Aの16

 俺は部屋全体を見わたして清掃の計画を練った。

( さて、どこから手を付けようか…… )

 やはり目に付くのは床だった。

 俺はさっそく掃除を始めようと意気込んだが、掃除道具はどこにも見当たらない。

( おい……。クラウゼン )

 部屋のどこにも無いので、今度は廊下に出て周辺を探し回った。そのとき若い家政婦を1人見かけた。家政婦は倉庫の扉を開けて清掃道具を取り出している。

 俺は背後から声をかけた。

「あの。すいません」

 家政婦はかなり驚いたらしく、持っていた清掃道具を床に落としてしまった。

 俺は箒やバケツなどを拾って家政婦に手渡した。

「ありがとうございます……」

 彼女は俺を一度見たが、すぐに顔をそむけた。

 立ち上がって離れて行くので俺は慌てて声をかけた。

「あの。掃除道具を借りても良いですか?」

「どうぞ……」

 彼女は俺の方に目も向けず、そう言った。そしてすぐにその場を離れて行った。

( でか乳 )

 俺はさすがにむっとした。

 清掃道具を持って自分の部屋に戻りさっそく床の掃除を始めた。

( よし。全ての汚れを取り除いてやる )

 数分経過して状況が変わってきたので、俺は箒を床に置いた。

( 何してんだろうな。俺は…… )

 急に死にたくなってきたので俺はすぐに清掃を中断した。

 部屋の清掃は1割も進んでいない。

 大量のほこりが舞い上がった部屋の中で俺は絶望した。

( 大学卒業したら、進路どうしようかな…… )

 どうしようもない不安のなか、俺は汚れたベッドの上に腰を下ろした。しばらくして部屋の隅に目を向けると、古そうな鏡が置いてあることに気づいた。


【作者紹介】金城盛一郎、1995年生まれ、那覇市出身

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-02

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