対(になる)詩

相地

pianissimo/fortissimo

pianissimo/

「ふさいで ひらいて」

真空へおいでよ
この世でもっとも恐ろしいもの

この世でもっとも恐ろしく「ない」もの?
凪いだ静寂

凪いで「ない」静寂にお気を付け
よおく、すましておいで

あなたがあなたであるほど
それは、拾えないもの


fortissimo/

「ひらいて ふさいで」

胸を打つ胸の内
銅鑼が鳴る

搔き分ける喧騒
すまさないではいられない

啼哭は悲痛
到達しない日々

「つんざく さんざめく」
君を抱えて僕は飛ぶ

蒼を飲む/赫を干す

蒼を飲む/

清くない。
終ぞない。

透くよりは
塗り潰される
方が性に。

海にはなりえない。
藻屑にさえ。

遺された僕は、手を染めた。


赫を干す/

情熱。

膨れ上がる血管。
脈打つ耳鳴り。

紅を塗らずとも。
美しい孤独。

どうでもいいの。
煮える潜熱。
あなたさえ。

水蝕/風蝕

水蝕/

崩れる錠剤。
落雁と見紛う。

ボウフラ、浴槽。
「   」にはうってつけの日。

旅に出ます。探して下さい。
あれは、誤字じゃないんです。

生きる以前。
生まれる以前。
これから、元に戻ります。


風蝕/

削る錠剤。
齧るチョーク。

砂上の城は
他ならぬ僕です。

「ねえ、いつまで?」
わからないよ。

あなたが忘れる。
あなたを忘れる。
変わらないんだ。

日蝕/月蝕

日蝕/

「お久しぶりです」
あなたは、望んでいないけど。

僕らが、最もそばにいられる。
蜜月とは、このために。

盲いた世界を、背後に忘れ。
僕は、幸福になる。

ワルツを。
あなたが、手を振りほどくまで。


月蝕/

私は、焦がれておりません。
逢瀬の邪魔立ては、辛いものです。

けれど、心は踊ります。
冷静と情熱の間に在ることで。

貴方を覆い隠し。
貴女に媚を売る。

私が、焦がれているのは。
この、歪な関係です。

不連続性/不規則性

不連続性/

未封の口付け。
「ここにはいません」
どこにもいないから。

僕のことは忘れていいよ。
見捨てるのは得意でしょ?

ひとりでも生きていける。
ことに気付いた。


不規則性/

開封した恋。
「どこにもいません」
気のせいだった。

好き好き大好き超憎んでる。
ウソは一つもついてないの。

あなたが居ても居なくても。
本当だったら、よかったね。

くろいばら/しろいばら

くろいばら/

あなたをついばむ
には、墨の一滴も

賽よりも
必要なことが
あるでしょう?

「僕だけを見て」
愛しさすらも
踏みにじるよ


しろいばら/

アイネ・クライネ・ナハトムジーク
主旋律を(わざと)外した人

この痕は
忘れられた
ことによるもの

「私、でしょう?」
不誠実な人
愛しい人

alter ego/doppelgänger

alter ego/

あなたを“君”と呼べるのに
僕を“君”とは呼べない

「そっくりだね」
お世辞にも言えない

「お勉強しといてよ」
「無理な話だね」

仮初の応酬、続行中


doppelgänger/

僕が“君”ならよかったのに
君が“僕”ならよかったのに

「消えてしまうよ?」
それでもいいよ

「どうして出会えないんだろう」
「生きるためだよ」

奈落の底まで“僕”とワルツを

Es/Super Ego

Es/

振動する蓋
座る僕
気分が悪い

「開かずの、と付けましょう」
そうだね それがいい
これは化け物だから

化け物を閉じ込める檻
檻の僕こそ化け物の殻


Super Ego/

蓋をするまでもありません
檻は私 私は檻
なにも問題ありません

私には、わかります
なにを生かしておき
なにを罰するべきか

「私は、生きてはいけません」
すべて、すべてわかっていた

lash/shower

lash/

傘のさかしまに
不遜な誰かさん
僕は、二次災害

「当たり前のことしかないよ」
それが、僕を苦しめるの

綿より鉛で首を絞めて
含まれない嘘を探して


shower/

フードをかぶる?
不誠実は働かない
このままでいいよ

「海底で待ち合わせでも?」
それも、いいかな

行方知れずのあなたを
軌跡ごと愛する阿呆を

疼痛/鈍痛

疼痛/

ミー…… ミー……

手遅れになる
と、知った時が手遅れ

溢れた膿は
僕のせいでは
ありません

滞りなく
僕は壊れる


鈍痛/

ジー…… ジー……

「すべて失いました」
ぬるい妄想の中

僕もいつかは
還れるのかな

世界が割れる
僕が割れる
望んでいた

愛及屋烏(表)/(裏)

