オタクシンデレラはキレ散らかす (1:1)

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キャスト

シンデレラ
王子


◆◆◆

シンデレラ:あのさ。

王子:はい

シンデレラ:おかしいよね?

王子:なにがですか?

シンデレラ:いや、おかしいでしょ。

王子:そうですかね?

シンデレラ:念のため確認しますが、どちらさまですか?

王子:一応、王子ですが。

シンデレラ:だよね、おかしいよね。

王子:そう言われても。

シンデレラ:で、私はシンデレラです。

王子:はい、こんばんは、シンデレラさん。

シンデレラ:いや、私の名前とかどうでもよくて。

王子:はあ。

シンデレラ:てか、なんで名前呼んでんの!?

王子:え、ダメなんですか? だって名乗ってくださったから…

シンデレラ:わかったもう! 順を追って説明する! あなたは王子、そして、今夜は舞踏会がある日ですよね。

王子:そうですね。もうじき始まりますね。

シンデレラ:でも、あなたはここにいる。私の! 家に! おかしいよね! お母さまとお姉様が舞踏会に行くのを見送った後、さっき魔法使い来たよ? 確かに、来た。でも、帰ってもらったの。

王子:え、どうしてですか?

シンデレラ:違うのよ、そういうのじゃないの! 私はそういうタイプじゃないの! 舞踏会とか言われてもね……「やった家で一人だ! 王子のライブ配信見ながら、酒が飲める!」とか思うタイプなわけ。

王子:ああ、いつも見てくれているんですね。

シンデレラ:ええ、見てます。お母さまに家事しろとか言われても、ガン無視して見てます。自他ともに認める重度の王子オタクですから! 部屋中、王子のグッズだらけで、寝る場所がなくなってきたしね! 
……あれ、ちょっとまって。王子様って私の存在知ってるの? なんで?

王子:いつもライブ聴きに来てくれてるじゃないですか。

シンデレラ:は? あの観衆、全員覚えているわけないじゃない!

王子:いつも来てくれる人は覚えますよ? それに、シンデレラさん、いつも集団から離れて、建物の陰とかからじーっとみてらっしゃいますよね? あれ逆に目立つんですよね。

シンデレラ:え? 目立ってた…?

王子:はい、目立ってます。

シンデレラ:そんなぁー! …私は…私は…目立たないように……壁と一体化していたつもりだったのに!

王子:いつも応援してくれてるから、いつかお礼を言いたいなって思ってたんですよね。ありがとうございます。

シンデレラ:ちがうんだなー! いらない! そういうのいらないの! 推し活はね見返りを求めてすることじゃないの! 神社にお賽銭を入れるのと同じ! わかった? 理解した? アンダスタン?

王子:はぁ。

シンデレラ:だから! 家に来ちゃ、ダメなの! 見てよ、わたし思いっきり、ジャージだし! メガネだし! 髪の毛はちょんまげだし!

王子:かわいいですよ。

シンデレラ:かわいいとか言うな! そんないい声でかわいいとか言ったらダメなの! わかる? ピンポーンって鳴ったから、こんな時間に宅急便かしら? って普通に出ちゃったじゃない? どうしてくれるのこの状況!

王子:僕は別に気にしませんけど。

シンデレラ:気にしてよ! そもそもなんでここに来たの?

王子:いや、シンデレラさんから招待状の返事こなかったから、舞踏会来ませんか?って誘いに。

シンデレラ:はい、おかしい! もう、おかしい! おかしいよね? 王子様の舞踏会ともなれば国中の美人が、着飾って集まっているわけ! 「今、城なう」って、書き込みいっぱい回ってきてるから! いい? 私は、王子様に「きゃー!」って群がっている集団のすみっこにいる人間! つまり、モブ!

王子:モブ……ですか?

シンデレラ:あなたも王子なら、モブの一人がいないくらい、気にしないで……(徐々に声が小さくなる)……うっ!

