじっと見ていた黒い瞳がオクタビオに向けられ、その冷たさにゾッと背筋を凍らせ金縛りにあったかのように動けなくなって口を紡いだ。
 どこか寂しくて悲しい目は直ぐにニヤリと笑ってオクタビオを引き寄せ耳元で囁く悪魔の声。

「…安心しろ大人しくしてれば"俺"はお前を殺さない。それともこれ以上騒いでまた酷い事…してやろうか?」

 脅せば生唾を飲み込む音と慌てて身を引くオクタビオに笑う。

「まぁ…修正する必要があるな…この埋め込まれた忌々しいチップのせいで楽しみが奪われてしまってる…」

 感情を全部赤く塗りつぶして分析作業にかかる。
 取り除けなかったら?
 あのバカで間抜けな過去の自分が記憶を取り戻さなかったら?

 自分が通った道で一番最悪の結果になる。

 俺はオクタビオを知らないまま殺すのだ。




「なぁ」
「……」
「おい」
「……」
「なあってば!」
「なんだ!?」

 懲りずにイラつかせるオクタビオはイスの下から手を伸ばし服を引っ張る。
 見下ろせばもじもじと言い辛そうにしていて、ため息を吐きながら再びパソコンを見ようとすれば無理やりイスを回転させられて再び見下ろす。

「トイレに行きてえんだよ!!風呂も!腹も減った!!!!なんとかしろ!!!」

 オクタビオは不服そうに怒鳴ると、またため息を吐き抱き上げトイレに座らせた。

「…なん…だよ…」
「脱がせてやろうか?」
「早く出ていけ!」

 ドアを閉められ考える、白髪の男は少し楽しそうに言ってたなと…こんな状況なのに少し嬉しく思う自分がいた。
 テジュンに襲われた時、覚えてるのはEMPと足元のグレネード。
 目が覚めたら血だらけで倒れてるアイツと自分にかぶされた赤いコート。
 あのコートには見覚えがあった。 
 いつも黒い服ばっか着ている地味な男にプレゼントしようと作らせていた物なのだ。
 
 初めてデビルを見た時にその顔にも服にも驚いて未来から来たというのも直ぐに納得できてしまった。
 しかし自分とテジュンを襲う理由が分からない。
 前にアイツに無理やり犯された。
 喉が枯れるまで叫ぶテジュンの声、逃げる俺の腰を掴み打ち付けられた物。
 目が中々合わず奴はテジュンを見て鼻で笑った。
 玩具の俺を見下ろしたときは涙が出てぼやけていたけど今は何故か鮮明に浮かぶ苦しそうな顔を。


 目が覚めて転がるデビルを見た時うなされていて警戒しながら触れると凄い高熱と出血、ざまぁ見ろと思った。

 でも泣きそうな声で呼ぶのだ"オクタビオ"と何度も小さく心細い声で。
 ほっとけなくなってアーマーを脱がしアジャイの真似事をした。
 這いずって冷蔵庫の中にあるミネラルウォーターを取り浸した冷たい布を押し当てると手を握られまた名前を呼んでいて"頼む"だとか"行くな"とか言う彼の声に胸が締め付けられる感覚に頭を撫で声をかけると名前を呼ぶ声は安心したような寝息に変わった。



「風呂…」
「不便だなお姫様」

 憎まれ口を叩くも抱き上げる腕はテジュンと同じように…

 優しい…。

 気付いてしまった。

 この悪魔だと思っていた正体は…





「これって…」

 数日立った日、目の前に出されたのは金の装飾がされた義足。
 新品のようにピカピカだ。

「油も浸透しているしお前の装備でもちゃんと動くように調整済みだ。いいか綺麗に使え、傷を付けたら殺してやる」

 パソコンから振り返らずドローンを弄りながら答えるデビルは多分あれから寝ていない。
 しかし、自分が寝てようが何しようがデビルは運ぶ以外には触れて来なかった。
 ずっと悪魔だと思っていた男が…テジュンと殆ど変わらないのだ。