愛及屋烏(表)/

「持ち込み禁止
愛とか恋とか」

熱だけは下がらないように
羽は折れやすいものだから

烏は二羽
それ以上は、わずらわしい

どうぞ、頭を抱えないように


愛及屋烏(裏)/

「面倒臭いな
哀とか乞いとか」

冷えた肢体は都合いい
見誤らなくて済むから

烏は一羽
どれだけ産んでも、

そろそろ終幕 気付いてる?

(un)known/( )known

(un)known/

「知らないから知りたい。単純明快。おかしなことは何?」
「わかっているよ。けれども君は、化け物のように貪欲だ」
「あなたは私を知らないの」
「僕が君を知らないように」
「知り尽くしたいの。爪先に接吻するまで」
「知りたくないよ。足蹴にされて大変結構」

「嫌嫌。知らないのは嫌。耐えられない。
 無知は罪なの。安心なんかできないの」


( )known/

「欲が失せてずいぶん久しい」
「重なることもままならない」
「知り尽くしたのに、こんなにむなしい」
「だから止めたんだ。どうしようもない」
「知れば知るほど壊れたの」
「君は、知らなかったんだ」

「一つだけ、君について知っている。
 無知であること。それだけだった」

宵闇/暁闇

宵闇/

お別れを
するのに必要なのは
勇気? 諦め?

「教えて」「誰?」「え?」「誰に訊いてるの?」

優しい人でいたかった僕
「優しい人」だと笑った君

君の中の僕は 笑ったままでいて
僕は 優しい夜を連れて行くから

「さよなら またね(僕は、本当に噓つきだな)」


暁闇/

おわかれを
溶かすなら
火花を以て

「悲しくないの?」「誰が?」「誰……誰?」「誰が悲しむの?」

優しい人は 優しいまま
いなくなるから優しいの

愛想も意地も悪いから
他に思い付かなかった

「さよなら 忘れないよ(ただの、強がりだよ)」

QQQ/AAA

QQQ/

罅割れた唇を
湿らせるのは
僕、じゃない

据わった目が僕を見る

「置いていかないで」
声は声になる前に
削除済み

頬の鈍い痛みも
ねえ


AAA/

どこへ行こう?
逃げたいのかも
わからないのに

ここには誰もいない 僕を除いて

すべて、置いていくよ
僕が沁み付いたものは
なにもかも

傷は癒える
痕を残して

名称未設定.txt/文書1.docx

名称未設定.txt/

「見えたら、終わり」
なんでそんなことを。
いじわる言わないで。

君がそばにいるなら
どんな終わり方でも。
選べなくていいから。

どうしようもない願い
とは、非常に承知の上。
誰にも見つからないよ。

「全部、全部、埋めてしまったから」


文書1.docx/

「見えたら、終わり」
(どうにもならない)
(これはその後の話)

君を忘れていく僕は
忘れることも忘れて
なにが残るというの。

なにも残らないなら
僕でいられないなら
語り継ぐことなんて。

「どうして、僕も埋めてくれなかったの」

lowlight/highlight

lowlight/

一月一日。
(特になし)
十二月三十一日。
(特になし)