王子:どうしました。

シンデレラ:ちょっとごめんなさい……

王子:はい。

シンデレラ:はぁーー!! もうがまんできない! はぁーー!! かっこいいーー! まじかっこいい! なんでこんなにかっこいいの! マジで生きてる! 動いてる! 反応がある! ちょっと匂いとかする! 無理、もう死ぬー!! はい、もう死ぬーーー!!

王子:はあ。

シンデレラ:(息が荒い)……ごめんなさい。気にしないで、ただの発作だから。

王子:大丈夫ですか?

シンデレラ:大丈夫じゃない! 誰よ、この人連れて来たの!

王子:自分で来ました。

シンデレラ:そうよね! 自分で来たのよね! そうだったわ。というわけで帰って?

王子:来ないんですか? 舞踏会?

シンデレラ:ライブ配信してくれれば、それ見てオンライン参加する。

王子:リアルに参加できるのに、なんでわざわざ。

シンデレラ:ドレスないし。

王子:城にレンタルサービスあります。

シンデレラ:馬車ないし。

王子:僕がここに馬車で来たので送りますよ。

シンデレラ:踊れないし。

王子:大丈夫ですよ。基本的なステップができれば、リードしますよ。

シンデレラ:まって、私が王子様と踊る流れになってない?

王子:踊りましょうよ。下手でもいいじゃないですか、楽しめれば。

シンデレラ:無茶いわないでよ! アヒルは空を飛べないのよ? オタクに舞踏会は無理なの! てかこの状況が無理なの!
私はね……王子は、受けかな? 攻めかな? 相手は、「硬派な騎士団長」かな? 「フレンドリーでかわいい庭師」かな? はたまた、「ダンディな隣国(りんごく)の国王」かな? って妄想しているだけでお腹いっぱいなの! もう十分幸せなの!わかる?

王子:腐女子だったんですね。

シンデレラ:オタク女子はだいたいそうよ……ほーら、引くがいいわ。引いて、帰って?

王子:僕もけっこう好きですよ、BL。

シンデレラ:は?

王子:いいですよね、男同士だからこそ出せる背徳感というか、異性間恋愛では描けない人間模様が趣深くて。

シンデレラ:そう! そうなのよ! 相手がノンケかどうかでも変わってくるけど、同性同士であるが故の葛藤とか……

王子:わかりますよ。どんなシチュエーションが好きとかあります?

シンデレラ:え、私!? うーん、私はね、最近ハマっているのは、獣人攻めかしら。

王子:いいですねぇ。獣人といえば、発情期がつきものですよね。

シンデレラ:そう! そうなのよ! でも、受けを傷つけたくないから、ぐっと我慢してあえて遠ざけようとする……。

王子:そこを、受けの方から誘うんですよね「我慢、しなくていいよ」的な……やっぱり二人の関係を進める為のキーを握るのは受けなんですよね。

シンデレラ:わかるぅ!

王子:ですよね! そうなると受けはどんなのがいいですか?

シンデレラ:そりゃもう、金髪で色白の美少年でしょう!

王子:えー? 僕は、筋肉質で無骨なタイプがいいと思いますけど。

シンデレラ:はあ? それはさすがに濃すぎない? 獣人がすでにワイルドなのに、ちょっと違うくない?

王子:いやいや! 無骨な男が自分よりも強い雄に出会って、最初は抵抗しながらも、徐々に愛される側に回るのめっちゃ萌えるじゃないですか! 筋肉隆々な体と、ほんのり頬を染めるギャップ、尊いじゃないですか!

シンデレラ:う、確かに、確かに、一理あるけども! でもでもやっぱり……抱きしめたら折れそうな腰の少年! 壊しちゃいそうだなーって心配する攻め! 気弱だった少年が成長していく姿! やっぱりこれが捨てがたいのよ!

王子:あーいいですねぇ! わかりますよ! でもでも! やっぱり手の甲に血管浮いてて欲しいじゃないですか!

シンデレラ:あーわかるぅ! それは確かにいい……でもでも、じゃあさ! 「オオカミは鍵盤(けんばん)の夢を見る」を読んでよ! 狼男とピアニストの少年の話!

