三つ編みをして眠る

三つ編みをして眠る

「それ、パーマですか」
勇気を振り絞り、かけた言葉がそれだった。
問いかけようと発した言葉だったけれど、僕の声として出ていったその言葉は答えを知った時の落胆みたいだった。
いつもこんな具合だな僕の言葉って。
「三つ編みをして眠るの」
予想していなかった返答に、戸惑った。
僕は彼女の事が何となく好きだ。
何となく楽そうだと思って働き始めたこの絶滅危惧種のような小さい本屋で会ったこの人を何となく好きだと思った。
何となく好きって好きの度合いで言うと低そうだけど、そんなこともないのではないかと自分に言い聞かせている。
意味とか理由とか根拠とか、くっきりとしたことに疲れていたのかもしれない。
今もこうして自分の気持ちを分析している自分に、うんざりしている。
「貧乏なんですか」
またさっきと同じ具合の言葉が僕の口から放たれた。
彼女はくすくすと笑う。
「そりゃあ裕福じゃないけど。そんな理由じゃないよ。一番良いくるくるができるから。」
「良いくるくる」
思わず口に出す。
その言葉が消えずにまだその辺を漂っている感じがした。
僕は彼女ではなく、彼女の髪の毛が好きなのかもしれない。
「本、好きなんですか」
そんな自分に抵抗するように問いかけた。
声はまた、元のぼやけた響きをして、すぐに消えていく。
「別に。でもこの場所は好き。ずっと続かなそうだから」
彼女の言葉と声はとても合っていた。
何となく好きだと声に出して言ってみてもいいかもしれないと思った。

三つ編みをして眠る

三つ編みをして眠る

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-03

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