入院前夜

環 和来

 私は明日、入院する。
 出口の存在しないトンネルの中でもがいていた。
 これから先をどうしていきたいですか。どうしたいですか。
 何も解りません。
 明るい人生。呪いのような標語に囚われ、明るく生きる事を余儀なくされた。
 だからこそ、空元気を続けた。しかし、何も解らなくなった。
 私の人生は光とは無縁の人生だ。どん底を味わったその末に絶望の味を知った。
 穢れからは目を背けて、綺麗なものばかりに目を向ける。
 果たしてそれが可能なのか。
 否、違う。穢れの中から綺麗な何かを見つけ出し、掬い上げる事こそが人生なのだ。
 奈落の底に突き落とされたからこそ、それに気がついた。
 裸眼で世界と対峙した。しかし、穢ればかりが目についた。綺麗なものは何処にある?
 絶望の味を知ったのは、外界に蔓延るそうした汚れを見た時だった。
 闇が視界を覆う。
 これ以上はそれを見たくない。
 それから逃げるべく、入院する道を選んだ。
 素敵に生きる方法を誰しもが教えてはくれなかった。マニュアルは到底存在しない。
 指針を示す教科書でさえも、指導者である教師さえもがそれを教示してくれなかった中で、どう生きろというのか。
 何も知らぬままに20歳を迎えた私は、成人と看做されるに至った。
 精神年齢が肉体年齢に追いつかない。
 指導者、マニュアルがない中で、手探りしながら人の世を生きる。
 成人した人物に対し、世間は高度な要求ばかりする。
 それでいて、解答を示す事はない。
 私は自身を落第者だと思っている。
 ごめんなさい。落第者なのに、のうのうと生きていて。
 いっその事、殺してください。
 ここまでつらつらと書いたけれども、本当は、本当は――全てに疲れている。
 死んでしまいたいとさえ思う。
 けれども、この命を繋ぎ止めるために、精神科に私は避難します。その選択をどうか、どうか許してください。

入院前夜

入院前夜

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-09-06

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