アイデア

アイデア


 少年に似合う青空は
 夜を置いてけぼりにしている。
 目覚める町の人たちの気持ちを知り、
 勇気を与えてばかりだ。


 青空は季節をよく語る。
 真っ白で大きな雲
 強い日差し、
 箒のような風、
 支度する魔女の秋。
 

 守るものが多いのだ、青空は。
 昨日という記憶を箱に入れ
 流れる風と蓋を閉じ、
 木陰のざわめき踊らせて、
 消えつつあるものを語る。
 その肌を焼くものを、
 見上げる姿。
 
 
 太陽が遮られる空、土を付けた、
 手で作る傘と暗がり
 穴を掘る少年の仕事は
 朝を迎えて終わる。


 したがって、少年にとって青空は
 少年以外の者の夜と同じだ。


 すなわち、
 眠る前の安らぎである。
 緊張を解く魔法である。
 だから、少年はその青空を見上げない。


 川底に止まる石を踏み
 少年はシャベルの柄を離さない。
 シャベルについた土を落とす。
 冷たい水で流す。


 川の中に入れた両足を上げ
 少年はゆっくりと横に移動する。


 しっかりとした「穴」を掘る。
 余程のことがない限り崩れない。
 中に入れたものが出てこない。
 余計な隙間が生まれない。


 川底に止まる石を踏み
 綺麗になったシャベルと芝の上、
 伏せの形を守り続ける犬と
 少年は


 よく視る。

 
 草原を走る馬が立ち止まり
 跨る主の難しそうな眉間にも負けず、
 生まれたばかりの卵を手に取り
 朝の食卓の献立を考える、温かい声にも


 語られる季節は、
 風を箒のように操っている。
 真っ白で大きな雲は去り
 地肌を守る報せは届く。


 昨日という過去を箱に入れ
 流れる風と蓋を閉じ、
 木陰のざわめき踊らせて、
 巨大で真っ白な気配と遠く
 消えつつある夏を語る。
 

 鍵をかけ、それを隠し


 少年は
 掘り終えた朝を歩く。


 犬は少年の隣を歩く。
 シャベルは横に運ばれる。
 付いてくるのは妖精と
 兜を外した騎士の影。
 魂は、朝日に消える。


 夜を迎えて、
 生き生きと甦る。
 

 夢を見るように喋る
 少年の笑顔が地上に、
 夜の静かな過去と光。
 嗎に怯える悪鬼が伏せ
 横一線の銀の閃き。


 丈の高い青草が刈られる。
(良いことばかりになりますように。)


 朝に叶う。
 程よい願い。


 安堵した少年が掘ったものは
 生き物の興味を引く。
 水を飲み、喉を潤した川から離れ
 歩き出した吟遊詩人は
 平原を行き
 丘を登り
 丘を下り
 その謎を見つける。
 その者は唄う。


 掘った者の唄を
 少年の姿の唄を
 騎士の姿の唄を
 朝に眠る姿の唄を。
 
 
 涼しげに、熱を持ち去る風が吹く。
 ピーチクと鳴く、
 鳥を探して旅に出る。
 青い空。


 少年の夢。
 伏せる姿の獣から、幸せそうな尾っぽが振られる。

アイデア

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  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-25

Copyrighted
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