Aの19

一郎

 GT3を使用してから、俺の眠りは浅くなったような気がする。今日の朝もアラームより先に目が覚めた。

( 大学行く前にコンビニに寄ろう )

 昨夜の決意は今でも変わっていない。

 ベッドの枕元にはすでにGT3を用意してあるし、ベータ版のプレイデータを製品版に引き継ぐ手続きも昨日のうちに済ませておいた。後は製品版のプレイチケット1か月・800円を購入すればゲームプレイが可能になる。

( いまベルリンはどうなってるかな )

 既にベータ版をプレイしている俺は、本来なら他のプレイヤーより有利な立場にいるはずだった。しかし俺はハチローを2か月のあいだ放置しているし、製品版になって新しいルールや新機能が追加されている可能性も高い。俺はゲームをよく知らない状態からプレイすることになる。

 今日は大学の講義は2つだけなので時間にも余裕がある。大学に行く前に、コンビニ決済でプレイチケットを購入すればいい。

( 東洋地域史と社会学か )

 テキストをかばんに入れ、俺は自宅の外に出た。そして近くのコンビニに寄ってプレイチケットの支払いを完了した。

 ◇

 10時40分から東洋地域史の講義を受け、そのあと昼食を取り午後1時から社会学の講義を受ける。

 この日の学食の人口密度はすごかった。

 俺は学食を避けて6号館の飲食スペースでコンビニ弁当を食べた。食事の中盤までは和やかな雰囲気が続いていたが、やがて状況が変わった。買い物袋を手に下げた女子集団が続々とやって来て周辺のテーブルを占領していく。非常にハイテンションな連中であり、ワーやキャーなどの高音が俺の耳によく刺さる。

( 歴史科だな )

 2年も通えばだいたいの傾向は分かってくる。文学部の学生なら、見た感じの雰囲気でどこの所属なのかはある程度見当がつく。隣の集団はアニメの話で凄まじい盛り上がりを見せている。

 俺は窓の外を見つめた。

 6号館の窓はひどい状態になっている。

 窓ガラスのいたる所にポスターが貼りまくられていて、外の景色がよく見えない。数日前よりさらにポスターの数が増えている。俺はポスターの隙間から外の景色をのぞいた。

( 見えにくい…… )

 数年前に日本の戦国時代をテーマにした歴史シミュレーションゲームが10代女子の間で爆発的にヒットした。それ以来、歴史好きの女子が注目されるようになった。それまでにも何度か歴女ブームはあったけれど、現状はそれらを遥かに上回っている。それとは逆に、歴史好きの男子は以前よりさらに少なくなったように感じる。

 もはや戦国時代に限らず「歴史は女性のもの」という時代の幕開けだった。大学の歴史科の97パーセント近くが女子で構成され、うちの大学の歴史科も男子2人に対して女子49人という状況になっている。俺も歴史は好きだけど、幸いにも哲学科に所属しているので時代の荒波にもまれずに済んだ。俺のいる哲学科は男子17人、女子15人でバランス良く構成されている。

 昼食を終えて午後1時から社会学の講義に入ったが、東洋地域史の時よりも注意が散漫していて、教授の話が耳に入ってこない。

 原因は自分で分かっている。

 6号館の窓に貼られていたサークル募集のポスターが今でも気になる。

( DOVR研究会か )

 大海賊時代オンラインVRの略である事は容易に想像できる。

 大学にまでそんなサークルがあるのは意外だった。そもそも何の活動をするのか見当もつかない。大学内でVRゲームをするわけでも無いだろうし、そんな許可が下りるとも思えない。昨日も大学の入口付近で、ビスケット生地研究会とか言う謎のサークルに勧誘を受けたがすぐに断った。

 社会学の講義が終わり、俺は講義室の外に出た。



【作者紹介】金城盛一郎、1995年生まれ、那覇市出身

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-09-07

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