アナザー・ライフ ~another・life~ Numberⅲ
アナザー・ライフ ~another・life~ Numberⅲ
『ありえない世界』
走っている。走っている。今にも、嵐の「Happiness」が、かかってきそうなぐらい。
―――〈走り出せ~、走り出せ~〉無理だからっ!!
∝
「もうだめ・・・!走れないよ・・・」
理亜が走るのを、止めた。膝が震えている。黎穏や龍からみても、怖がっている、無理していたなどとわかった。
理亜は、運動が得意中の得意で、特に持久走など最もだ。しかし、何時間も何時間も走り続けている。マラソンのプロでも、流石にきついと思う。しかし、黎穏と龍は、走り続けた。さすが、運動部のエースだ。(黎穏は違うけども)
「おい、大丈夫か?」
「少し、休憩をするか・・・」
黎穏と龍が気遣ってくれた。こんなに2人は優しくしてくれるんだ。と、理亜は思った。最も、黎穏がここまで、こんなに親切に自分のことを思ってくれるなんて、思いもしなかったことだ。
「足は腫れていないか・・・?大丈夫か?」
いつも優しい龍が、自分の体調を気にしてくれた。龍がこっちを覗き込んでくる。
「うん。大丈夫だよ、ありがとう龍」
いつもより今は、冷静に話せた気がする。
「はぁ・・・。お前はいつも無茶しすぎてんだよ。俺ら2人に無茶してついていこうとするなっ・・・!お前の体がぶっ壊れるぞ?」
いつもいつも、嫌味臭く言ってくる、黎穏。普段だと、頭に来ていたかもしれないけれど、今はなぜか、それがとても優しく聞こえた。
「お、おい・・・。何だ。そんな神妙な顔して・・・。不気味だぞ、お前」
〈こっちは、黎穏のことを思っていたのに・・・!!!さっきの気持ちを返せってんだ!!〉
キレた。でも、それは口には出さなかった。なぜだろう。今は、よくわからないので、後で考えることにした。
「そう?なんでもないから、気にしない。気にしないの!足も回復してきたことだし・・・。行こう!」
うちは、そう言って立ち上がった。希望に突き進むため。
∝
足の調子も戻ってきたので、少し走っていた。だけど、黎穏たちが気を使って、早歩きにしよう、ということになった。
自分のせいで、黎穏たちに迷惑をかけている、と少し心が傷んだ。だけど、今は黎穏たちの心使いを素直に受け取って、ゆっくり歩いてみる。
「そういえば、前もさ、黎穏の誕生日の時にさ・・・」
突然前の記憶が蘇ってきた。そこから、5分ほど話した。
「ああ、そうだったそうだった。あのあと、川に落ちてさ。でも、黎穏は理亜のことをかばって・・・。一番濡れたの、黎穏だったね」
「う、うるせェェ!!!」
黎穏は、顔が真っ赤になった。まるで、梅干し。といっても、うちはあまり、梅干しは好きではないけれど。
昔の話でとても盛り上がった。こんなこと久しぶりだったから、つい、話し込んでしまった。
こんな楽しい時間を過ごせるなんて。一生忘れないと思う。
でも、別の意味の『忘れないこと』も起こった。
∝
「・・・!!?」
いきなり、地面から、ズボズボズボズボと何かが出てきた。最初は、ただの液体だけだと思ったのだけど、それはやがて人のような形になった。
『こんにちは。ワタクシ、ヨークと申します。どうぞ、お見知りおきを』
人のようなものが喋った。よく見てみると、メガネをかけている。
『そして、黎穏さん、いえ、レイヤ様、こちらに来ていただきます』
〈レイ、・・・ヤ・・・?〉
「なんっっだこれ!!!!」
「!?」
後ろを振り返って、黎穏の方を見てみると、黎穏が地面にめり込んでいる――のではない。沈んでいる。
「黎穏!!」
『おっと、リアマ様とリュウテン様は残っていてくださいね?多分、これから、忠実な召使が来るでしょうからね・・・!』
「リアマ・・・、リュウテン・・・?ハァ!?どういうことよ!教えなさいよ!!」
「おい!それより、黎穏が!理亜!手伝え!!」
「うん!分かった!!」
まずは、黎穏を助けなくては。うちと龍が全力で黎穏を、引っ張り出す。
「くぅ・・・っ!!はぁはぁ・・・!!れお・・・ん!!!」
「黎穏!頑張れよ・・・っ!!手ぇ離すなよ!!」
一生懸命、黎穏を引っ張り出す。しかし、やはり、自然現象とも言える怪奇現象には勝てない。どんどん黎穏が引きずれられていく。
その時。汗だくで引っ張ったからだろうか。疲れで力が抜けたからだろうか。手がズルっと滑ってしまい、一気に黎穏が引きずれられ、もう、顔まで見えなくなった。
「「黎穏!!!」」
「今、すぐ出してあげるから!だから、行かないで!!!」
大粒の雨が降ってきた。自分の手に雫が落ちる。
〈悔しい・・・!!!〉
すると、声が聞こえた。黎穏だ。