「…その…ありがとよアミーゴ…」
「いざとなったらそれで全力で逃げろ、少しだがアドレナリンもあるだろ?」

 この男には絶対に必要のない義足。
 傷も埃も無くて大事に扱ってたのが分かる。

 あの日もコイツは怪我をしながらも俺を抱えて窓から飛び降りていた。
 殺すつもりなら…仲間割れしてる俺とテジュンを同時に狙えたはずなのに。


「あのよ…俺はいつどうやって死ぬんだ?この義足も…つけてた奴なんだろ?」
「…」
「頼むよ、テジュン…」

 名前を呼んでやると驚いたよう振り返る彼と目が合って、義足を履いたオクタビオに目を細めて息を呑む。

「………二日後…俺がお前の額に銃弾を埋め込んだ」
「随分…近々だな?笑える」

 ハハと無理に笑うもテジュンの顔を見て本当なのだと知る。

「状況が違うって前に言ってた…アンタ…俺が殺されるのを止めに来たんだろ?やっと分かったよテジュンだって」
「…フン…それはどうかな」

 パソコンに向き直しはぐらかそうとするテジュンを無視してジッと相手を見て逃がすまいと続けた。

「どうして…殺したんだ?」
「もうだまれ」

 テジュンの声が不機嫌そうになったのが分かったがどうしても知らないといけない。

「俺…アイツにだったら殺されてもいい」
「…!!!」



『殺してくれ…お前にだったら殺されてもいい…頼む…』



 同じセリフを聞き再び振り向けば同じように笑うオクタビオを見て息が詰まった、
 手が震えるのは怒りか悲しみかそれとも寝不足なのか…ぐちゃぐちゃになって溺れそうだ。

「ただ…」

 続く言葉に不安そうに見つめるテジュンの瞳が自分の視線とかち合う。

「記憶が無い…何も感情も無いテジュンに殺されるのは嫌なんだ」
「…」
「だからもしもの時せめてあるはずだった未来を持っていきたい。教えてくれお前の過去を」

 立ち上がり近づいて戸惑う白髪頭を腹に抱きしめた。
 オクタビオはゆっくりと続けた。

「愛してたんだろ…お前も俺と同じだった…」

 腰に腕が回されると分かった、その腕は密かに震えてるだろうか…。
 迷っているのだろう、暫く黙り込んでるテジュンを自分にしては根気強く待って、そうするとゆっくりと語り始める。

「あの日…俺たちは優勝して浜辺のコテージに向かっていたんだ。告白の答えを言う為に。いつでもそこは綺麗な夕日でお前はあげた面をまだ取らずに嬉しそうにはしゃぎ回ってた。凄く眩しくて…いつまでも見ていた。」
「…ん」
「コテージの扉を開くと爆発が起きて…油断していたんだ。誰も知らない場所だと思っていたからな…埃と瓦礫からお前を探し出したときには…
もう助からないと分かった…
それで…」
「…楽にしたのか…お前が…」
「……最後の命令だった」

 回された腕が一層強く腰を抱きしめる。
 それは苦しくないように優しく。

「それを伝えてくれりゃ…」
「とっくに試したさ…俺はお前の口から好きだと言われて心底嬉しかった。
 ただ不安だったんだ。
 親でも子を捨てる人間だって居る。
 それにお前にはまだ未来もある。
 迷ったんだ…お前の前から姿を消すことだって考えた。
 だがそうじゃなかった、迷わなくてよかった。
 ちゃんと愛してると伝えればそこに向かうことも無かった。
 もっと自分たちを信じていれば…俺の計算だと朝飯を買って伝えるはずだった」

 そうか…と頭を撫でて話を聞いた。

「俺になるまいと自覚させれば…お前の好きなハムチーズサンドを買って…それを頬張る姿を見て伝えるんだ…」
「見届けてまた過去に戻って繰り返すって?バカだなお前…バカだ」

