ORDER-願いは既に全て叶っている-

西沢茉由未(さいさわまゆみ)

ORDER-願いは既に全て叶っている-
  1. 第一話-次元の狭間
  2. 第2話-選択-
  3. 第3話-お茶-
  4. 第4話-空間構築-
  5. 第5話-失敗-
  6. 第6話-白黒上着-
  7. 第7話-スイッチャー作業-
  8. 第8話-フロー-
  9. 第9話-白と黒の飴
  10. 第10話-え?-
  11. 第11話-黒-

はじめまして、西沢茉由未(さいさわまゆみ)と申します。
私はスピリチュアルファンタジーを書いています。

スピリチュアルファンタジーとは、
現実に散らばるスピリチュアル要素を盛り込んだファンタジーです。
はじめて小説を書かせていただいてるので拙い文章かと思いますが、
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

第一話-次元の狭間

ここトーラスは、

自分が発する周波数によって、存在できる場所が瞬時に変わる世界

この物語の世界とは、惑星一つに限らず宇宙の次元全体を指す

そしてここトーラスには、

周波数(チャンネル)の切り替わりに伴う次元移動そのものを補う者達がいた

彼らはその名もスイッチャー

スイッチャー達は、観察対象の周波数が変化すると、
適応する次元にちゃんと繋がっているかを確認し、
滞っているようならサポートをするのが役目である


周波数を変化させた本人に自覚があろうとなかろうと、
基本的には自動でチャンネル切替が行われるようになっている…


はずなのだが


なにせトーラス(宇宙)全ての接続だ


サーバーエラーのようなものだったり、

遅延がおきることもある


あたらしく接続する領域が増えたりすると尚更だ


--------


--トーラスの次元の狭間


柱も天井もない、白と黒を基調とした広大な空間に、
光沢のある白衣のような物を身にまとった者達が、
きっちり2メートル間隔で横並びになって何やら作業をしていた


彼らの眼前にはモニターなど無いのだが、
大量のSNSのアイコンのようなものと、
音量のボリュームゲージのようなものが空中に表示されている


ゲージは忙しなく動き続けており、
その動きにあわせて、白衣を着た者達も何だか忙しそうだ


横目で彼らの動きを見つつ、
10平米ほどの何もない空間へと案内されてやってくると、
案内役がこちらを振り返り、コホンと咳払いをした


コウ
「コホンッ…僕は、新入りの案内役を行うスイッチャーのコウ。
さて、この次元の狭間でスイッチャーとなるか否かは、
貴方達の判断に任されています。

お三方は、ここまでで何か質問はありますか?」


コウと名乗った者は、全身真っ黒で大きなカラスに見える


背丈でいえば、
私より少し大きいから170cmくらいはあるだろう、
その翼は周囲の光があたるとキラキラと虹色に輝いていて、
左目には金色の片眼鏡をつけている


とても優美でかっこいい


こういう存在を賢者とかって言うんだろうか…


そんなことを思いながらコウに見惚れていると、
コウは一拍置いてから嘴をカチンカチンと鳴らした


すると、何もない空間に真っ白な椅子が人数分出現した


そこに座るようにコウが身振りで促してきたので、
『新人3人』は、それぞれのサイズの椅子へ座った


ダン
「断ったら、あっしらに不利益とかあるんですかい?
おっと、あっしの名はダン・アスラと申す。
地球のアンタリクという帯域から来た。
以後、よろしくお頼み申す」


ダンと名乗った者は恰幅がよく、頭部だけが象で、
空色の肌にベージュ色の布を身に纏っていた


コウ
「いえいえ不利益などございませんよ。
断った場合は、この次元の狭間へ来た記憶は抹消されてしまうが、
貴方達はもとの次元軸へ帰って『いつもの日常』に戻ることもできる。

ただ…僕としては、こうして貴方達はここへ来られたわけだから、
是非とも、その力をかしてほしいのだがね…見てもらった通り、
ここは常に忙しいところだから」


コウはそう言いながら、先程と同じように嘴を鳴らす


すると『新入り』の前に、
先程と同様、3名のサイズにあわせた机と、
透明なシュガーポットが2つずつ出現した


その光景を見るや、別の新入りが口を開いた


ミタラシ
「ワタクシ、9つの次元を又にかける、
猫又のミタラシ どうぞよろしくニャ。
それにしても…これは古典的な分岐選択というやつかニャー?」


ミタラシと名乗った者は、ニャーと言った通りどうみても猫だ


毛並みは三毛で、尻尾が二又にわかれている


これぞ猫又という風貌で、
さきほどコウが出現させた椅子に座りながら、
猫がするように顔を洗っている


コウ
「ミタラシさんその通りです。
見ての通り貴方達の前には白と黒二種類の飴玉がある
どちらを選ぶかは貴方達次第です。よくよくお考え下さい。

あ、そちらの方は?ご質問はありませんか?
あー…山ほどあるというお顔をされていますね

さぁ、遠慮せずにどうぞ」


そう言ってコウは、私に視線を合わせてニンマリと笑みを見せた

彼はカラスだが、何となく雰囲気で表情がわかるのだ


愛菜「わ、私は平乃 愛菜(ひらの めな)27歳、
西暦2021年地球は日本から来た人間です。
あの…これは夢ですよね?」


----・・



しんっと 何故かその場に沈黙が広がった

あれ、何かまずいこと聞いたんだろうか?

と 一人で戸惑っていると、

みんなが首を傾げて私をしげしげと見てくる


ダン
「平乃さん言いましたかね?これは夢ではありませんよ…
というかあんさんは、何でここに来たか、
自分でわかっちょらんのですか?」

 

心底不思議そうにダンさんが聞いてくる


いや…分かるわけないよね


何も説明されてないんですけど?


それに…


ミタラシ
「動物なのか何なのか分からない連中に、
どうしてこんな質問されてるんだって顔してるニャ…
まさか…次元の迷子者かニャ?…いやそれだったら、
ヒト科担当の狭間おじさんあたりが担当しているはずニャンだけど」


狭間おじさんって何?


とにかくパニックになりそうなのを抑えつつ、
ここに来る前の記憶を辿ってみる


愛菜
「…えっと…ここに来ることになったのは、
そうだ…近所のカラスさんが夢に出てきて…
…だからこれはあの夢の続きだと思ったんですけど、
いやよく考えると、あのカラスさんも金色の片眼鏡?
をしていたから…あれはコウさん?だったんですよね?
あの時、言っていたじゃないですか

『君の思考の助けになるかもしれないから、よかったら僕についておいで』って

『あ、じゃぁ行きます』みたいなノリでついてきちゃって、
私はいまここにいるわけなんですけども…それなのに
この宇宙?が周波数で云々とか、
ここで行われてる業務内容?を説明されただけでっ

というか、大きなカラスさんに顔だけ象さん!

さらに猫又さん?っ…しかも皆さん普通に喋ってる…
いやもうあの、これが夢じゃないなら何なんですか?

SFなのかファンタジーなのかはっきりしろってんですよ!
それにこの飴玉……分岐選択てマ〇リックスか!」


許してほしい


この自分を取り巻く異常事態からしたら、

これくらいの啖呵は許されると思うんだ

聞き取れる言葉になっていただけ良いと思うんだ


--……


ってかやめてその哀れみの目と沈黙っ!



コウ
「コホンッ…愛菜さんは、少々驚いているのかもしれませんね。

無理もないか…ヒト科がここへ訪れるのは、
かれこれ…なんと表現したらいいのか…
ヒト科の使う時間の尺度は扱いにくいですねぇ…

たしかに僕は『ついておいで』と言いましたが、
ついてくる選択をして、ここへ来たのは貴女自身ではありませんか。

我々スイッチャーは、周波数が変化した者の接続を補うだけで、
無理にその者の周波数をチューニングして、
ここへ連れてくるなんてことはできないんですよ。

貴女は、それら全てを根本では理解しているから、
この場で、こうして存在できているんです。

でなければ、貴方が言った様にただの夢として、
貴女は貴女の許す日常に戻っていたでしょうから」


さも当たり前だといった感じで、
けれども耳に心地よい声色とテンポでコウは言った


…え?…じ、自分でここへ来た?


