Aの14

 黒いドレスを着た少女は俺を蔑むような、馬鹿にするような目つきでじっと見ている。

「すごーい。家政婦の言ってた通り。黒髪の東洋人だ。うわーっ……」

 その言い方にむっとして俺は少女を睨んだ。

 少女は気にせず俺に近づいてくる。

「ハチロー!」

 クラウゼンさんが困惑した顔で俺を見ている。

 俺は理解した。

「どうも。始めまして、ハチローと言います」

 俺は生意気な少女に挨拶した。

 すると少女は急に真面目な表情になって俺を見た。

「こちらこそ、始めまして。私はゾフィー・ハイネマンって言います。どうぞよろしく」

 少女は俺にそう言ってお辞儀をした。

 不意を突かれたような気分だった。

( どういう奴なんだ。よく分からない…… )

 少女がじっと見てるので俺は動けずにいた。

「気にしないで料理を続けてください。でも1つお願いしたいです。料理する様子を見ていても良いですか?」

「えっ。ああ……」

 俺が曖昧な返事をするとクラウゼンさんが間に入った。

「もちろん良いですとも。お嬢様。自由に見ていってください」

「ありがとうございます」

 少女は満足して、俺の周りをうろつき始めた。

 クラウゼンさんがそう言ったので仕方が無かった。俺は気にしないことにした。

 せっかく調理場に慣れてきて料理にも夢中になっていたのに、水を差されたような気分だった。気にしないと思っていても、今までのようにスムーズに動けない。

( 邪魔だなぁ )

 少女の長くて大きなドレスが通路を塞いでいて、移動するたびに「すいません」と声をかける必要がある。少女は料理の様子を見たいと言っていたくせに、俺の作業する様子には目もくれない。

 彼女は俺の顔ばかり見ている。

 動物園にいる動物の気持ちが分かるような気がしてきた。

( 落ち着かない )

 しばらく耐えて作業を続けていると、少女は俺の顔に見飽きたのか俺から離れて行った。

「ありがとう」

 少女はそう言い残して調理場から出て行った。

 俺は気にもせず作業を続けた。

( よし。これからが本番だ )

 自由に動けるようになって、俺の調理スピードは加速した。

 調理スキルの素晴らしさを自分の肌で感じた。


【作者紹介】金城盛一郎、1995年生まれ、那覇市出身 

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-24

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