 JAJAと楽しそうな笑い声が腹から聞こえた。
 きっとこの不器用な男は色々なパターンを探し最善を尽くしているのだ。
 何度も。

 「だが何の間違いか今に至る…殺させはしない」
 「俺様が死ぬわけないだろバーカ」

 瞳を向けると黄緑の目が笑っていた。
 悪魔だと思っていた男は何度も手を伸ばし運命から自分たちを救っていた。
 自分を救うことを忘れて。

 ただの一途で優しいテジュンがそこに居た。

 一人ぼっちで愛する者から嫌われる事で愛を示し続けてるのだ、この男は。
 誰にも事実を知られないまま、自分の幸せを忘れて途方もない地獄に居る。


「テジュン…テジュン…ずっと好きだお前が」

 この一途な男を一時でも自分が救ってやりたくて出た言葉なのに何故か自分の瞳から溢れるものが止められないでいた。
 伸びた指先がその雫を掬い不思議そうに言葉を選んでいる。

「何故泣いてる…」

 もし俺がコイツの世界の俺に会ったら何度も殴ってやる。
 何度も…。

 別の次元の俺がコイツを悲しませたら何度も蹴り飛ばしてやる。
 何度も!




「テジュン…抱いてくれよ」
 驚いた顔が可愛いと思った俺もイカレてしまったのかもしれない。

 お前を一人残した憎い俺の代わりでいい。
 お前から幸せを奪った俺の代わりでいい。

 何故だか伝えたいんだ、ずっと傍に居るということを。

 何故だか分かる。
 お前は涙が枯れるまで泣いて俺が骨になってやっと死んでるってわかったんだよなって。



 あぁ…そうか…なるほどな?

 俺の中に…居るんだろう?

 伝えたいんだろ?





 薄暗い部屋、布が擦れる音、ジッと見下ろす濃ゆい茶色の瞳は肌に穴が空くんじゃないかというくらい見つめていて、汗ばんだ肌をゆっくりと撫でながら白髪の男は言う。

「お前も俺を代わりにしろ…目を閉じれば浮かぶだろう」

 そんな事を言って優しく瞼を撫で、それでもオクタビオは小さく息をしながら見上げて口端を上げた。

「嫌だね」

 そういうと少し上体を起こしぶつかるようにキスをした。
 歯が当たって血の味がするもまた笑って驚く言葉を口にする。

「お前が変わらないように俺だってお前が見てた俺と変わらない。
 代わりなんかじゃないんだ…お前の記憶を俺も知ってる。
 だから一緒だ」
「…!ふはっ…論理的じゃあ無いな」

 眉を下げ笑ってるテジュンの腹筋に触れて、ゆっくり胸に手を当てて落ち着いた心音を手の平で聞く。
 すると戸惑うようにテジュンもまた手の平で鼓動を聞いていた。
 目をおろおろと泳がせる彼に自分の心音は普通じゃ無いのだろうか?と覗き込む。


「動いてる…」


 そう言ってテジュンは鼻を寄せて深くキスをした。
 どこまでも優しいキスで舌の裏筋、上顎、自分が気持ちいと感じるところをしつこく確かめるように、息ができなくなるまでずっと。
 酸欠になって名残惜しく離れる唇からお互いが息を求めても視線が離せないでいると腰を捕まれゆっくりと質量がある熱が挿入された。
 
「ぁ…は…くそ…ァ…」

 圧迫感に息を吐きながら目の前の男を抱きしめ背中に爪を立てると大丈夫か?と労わる掠れた声が聞こえる。
 
「テ…ジュン…は…テジュン…ァ」

 顔を上げれば見下ろす男の雫が額や頬に落ちる。
 逆光と涙で良く表情が分からない、でも愛おしそうに手の平が頬を撫でる。
 
「もっと名前を…呼んでくれないか…?」



 何時間も体を繋げて、二人して限界を迎えて腕の中に眠る彼の匂いを嗅ぐ。
 どのぐらいの時間ぶりだろうか…二度と名前を呼ばれることは無いと思った。
 二度とこの鼓動を聞くことは無いと…。
 
 罪悪感と、このまま連れ去って自分の人生を歩みたい欲。
 だがどこに帰る?

