蝉の鳴かない夏

蝉の鳴かない夏

雨が降っている。
8月中旬。梅雨明けの知らせから2週間。
忘れてたよと言ってるみたいに雨の日が続いている。
窓を開けると、雨音と共にじめっとした空気が流れ込んでくる。
無職になった私からすると、雨が降っているかどうかなんてどっちでもいい。
耐えられる暑さか、耐えられない暑さか。
お金を払うべき暑さか、そうではないか。
それだけしか頭にない。
雨は決して耐えられない暑さをもたらさない。今の私にとって、雨は味方だ。
雨音を心地良いとさえ思いながら、私は窓を開けて1日中部屋でだらだらと過ごす。
こんな日が続くと、一生この雨は止まないんじゃないかと心配になってくる。
いつか見たアニメにそういうのあったよなとか思って、想像してみたりする。
一つ気づいたことがある。
蝉は雨が降ると鳴かない。
そして雨が止むと、鳴き始める。
本を読んでいて、蝉の声が聞こえるなと思って外を見ると、雨が止んでいたのだ。
その時初めて雨の日に蝉が鳴いていない事に気づいた。
この先誰にも話すことがないかもしれない私の発見だ。
部屋の中が息苦しくなって、近くのスーパーに歩いて行こうと思いつく。
雨の中を歩くのは、嫌いじゃない。
傘を差して、濡れたコンクリートを歩き始める。
雨の日の視界は狭い。
地面を見つめながら歩く。
ついさっき通り過ぎた地面に違和感を覚え、引き返す。
コインパーキングの片隅にコンクリートブロックが埋まっている。
生き埋めにされた人間の手だけが出てきたみたいに3分の1くらいが見えている。
コンクリートにコンクリートが埋まっている。
こんな事ってあるのか。
周囲の人々が次々に溶けてきて、コンクリートに埋まっていく映像が浮かぶ。
周りを見渡すとコンクリートじゃない場所が見当たらない。なんて恐ろしい地球。
青空のない、蝉の鳴かない夏。
コンクリートに人が埋まっていっても、そんなに不思議じゃないのかもしれない。

蝉の鳴かない夏

蝉の鳴かない夏

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-25

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