王子:知ってますよ! いいですよね、あれ! でも、僕のイチオシはやっぱり「ガテン男が異世界転生したら、獣人の嫁でした」だなぁ。

シンデレラ:え、何それ、知らない! 気になる!

王子:貸しましょうか?

シンデレラ:貸して貸して! 作家さんだれ?

王子:作家さんはですね、あんまり有名な人じゃないんですが(すごくエモい文章書かれる方で)

シンデレラ:(かぶせて)うんうん! ん? ……あれ?

王子:ん?

シンデレラ:盛り上がってどうするのよ! 今頃、お城でお姫様たち待ちぼうけよ? 「王子来ないの、マジ受ける」とか書き込みが回ってくる頃よ! ジャージ姿の女とBL談義してる場合じゃないでしょ!

王子:行きますよ。シンデレラさんも一緒に行きましょうよ。

シンデレラ:嫌だって言ってるのに。

王子:どうしてもダメですか?

シンデレラ:なんでそんな、悲しそうな顔を……うん、ダメったらダメ。

王子:そんなに僕と踊るのが嫌なんですか?

シンデレラ:……その聞き方はずるくない?

王子:僕はシンデレラさんと踊りたいなぁ。踊ってくれないのかぁ、残念だなぁ。

シンデレラ:なんかあざとくなってきたんですけど?

王子:「俺と踊ってくれよ、いいだろ?」

シンデレラ:急に一人称「俺」!? ちょっとまって、性癖えぐってくるのずるいって。

王子:効いてますね……じゃあ、こんなのは? 「俺とおどってくれや、ええやろ?」(他の方言に変えても可)

シンデレラ:方言! 推しの方言とか……ああ、ずるい、それはずるい……ぐぐぐぐ……

王子:これは、あと一押しですね……「お嬢様、ダンスのお時間ですよ、さ、お手をどうぞ」

シンデレラ:ああーー!! そ、その手を取って、どうにでもなってしまいたい!! でもダメダメ! 私はオタク、私はオタク、私はオタク……

王子:そう我慢しなくていいのに……「ねぇねぇお姉ちゃん! 僕とおどろうよー!」

シンデレラ:あ、私、ショタは属性ないから平気。

王子:なるほど、じゃあ……「お前は俺と踊るんだよ。は? うるせぇ、ほら、さっさと馬車に乗れ」

シンデレラ:……ああ、しゅきぃ……ぐぐぐぐ……その手に乗るものか! さ、早く! 画面の中に戻って! じゃなくて、お城に戻って!

王子:えー?

シンデレラ:お互いあるべき場所にもどりましょう! それが一番いいと思うの!

王子:じゃあ今度お茶でもしましょう?

シンデレラ:お茶!? 今、お茶って言った?

王子:おススメのBL小説持ってきますよ?

シンデレラ:え、マジで?

王子:王子だから新刊を特別に先に読ませてもらえるんです。

シンデレラ:国家権限、何に使ってるの!? 政治とかやって!? 

王子:いつがあいてます?

シンデレラ:いつがあいてますとかじゃないの! なにスケジュール調整しようとしてんの! 無理ですさようなら! ばたん! (ドアを閉める)ふう、びっくりしたぁ………人生っていろんなことがあるもんね。よし気を取り直して、酒とつまみ用意して「王子チャンネル」を……

(間)

王子:ぴんぽーん!

シンデレラ:はーい!

王子:なんかお城のエアコンが壊れたとかで、舞踏会延期になったらしいです。あ、お酒とつまみもってきたんで、一緒に動画かアニメでも見ませんか?

シンデレラ:……あ…あ……ぱた(息を飲んで失神する)

王子:もしもし?

シンデレラ:は! 私は何を! ………はぁ、なんだ夢か!

王子:何してるんですか? お邪魔しまーす!

シンデレラ:お邪魔されませんー! 帰ってーー! お願いー!!


【完】

オタクシンデレラはキレ散らかす (1:1)

オタクシンデレラはキレ散らかす (1:1)

萌えが過ぎるとオタクはキレだす。推しに急に家に来られても困ります。 上演時間 約10分

  • 小説
  • 短編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-11

CC BY-NC-ND
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