 帰る場所はもう…。

「テジュン…」

 小さく寝言を言う薄い唇にキスをしようとしてやめた。
 彼の夢に出演してるのは俺であり、俺では無いことを分かってる。

「必ず…救ってやる」


「………る…、オクタビオ」


 あの日言いたかった言葉を耳元で囁き、どうかいい夢を見れますようにと髪を撫でて飽きもせずずっと寝顔を見ていた。





 

 あれから数日が立った。
 
 赤い自分と標的を探すもやはりどこにも痕跡はない。
 それと不思議なことも見つけた。
 俺のデータからいくつか抜けているメモリ、携帯端末には身に覚えのない写真。
 過去、共に戦ったレジェンド達の連絡先。
 記憶ではゲームに参加したのは二人のはずなのに…戦った相手は三人。
 こちらも三人でないとおかしい。

「っ…またか…」

 思い出そうとすると電気が走るように起こる頭痛。
 頭痛薬を取ろうとして携帯を落としてしまった。
 その衝撃で画面が開き待ち受けが写った。

 浜辺と夕日。


なぁなぁ~!同じ画面にしようぜ!テジュン!


「なんだ…ッ」

 背後から声が聞こえた気がした。
 何かがおかしい…。

 大事な物をどこかで落としたような気分で…
 大事な事を忘れて思い出せない気分だ。

 この浜辺に行かなければ…。


 




「なぁ…俺を連れてけよ…」

 アーマーを装着していると背後から腕を組みながら口を尖らせてるオクタビオを横目で見てため息を吐いた。

「…ここに居ろ、安全だ」
「…終わったら?」
「…」

 コートに伸ばす手が止まった。

「帰って…来ないんだろ?」
「大丈夫だ…ちゃんと場所を教える」

 コートを羽織りハックを背中に刺せば引き寄せられ無理やり正面を向かわせられた。
 じっと見つめてくる黄緑の目。

「アイツはもう俺を知らない!お前は一人で生きていく気だろ!」
「…不安か?奴がもう思い出さないんじゃないかと」

 目が反らされれば的中したと知る。

「それもある…でも…知らないままがいいかもってよ…俺は死んだことにしてお前と逃げる、お前も一人じゃなくなる。どうだ?」

 いい考えだろと笑う彼をじっと見つめる。

「その後…どうする?記憶が戻されてお前が居なくなった世界で俺はどうしたらいい?」
「それは…」
「甘いなオクタビオ。怒りに任せて俺は…なによりお前も後悔する羽目になる。
 俺を見る度にどうしてるかな?と…」

 コートを握る手が震えて離れた。
 動揺から心配そうにこちらを見る目に変わる。

「お前は…それでいいのか?」
「あぁ…」

 俺は…二度と手に入らないと思っていた小さな幸せをもらった。
 報われ、許された気がした。

 そう思わせてくれた相手の頭を撫で部屋を出る。


テジュン…!!!


 諦めの悪い男の声がした。

 どこか懐かしいような潮風の匂い、待ち受けと同じ夕日を見てどこかホッとする。
 真っ赤な夕日は闇から追われて海に逃げ込んでいる。
 記憶にないはずなのに小さなコテージを見つけ銃を構えながら扉を開く。