つづく



今回の主要キャラクター紹介


名前/平乃 愛菜
年齢/27歳 性別/女-独身
容姿/身長はやや低めな152cm
服装/黒のパンツスーツ
髪型/青みの強い黒髪のおかっぱ
小物/黒メガネをかけている
雰囲気/どことなくハリネズミに似ている
趣味/考えてもきりがないようなことを想像すること
種族/人間
出身/地球は日本
特徴/契約社員だったが、契約が切れて無職
親も他界しており、友達と呼べる人は、
皆結婚していて天涯孤独

-------------

名前/コウ 
年齢/不明
性別/男-伴侶なし
容姿/170cmくらいの大カラス
服装/自身の漆黒の羽を誇りに
思っているので、基本的に衣服は着用しない
小物/左目に金の片眼鏡を着用している
種族/〇〇〇族・地球では渡り大烏
出身/〇〇〇〇〇〇〇と地球

--------------

名前/ダン・アスラ 
年齢/不明 性別/男-故郷に大家族あり
容姿/200cmくらいで頭だけ象で肌は空色で、恰幅が良い
服装/ベージュ色の布を法衣のように身にまとっている
種族/ダン族
出身/地球のアンタリク帯域
特徴/温厚で情に厚いが、真逆の面も持っていたという

---------------

名前/ミタラシ 年齢/不明 性別/女-伴侶なし
容姿/三毛猫で尻尾が二股にわかれている
服装/なし
種族/猫族-ネコマタ科
出身/地球は日本
特徴/愛情深く面倒見がいいが、
決して恨みを買ってはいけない

--------------

※この作品は星空文庫/note/小説家になろう
/noteにてお読みいただけます。

第2話-選択-

遡ること地球時間で12時間前


西暦2021年9月21日


カァーッカァーッカァーッ


んーカラスさん…うるさいなぁ今何時よ


枕元に置いてあるスマホを見る


《4:44》


げぇ…はやっ


まだ2時間は眠れる


あ、昨日で仕事の契約きれたんだっけ…


新しい仕事探さなきゃな…



あー…だめだ寝れない


サイドテーブルに置いていた眼鏡をつけて、
だるだるでベッドを出て洗面所へ

シャカシャカと歯を磨いていると、
鏡の中の自分と目が合ってしまった

熱帯夜で蒸し暑いからか、
髪はボサボサだし、顔も何だかじっとりとしている

一旦眼鏡を洗面台の棚に置いて、
ボヤけた鏡の中の自分に変顔したりしながら歯磨きを終えて、
ベタつくので、いつもより念入りに顔を洗ってタオルで拭う

そうして再び眼鏡をつけて…

うーん…今日は一日ネットで現実逃避でもしようかな

そう思いながら、リビング兼寝室に戻ろうとしていると、
キッチン机に置きっぱなしにしてた文庫本のタイトルが目に入る


『ORDER-願いは既に全て叶っている-』


昨夜コンビニでチューハイと一緒に買った本だ
お酒のツマミとして、軽く読める自己啓発本かと思ったのだけど、
何冊か所有している自己啓発本とは、ちょっと違った書き方だった



愛菜「ORDER-願いは既に全て叶っている-…ねぇ」


ぼそりと呟きながらキッチン机の椅子に腰かけ、パラパラと本をめくった

昨夜読んでいて気になった部分はたしか…

あーあったあったここだ

池ポチャ理論

『池にボールを入れたくない』と強く思うと、

『池にボールを入れた』の部分だけピックアップされ

 現実という場に、その通りに反映される

「したい・したくない」といった願望の表現部分は、

 オーダーに反映されないので注意が必要だ

具体的に思いを現実に反映させたいのなら、

『ボールをグリーンに打つ』や『あの位置にボールを打つ』といったように、

意識を使って、具体的なオーダーをしよう

どうでしょう?


皆さんの願いは、既に全て叶っていたことが、
お解りいただけましたでしょうか?


それが解ったら、オーダーで遊んでみましょう!



愛菜
「…いやいや…この理屈でいったら
【会社やめた くない】って強く思ったら、
辞めちゃうってことじゃん…何このちょっとあべこべな感じ」


だけど…この方式?で言ったら、
私の人生って嫌なことも楽しかったことも、
全部…自分発信で叶ってることになるのか…


そんな思考をめぐらせていると、

少し眠気が戻ってきたので、ベッドに戻って大の字に転がった


ふぅ~


こうやって寝っ転がって色々想像するのが一番楽しいよなぁ

そういえば

なんか昔に読んだ本にも、似たようなことが書いてあったな

全ては周波数だとかなんとか、小難しいことが書いてあったと思う

言い回しが堅苦しくて、流し読みしかしてなかったけど、

なんとなーく、ラジオやTVのチャンネルを自分で自由に変えられるように、

自分が経験したり見たりする世界もそういうものなんじゃないかって、

あの時から思ってたりするんだよね

だけどその肝心の周波数?を扱う、

具体的なやり方がわからなかったんだよなぁ

あ…さっきの本

『ORDER』に書いてあった方法なら分かりやすいし、

私にも…もしかしたら使えるかもしれないな

よし、ちょっと試してみよう

枕元に置いてあるスマホを手に取り、

いつも暇な時に遊んでいたパズルゲームを起動した

ちょうど3日ほどクリアできないステージがあったのだ

よし…それじゃぁオーダーをしてみよう

えーっとたしか、具体的なオーダーだよね…


『やったー!ステージ連続クリアしたー♪』


ついでに小さくガッツポーズつけて気分もちょっと上げてみた



-------30分後



スマホの画面に出てくるCLEAR!の文字


これで何度目だろうか…いやまじで??


こんなことあるわけない…
そう思いながら次のステージをプレイしていると、
そのステージはクリアができなかった

あ…「こんなことあるわけない」
ってそう思ったからなの?…私がオーダーしたからなの??

まじか…なにこれ凄いじゃん…

何か気分いいし、へへっ二度寝しちゃおう…


あーん…しあわせ~


おやすみなさぁい


---------・・・


トーラスの次元の狭間



愛菜
「…関係がありそうなわたしの記憶は、
今話したところまでで、あとはさっき話した通り、
コウさんに誘われて…あれ?これも私がオーダーしたから、
ここに居るってことなんでしょうか??

こんな凄い場所のオーダーした記憶がないんですが…

二度寝で観た夢から地続き?だったんで、
夢の続きだと思ってたわけで…てかいまでも、
これは夢だと思ってるとこあります」



包み隠さず、正直にそう言うと、何故か…みんな小刻みに震え出した


なんで?


ミタラシ
「っ…ニャハハハッもう…
平乃さんでしたっけ?いや愛菜ちゃん!
アンタ面白すぎ!ニャハハハッ!
ヒィー駄目ニャつぼったニャ…ヒィー!」


ひぃひぃ言いながら、
ミタラシさんは椅子から転げ落ちて、
床?を前脚でバシバシ叩きながら大笑いをはじめた


え…なんで笑われてんの?


ダン
「…っハーッハハハッこりゃ失礼っいやしかし、
あっしも長く生きちょりますが、どんなきっかけが役に立つか、
本当にわからんもんですなぁ!ハハハッいやぁ愉快愉快!」


ちょっと…初対面の自己紹介で
なんでこんな笑われなきゃならないの?
失礼じゃない?


