内密
原因は落雷だって調べて知った。
強い雨脚で降る量も観測史上、初、
市内を走る電車は運転を見合わせて
地下鉄の駅の構内も浸水が始まって
道路上の冠水箇所の情報もちらほら。
黒い獣の貴方が唸る。
運悪く帰宅時間にぶつかり、
突発的な変動による降雨であったため
朝の予報は外れた。
けれど雨脚は非常に強いために、
傘を差して濡れずに歩ける状態にない。
投稿された動画の向こうで人は叫ぶ。
街の景色が叩かれる。
豪雨の唸りで騒がしくなる浴室。
真っ暗に浸るお湯の中で変える
足の位置。
大袈裟な影は合わせる。
状況を窺う人たちで溢れる構内で
外の様子を窺う人がいるコンビニ店で
発車を見合わせる放送が流れる車内で
帰社できる機会を窺う姿を認める建物内で、
端末操作をしている姿がコピペされる。
遊離する電子情報を追って
私のバックライトは懐中電灯の代わりを果たした。
買って半年の防水ケース。
焦げた羊の群れ。
復旧したこの辺りの送電により
露わになった罪はリビングの灯りの下、
平仮名で綴られる。
ニュース速報のテロップが流れる度に鳴る舌打ちに
真っ赤に染まった舌が伸びて
内容が吟味される。
痛そうに口から吐き出される針が刺さったテーブルの上、
編集された
あのファンファーレが過去から響く。
ヘンカクという名の免罪符。
忙しなく動く脳内で、ひっきりなしに動く想像の口が吐き出す、現状と動きはしないスマートな現実。
黒い獣ものみたいに照らされた私がこの浴室でお湯を浴び、
私たちの排水口を回してたっぷりの泡を流していき、
つるつるな手触りの脛から消えていく嘘みたいなリアリティ。
バックグラウンドで再生中の動画アプリが伝える広告の決め台詞は、
一般的な夢と希望を内混ぜにしたものだから
優しい声をかける実際、
人を知ろうとし過ぎた貴方が
見つめ過ぎて真っ黒になった両目で
落雷に打たれたように、
その喉元から人の声を漏らした。
篩をかけるために私が
雨脚がまだまだ強いから、コンビニエンスの傘はまだ売れないことを知って、
雨脚が段々と弱まり、歩いて帰れるぐらいまで待てば訪れる商機が予想されるから、
貴方を抱きしめる。
パラパラと剥がれ落ちていく、
力任せで
自分勝手で
我が儘で
死を知らない。
何時までも
何処までも
こうして、
雨が流れる。
光に遅れて届く轟音。
白い肌を見せて歩くのは貴方。
いつ止むのかということより
いま起きている事態が報される。
再び身を浸した浴槽に
ちゃぷん、
と動かす私の手が触れる画面で
外の世界。
私たちの身体を味わった
用済みの液体は白く浅い溝を通り去る。
青いタイルがまた水色に近付いて
暫くしたらまた再び青へと濃くなる。
その還元を見ていたくて。
永遠に。
顎を乗せる浴槽の縁、
白い歯を見せる貴方から
少しずつ遠ざかる。
落雷みたいな、衝撃。
あとは焦がれる分だけ。
内密