Aの17
俺は鏡をじっと見つめた。
鏡には黒髪の日本人が映っている。年齢は20歳前後に見えるので、その点はとくに気にならない。問題はそこじゃなくて、顔そのものだった。リアルとはあまりにもかけ離れているその顔は、とても端整な顔立ちをしている。何というべきか、イケメンというよりは美男子とでも言うべき風貌だった。まさに水も滴るような美男子、という言葉が当てはまる。
日本男児というか侍のような印象もあるけれど現代日本でも十分に通用するレベルだった。
俺はすっかり興奮して、着ている服を脱ぎ捨てた。
背丈は普通くらいだけどその身体は逞しい感じで、筋骨隆々としている。マッチョというよりも細マッチョと言うべき体格だった。
俺は自分のおっぱいに触れてみた。
何とも言えない満足感を覚える。
( これが……雄っぱい )
俺は勢いのままパンツも脱ぎ捨てた。
( これは )
鏡の前で腰を動かしてみる。
重いものが揺れる感じがする。
( 逞しい…… )
思わず見惚れてしまった。
すっかりテンションも上がって来て、今まで気付かなかった事にも気が付いた。
( スキルが無いと掃除ができないのか )
俺は衣服を身に着けて部屋の外に出た。
ちょうど廊下を歩いている家政婦が1人いる。でもさっきの家政婦とは違う。
( でか乳じゃない )
俺は家政婦に近づいていった。
まだ体格が小さい。15歳前後くらいに見える。
( 児童労働じゃねーか…… )
髪は金髪で、透き通るような肌は白くとても美しい。そして青い瞳が魅力的に感じる。しかし身体は痩せていて胸はほとんど無いに等しい。
俺はさっそく声をかけた。
「ねぇ、ちょっといい?」
「何でしょうか」
少女は俺を見てお辞儀した。
「君、スキル持ってるよね?」
「持ってますが。何か?」
少女は俺をじっと見ている。先ほどの家政婦とは反応がだいぶ違う。
俺は気にせず少女との距離を縮め、壁に手を置いた。
「お願いがあるんだけどさぁ。君のスキルの力。貸して欲しいんだよねー」
俺は脅迫しているつもりでそう言った。しかし少女は何も答えず、俺の顔をじっと見ている。
( こいつ )
もしかすると俺の色気に頭をやられている可能性もある。
少女の耳もとで囁いてみた。
「君のスキルの力、貸して欲しいな」
「えっ……でも……」
彼女は顔を赤くして必死な様子で答えている。
俺は容赦なく攻めたてた。
「君の力を僕に貸してくれないかな。お願いだよ」
話してる自分すら酔いしれそうな程の甘い声で、容赦なく攻めたてていく。
「ごめんなさい……」
少女は箒を床に落としてそのまま逃げ去っていった。
( しまった )
思わず演技に熱が入りすぎてしまった。
俺は諦めて部屋に戻ることにした。そのとき、タイミング良く先ほどの若い家政婦がやって来た。
( でか乳だ )
家政婦は俺を見て明らかに困惑している。
俺は逃げる暇も与えず彼女に近づいた。
「ねぇ。ねぇ。君はスキル持ってるよね?」
「いいえ……」
「いや。持ってるでしょ」
「いいえ、持っていません……」
「嘘つかないでよ。清掃スキル持ってるんでしょ?」
「清掃スキル……」
彼女は腑に落ちない表情をしている。
俺は嫌な予感を感じ始めた。
( まさか )
「私は奴隷なのでスキルは1つも持っていません……。失礼ですが、清掃スキルというものは聞いたことがありません。私は自分の手で掃除をしているだけなので……」
俺は声をかけた事を後悔した。
( 奴隷だったのか…… )
とはいえ、今さら「ごめん」と謝って彼女から離れる気にもなれない。俺は引き続き彼女を巻き込もうとした。
「悪いけど、俺の部屋を一緒に掃除してくれないかなぁ」
彼女は困惑した様子だったが、やがて答えた。
「わかりました」
本当は嫌かもしれないけど、奴隷の立場だから断りにくいのかもしれない。俺はハイネマン家の人間じゃないが、それでもスキル持ちの平民だった。つまり彼女より1段階だけ偉いという事になる。
( 自分一人で掃除をするよりはマシ )
そう思いつつ、彼女を引きつれて部屋に戻ってきた。
「それじゃあ始めましょう」
俺はそう言って彼女に箒を手渡した。
彼女は箒を受け取ったが、それを壁ぎわに置いた。そして水の入ったバケツと布切れを用意した。
( なるほど…… )
俺はしばらく彼女の掃除の様子を見ていた。
掃除道具の使い方、掃除の手順、ゴミの出しかたなど、1つ1つの作業が合理的で素早い。俺も彼女のやり方を見習って掃除を進めていった。
2人で部屋の掃除を始めて30分程が経過し、ようやく部屋全体の掃除が終了した。
俺は部屋全体を見わたした。
( うわ )
部屋の中はもの凄い変わり様だった。床のホコリは1つも見当たらないし、交換したベッドの布は眩しいほどに光輝いて見える。
「ありがとう。助かったよ」
俺がそう言うと、家政婦は丁寧にお辞儀した。
とりあえず彼女の呼び方を改める必要があると感じる。
「俺はハチローと言います。この家で副料理人をすることになりました。よろしく。君の名前は何て言うの?」
「リリアンと申します……」
「よろしく。リリアン」
俺が右手を出すと、彼女もすぐに手を出して握手してくれた。
彼女はしきりにドアの方を見ている。
「あ、ごめん。仕事の邪魔しちゃったよね。もう大丈夫だよ。ありがとう」
「失礼いたします……」
リリアンは一礼すると部屋の外に出て行った。
俺は満足して綺麗なベッドの上で横になった。
( よし。とりあえずログアウトするか…… )
ベッドの上で横になって数分が経過した。しかし何も起こらない。
( あれ? )
ログアウトする気配がないので俺はベッドから起き上がった。そして冷静を保ちながら深呼吸した。
( スマホを確認してみよう…… )
スマホのメール画面に1件のメールが入っている。
《 運営よりお知らせ 》
ログアウトできないプレイヤー続出の為、ログアウト方法を変更いたしました。スマホ画面のログアウトボタンを押すことでいつでもログアウトが可能です。ぜひご利用ください。
( 大丈夫なのか。このゲーム…… )
今ごろ仕様変更かと思いつつ、スマホのログアウトボタンを押してみる。
すぐに周囲が白く光った。
・ ・ ・
俺は自分のベッドの上にいた。枕のそばにはGT3が置かれている。現在の時刻は9時半。
ベータ版終了時刻まで残り30分だった。
【作者紹介】金城盛一郎、1995年生まれ、那覇市出身
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