「よぉ、間抜け、知ってたか?少し先にあるトレーラーで売ってるハムチーズサンドは絶品だって」

 腕を組み壁に凭れ掛かる赤い自分に銃口を向け、目を細める。

「オクタビオ・シルバはどこだ?お前は何者なんだ」

 デビルは深いため息を吐いた後に笑う。
 警戒しながら相手の動向を探るクリプトをキッと睨みつけたかと思うと背後から閃光が走った。

「EMPリブート…」

 咄嗟に扉の外へ転がるように脱出する黒い影は窓に向かって発砲。
 肩を銃弾がかすめ壁に張り付いて舌打ちをする。

「そう簡単にはいかないか…」

 室内からクリプトが居るであろう場所に発砲し砂埃が舞い、そこに黒い影の姿は無く、窓に残ったガラスの破片が飛び散るのと同時にクリプトの足が胸部にヒットし衝撃で壁にぶつかった。

「自分ごとリブートするとは正気か?」
「フ…お前が言うか?」

 胸にある足を掴み回転させながら床に叩きつけ動きを止めるためにアークスターを壁に刺しコテージから飛び出た。
 
 もう一度…!!

 腕についてるハックに指示を出す端末に触れる

「「リブートを実行」」

「何…!?」

 振り返れば同じようにドローンが背後に居てコテージと浜辺に閃光が走った。
 ドローンのスキャンが室内を映しクリプトがまだ中に居る事は分かり自分のリブートも当たった事が分かる。
 
「どうだ…?ッ…」

 立ち上がると眩暈、ドローン操作での脳への負担、二度もリブートを体に受けてしまい、ただじゃ済んでない事がぽたぽたと落ちる鼻血の量で分かる。
 コテージの扉から出てくる黒い影は間髪入れずに銃を放った。
 デビルは辛うじて避けるも簡単には行かずに足に銃弾を食らってしまう。
 動けなくなった所に近づく影。
 
「オクタビオはどこだ!答えろ!!!」

 失敗だ…。
 チップを破壊するためにハックを改造したがどうやら効いてないらしい。
 あの時欲に負けたのが悔やまれるのか…オクタビオの言葉を全部無視してドローンの調整をしたほうが正しかったのか…。



 睨む白髪の眉間に銃口を向ける。



「やめろテジュン!!!頼む、やめろ!」

 滑り込む用に間に入ったのは珍しく息を切らすオクタビオだった。
 驚くデビルと雇われた男。
 その時バチっと額から音を立てて黒い影が膝をついた。

「オク、タビオ…」
「テジュン…?」
「俺は…なん…で…」

 驚くオクタビオの背中越しにクリプトを見ると混乱してるのかなだれ込む記憶のせいなのか愛する者の命を奪おうとしてた罪悪感からかボタボタと感情の追いついていない涙が溢れていた。
 デビルはチップが破壊されたのかとゴクっと生唾を飲み込み深く息を吸い込んだ。
 駆け寄ろうとするオクタビオを通り越しデビルと目が合うとクリプトの口元が揺れる。

「タスケテクレ…」

 勝手に腕が上がり銃口がオクタビオに向けられトリガーを引くのと同時に鳴り響く発砲音。
 

 その銃弾は咄嗟にオクタビオを掴み前に出たデビルの首を貫きデビルは同時にクリプトのチップがある場所を撃ちぬいていた。
 目を見開くオクタビオの顔には鮮血が飛び散ってぐったりと覆いかぶさる真っ赤な男の下敷きになった。

「テジュ…」

「…生きろ…オク…馬鹿な俺…と…生きて…くれ」

 どうやら声帯は辛うじて無事らしい。
 ただ体が動かない。
 傷は熱いのに体は寒い凄く寒い。
 頬に当たるオクタビオの手が熱く感じるのはそのせいだろうか。

「テジュン…?」



 なんでないてる?
 




 好きだろ?



 こ れ…


ハム、

     チーズ    サンド



            は


   チー ズ            二


                  枚で
 


                     あぁ



        そう
    

      ツレの


                  こうぶ



              つ


    なん









                            だ




そんなにはしゃぐな。いい大人だろ
「だってよ~テジュン!」
やめろ照れくさい…
「夕日くらい真っ赤で凄ぇかっけーなコレ!」
似合うかと…思って…
「なんだなんだ照れてんのか?あー?」
やめろ
「JAJA!なぁ俺様はよ~…


テジュン…俺お前が好きだ」






「おかえりテジュン」

「あぁ…ただいま」






シルバ様、どうしますか?

