Aの20
俺はなぜかサークル会館に向かって歩いている。
本当ならまっすぐ正門前のバス停に向かうはずだった。
( 何がしたい…… )
サークル会館の31号室、という情報をしっかり覚えている。
久しぶりのサークル会館1階ロビーは相変わらず人が多くて騒がしい。
( この部屋か )
俺は31号室のドアを開けてみた。
若い男たちがパンツ一丁で円陣を組んでいる。
「あっ……」
男たちの視線が俺に集中した。
「す、すいません」
俺はすぐにドアを閉めようとしたが、若い男に腕を掴まれた。
「入部っすか?」
「違いますよ……」
俺はそう言ったが、いつの間にか男たちに取り囲まれている。
誰かが俺の尻を撫でた。
「可愛いっすね」
「やめてくださいよ」
体格の良い人が俺の前にやってきて周りの男どもを遠ざけた。
「どうかしたの?」
周りの男たちよりも大人びた印象だった。主将かもしれない。
俺は正直に言った。
「DOVR研究会の部室を探してたんですけど……部屋を間違えたみたいです」
「ディー、オー、ブイ? 何それ」
男たちは首をかしげていたが、主将のような人は何か思い出したらしい。
「そういえば、そんな感じの名前だったような……。あぁ、思い出した。この部屋で合ってるよ。でも始まるのは3時10分からだね。DOVRとか言うサークルでしょ?」
「はい。そうです。ありがとうございます」
俺は主将のような人にお礼を言って部屋の外に出た。
部屋の利用時間をよく調べなかった俺の責任だけど、冷静な人がいてくれて助かった。
俺はスマホに目を向けた。
あと30分くらいあるので、図書館で時間をつぶす事にした。
◇
気を取り直して、もう一度部屋の前にやって来た。
ドアの前に近づいてみると、笑い声が聞こえてくる。「アハハハ」という感じの笑い方で熟年女性のイメージに近い。
( おばさんでも居るのかな…… )
俺は思い切ってドアを開けた。
部屋にいる女子二人が俺を見た。
「えっ……誰?」
そう言われながら俺は思いきり怪しまれている。
手前の椅子に座っている女子はなかなかの美人だった。そして彼女の隣にすごいのがいる。横綱かと思えるくらい大柄の女性。丸い顔に丸い眼鏡をかけている。どちらかというと、そちらの方からの視線がきつい。
〈 えっ、男? やだ…… 〉
そんな感じの視線で訴えてくる。
俺はとりあえず話してみる事にした。
「すいません。ここはDOVR研究会ですか?」
「そうですが……何か?」
横綱は冷淡にそう言い捨てた。
( 募集する気あんのか…… )
俺はすぐに気持ちを切り替えた。
「あ、いいです。すいません。失礼します」
そう言って俺が部屋を出ようとすると、横綱が声を上げた。
「あー待って、待って。ごめん。ごめん」
横綱がすごい勢いで突進してくる。
タックルされるのかと思えば、俺の前に来て丁寧にお辞儀した。
「ごめんなさい。隣のサバゲーの奴らかと思ってつい失礼な態度を取ってしまいました。本当にごめんなさい」
俺は聞き返した。
「サバゲーの奴ら?」
「はい。サバゲー同好会の男子の奴らです。こないだから何度もピンポンダッシュみたいな事してきて、馬鹿にされたんで……」
それを聞いて俺は納得した。
確かにサバゲー同好会の連中には良い印象が無い。1年くらい前に大学内でBB弾をまき散らして活動停止になっていた事もある。
俺はこの横綱を少しだけ見直した。
いきなり失礼な対応だとは思ったけれど、こうして真摯に謝ってくれるのは嬉しい。
「入部希望の方ですよね?」
「あ、はい……」
横綱からの圧がすごいので、俺はついそう言ってしまった。
〈 いちど話を聞いてから 〉
〈 体験をしてみてから 〉
考えれば上手い言い方はいくらでもあるのに、すぐに口から出なかった。
横綱は急いでテーブルに散らばっている漫画本を片付けてスペースを確保した。もう一人の女の子も手に持っていた漫画をテーブルのはしに置いた。
( こいつら、漫画読んでたのか )
やはり予想していた光景と重なる。
VRゲームのサークルを作っても、大学内でVRゲームなんて出来るわけもない。ようするにDOVRが好き、という共通点を持つ仲間を集めて楽しくお喋りしたり、交流をするのが目的だと考えられる。
「さぁ、どうぞどうぞ。座って下さいー」
横綱にそう言われるまま、俺は席についた。
【作者紹介】金城盛一郎、1995年生まれ、那覇市出身
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