ちょっとイラっときたのを、
もろに顔に出して全員にジト目を向けてやった


コウ
「ぷ…いや…コホンッどういう経緯であろうと、
貴女が点と点を結び、深淵なる周波数やオーダーについて理解し、
実践して腑に落としたということに変わりはありません。

ですが…ぷっ…僕の把握している限り、
地球担当のヒト科が、愛菜さんの得た智恵に辿り着くには、
それはもう幾星霜もの修行をこなした方ばかりでしたので、
愛菜さんの目覚めのきっかけを聞き、少々驚きました。


いやっ…愛菜さんをご案内したのは僕ですが、
これは嬉しい誤算ですっ…ぷっ」


妙にかっこつけた言い回しでも、漆黒の羽で口元を隠しながら、

必死に笑いを堪えているようにしか見えない


何なのよ…

私はふくれっ面を暫く晒していた


3人がこの顔にツボッているのか、
さっき私が話したことにツボッているのか、
ダブルパンチなのかわからないけども、
いっこうに3人の笑いがおさまる気配はない



感覚時間でかれこれ10分は、
プークスクスとされている気がする



ムカつくけれど…

この訳の分からない状況に

少しだけ

ほんの少しだけ馴染んできてしまった自分がいる

それに何だか…ワクワクしてきた

だってこの状況って、
どう考えてもアニメやラノベみたいじゃないか

ぶっちゃけ…とっても怖いけれど、
ここで終わりにしちゃ勿体ないよね

仕事も契約切れてるし…

天涯孤独の身だし…

よし、と心を決めたわたしは、笑ったままの3人を横目に、
コウさんが出してくれていた100円玉くらいの白い飴玉を
透明なシュガーポットから手に取り、さっさと口に放り込んだ


愛菜「あ…これすごくおいしい」


ココナッツミルクのような風味が口に広がった

それと同時に、これは夢じゃないのだとはっきりした

わたしの夢に出てくる食べ物は、味なんてしたことがないからだ


--・・・


わたしの新しい仕事は、スイッチャーになった


つづく

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今回の主要キャラクター紹介

名前/平乃 愛菜
年齢/27歳 性別/女-独身
容姿/身長はやや低めな152cm
服装/黒のパンツスーツ
髪型/青みの強い黒髪のおかっぱ
小物/黒メガネをかけている
雰囲気/どことなくハリネズミに似ている
趣味/考えてもきりがないようなことを想像すること
種族/人間
出身/地球は日本
特徴/契約社員だったが、契約が切れて無職
親も他界しており、友達と呼べる人は、
皆結婚していて天涯孤独

-------------

名前/コウ 
年齢/不明
性別/男-伴侶なし
容姿/170cmくらいの大カラス
服装/自身の漆黒の羽を誇りに
思っているので、基本的に衣服は着用しない
小物/左目に金の片眼鏡を着用している
種族/〇〇〇族・地球では渡り大烏
出身/〇〇〇〇〇〇〇と地球

--------------

名前/ダン・アスラ 
年齢/不明 性別/男-故郷に大家族あり
容姿/200cmくらいで頭だけ象で肌は空色で、恰幅が良い
服装/ベージュ色の布を法衣のように身にまとっている
種族/ダン族
出身/地球のアンタリク帯域
特徴/温厚で情に厚いが、真逆の面も持っていたという

---------------

名前/ミタラシ 年齢/不明 性別/女-伴侶なし
容姿/三毛猫で尻尾が二股にわかれている
服装/なし
種族/猫族-ネコマタ科
出身/地球は日本
特徴/愛情深く面倒見がいいが、
決して恨みを買ってはいけない

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※この作品は星空文庫/note/小説家になろう
/noteにてお読みいただけます。

第3話-お茶-

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あれから結局、私以外の2人も、
白い飴玉を選んでスイッチャーとなった

ところで、スイッチャー達には、
それぞれ専用のプライベート空間?が用意されているんだって

これからコウさんが私の空間?に案内してくれるというのだが、
肝心のコウさんは私達新人の登録の為、少しだけ席をはずしている

ダンさんとミタラシさんは、他の案内の方が来て、
早々に自分の空間へと消えていった

その間私は、さっき食べ終わった
飴玉があまりに美味しかったので、
黒い飴玉の味も気になってしまった

きっと…あれも美味しいに違いない…
そう思ったときには既に黒い飴玉は口の中にあった

やっぱり美味しい
こっちは濃いコーヒーのような味だ
めちゃくちゃ美味しい

ふふふ~幸せ…

愛菜「何か凄いことになったなぁ…これはリアルなんだよなぁ」


言いながら古典的だと思いつつほっぺを抓った


愛菜「痛い…うん」


そんなことをしていると、
コウさんがシュッと空間に戻ってきた

なんだろう瞬間移動みたいな感じなのかな

あれ私もできるんだろうか…


コウ「愛菜さんお待たせしました。では、行きましょうか」

愛菜「はい」


コウ「少し、失礼します」


言いながらコウさんが近づいてきて私を右羽に抱き、
左羽をバサッと広げて『空間構築!』と言った

すると応接セットは姿を消し、
何と私のアパートの一室そのものへと空間が変化した


空間変化中の光景は、なんと言えば良いのか…

無風なのに、周囲のとてもとても小さい粒子が凄い勢いで動きまわり、
しかるべきところに集まっては見知った物体になり、
あれよあれよという間に、見慣れた部屋になった感じだ

感覚時間でいうと3秒もなかったんじゃないかな…


そして私は今、コウさんと一緒に自分の家のキッチンに立っている

家の中の光景は、昨夜の記憶のままだ


唯一違うのは、170cmくらいの大きなカラス…コウさんが一緒に居ることだ


愛菜「…えっと…帰ってきた……わけじゃないですよね」


コウ
「はい、愛菜さんが存在していた元の次元にある場所ではありません。

ここは貴女専用の空間です。

今回は僕が貴女に馴染みのある空間を構築して共有しましたが、
気に入らないようでしたら、ご自分で好きな場に創り変えてください。
広さなども、貴女がご自分で許す限り自由に構築できますから」


私はしばらくあっけにとられてしまった

いよいよアニメみたいだ…何回か、異世界転生ものとかで、
こういう展開を見たことがあるけれど…

いざ自分がこんな凄い経験をすると、
どう反応したら良いのか分からないものなんだな…


愛菜
「えっと、まだまだ聞きたい事もあるんですが立ち話もなんですし、
コウさんのお時間が許せば、お茶でもいかがですか?
あ、緑茶お嫌いでなければですが…」


コウ
「お茶のお誘いですか、これは嬉しいですね。
僕は緑茶というのを飲んだことがないので是非ご一緒させてください。
それに次元の狭間のルールも、ご指南しておきたいですからね」


コウさんは快くお茶の誘いを受けてくれた

それに、ここについてもちゃんと聞けそうだ


------


彼はキッチン机近くの椅子に座るのではなく、
その椅子を横にどけて、キッチン机の前で脚を縮めた

たぶんあれで寛いでいるんだと思う

そんなコウさんの所作を見ながら、
私はお茶の葉が置いてある食器棚の戸を開けた


愛菜「あったあった、こないだ買っておいたんですよ。
お湯沸かすので、ちょっと待っていてくださいね」


コウ「はい」



----


勝手知ったる何とやらで、
私は普通にいつものケトルでお湯を沸かして2人分のお茶を淹れた


愛菜「お待たせしました どうぞ」


コウ「あぁ、ありがとうございます…いただきます」


私は彼の真向かいの椅子に腰かけながら、違和感を感じた

いま私が自然とこなした行動に、何故かとても違和感を感じたのだ


コウ
「あぁ…これが緑茶というものなのですね。
やや熱い湯に、爽やかな香りと青々とした渋みが混ざりあっていて、
いやはや、これは美味しいですねぇ」


妙な違和感を感じている私を知ってか知らずか、
コウさんは両羽をうまいこと手のように使って湯飲みを持ち、
長い嘴の先端を、チョコチョコと湯飲みに入れて、
とても美味しそうに緑茶を飲んでいる

私はそんなコウさんに、妙な違和感をそのまま質問してみた


愛菜「ここは元の次元にある、私の家ではないんですよね?」


コウ「そうですよ」


愛菜「えっと…普通に水道から水が出たり、電気でお湯を沸かせたり、
その…この緑茶が食器棚にちゃんと入ってたり…どういう仕組みなんでしょう?」


そう聞くと、コウさんは持っていた湯飲みをキッチン机に置いた


コウ「あぁ、それは無意識の内に、愛菜さんがこの場を、
   使い勝手の良いように『空間構築』を行ったからですね」


愛菜「えっ私が?さっきコウさんがやってくれたみたいにですか?」


コウ
「あ…少しだけ違います。僕は意識的にこの部屋を構築しましたが、
愛菜さんが行ったのは無意識化での構築です…なんと言いましょうか…
馴染みのある空間で、自分が行う行動というのは、
無意識的に行われることも多いのです」