彼は脳の損傷が酷く…特に海馬が酷くやられ記憶力が一日しか持たない可能性があります。

もう一人は脊髄の損傷、それに加え大量出血で朝までは持たないかと…

医者としてですが黒髪の彼はこのまま生きていても辛いでしょう。

その…目を覚ます度今日の記憶からですから…。

それならば白髪の彼に輸血して脊髄の問題は今の時代様々な方法があるでしょう。


え?二人を助けろと言われましても…子供じゃあるまいし決断を。












「なぁテジュン…」
「ん?」
「ハムチーズサンドが食べてぇ」
「明日じゃダメか?もう少しここに…」
「やだね」

「仕方ないな」

「テジュン!」

「なんだ?」

「俺を幸せにしろ!」

「なにを…馬鹿なことを」

「JAJA照れんなよ」

「…その…」

「なんだよ?」




「 ずっと愛してる 」

夕日は浜辺にある防風林の新芽をキラキラと照らしている。
 
  
 
 
 
 
 
 

 
 
 

…それは…可能ですが…

リスクが…

お二人の記憶が混ざってしまい
どう影響を及ぼすか…


わかりました。






 石の板には彼を呼んだら噛み締めるようにもう一度呼んでくれと呟いたその名を永遠に刻んだ。
 生まれた年代のみでどのくらいこの時間に囚われていたのか分からない、いや、死んでからもこの時間に取り残しておきたく無いという俺のエゴだ。
 
 オクタビオは墓石を撫でてその場を後にした。



 あれから3ヶ月殆ど家に帰らず時が経つのも忘れ安らかに眠る顔を眺めてる。
 その顔は棺に入った時の顔と同じで俺のトラウマになりつつある顔。
 
「なぁ…そろそろ起きろよ…お前が居ないと退屈だ」

 手を伸ばし綺麗に塞がった手術した跡に触れて温もりに安堵し、そのまま伸びてきた髪に触れる。
 
 髪の毛の色が薄くなっていて嫌でも棺の中と掛けられた赤いコートを思い出して胸が詰まる感覚がした。
 自分の選択に彼はきっと怒って恨んでるんじゃ無いかとか別の時間軸では彼が救えなかった自分達が今頃泣き喚いてるのかとか想像した。

 でも…自分は選択したのだ。

 このまま目を覚さない可能性もある。
 寧ろその可能性のほうが高い。

「怒ってるよな…2人とも…恨まれても構いやしねぇ…だからさ…頼むよテジュン…お前の真っ直ぐな目がまた見たい…声も聞きてぇんだ」

窓を見ると赤い夕日が差していた。


 



 浜辺の真っ赤な夕日。

「なぁテジュン…」
「ん?」
「ハムチーズサンドが食べてぇ」
「明日じゃダメか?もう少しここに…」
「やだね」

「仕方ないな」

「テジュン!」

「なんだ?」

「俺を幸せにしろ!」

「なにを…馬鹿なことを」

「JAJA照れんなよ」

「…その…」

「なんだよ?」


「 ずっと一緒だ愛してる 」


「当たり前だろ!JAJA…俺も…」


「フっ…じゃあお望みの物を買ってくる」
「なぁ!」
「ん?」

「おかえりテジュン」



 振り返ったテジュンは嬉しそうに笑い口を開いた。
 その姿は迫る夜と沈む夕日に照らされて曖昧。
 幸せでもありどこか寂しく儚げな姿に思わず走り出していた。



 もう少し手が届くという瞬間に目が覚めてそれが夢だと知った。
 目から溢れた水分は涙だろうか?
 自分が泣いてる事に気づいたの同時に頭に暖かく優しくゆっくり撫でている物。
 慌てて頭を上げて撫でてる人物に目を向けた。