一日で一年分。
どうせ、変われないから。

影をべりり引き剥がすよ。
聡明になれない僕の悪癖。


highlight/

十二月三十一日。
(特になし)
一月一日。
特に、

一年を一日に凝縮。
生まれるため、の。

阿呆の生き様は無様。
行く行く仏様の何か。

on/under the bathtub

on the bathtub/

どこまでも どこまでも 沈んでいけたら
丑三つ時の浴槽はよそよそしい 沈めてよ

死んだ海でも拒むほどの孤独は
わたしだけじゃ持ち切れないよ

「さっさとおいで 出ておいで」

水面下じゃなく上
堂々々々としてよ


under the bathtub/

底があるなら沈んでいたい さいはてはこの辺りに
丑三つ時は叶えてくれなかった じゃあ僕の方から

孤独ではち切れそうな腹は
切り裂かれたがって、いる

「待っていたよ どうぞここへ」

水面下の下の下の下
すべてこれからだよ

浴葬/水葬

浴葬/

「また、会える日を楽しみに」
嘘、嘘、嘘。

蓋を閉ざされたあなたは
救われることを選ばない。

浸る。
ふやける。
形を失くす。

「何者にもなりたくない」
生涯の願いをあなたは。


水葬/

「また、会える日を楽しみに」
とは、口が裂けても。

暗く、狭く、息が詰まる。
全てあなたが選んだこと。

それから、
しばらく、
「君は誰?」

「何でもいいから、なりたかった」
名前を付けるよ、僕でいいなら。

twilight/daylight

twilight/

夕べの、薄い匂い。
とても、とても薄い。
瞼を下ろさなければ。
なにもわからない。

けれどまたたく隙に。
夕は夜に衣を替える。

匂いは私にぴたり這う。
夜の帳を着せるように。


daylight/

「夕が焼ける」
「朝が焼ける」
匂いでわかると、
あなたは言った。

明日を今日と言い張る、
僕の意地は溶け出した。

始まり始まりで終わる。
日々を暮らし、灯す役。

nowhere/anywhere

nowhere/

「君はまだ赤ん坊なのね」
「あなたは母親ですか?」
「いいえ。まったく以て」
「僕は残念に思いません」

砂浜が爪先に入り込み、
亡骸として生まれた僕。

「海へ墜ちることが出生」
「どこへも逝けないから」


anywhere/

「最期に言い残したことは」
「これが、最期なんですか」
「きみが、それを望むなら」
「すべて覚えていたいです」

最低は床下に埋めたので。
僕から記銘を奪わないで。

「ずっと呼吸がしたかった」
「どこでもよかったのにな」

(  )/(白花)曼殊沙華

(  )曼殊沙華/

君の顔を上げさせた。
僕のせいでこぼれた。
「泣かした。最低」

腫れ上がった小指を隠す。
口中の血は溜まっていく。

目を合わせない僕は憶病。
目を逸らさない君は可憐。

僕じゃない人と泣くの?
それで正解。上書きして。


(白花)曼殊沙華/

私から顔を上げたのに。
「上げて」と君の傲慢。

浮腫を孕む薬指じゃ、
思い出は外れないの。

最後くらい目を合わせて。
このまま私達を閉ざすの?

情けないままでいてね。
次は君の方から泣いて?

湯気/薫煙

湯気/

いいことなんて一つもない。
大したことない火傷。
大したことある痛み。
いいことなんて一つもない。

困らせたかっただけなの。
怒らせるのは面倒だから。

そろそろ、雨が止む。
君は、まだ帰らない。


薫煙/

底を舐める意地。
濡れてしまった煙草は気の毒。
ふかせないのは運が悪いだけ。
底を舐める意地。

腹の底まで知っていたから。
何も言う気になれなかった。

雨上がりの、濃い土の臭い。
ライターの買替えが最優先。

君に水をやる/水に君をやる

君に水をやる/

君に水をやる。
乾涸びるから。
ううん、違う。

「もういらない」
言えないんだね。
わかっていたよ。
爪先が腐るまで。

でも如雨露を手放せない。
君はあわれでいとおしい。


水に君をやる/

水に君をやる。
また始めから。
でもいいんだ。

「もういらない」
輪郭は外しておくから。
欲しいのは君じゃない。
君を構成するすべてだ。

飲み干すから大丈夫だよ。
君が僕になるだけのこと。

対(になる)詩

対(になる)詩

  • 自由詩
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-04

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. pianissimo/fortissimo
  2. 蒼を飲む/赫を干す
  3. 水蝕/風蝕
  4. 日蝕/月蝕
  5. 不連続性/不規則性
  6. くろいばら/しろいばら
  7. alter ego/doppelgänger
  8. Es/Super Ego
  9. lash/shower
  10. 疼痛/鈍痛
  11. 愛及屋烏(表)/(裏)
  12. (un)known/( )known
  13. 宵闇/暁闇
  14. QQQ/AAA
  15. 名称未設定.txt/文書1.docx
  16. lowlight/highlight
  17. on/under the bathtub
  18. 浴葬/水葬
  19. twilight/daylight
  20. nowhere/anywhere
  21. (  )/(白花)曼殊沙華
  22. 湯気/薫煙
  23. 君に水をやる/水に君をやる