愛菜「…??…私が創ったってことなんですか?」


コウ
「はい、うーん…言葉で表現するのは難しいですねぇ、
こういうことは、実践してしまうのが
一番納得できるものですから…そうだ、
これからはスイッチャーとして次元の狭間で
過ごすことになるのですから、いまの内に
空間構築を練習してみませんか?
美味しいお茶のお礼として、お付き合いしますよ」



次元の狭間っていうくらいだし、
やっぱり私の知っている常識とは、だいぶ違う場所なんだなぁ

うーん…わからないことだらけだし、練習に付き合ってもらおう


愛菜「是非、ご指南お願いします。えっと何をすればいいんでしょう?」


コウ「簡単に言いますと、オーダーを行うのですよ。
では手始めに、愛菜さんが普段の生活の中で馴染みのある場所を、
…最初ですから目をとじて、できるだけ細部に至るまで想像してください」



馴染みのある場所…近所のコンビニとかで良いかな?
えーっと細部に至るまで…ってでも雑誌コーナーとか細かく記憶してないな…
おむすびとかスイーツのあるところは細かく覚えてるんだけどなぁ…

まぁいいか、とにかく想像してみよう

私は何となく両手を掲げ目を瞑り、
コウさんがやってくれたみたいに出来るよう、
できるだけ細部まで想像をした


愛菜「空間構築」


つづく


------

今回の主要キャラクター紹介

名前/平乃 愛菜
年齢/27歳 性別/女-独身
容姿/身長はやや低めな152cm
服装/黒のパンツスーツ
髪型/青みの強い黒髪のおかっぱ
小物/黒メガネをかけている
雰囲気/どことなくハリネズミに似ている
趣味/考えてもきりがないようなことを想像すること
種族/人間
出身/地球は日本
特徴/契約社員だったが、契約が切れて無職
親も他界しており、友達と呼べる人は、
皆結婚していて天涯孤独

-------------

名前/コウ 
年齢/不明
性別/男-伴侶なし
容姿/170cmくらいの大カラス
服装/自身の漆黒の羽を誇りに
思っているので、基本的に衣服は着用しない
小物/左目に金の片眼鏡を着用している
種族/〇〇〇族・地球では渡り大烏
出身/〇〇〇〇〇〇〇と地球

---------
※この作品は星空文庫/note/小説家になろう
/noteにてお読みいただけます。

第4話-空間構築-

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コウ「愛菜さん、もう目を開けて大丈夫ですよ」


感覚時間で10秒は経ったころ


目を開けると、そこは毎日のように通っていたコンビニの店内だった


愛菜「痛っ」


場を変化させる前に、椅子に座っていたのが悪かったのだろう

周囲が本当にコンビニになったのに驚いてしまって、
私は思いっきり尻餅をついてしまった
座っていた椅子がなくなってしまったからだ

…パンツスーツでよかった


コウ「おっと、大丈夫ですか?お手をどうぞ」


そう言いながらコウさんが手…じゃなくて羽をさしのべてくれたので、
私はふわりとした羽に軽くつかまって立ち上がった


愛菜「ありがとうございます…そ、それより」


コウ「えぇ、ちゃんと意識的にオーダーして『空間構築』ができましたね」


愛菜「す…すごい…ちょっと見て回って良いですか?」


コウ「えぇ」


私とコウさんは、コンビニの店内をぐるりと見て回った

するときちんと構築できているところと、ぼやけている部分が混在していた


特に、記憶が曖昧だった雑誌コーナーの本や、
普段見ない棚の物は、全て水彩画の絵の具を薄く滲ませたような感じになっている


愛菜「なんでこんなボヤっとした部分があるんでしょう?」


コウ「愛菜さん、貴女はこの場をどのように構築しましたか?」


愛菜「え、どのように?目を瞑って、
記憶の中からこのコンビニの光景を思い出して、
私はいまその光景の中にいるーーって強く思った感じ…です」


私が言い終えると、コウさんは「ふむ…」と言い、
金色の片眼鏡を羽の先端でクイクイといじりだした


コウ
「これは想像で空間構築を行う場合も同じなのですが、
淡く想像してしまった部分は、そのまま構築されてしまうのですよ。
まぁ、ボヤけてしまっても困ることはありませんよ。

普段意識しない部分の記憶は、愛菜さんにとっては変わっても気づかない、
背景みたいなもの…ということですから」

…なんだか分からないけれど、少しだけゾクっとしてしまった

だってその理屈で言ったら、私が認識していないものは、
存在がボヤけちゃうってことになるじゃないか                     



愛菜「な、なんかちょっと怖いですね」

私がそう言うと、コウさんが思いっきり首を傾げた


コウ
「怖い?なぜ?次元の狭間へやってきて、さして取り乱しもせず、
私やダンさん、ミタラシさんの容姿を簡単に受け入れた貴女が、
空間構築でボヤけたものが怖い??

…分からない…何故?

そもそも、ここトーラスの次元の狭間の法則は、構築にかかる負荷がないだけで、
貴女が居た元の次元と法則そのものは同じなのですよ。
元の次元でも、通り過ぎる背景をいちいち認識していなかったでしょう?」

獣人さんが出てくるアニメやラノベを知っていただけで、
簡単に受け入れたわけでは…というか

この次元の狭間が私がいた次元と同じ法則?

…通り過ぎる背景?


と私が一人百面相をしていると、
コウさんがハッと何かに気付いたらしく、首?を縮めて
アーアーと小さく言った…というか鳴いた


コウ
「失礼しました、そうでした愛菜さんは西暦2021年の地球から来たヒト科なのですよね。
貴女があまりにこの次元に順応しているので、忘れてしまうところでした。
確か…ヒト科は何かを得たり場所を変える際は、段階を経るのでしたよね?」


愛菜「段階を経る?」


コウ
「はい、アー…先程頂いた緑茶を『こないだ買っておいた』とか
『お湯沸かすので、ちょっと待っていてください』とかおっしゃってましたよね?
たしか愛菜さんが居た次元の周波数は、欲しいものや行きたい場所を想像して、
間に何か行動と言うワンクッションを経て手に入れたり、目的地に自分を置いたりしますよね?」


な、なんだか小難しい言い回しだけれど、コンビニに歩きで向かって、
欲しいものをお金で買ってから手に入れる…みたいなことを言ってるのかな?


愛菜「…たしかに段階を経ていますね…それが負荷というものなんですか?」


コウ
「…あ…いえ…周波数での空間構築的には、
負荷と言えなくもないのですが、その段階を経る過程そのものを、
貴女の居た次元では楽しむ方々もいると、聞き及んでいますし…
   
コホンッ…すみません僕には、うまく説明ができませんね…」


賢者のようだと思っていた存在が、
毛をちょっとブルブルとさせながら言い淀んでしまった

なんていうか…ちょっと可愛い


愛菜「コウさんでも、そんなことがあるんですね」


コウ
「そりゃぁ、ありますとも!特に地球のヒト科帯域は、
長らくスイッチャーが不在でしたので、
不本意ながら自動接続に任せきりだったのです!

ですから、地球を担当する僕の元へ、
愛菜さんが来てくれたことは、
僥倖(ぎょうこう)そのものなのです!

いいですか?僕はこれでもヒト科の時間でいうと
1劫年は生きて、色々と見てきたつもりなのですが、
こうしてまだまだ学べる対象があるということが、
どれだけ素晴らしいことか、アーッ分かっていただきたい!」

バサッっと両羽を思いっきり広げるもんだから、
近くに居た私の顔を、コウさんの羽の先が擽った

イチコウネン生きてるって光?劫?…
よく分からない桁を過ごしている存在なのは分かったけれど…

な、なんか突然早口になって熱が入ってきたな…
というかギョウコウってなんだろう?