「心配すんなって!俺が行くのはちょーおもしれェとこっかもしんねぇんだぞ?いやぁ~、楽しみだなぁ!!」
〈無理・・・、してる。本当は怖いはずなのに〉
「じゃあ、俺行ってくる!」
その時の黎穏の声は、いつもより、声が弾んでいて、キレがよくて・・・。楽しそうだった。
∝
さっきは、我慢できたのに、今は、風がとても寒い。
息が凍っていて、これこそ、冬っていう感じだ。
「黎穏・・・」
あんなに楽しそうな黎穏をみるのは、初めてだったかもしれない。
今は、心細い。
黎穏がいない・・・。
昔の悲しい記憶を全部突きつけられたような、とても虚しくて、悔しい気持ち。
何も出来なかった自分にムカついて、悔しくて、悲しくて。
また、雨が降ってきた。ポツポツポツポツ。
「・・・れぇおぉん・・・」
これが涙だと、改めて知った気がする。
∝
「おい・・・!理亜!!」
「・・・ん?」
どうやら、理亜はあの後、疲労で寝てしまったようだ。
「大丈夫か?お前、さっき泣いていたからよ」
「あ・・・」
見ていたんだ。っていっても、しょうがない。耳の悪い老人だって、あの泣き声は聞こえる。大胆だったからだ。
〈心配・・・、してくれているんだよね〉
龍は、昔からうちのことをよく心配してくれる、優しい人で、黎穏とは性格が全く違かった。
だから、さっきもとても心配してくれていた、と思う。
「龍、いつも心配してくれてありがと」
感謝の気持ちが胸いっぱいに広がった。
さっきの悲しい気持ちは、なくなっていった。龍は、救ってくれた。
〈ありがと。龍〉
∝
気持ちも落ち着き、普通に過ごせることができるようになった。
今は、何時になっているのだろう。体内時計だと・・・。10時くらい。
「はぁ・・・。いつ帰れるのかなぁ」
今、(たぶん)10時という真実に少し心配に、また、焦りが募ってきたんだと思う。
龍は、
「大丈夫。絶対帰れるから」
と勇気づけてくれた。
「そう、だよね・・・!」
もう少し、頑張れる気がする。
その時だ。
『大丈夫ですかっ!?お嬢様!リュウテン様!』
少し弾んだ声。地面から聞こえた。
聞こえた瞬間。足元に魔法陣とやらの(ファンタジー小説で、魔法陣の話がでていた)円が出てきた。
「こんなの、ありえるの・・・・!?」
正直言って、非現実だ。でも、目の前で起きていることは、現実だということは、信じがたい。
その人は、膝をついて下から、来た。
「はぁ・・・はぁ・・・!お嬢様、体に異常はありませんか!?ああ、足が腫れているではありませんか!!少々お待ちくださいませ!今・・・、はい。今、塗り薬をお持ちいたしましたよ!」
「「・・・」」
呆れてしまう。なんだ?この奴は。ふざけてるだろ。ああ、もう、今すぐ逃げ出したい。
「おい。お前さ、何なんだよ。てかさ、リュウテンって誰だよ?」
龍が自分の疑問を真っ先に言ってくれた。龍は、腕を組んでいる。少し、機嫌が悪いようだ。
「リュウテン様は、あなたのことですが?」
「はぁ!?」
「お前、そんなことねぇだろ!俺の名前は、『龍』だ!!」
「まあ、あなたの『現在』の名前は龍ですが、こっちの世界では、『リュウテン』様です」
「『こっちの世界』?」
「はい。それと、私の名前を『現在』のお嬢様たちには言っていませんでしたね・・・。私は、銀狐の『ギン』です。どうぞ、よろしくお願いいたします!」
化け狐、らしい、ギンが詳しくその『こっちの世界』とやらを教えてくれた。
∝
「じゃあ、うちたちの『前世』がその、リアマとリュウテンなんでしょ?」
「そういうことです」
「それで、黒龍軍が炎龍軍に攻めてきているっていうことだろ?」
「はい」
ギンは、うちたちが前世では、炎龍という王の龍の子供で、リアマとリュウテンという名らしい。
また、黒龍軍という敵の軍が炎龍軍に攻めてきているらしい。
「それで?うちたちには何をして欲しいの?」
「そうですね・・・。『こっちの世界』に来て欲しいですね。はい」
「「はい?」」
今日何回目なんだろう、龍とハモるの。
「でもさ、どうやっていくの?その話って『前世』の話なんでしょ?」
「いや、今、その世界、『龍界』は現在、存在しておりますよ?それと、魔法陣から・・・」
「えっ・・・、ってキャアっ!ちょっ!もう行くっていう前提なの!!」
ギンの作り出した魔法陣に吸い込まれていった。変な感じがする。なんか気持ちが悪くなってきた。吐きそう・・・。
「さぁ!こちらです!」
「「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」」
そこから、意識が朦朧としていった。
アナザー・ライフ ~another・life~ Numberⅲ