夢カフェへようこそ

 今まで感じたことのない、ぬくもりでニホンオオカミのみなとが、目を覚ました。
何かがぼやけた視界ごしに見える。じょじょにしっかりしてくると、それがウサギだということが分かった。
ウサギは、みなとの意識が戻ったのに、気が付くと優しく微笑んだ。
「大丈夫ですか? 私はつかさと申します。この夢カフェのオーナーです」
聞きなれないカフェの名前に少しとまどったが、すぐにかけられていた毛布を払いのけ、つかさをにらみつけた。
「あ、オオカミくん目を覚ましたのね」の女シャムネの女性が、近づきながら言った。
すると、小太りでつかさよりでかいカピパラの男性が、ゆったり優しい声で、
「よかった、よかった」
と、うなずきながら言った。
 みなとは、うなり声をあげ、いかくしながら3人をにらみつけた。
「大丈夫よ。生き物みんな友だち」
女性は、両手を広げた。みなとは、背を向けだまりこくった。女性は、回り込んで顔をのぞき込んで、にっこりとした。
「私の名前は、ななみ。この人間カフェの従業員です。お友だちを、たくさん作りたくて、働いてるのよ。ところでオオカミさん、このカフェのごみ置き場にたおれてたけど、何かあったの? あ、お名前は? 」
いきなりの質問ぜめに、面食らった。普段は、いかくしたら逃げるか、けんかになるかのどちらかだったからだ。
ちんもくを貫いているのを、無視して話しかけ続けている。
「もう傷は、痛まない? もしかして誰かとけんかしたの? ダメダメけんかなんて。仲良く、平和にいきましょう。出会いはね、必然って聞いたことあるわ! だから私たちは、もうお友だち。傷見せて。もう一度、傷の手当しなくちゃ」
みなとは、自分の体を見た。服はボロボロで、傷口にばんそうこうがはってある。
「おれに触るな。何がお友だちだ。そんなやつ、おれには必要ない」
「おや、ちゃんとしゃべれるようですね」
 ふふふと笑いながら、つかさが言った。
「うん、うん。しゃべれてよかったよ。オオカミくん、ぼくはやまと。よろしくね」
 さっきと同じ調子で、やまとが言う。
みなとはなんだか調子がくるってしまった。
それでか、普段言わない弱音を言った。
「おれは、しょうがい孤独なのさ。けんかするか、はねのけて生きてきたんだ」
 自然と涙が流れた。ハンカチが目の前に、差し出された。顔を上げると、ななみが、そっと抱きしめた。
「辛いね。苦しいね。私たちには、分からない世界で、生きてきたんだね」
 みなとは、子どものころの感覚を味わった。
「母さん、父さん」
 声を上げて、泣いた。みなとは、一族が伝染病で、亡くなっていった日以来、初めて泣いた。すると、心が少し軽くなったのを感じた。閉ざしていた心のカギが、動いた音が聞こえた。
「おれは、みなと。行き場所なんて、どこにもない。仲間が、仲間が欲しい」
「みなとさん。居場所ならあります」
 つかさが、近づきながら言った。
「あるものか。おれの一族はもういない」
「言ったでしょ。私たちは、出会った瞬間から、お友だちなの」
「居場所がないなら、ここに居ればいいさ」
 やまとが子守唄を唄っているような、声で言った。
「居ていいのか? 」
「もちろんです。ここは、疲れた方をいやすための、夢カフェです。生きることに、疲れた人の前に、現れる特別なカフェ。みなとさんが、生きる希望取り戻したら、ここのカフェで働きませんか? 」
「でもここは、夢カフェだろ? おれはオオカミだぞ。怖がるかも。何をすれば? 」
「今はいない、従業員のお世話をしてほしいのです。もっと心の傷がいえたら優しくなれます。その時は、従業員になませんか? 」
 つかさが、手を差し出した。みなとは、涙をぬぐってその手をきつく、つかんだ。
「つかささん、おれ、もう生きる希望見つけた。ここに居ていいなら、おれ与えられた命を、むだにしない。だれかに必要とされるって、こんなに気持ちがいいことなんだ」
「みなとくん、ぼくはおいしい料理が食べたいな。もし作り方が分からないなら、今まで僕が料理作ってたから、色々教えてあげる」
「じゃぁ、私は。あれ? 何を教えよう」
 ななみは、大笑いした。みなとが、それに対しておずおずと言った。
「もしよかったら、友だちの作り方……教えてくれるかな? 」

夢カフェへようこそ

夢カフェへようこそ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-16

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