でも…外見は全く人とは違うけれど、
興味のあるものに熱意を持ったりとか、
こういうところは人に似ているんだなぁ


愛菜「ふふっ」


------


それからしばらくコウさんは、
私の空間構築の練習…というか遊びに付き合ってくれた


よく通っていた近所のスーパーやショッピングモールのイ〇ン、
はたまた本を読むので通っていた公園やカフェなど、
記憶にあって思い描ける場所は、一通り空間構築で創って遊んでみた

相変わらず、ボヤけてしまうところはあるのだけれど


コウ
「いやぁ実に興味深い建造物ばかりでした…
それにとても楽しかったです………貴女には、
これをお渡ししておきましょう」


いいながらコウさんは、鳩胸ならぬカラス胸?付近の、
ふわふわな羽毛に長い嘴を入れて何かを取り出した

嘴にくわえたまま、私に向けて「差し上げます」と言うので受け取ると、
それは麻紐の様な物に、2cmほどの黒い石が包み込まれたペンダントだった

ペンダントトップの黒い石は、
周囲の光があたるとキラキラと輝きながら様々な色に変化した

まるでコウさんの羽の様だ


愛菜「綺麗ですね…これは?」


コウ「……スイッチャーとしての作業は、ヒト科の愛菜さんにとっては、
…貴女自身の周波数に漣(さざなみ)を立たせてしまうかもしれません。   
そんな折には、この石を握って深呼吸をしてください。必ず、落ち着きますから」


愛菜「さざなみ…?」

どういうことなのかを聞こうとすると、
コウさんは嘴をカチンカチンと2回鳴らした


すると周囲は、
ダンさんやミタラシさんと一緒にいた空間、
白と黒の色味が特徴的な、何もない空間へと変わった


コウ「そろそろ僕は、仕事に戻らねばなりません。

………おっとそうだ、大事なことを言い忘れていました。

この次元の狭間のルールはただ一つ【自分を否定しないこと】です。

一言で言われると簡単そうですが、これはアナタの周波数にとって、
とても大切なルールですので、覚えておいてください。

さて…文字通り、目まぐるしくアナタの見るものが変化しましたから、
お疲れでしょう?どうかアナタの心休まる場を構築して、
ゆっくりと休まれてください。

あ、それから愛菜さんのスイッチャー業務開始のタイミングは、
特に決まっていませんので、ご自分で『やろう』と思うタイミングが、
お仕事開始の合図です。それでは、またこんど」


私が何かを言う間もなく、
コウさんは深々とお辞儀をして、
私の前からシュッと消えてしまった


私は何もない空間に、ぽつんと一人になってしまった


つづく

------

今回の主要キャラクター紹介

名前/平乃 愛菜
年齢/27歳 性別/女-独身
容姿/身長はやや低めな152cm
服装/黒のパンツスーツ
髪型/青みの強い黒髪のおかっぱ
小物/黒メガネとコウから貰ったペンダント
雰囲気/どことなくハリネズミに似ている
趣味/考えてもきりがないようなことを想像すること
種族/人間
出身/地球は日本
特徴/契約社員だったが、契約が切れて無職
親も他界しており、友達と呼べる人は、
皆結婚していて天涯孤独

-------------

名前/コウ 
年齢/不明
性別/男-伴侶なし
容姿/170cmくらいの大カラス
服装/自身の漆黒の羽を誇りに
思っているので、基本的に衣服は着用しない
小物/左目に金の片眼鏡を着用している
種族/〇〇〇族・地球では渡り大烏
出身/〇〇〇〇〇〇〇と地球

---------
※この作品は星空文庫/note/小説家になろう
/noteにてお読みいただけます。

第5話-失敗-

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---

あれから一人で構築した『心休まる場所』は、
コウさんが最初に創ってくれたように、
やっぱり馴染みの深い自分の家になった

空間構築で創った私の部屋で最初に確かめたこと、
それは冷蔵庫の中身を確認することだった

水が水道から出たり、緑茶が棚にあるのなら、
緑茶と一緒に買っておいた食料も記憶通りあるってことだ

そう思いながら冷蔵庫の中身を確認すると、
思った通り良い感じに詰まっていた

納豆3パック、
タッパーに入れてある紅ショウガ、
キャベツ1玉、ピーマン1袋、もやし1袋、
きゅうり5本、オクラ10本入り、
トマト3つ…あとは絹豆腐に---5枚入りの油揚げ

冷凍庫は…冷凍ブロッコリー

米びつにも買ったばかりの
玄米を補充してあったし、
乾麺のお蕎麦も2袋ある

うん…これだけあれば暫く何とかなるかな

まぁ…食料がなくなったら、
好きな食材を構築すれば良いんだろうけど


グゥ~


愛菜
「食材見てたらお腹空いてきた…手っ取り早く、
ねばねば蕎麦でも作って食べよ」

--

お蕎麦を茹でている間に、
包丁でオクラを適量細かく切っておいて、
納豆のパックに入れてまぜまぜ

茹でた蕎麦をザルにあけ、
流水で冷やして器に入れたら、
先程用意しておいた納豆オクラを投入

ここで昆布だしをちょっとたらして、
蕎麦とねばねばがよく絡むように混ぜて、
ついでに刻みのりをちらしたら完璧!

我が家の定番、ねばねば蕎麦の完成~!


愛菜「さて~いただきまーす」


うん、いつもの味だフツーに美味しい
食べ終わったらお風呂入って、
ちょこっとお酒飲んで寝るかなぁ


--------
--------


チャポンッ

愛菜「はぁ~お腹いっぱいになったし、
今日もいいお湯だなぁ…バス〇リン買っておいてよかった」


脚や腕を手でムニムニと揉んでマッサージして、
浴槽の縁に頭を乗せて、私はふぅと溜息をついた

なにも考えないで温まっていると、
強張っていた身体が解れていくのが分かる

コウさんには私が取り乱していないように見えてたみたいだけど、
やっぱめちゃめちゃ力入ってたみたいだなぁ…

当たり前か…わーきゃー騒がなかっただけ良いよね

さて、そろそろ出よう


--------
--------


お風呂を出て、着古して襟が擦れてのびきり、
胸元のハートのプリントが剥げてしまってるTシャツワンピを着て、
無造作に髪を乾かし、キンキンに冷えたチューハイを飲む


愛菜「くぅ~っ染みる~」


まるでおじさんみたいだけど、
誰も見ていないし気にしない


そして、いつものようにスマホを取り出して、
ちょっとだけインターネット……
と思ったのだけど、しばらく奮闘して諦めた

何故って、検索画面までは表示できたのに、
調べたいワードを入力した後の画面がボヤけてしまうからだ

まぁ…考えてみれば当たり前か、
私の記憶にないものはボヤけちゃうんだもんね


愛菜
「…こうして一人で家にいると忘れちゃいそうになるけど、
やっぱり…ここはトーラスの次元の狭間なんだよなぁ…
…チューハイもなくなったし…さっさと寝ちゃおう」