「あぁ…ただいま」

 少し照れくさそうに笑う彼に飛びついて子供のように声を上げて泣いてるオクタビオを胸に大丈夫、大丈夫と宥めるように囁く掠れた声と看護師達の慌ただしい声。

 暫く面倒な検査などを終え記憶障害もオクタビオの命を狙う前のコテージで途切れてるくらいで問題が無いとの話を聞きやっと2人だけの時間が流れた。

「…テジュン」

 椅子に座った心配そうなオクタビオに思わず吹き出してしまいそうになるのを噛み締め伸びてすっかり色の変わってしまった髪を掻いて口を開く。

「そんな顔をするな笑える」
「は!?お前…!」

 悪態をつく口ぶりに目を見開きガタっと音を立てれば思い浮かべたのは葬ったあの男。

「落ち着け…その…悪かった、お前を殺すなんて…俺は…」
「お前…記憶が…」

 この状況で面倒になることを感じ態と覚えてないフリをして隠したことが分かり逆に頭のキレは健全な事が分かったものの、苦しげな顔でこちらを見ない姿はいつものテジュンでオクタビオは混乱しつつも手を伸ばした。

「それをお前が助けてくれたじゃねーか」

 言葉を聞いたテジュンは意外そうな顔をしてオクタビオを見る。

「俺はお前を殺そうとして…殺した…殺したんだ」

 その言葉に2人分の記憶に苦しむ彼の少し細くなった腕を掴み引き寄せて至近距離で真っ直ぐ見つめ言う。

「俺はここにいる」

 テジュンはその言葉に涙を流しながら笑ってしまった。

「すまなかった、オクタビオ…すまない…」
「お前本当…バカだよな…バーカバーカ」

 額を合わせて2人で泣いた。

 そっと塩味のするキスをした後、伸びた髪が懐かしいなとか、今まで行った過去のアースで賭けで勝って生計を立てた話や、見た夢の話、他愛もない話から懺悔するような話を朝まで話して悪夢を怖がる大の大人を安心させるように子供の恋愛みたいに手を繋いで眠った。

 体力を戻す為のリハビリ、その後は語り合って眠るそれが日課。





「なあ…退院して行きたい場所って家じゃねぇの?普通」
「このコテージから全てが止まったままなんだ…それにまだ返事をしていない」

 は?とハムチーズサンドのラップを外しながらチラリと見るも直ぐにサンドをキラキラと見つめ今この瞬間の愛情はサンドに向けられてるのを知り、言いづらそうにブリーチが掛かったような髪色に変貌した頭を傾けて覗き込む。


「オクタビオ…俺もお前が好きだ」



 サンドに齧り付いたまま固まる姿にハハハっと笑い隣に腰掛けた。

「はにを、いまはら…へんあやう!」
「飲み込んでから言え、詰まらせて死なれたら困る」

 フンっと照れ隠しにツンとしつつも水を差し出す男に抗議をしようにも素直に受け取るオクタビオに愛しげに見ていて続ける。

「ずっと一緒にいてくれないか?その…愛してる」

 夢では素直に出た言葉がつっかえて喉に詰まって頭に血が昇る。
 口の中で粉砕したサンドを飲み込んだオクタビオは真っ直ぐに見つめて口を開く。

「当たり前だろ」

そう言って微笑んだ。

「………ッチ…ソース、ついてるぞ」
「……」

 雰囲気をぶち壊した彼に無言でソースを拭い抗議の声を上げようと深呼吸した所を見計らったように後頭部を捕まれ深く口付けられて呼吸ごと言葉を奪われる。
 どちらともなく服を脱がし合い椅子が倒れた音や水が溢れてもどちらも気にしなかった。
 露になった胸に触れ互いに心音を確かめ体温を重ねて安堵して流れる汗に触れ髪を掻き乱し抱き合った。


