三題噺「ウイルス」「不眠症」「飛行機」(緑月物語―その16―)
緑月物語―その15―
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緑月物語―その17―
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魔獣は火によって生まれる。
理由はわかっていない。
緑月に生息しているウイルスの一種によるものなのか、はたまた地球とは生物の誕生の成り立ちが違っているのか。
推測を構成する材料ならいくらでも転がっている。しかし最後の一ピースが埋まらないのだ。
それが多くの研究者を悩ませ、ノイローゼや不眠症へと追い込む魔獣という存在。
緑月が誕生してから今なお解明されていない『緑月調査レポート』の謎の一つである。
「あのぉ…先生?」
非常事態警報の発令される三十分程前。永田麗美はトンネルの中にいた。
そこは宮都の地下にある下水施設の一角にあたる。
下水道といえば聞こえは悪いが、いわゆる大きな配管がいくつも通ったトンネルのような場所である。
もちろん関係者以外は立ち入り禁止エリアだ。
「永田さんでいい。そういうお前の名前は?」
永田は後ろに付いてくる監視兼サポート要員の警官を冷めた目で見返す。
「山田です。山田太郎。というかその目…ちょっと怖いなぁなんて…ひぃい!」
一度助けられている分、強く言えない山田に対して永田は舌打ちをする。
(くそ、私一人で十分なのに、まさかこんなお荷物を押し付けられるとは……)
話は非常事態警報発令の一時間前まで遡る。
「おい、何かおかしくないか?」
永田は何かが頭の隅に引っかかっているのを感じていた。
レストランに突っ込んだグリーンモスを包囲してからもう十分以上が経つ。
そろそろ何らかの動きがあってもおかしくないはずだ。
爆弾を積んでいるとはいえ、表面は流体金属で覆われている。
外装の流体金属を切断して犯人を確保するまでに爆弾を起爆させられては意味がない。
だからこそ永田と宮都の警察官達は、犯人がどう動くのかを探るため慎重に動いていたのだ。
しかしその時、ふと永田の頭に店に飾られていた浮き輪が思い浮かんだ。
「……そうだ、浮き輪だ」
「どうかしました?」
「おい、すぐにここの責任者に会わせろ! もしかすると、あれは囮かもしれん」
「え、あ、あの……ひぃぃい!」
永田の目に威嚇され、山田はあたふたと詰所へと案内するのだった。
「浮き輪が沈んだ、と?」
「はい。レストランへグリーンモスが突っ込んだ直後、私は確かに店の浮き輪が機体に沈み込むのを確認しました」
詰所で現場責任者と思わしき男に話を伝える。本来であれば現場責任者に会えるはずもないのだが、そこはヤマトの御威光様様である。
しかも永田は元緑軍の士官でもあり、宮都の高官にも何かとコネがあった。
「ふむ、そうだとすると確かに怪しいですな」
現場責任者が顎鬚をいじりながら、球のような巨体を揺らす。
「ああ、だから私は今から宮都地下の下水施設へと向かう。その許可を得られるようにしてほしい」
永田が求めたのは宮都地下に広がる下水施設の立ち入り許可だ。さすがに一般の施設にはヤマトの力もそう及ばない。
そういうわけで永田は現場責任者に会いに来たのだ。
「わかりました。永田さんの言うことですからすぐに案内させましょう。おい君、彼女を案内してあげてくれ」
しかし、誤算だったのは彼女と一緒に彼がいたことだ。
「いえ、場所さえ聞ければあとは一人で……」
時間が限られる中、足手まといは必要ないのだ。
「なに、遠慮することはありません。そいつは若いですが、道案内くらいできますから」
にもかかわらず空気が読めない鬚ダルマに内心舌打ちしながらも、自身の思いつきで変に波風を立てるべきではないと永田は判断した。
「……くっ、わかりました。それならば今すぐに向かいます。念のため、『紙飛行機』を要請しておいてください」
『紙飛行機』とはブルーコメットのことである。装甲が神ならぬ紙装甲であるため、軍関係者内では隠語として周知されている。
「承知しています。ブルーコメット他、『ラタトスク』も配備要請済みです」
「それなら、ひとまずは安心だな。それでは失礼する。おい、行くぞ!」
「へ? うわっ! ちょ……ちょっと、い、行きますからぁ!」
そして、イライラの矛先はそばに控えていた若手の警官へ向く。
童顔の警官は腕を取られて、転びそうになりながらも慌ただしく詰所を出ていくのだった。
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