あ、でも起きた時に夢だったなんて思いたくないから、
コウさんがくれたペンダントをして寝よう

胸元で輝くペンダントの石を見ながら歯を磨き、
大きな欠伸を一つして、私はベッドに大の字に横になった

ふぅ~

愛菜「そうだ…起きる時間セットしとかなきゃ…
ってあれ?ここって時間とかってないんだっけ?
コウさんに聞くの忘れたな…」

まぁ、一応起きる目印くらいにはなるだろうしセットしとこ

何時に起きようかなぁ…うーん…いつもの時間でいいか


AM 7:00アラームセット


----------


チロリロリンッチロリロリンッ


チロリロリンッチロリロリンッ


ん…起きなきゃ


手を伸ばせば届くサイドテーブルの眼鏡をつけ、
無意識的にスマホのアラームを止める


AM 7:00


スマホの数字を見て、のそりと起き上がって
しばらくボーっとしていると、寝る前の記憶がどっと押し寄せてきた


オーダー、トーラスの次元の狭間、頭だけ象のダンさん、
猫又のミタラシさん、そして色々と教えてくれたコウさん

私は瞬きを何度かすると、
いつもはそこになかった、
首からかかるペンダントの石を握った


愛菜「よし、初仕事だ」


----------


ここはトーラスの次元の狭間


柱も天井もない、
白と黒を基調とした広大な空間に、
光沢のある白衣のような物を身にまとった者達が、
きっちり2メートル間隔で横並びになって何やら作業をしていた


彼らの眼前にはモニターなど無いのだが、
大量のSNSのアイコンのようなものと、
音量のボリュームゲージのようなものが空中に表示されている

ゲージは忙しなく動き続けており、
その動きにあわせて、スイッチャー達も何だか忙しそうにしている


そして私は--失敗したらしい


忙しそうにしているスイッチャーさん達のど真ん中に、
起き抜けの姿のまま移動してきてしまったのだ

周囲のスイッチャーさん達が、
突然凄い姿で現れた私を二度見したり、
口を開けてガン見している


愛菜「うわっ」


そりゃぁベッドの上で「よし、初仕事だ」って覚悟決めたけどさ
……目的地までの段階が無いって…コウさんそう言ってたけどもさっ


自分の置かれた状況を把握してきて、
だんだん冷や汗が出てきた


どうやら私はここへきて、
一番の取り乱し方をしてしまったらしい


あたふたとする私を見て周囲のスイッチャーさん達が
心配してくれたのだろう、どんどん集まってきてしまった


スイッチャーA「αΘβτ§ΣΔ??」


スイッチャーB「§αΘβ…」


で、でも言語がわからない…いやっていうか集まってこないでっ
それにどう見ても宇宙人さん?のような方ばっかりっ
私はその場で頭を抱えて蹲ってしまった



種族を超えた初対面の方々に、
こんなだらしない姿を晒すなんてっ!


み、見ないでぇえええ!


-----・・・


「ニャ~」 すりすり


ん?腕に何かモフモフしたものがこすりつけられている

恐々とモフっとした感触の方を、
ちらりと覗くと、そこには三毛猫が居た


ミタラシ「また会ったニャ愛菜ちゃん、
こんニャところでダンゴムシごっこかい?」


喋った…あ…猫又のミタラシさんだ

だ…ダンゴムシごっこ?


愛菜「お…起き抜けに…仕事をしようと覚悟きめたら、
身支度整える前にここに来ちゃったらしくて…それで…混乱しっちゃって」


ミタラシ「ニャんだ。髪型が良い感じにファンキーだと思ったら、
そういうことだったんだニャ…ニャら、さっさとその身支度が終わった
自分をオーダーしたらいいじゃニャい」


身支度が終わった自分をオーダー?

その手があったか!


【私はいま、いつもの黒のパンツスーツを着ている!
メイクも髪型もいつも通り!!!】


----


感覚時間で3秒後--


背中を何だか温かい手?で優しくさすられた


ふと見上げると、全身アクアブルーの身体で長身で、
光沢のある白衣の様なものを纏った方が「〇〇△○○」と言った

言語は分からなかったが、
そっと手鏡のような物を差し出してくれたので覗き込むと

『いつもの私』がそこに写っていた

早鐘を打っていた心臓が少しだけ凪いでいく


愛菜「…あ、ありがとうございます」


心底安堵した顔だったのだろう、私がお礼をいうと、
アクアブルーの方は何度か頷いてスイッチャー作業を再開したようだった

ミタラシ「愛菜ちゃん落ち着いたかニャ?
ほらここじゃニャんだから、一緒についてくるニャ」


愛菜「は、はいっ」


こうして私は、心配して集まってきてくれた
スイッチャーの皆さんに何度もお辞儀をしながら、
ミタラシさんの後を追ったのだった---


つづく


今回の登場キャラクター

名前/平乃 愛菜
年齢/27歳 性別/女-独身
容姿/身長はやや低めな152cm
服装/黒のパンツスーツ
髪型/青みの強い黒髪のおかっぱ
小物/黒メガネとコウから貰ったペンダント
雰囲気/どことなくハリネズミに似ている
趣味/考えてもきりがないようなことを想像すること
種族/人間
出身/地球は日本
特徴/契約社員だったが契約が切れて無職
親も他界しており天涯孤独

----------------

名前/ミタラシ 
年齢/不明
性別/女-伴侶なし
容姿/三毛猫で尻尾が二股にわかれている
服装/なし
種族/猫族-ネコマタ科
出身/地球は日本
特徴/愛情深く面倒見がいいが、
決して恨みを買ってはいけない

-----------------
※この作品は星空文庫/note/小説家になろう
/noteにてお読みいただけます。

第6話-白黒上着-

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スイッチャーの皆さんから少し離れた何もない場所にくると、
ミタラシさんが小さく「空間構築」と言った

すると座り心地の良さそうな大きなビーズクッションが1つ出現した


ミタラシ「ほら、そこに座って深呼吸しニャさい」


愛菜「……はい、ありがとうございます」


ミタラシさんが言うようにクッションに座ると、
それはポフリと私の身体を包みこんだ


はぁ…やっちゃったなぁ…初仕事だっていうのに…


失態を頭でリプレイしてしまった私は、
思い切り溜息をついてしまった


ミタラシ「随分と盛大な溜息だニャァ…ほーら力抜くニャ~」


ミタラシさんは言いながら、
ピョンと膝の上に乗っかってきて、
私の右手をぺしぺしと優しく猫パンチしてきた


愛菜「え?」


ミタラシ「さっきからギューッて、
おてて握りしめてるの気付いてニャいのかニャ?
…いいから深呼吸ニャ」


愛菜「は、はい」


私は言われるがまま目を瞑って深呼吸をはじめた


すーはー…すーはー…すーはー…


あぁ…

何だか眉間がうずうずしてきた

それに鳩尾?のあたりに、
爽やかな空気が入ってきたような感じがする

…気持ちが良い…


ふぅ~…落ち着いてきた

ミタラシ
「スイッチャーの皆は、愛菜ちゃんが思うほど、
さっきのあのかっこ気にしていニャいから、
気に病んじゃダメニャよ~ここは色んな容姿の者が集う場ニャんだからニャー」

色んな容姿……確かに…

私が深呼吸を繰り返していると、
ミタラシさんが、さっきみたくスリスリとしながら、
喉をグルグルとならしてくれた

…優しいなぁミタラシさんは…

すっかり呼吸も整ってから目を開けると、
膝の上で器用に箱座りをしているミタラシさんが目に映った

愛菜
「…おかげさまで落ち着きました…
あのまま一人だったら…きっと私どうしたらいいか分からなくて、
みっともなく泣いちゃってたと思います…本当に助かりました、
ありがとうございます」

私がお礼を言うと、
ミタラシさんの二又の尻尾がピンッと上を向いた

ミタラシ「ワタクシは、たいしたことはしてニャいニャ
ここに来たのは、あのコウとかいう大きなワタリガラスに頼まれたからだしニャ」


愛菜「え、コウさんが?
どうして私があそこにいるのが分かったんでしょう?」


ミタラシ「……ニャんでだろニャ?おおかた、
そのペンダントに関わりがあるんじゃニャいの?
その石から、あのワタリガラスのニオイがプンプンするニャ」


愛菜「そ、そうなんですか?」

コウさんのニオイ?私はなんだかドキリとしてしまった

ミタラシ「…まぁそのことは今は置いておいて、
愛菜ちゃん落ち着いたニャら仕事しないかニャ?」

ハッそうだ私は仕事をしに来たんだった

………って

私は何をすればいいんだろうか???

