窓 8.紙が降る

ただ一日中、窓の外の空を眺めている。空が明るくなって暗くなるのを眺めるだけ。
身近な人の死を見た日から、そうしている事が多くなった。浮かんでくる景色が思い出なのか、ただの夢なのか。
窓を眺めながら浮かぶ景色を、言葉を、書いた日記みたいな物語。第8話。

8.紙が降る

白い車に乗っている。
運転の似合わない彼の頭を後部座席から見つめていた。
外はどんよりとした曇り空で雨が降ってこないように誰かが蓋を押さえているみたいだと思った。
すべての窓を開け放った車の中は風が吹き荒れていた。高速道路だった。
助手席には相変わらず顔を出した星くんが座っていて、口に入ってくる風を食べているみたいに時々口をぺちゃぺちゃと動かしていた。
「何か聞く?」
風に髪をなびかせながら彼は星くんの前のダッシュボードを開けた。
開けた瞬間白い紙が一枚吹き飛んだ。
「あ、やばい」
彼の言葉が合図だったかのように大量の紙がダッシュボードから次々と飛び出し、車の中を舞った。
星くんが不思議そうに眺めていた。
よく見るとその紙には計算式が書かれていた。彼の作っているすごいロボットの計算式だと私は思った。
数字が書かれた紙は車の中をひと通り舞い終えると開け放たれた4つの窓へと流れていった。車がまばらな高速道路の道の上ですごいロボットの計算式の紙が舞い始める。
「紙が降るの初めて見た」
無意識に出たその言葉に「ふはは」と彼が笑った。
ロボットの完成は、まだ先みたいだ。

窓 8.紙が降る

窓 8.紙が降る

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-30

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