愛は分離の形を選ぶ
演者の回想
きれいなものだけ
ならべていたくて
それに命懸けだった
なんでも演れていた
あたたかくて嘘のない
あの時間にいられるなら
最初から無かっただけ
ドラマも舞台も物語も
この世界には無かっただけ
それでもまた求めている
無秩序に落ちたいのに
まだ秩序をもとめてる
崩壊、再起、拮抗
中間地点
波打ち際に立つ
どっちつかず
人魚だった頃
人間だった頃
声を失い
恋を失い
泡になることも拒む
誰のものにもならない
その生を聲無き声で叫ぶ
海は荒れる
風は強く吹く
嵐の中で私はひとり
波打ち際に立つ
どっちつかずに
刺される今にも
星は変わらない
宇宙は縮小する
私をとどめて
未到の波形
未だになれない
大人になれない
私にもなれない
そうして迫り来るもの
ひとおもいに刺してよ、と
覚悟もなく
勇気もなく
ただないている
日々は青に染まる
劇薬を飲み干しても
象みたいな自我は
滅びることもなく
未だ全て放棄して
逃げている私へ
未来は沈黙の波形を描く
寂寞を叫ぶ蝉
生存の報告
生存の方法
存在は輪切りにされて
白い皿に贅沢に並べて
空気の中に生まれる
新しい振動がそれなら
目を瞑る
耳を傾け
肌に感じる
在ることはゆるがない
だから音は無くなる
それに抗いたいために
空気をふるわす初秋の蝉
蒼風の影
「ここに永遠の孤独を綴ろう」と、
その影はやけに爽やかだった
影は皆同じような濃い青なのに
その影だけは清々としていた
「なにを悟ったのさ」と口ごたえ
影はやはり蒼風の自由で在った
嗤う影は見てきたが
笑う影などはじめてだ
風が吹く
影はなびく
笑う影に秋が来る
音楽する虫
虫たちの選曲が変わる
虫たちの演者が変わる
マエストロ
コンサートマスター
季節はその譜面にある
その声に哀愁と郷愁
なによりも雄弁な音楽隊
草のかげにて
木々の隙間にて
鳴らす、鳴らす
季節を鳴らす
昇天の日
緑色した棺の中
青い有機体の抜け殻
何処へ飛んでいったのでしょう
宇宙の青さを例えるとき
いつも海月が浮かんでる
何処を泳いでいるのでしょう
浮遊する集合意識と
光線はどこかで交わると
天気予報で言っていました
記者会見はぼんやりしていて
みんな綿毛になる夜を待っています
泣き止む夜明け
寝ぼけたままの
ガラス細工には
まるく水を汲む
ここだけの話を
のらねこに話す
蛙につたわった
夜は伝言ゲーム
屋根に落ちる雨
音に混じるうそ
まるくえがいた
あの夢について
それは世界地図
本当のことを探す
フリをして時間潰し
夜明け前に溶かした真実
太陽光に燃やされる丸い星の話
46億年分の雑談
ツタが夜空へのびる夜
真夜中はいとまだらけ
白い月は雨に濡れて
冷たいしずくを落としてる
泣いているのは
鳴いているのは
地球の方角から
葉脈同士のネットワーク
火星に金星に応答願う
46億年分の
つまらない話をしよう
眩いかがやきに
溶け出した影の
その行方のお話
独りよがりは身代わり
きみのかわりに
受けた銃弾を
ペンダントにしたかった
今朝のまどろみ
痛みは
未練か
あのピストルは
誰かへのほんとう
さようならを
何度でも言おう
きみのためには
生きられない私
さようならを
何度でも言おう
夢できみを救っても
きみの影すら落ちてない
水槽の電極図
幻に翻弄され
随分と書き換えられた
私のデータバンクは
侵食される夢を見る
私のかたちを変えて
私のものがたりを変えて
それをすっかり信じながら
もしも今日を生きていたなら
途方もないハッキング
5秒前の上書き保存
蜃気楼が現実だったら
曖昧な記憶媒体
自由意思の保存先はどこだろう
生まれるものたちへ
いつかの埋葬は虚構であった
青い手は土から伸びてゆく
生み出すために
生まれ変わる
何度でもそうする生きもの
これは凝縮された創世記
砂時計の周りを
何度も行き来して
ひたすらに
生み出す
卵を割って
地を割いて
生まれ出ずるもの
愛する我が子たち
孤独を食む蛹
なににもなれない、と
蛹の時間は停止している
憧れをわすれた
かなしい蛹が
うずくまり
餌ばかり
食べる
眠る時
繭と交信する
何かをもとめて
蝶にも蛾にも
ゆめはとどかない
そうして夕刻まで
無産の時間を過ごしては
あこがれを失った悲しみに浸り
孤独にふける時間を食むのである
雪辱
寂しい宴会の席に
相槌人形に心は無く
脳幹は冷却され
酒は水のように
何の作用もなく
言葉は突き刺さり
世間の棘に晒され
努力は踏みつけられ
白く青い精錬は
みぞれに晒された
泣くなとひとり
蒼白の顔の人形
皆、善人であった
皆、善人であった
雪に埋まる自尊心
手を合わせた埋葬
古代への救難信号
白い花をもって
その石碑に捧げて
ほら、古代の音色
歓迎と歓喜の太鼓
ストーンサークルに
純真とまごころを置いて
老いた心は未来の夢を見る
なぜ、粘土をこねたの?
感触、感慨と祝祭
この石像は誰?
母、大地、神、父
律儀な電極図が
複雑の解明を
急いだ日曜日
繋がる古代
悲哀の現代
愛は分離の形を選ぶ
海水と淡水は喧嘩別れ
水と油は思想の違いで
争いそのものを避けた
和平と分離と別れがあった
さようならも言わずに
みな、それぞれを暮らす
火山は海を愛している
大陸は海を愛している
太陽よりも愛を選んだ
報われることがなくても
それがロマンスでは無いと
ひとりよがりだと知っていた
残暑未満
せみしぐれに
晒した肌は白いまま
夏が終わる日
課題がたまる
空白を埋めるように生きたと、
空欄ばかりの言い訳
割り算を覚えたころ
あまりに感傷がくることは
習わないまま大人になったから
依存と未練の味が舌にのこる
朝顔はよそよそしく寂しい
ひとりぼっちに響くひぐらし
モノクロームSF
鉄鋼のすきまから
白い月、クレーター
光はなく、描写された
あれは、人工衛星です
鉄鋼のすきまから
白い月、クレーター
横目に見えた方が
天然の衛星でした
巨大な球体が
黒一色の夢に
白を置いた
母体は引力の糸をむすんで
マリアナ海溝の夢を見る
黒いまちに
寂寞を描画
匿名世界に掲げた愛情
複数形の君のために
単数の私の言葉
漂流という旅
複数形のあなたのために
単数の私の言葉
文字列の見る夢
海流で落ち合う日
気流にて会釈する日
天候不順でも
情緒的な邂逅
奇蹟と呼ぶか
必然と頷くか
自由の謳歌
賛美される命の歌
やさしい闇夜にさらわれよう
夜空を塗りつぶす
銀河系の絵筆は青い
天の川の水は澄んでいる
夜風をあおぐ
扇の柔らかな風
季節の匂いは海を渡る
月にかけた電話
なかなか繋がらない
寂しい気持ちを誤魔化す
つたない私に
やさしい夜は
波になって
夢をさらう
水平線まで逃げよう
泣き腫らした日々に
闇夜はあたたかい
愛は分離の形を選ぶ