ミタラシ
《あのワタリガラス…
今回もちゃんと仕事の仕方教えてニャいニャ…?
一応この次元のワタクシは、新入りニャんだけどニャー…
まったく…猫又使いの荒いヤツだニャ…》

突然猫語?でニャウニャウ言うもんだから、
ミタラシさんが何を言っているのかさっぱり分からなかった


愛菜「あの…ミタラシさん?」


ミタラシ
「あ、ニャんでもニャいニャ…とりあえず、
手始めに周りのスイッチャーさん達が着ている、
あの光沢のある上着を想像するといいらしいニャ

ワタクシみたいに服を着るのが嫌ニャら、
一度あの上着を作ってから、その形状を変えると良いニャ」


言いながらミタラシさんは白い首輪を見せてくれた

…ここは何でも自分の想像が大事なんだなぁ

愛菜「分かりました、ちょっとやってみます」

ミタラシ「ンニャ~」

言いながらミタラシさんが
膝からどいてくれたので、
私はクッションから立ち上がって、
周囲をぐるりと見渡した

たしかに皆さん、
光沢のある白い上着を着てらっしゃる

これなら目の前に参考があるから創りやすいな

そう思っていたのに-----

愛菜
「な、なんかカタチは同じにできたのに、真っ白じゃなくて、
半分ずつの白黒ツートンになってしまいました…」

私の上着を見せると、
ミタラシさんは耳とお髭をぴくぴくとさせ、
黒目をまんまるにしている

ミタラシ
《し…白黒ツートン?…ニャんで??
これもワタリガラスの仕業かニャ??…
…ま…まぁダイジョブでしょ…たぶん》

?また猫語だ…やっぱこれじゃまずいのかな…

愛菜「あ、あの作り直したほうがいいでしょうか?」

ミタラシ
「んニャ~…個性的でいいじゃニャ~い?
色味の指定は特にニャかったし…だ、ダイジョブ!
さて…それじゃぁそれを着てみて」

愛菜「は、はい」

言われた通り袖に腕を通すと--

目の前にたくさんの
SNSのアイコンのようなものと、
ボリュームゲージのようなものが出現した

周囲のスイッチャーさん達が扱っている、
インターフェース?とでも言えばいいのかな

どういう仕組みなのかわからないけれど、
この制服?を着用して作業を開始しようと
思うと出現するらしい


表示されたものを見ると、
アイコンにゲージがくっついて、
それぞれ色がついており、
ゲージは忙しなく動いている

それがびっしりと縦一列に並んでいて、
見事なグラデーションをみせていた

赤なら赤のグラデーション、
青なら青の…といった感じだ

それらは左側のセクションで、
右側はまるで色見本表のようになっている

そこには色名ではなく、
小さくHz(ヘルツ)が書いてあったのだけど

ミタラシ
「ちゃんと表示されたニャ
そうしたらゲージが満杯だったり、
逆に空だったりする者が、確認できるニャよね?」


愛菜「はい」

ミタラシ
「彼らが、次元移動を行わねばニャらニャい者ニャ

ゲージが空になった者は一段明るい色へ、
満杯になっている者は、一段暗い色へといった具合ニャ

基本的には自動で振り分けがされるらしいんだけど、
ヒト科のスイッチャーは久しく居ニャかったらしいから、
多分…停滞しちゃってる者が多いと思うニャ

そこで愛菜ちゃんやワタクシの出番ニャ」


そういってミタラシさんは、
ヒョイっと後ろ足で立って、
自分のインターフェースを起動し、
それを私に見せてくれた

さらにミタラシさんは、
滞っていると思われるアイコン付きゲージを、
両前脚でサッと右側にスライドさせた

ちょうどスマホでスワイプをする感じだ

スライドされたアイコンは、
右側の色分け階層に吸収されて振り分けが行われ、
また左側の色グループへと戻っていく

なるほど

私には思っていたよりもシンプルな作業に思えた

愛菜「良かった、意外と難しくなさそうですね」

私がそういうと、
ミタラシさんのお顔の髭がピクリとした

ミタラシ「…作業自体は簡単ニャ。ただニャ、
このアイコンに…っ…こうして触れて次元移動させるときに、
その者の想念と言ったらいいのか、記憶と言えば良いのか、
そういう断片がどっと流れ込んでくるニャ。

これがその者の陰陽どっちも流れてくるもんだから、
慣れるまでは意外と大変かもしれニャいニャ

ワタクシも…結構堪えるニャ」


想念…記憶が流れ込んでくる?

陰陽?

ミタラシさんでも堪えるって…


私は顔に疑問符を思いきり出していたのだろう、
ミタラシさんは「ニャハハ」と笑った


ミタラシ「ダイジョブ!ダイジョブ!
今回はこうしてワタクシが傍にいるからニャ~
ささ、愛菜ちゃんもとにかくやってみるニャ。きっと、
たくさんの人が愛菜ちゃんのサポートを待っているニャ」


愛菜「わ、わかりました。やってみます」


つづく


今回の主要キャラクター紹介

名前/平乃 愛菜(ひらの めな)
年齢/27歳 性別/女-独身
容姿/身長はやや低めな152cm
服装/黒のパンツスーツと白黒ツートンの上着
髪型/青みの強い黒髪のおかっぱ
小物/黒メガネとコウから貰ったペンダント
雰囲気/どことなくハリネズミに似ている
趣味/考えてもきりがないようなことを想像すること
種族/人間
出身/地球は日本
特徴/契約社員だったが契約が切れて無職
親も他界していて天涯孤独

----------------
名前/ミタラシ
年齢/不明
性別/女-伴侶なし
容姿/三毛猫で尻尾が二股にわかれている
服装/なし
小物/光沢のある純白の首輪
種族/猫族-ネコマタ科
出身/地球は日本
特徴/愛情深く面倒見がいいが、
決して恨みを買ってはいけない

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※この作品は星空文庫/note/小説家になろう
/noteにてお読みいただけます。

第7話-スイッチャー作業-

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あれから私は、たくさんの人々の次元移動のサポートを行って、
ミタラシさんが言っていた『陰陽』の想念や記憶が流れ込む…
ということの本当の意味を理解した


とはいえ…ここまでの人達は、
ポジティブな思考な人のサポートだった


彼らの想念は望んでいた仕事につけたり、
愛している人と再会したり、
それこそ結婚したりといった嬉しい想念と記憶だった

そこについてくる陰のイメージは、
願いが叶うに至るまでの忍耐というか、
コウさんが言っていた『段階』みたいなものだったので、
不謹慎ながらちょっと楽しかった

でも…かれこれもう443人は次元サポートしてるから、
ちょっと疲れてきたな…次の人が終わったら休もう

あ…そうだ…
やっぱゲージが満杯になっている人もやってみないとだよね…
空になってた人達がポジティブだったということは…
満杯な人達はネガティブな感じの人達なんだろうなぁ…

そう思ったときに強烈に気になったのは、
とても深い緑色のゲージをもつ少女のアイコンだった

さっそくサポートを行おうとアイコンに触れると---

??『母さん楽しかったね!だぁいすき!ずっと一緒だよ!』

これは少女の記憶かな…
とても温かい眼差しを向けて微笑む女性が見える

きっと少女のお母さんなんだろうな…

そう私が思った途端、
少女の想念と記憶の断片は砂の彫刻のように崩れていった
私が戸惑っていると、なぜか強烈な腐敗臭がしてきた


愛菜「ゔっ…きっとこれも少女の記憶…」


ひどい臭いと共に、
少女の視ているもの…6畳くらいの部屋だと思うけれど、
その部屋は悪臭とゴミで溢れていた

それに…千切れそうな悲しみと苦しさが伝わってくる…


??『母さん…どうしてワタシを置いていったの』


最初に流れ込んできた想念との、
あまりのギャップに悪酔いしそうだ…

あ……次元を移動させてあげなきゃっ

そうすれば、きっと少女に変化が訪れる        


私は急いで少女のアイコンとゲージを、
右側のセクションにスライドさせる
すると、少女のアイコンとゲージは、
先程よりも一段暗い深緑色の分類へと移動していった

分類させた途端、また少女の想念が私を襲った

少し大人びた少女が、姿見に映っているのが見える


??『…何してもうまくいかない…
私なんて生まれてこなきゃよかったんだ…』


ちょ、ちょっとまって…スライドさせる前よりも、
少女の絶望が濃くなってしまっている

それに…移動させる前に伝わってきていた感情が…
絶望のまま麻痺した感じになっている…
一段色が暗くなるって…そういうことなの?…

それにいま彼女は自分に向けて
【何をしてもうまくいかない】
というオーダーにあわせて、
…自分の存在を否定する言葉をかけていた
【生まれてこなければよかった】と…

…少女の絶望の名残で、喉の奥が苦しい…

私はなにもできずに、
ただ少女を暗い次元へと送ってしまった

そう思ったら、
なんと表現したら良いのか分からない涙が、
勝手に一粒流れ落ちていった

そして私は、表示されている中の、
暗い色味を持つ人々の数を見て絶句した

……オーダーの仕組みで言ったら、
…色が濃くてゲージが満杯になっている人々は、
自分にとって不利益なオーダーを繰り返してしまった
ってことになるんだよね…

ちょっとまって…なんで…こんなことになってるの?…

どうしてオーダーについて、人は詳しく知らないの?