「もう言わなかったな代わりにしろだなんてよ」

 シャワーを済ませた後毛布に包まれながらポツリと呟きテジュンはオクタビオを見た。
 それはあの日言った言葉。

「傷つけたか?」

 覗き込み相手の前髪を指で払う。

「いや…ただお前はあの一途な男でもあったろ?だから…」
「気になって無いかって?らしくないなオクタビオ…」

 片眉を上げて相手を見て鼻で笑えばオクタビオは少し距離を縮め続ける。

「いつかまた救いに行くとか言って居なくなっちまうんじゃねぇかって…」
「安心しろ両方の記憶を持っているが俺は俺だ…それに二度とお前を手放す気は無い」

 一番安心する言葉を選んだ時に素直な今の気持ちを伝える事を選択したのは正解でオクタビオは安心した表情を見せた。
 しかしまた訝しげな表情になる。

「でも…でもよ?救ってたお前が居なくなったらまた…」
「そうやって時間形成された俺がまたどこかで救うさ…それにきっとお前の選択でまた違った世界線だってあるんだ」
「なんか…曖昧だな?」

 頭痛がして来たぜ、とため息を吐いた。

「そうやってまたこの時間軸に来る俺たちも居る、意外とこの時間軸は曖昧なのかもな?」

 言うと困ったような戸惑うような顔で見つめてくる。

「またお前を埋めるとこを…」
「……ここに居る」

 オクタビオのトラウマを痛いほど分かってしまい少しでも安心させようと抱きしめた。

「…救いに行こう」
「…?」

 胸に抱き締めたオクタビオから意外な言葉が出る。

「あの日の夕方に戻って2人とも助ける」
「何を言って…」
「だって全部お前だ。全部救いたい」

 気持ちは分かるが…と口を出すもオクタビオにとっては全て愛した1人の男なのだ。

「失敗することもあるし救ったその未来は分からない、正解不正解かも分からない全ては曖昧な時間軸なんだ。それでもやるか?」
「もう決めた」

 すると少し考えて分かった、とため息混じりに答えれば嬉しげに眉を下げ笑う。






「やめろテジュン!!!頼む、やめろ!」

 滑り込む用に間に入ったのは珍しく息を切らすオクタビオだった。
 驚くデビルと雇われた男。
 その時バチっと額から音を立てて黒い影が膝をついた。

「オク、タビオ…」
「テジュン…?」

 驚くオクタビオの背中越しにクリプトを見ると混乱してるのかなだれ込む記憶のせいなのか愛する者の命を奪おうとしてた罪悪感からかボタボタと感情の追いついていない涙が溢れていた。
 
 駆け寄ろうとするオクタビオを通り越しデビルと目が会うとクリプトの口元が揺れる。

「タスケテクレ…」

 勝手に腕が上がり銃口がオクタビオに向けられトリガーを引くのと同時に鳴り響く発砲音。


 同時に四発の銃声と共に被弾は免れないと思った。

 だが弾は反れ浜辺の砂に埋まる。

 同時に銃声の数が多い事に気付き、もう二発の銃声の元へ三人は振り向いた。




「フ~~~JAJAJAJA!あぶね~あぶね~!!間に合ったぜ!」
「お前がハムチーズサンドが食べたいなんて言うからだろ!」

 そこには額に穴が開いた赤い鬼と新芽のような黄緑のコートを来た男が一丁ずつ銃を持っていた。

「なん…」

 驚いて目を丸くするデビルとクリプト、そしてオクタビオをよそに赤い鬼は楽しそうに。

「お前たちのルートが70パーセント、お前が27パーセントだとしたら残りの3パーセントがこの俺だ。運がいいな?」
「おーおー助けに来たぜ!テジュン」

 そう言って笑った。

Gone

Gone

  • 小説
  • 短編
  • 青年向け
更新日
登録日
2021-09-16

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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