Aの9
俺はまず寝泊まりできる宿を探そうと思い、周辺を見わたした。しかし建物を見ただけでは、どこに宿があるかは分からない。
近くの通行人に聞いてみる事にした。
「すいません。この近くに宿はありますか?」
通行人のマダムはむすっとした表情で俺の背後を指さした。
俺は慌ててお礼を言った。
「ありがとうございます……」
太ったマダムは聞くそぶりも見せず、さっさと離れていった。
建物のドアを開けて中に入ると、広間にテーブルと椅子が並んでいるのが見える。でも人はいない。テーブルの上にベルが置かれていたので、俺はそれを鳴らしてみた。すると奥の部屋のドアが開いて男性が1人出てきた。
「いらっしゃいー」
男性は気が抜けたような顔をしつつ、こっちに歩いて来る。
「お1人様、宿泊ですか?」
「はい。そうです……」
男性は手帳を取り出してページをめくっていく。
「3階の6号室が空いていますね。何泊利用されますか?」
そう言われ、俺は戸惑った。
男性はめんどくさそうな表情で説明する。
「1泊4000コルク、7日で2万5000コルクとなっておりますー」
今の所持金はちょうど2万5000コルクだった。
俺はすぐに答えた。
「1泊でお願いします」
「ありがとうございます。こちらが部屋のカギになります。部屋はすぐに使えますよ。どうぞー」
俺は4000コルクを支払い、部屋のカギを受け取った。
宿屋の階段を上っていくあいだ俺の気持ちは徐々に沈んでいく。
( お金が少なすぎる…… )
宿屋に1週間も泊まればあっという間に資金が底をつく。
オーブリーさんに文句を言ってやりたい気持ちもある。
宿屋の部屋は狭かったが家具もベッドも揃っていて、清潔感もあり隅々まで掃除が行き届いている感じだった。
俺はベッドの前に来て不安になった。
( もしログアウトできなかったら…… )
そう思いながらベッドの上で横になった。
しばらくして、周囲が白い光に包まれた。
・ ・ ・
俺は自分のベッドの上にいた。枕のそばにはGT3が置かれている。現在の時刻は午前5時だった。
【作者紹介】金城盛一郎、1995年生まれ、那覇市出身
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