泣いた赤い怪物
デビオク
どちらの視点でもご自由に
彼に会ったのは、このアースに来て暫くして姿を目にしてから少し。
安いパンくずを齧り銃を向けながら振り返れば銃口と赤く染まったこのアースに居るはずの無い彼が立っていた。
お互い同じように目を丸くして。
どういう訳かここには俺も彼も存在すらしていなかった。
すっぽりと居ないのだ、オクタン、クリプト名前すらない世界は俺には安らぎでしか無いのかもしれない。
ただどうしようもない怒りと悲しみをぶつける為のゲームへの参加、無心に銃をぶっ放し弾が埋め込まれていく音や血しぶきが心地よいい、銃弾が飛び交うそんな中ほんの一瞬。
一瞬だけ横切った赤い姿、この世界には存在しないはずのシルエットだ。
彼の存在が確信に変わったのはそのゲームの勝者。
―――紛れもない"アイツ"だった。
ボロボロになった部屋、不自然に折れ曲がりめちゃくちゃになった家具、元がなんだったのか分からないガラスの破片、俺たちは暫くの取っ組み合いの後理性が焼ききって本能の赴くまま貪るように食い合って鼻血や切れた口の血を味わいながらお互い別のアースから来たことを知った。
初めはアースを行き来するフェーズランナーの充電が済むまでだった。
今は数か月彼と手を組んでゲームを楽しんでる。
銃を撃ってる時は何もかもが忘れられたのは彼も同じのようで笑いながら戦ってるのだ。
まるで"誰か俺を殺してくれ"と叫んでるかの如く、それは俺も同じだから良くわかる。
賞金を手にしても心は満たされない、帰れば傷を庇いながらセックスをする。
それが俺たちの日課になっていた。
俺たちは真っ暗な中で体を繋げる。
暗闇に慣れてフと相手を見ると目を閉じて吐息を漏らしていて、獣のようなセックスとは裏腹に時折、壊さないようにするように触れる。
それが安心と気持ちよさで再び相手を見るのだ。
目が合うと苦しそうな悲しそうな何とも言えない顔をしていてお互いに目を背けて楽しい宴の終了の合図を告げた。
「――俺はお前を殺した」
そう話したのはいつだったか。
彼も自分と同じなのだ。
俺は彼を殺し、彼は俺を殺した。
愛する人が自分の手で死に冷たくなっていくのを腕の中で永遠と抱きしめていたのも…
気づけば髪が白くなり、この悲劇を繰り返すまいとアースを飛び回って恋人を必死に守ろうとする中詰むまじい自分たちを眺めていたのも。
自分という悪を目に焼き付けさせることで同じ悲劇を生むまいと相手に自覚させ次のアースへ逃げるフリ。
何度も繰り返した。
何度も何度も何度も何度も何度も…
地獄のような日々を繰り返しここにたどり着いたのも同じ。
そして同じように赤をまとった白い怪物に出会ったのだ。
眠ると腐りゆく愛しい人を抱きしめる日に戻る、何度も何度も。
起きていれば彼の声がするのも。
痛みも悲しみも怒りも全て一緒だった。
だからお互いを身代わりにしてるのも承知の上。
俺は知っている。
自分を見て感情が高ぶった後は隠れて堪えようと必死に涙を止めるのも。
知ってるんだ。
ただ…お前に会った事で例え身代わりでも
ほんの少しだけ…
幸せなのだ。
心が安らいでいるのがたっぷり睡眠を取ってしまう事で自覚した。
頭に響く声もしない。
「ずっと愛してる…」
「…俺もだ」
そう声がしないのだ。
こいつが居ると…
ア イ ツ ノ コ エ ガ キ コ エ ナ イ
泣いた赤い怪物