窓 5.絵の具のかたまり

ただ一日中、窓の外の空を眺めている。空が明るくなって暗くなるのを眺めるだけ。
身近な人の死を見た日から、そうしている事が多くなった。浮かんでくる景色が思い出なのか、ただの夢なのか。
窓を眺めながら浮かぶ景色を、言葉を、書いた日記みたいな物語。第5話。

5.絵の具のかたまり

時々見る夢がある。
夢の中でいつも私は両腕で何かを抱えていて、それは長細くて魚みたいな人間みたいな子供みたいな何か。
それはだんだん軽く、小さくなっていく。
私はそれを必死で抱き寄せて掴んでいようとするのだけど、どんどん軽く、小さくなっていく。
最後に残るのは絵の具のかたまり。小さい小さい絵の具のかたまりだけが手の中に残る。
いつも今度こそはと挑むけど、抱えたそれが絵の具のかたまりになるのを私は阻止することができない。

目を開けると窓があった。
彼のくれた窓ではない。
空は暗くて、いつまで見つめていても何の展開もなかった。

眠気が覚めた後の長い夜を思うと憂鬱で仕方なかった。
眠っている間に朝になっていて欲しかった。

窓 5.絵の具のかたまり

窓 5.絵の具のかたまり

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-26

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