私は思わずペンダントを手に取って、
暗い色を持つアイコンの人々に、
救いの手が現れるのを祈っていた

そんな私に気付いてくれたのか、
ミタラシさんが私の足首に、
そのフワフワな身体をピタリと寄せてくれた


ミタラシ
「ワタクシ達は、次元移動を続ける者をサポートする
スイッチャーニャ…自分が行く先を決めているのは、
ほかならぬ、このアイコンの者達自身ニャ…」


愛菜「…理屈は分かります…
自分でオーダーしたんですよね?…
けれど…打ちのめされたり、元気がない時は…
その思考や思いが現実になるんだって知らなければ、
底なし沼みたいになってしまうじゃないですか…」


ミタラシ
「……自ら気付くように祈るばかりニャ…せめて、
救いを心の底から願ってオーダーしてほしいニャね
そうすれば、様々なカタチで必ずあらわれるものだから」


ミタラシさんも苦虫を嚙み潰したような表情になっている…

…救いを…オーダー?
彼らはオーダーについて知っているかどうか分からない…
あ…ってことは…今ここで私が、
彼らの変わりにオーダーしたらいいんじゃない?…


そう思った途端、
目の前の表示がスっと消えてしまった


ミタラシ「愛菜ちゃん?…あ…いま自分のオーダーで、
重い次元を選ぼうとする者達をニャんとかしたいって思ってニャかった?」


私は息をのんだ
だってまるで心を読まれたみたいだったから


愛菜「…まさにそんな感じのことを思っていました」



ミタラシ
「ワタクシ達が他者の選択に介入するのは不可能ニャ…
愛菜ちゃんの選択は、愛菜ちゃんにしかできないのと同じニャ
それに、他人の選択に介入しようとする思考を察知すると、
いまの愛菜ちゃんみたく、表示が消えちゃって
スイッチャー業務ができニャくニャる
それにニャ…このトーラスは多次元ニャから…
一点のみの次元をニャんとかしてもニャ…」

ミタラシさん、また私の知らないワードを言ったような

愛菜「あ、あの…多次元というのはどういうものなんでしょう?
教えてもらってばっかりで申し訳ないんですが…教えてください」


ミタラシさんに問うと猫がするように伸びを見せ、
彼女も空中の表示を消した


ミタラシ「自己紹介のとき、ワタクシ言わニャかったっけ?
ワタクシは9つの次元を又にかける猫又だって」


愛菜「覚えてはいますが…うまく想像ができなくって…
時間のパラレルワールドとか、そういうことを言っているんですか?」


時間物のアニメや映画で、
並行して存在する複数の世界とかってのは見たことあったけど…

具体的には分からないよなぁ…

私がよく分からないといった顔をすると、
ミタラシさんは箱座りをしながら話し始めた


ミタラシ
「…似ているけれど、ちょっと違うニャ…次元そのもののことニャ」


愛菜「次元?」


ミタラシ
「次元にはヒトの時間という物差しは存在しニャいニャ
次元の中のヒトの時間てのは、看板だったり目印だったりするだけニャ

んニャ~多次元ていうのはニャー…ニャんて言えばいいかニャぁ…

そうだ部屋ニャ……何もない空間に部屋がたくさんポコポコ浮かんでいる感じニャ
それが多次元と想像してほしいニャ」


愛菜「は、はい」


ミタラシ
「それでニャワタクシの次元は9部屋あって、
そこにワタクシがそれぞれ居る…
それをワタクシは、今ここで実感できているニャ

9つのワタクシをひっくるめて、
ミタラシというワタクシができているニャ
それが猫又ニャ

いまこの次元に居るワタクシとは、
真逆の選択をしている自分がいるのも分かるし、
たまに次元の行き来をして遊んだりもするニャよ」


愛菜
「な、なんかすごいですね
9人の自分を自覚しながらいるって…
それって…あの…人も同じ様に多次元なんでしょうか?」


ミタラシ
「ヒト科は自覚さえすれば、いくらでも増やせるって、
古い猫又仲間から聞いたことがあるニャ
あ…ほらヒトが作った大きな像に、
たっくさんの顔や手がくっついているのを見たことニャい?
あれは、あの数だけ別次元に自分がいることを知ったとか、
繋がったってことだとワタクシは思うニャ
だから、ヒト科も多次元的な存在だと思うニャ
このトーラスはそういう宇宙だしニャ」



愛菜
「たくさんの顔や手がある像?
…たしかに見たことがあります…

人の身近にも、この宇宙トーラスが多次元だってことを
表しているモノがあったってこと…なんですね」


ミタラシ
「そうだニャ~まぁこういうのは、
個々の世界観が大事で、それぞれが軸となっていくから、
これが正解だー!とは、ワタクシは言わニャいけどニャ
あくまでワタクシはそう思うってことニャ」


愛菜「なるほど…」


この宇宙トーラスが多次元…なんか頭の中で、
たくさんの宇宙とかイメージできたけど、
すさまじく果てがなさそうな話だな…

暇ができたらゆっくり想像で遊びたい題材だなぁ

それにしても…ミタラシさんの言う通り、
人も多次元的な存在だとしたら…
さっき私がサポートした人達だって、
たくさんの次元に存在しているってことになるよね…


…?ということは…さっきの少女も、
あの色とは真逆に存在している少女もいるってことになる

あれ?それじゃぁ…

たくさんある次元の中から、
どうして私は深緑色のゲージを持つ、
あの少女の接続をサポートすることになったの??


---・・


《…満杯な人達はネガティブな感じの人達なんだろうなぁ…》


少女の接続をサポートする前に、
私が何となく思ったことが浮かんできた
ミタラシさんは別にゲージが満杯な人がネガティブだなんて、
一言も言っていなかったのに、私がそう思ってしまったんだ


わ…私がオーダーしたからなの?…
でもミタラシさんは他人に介入するのは不可能だって…


…えっ…まって…まさか…


つづく


今回の主要キャラクター紹介
---------------------

名前/平乃 愛菜(ひらのめな)
年齢/27歳 性別/女-独身
容姿/身長はやや低めな152cm
服装/黒のパンツスーツと白黒ツートンの上着
髪型/青みの強い黒髪のおかっぱ
小物/黒メガネとコウから貰ったペンダント
雰囲気/どことなくハリネズミに似ている
趣味/考えてもきりがないようなことを想像すること
種族/人間
出身/地球は日本
特徴/契約社員だったが契約が切れて無職
親も他界していて天涯孤独

----------------

名前/ミタラシ
年齢/不明
性別/女-伴侶なし
容姿/三毛猫で尻尾が二股にわかれている
服装/なし
小物/光沢のある純白の首輪
種族/猫族-ネコマタ科
出身/地球は日本
特徴/愛情深く面倒見がいいが、決して恨みを買ってはいけない

-----------------

※この作品は星空文庫/note/小説家になろう
/noteにてお読みいただけます。

第8話-フロー-

第8話-フロー-

まさか…

『自分へのオーダーで見るものが変わる』ってことなの?

そう思った途端、全身に鳥肌が走った

自分で見るもの経験するものを変えられる…

ORDERって本にあった通り…

それじゃ…少女の色味を想像すれば良いだけなんじゃ…
【あの少女の色味は明るい黄色だった】とオーダーしてみよう…

オーダーを行った私は、
妙な興奮で心臓の音が騒がしくなってきた

そうこうしていると私の目の前には、
またたくさんのアイコンとゲージが出現した

そして、先程確かに暗い色だったはずの少女が、
たったいま私がオーダーしたままの色に変化していた

変化?…ちがう…

私が自分自身の見るものをオーダーしたんだ…


ミタラシ
「愛菜ちゃん?」


黙り込んでいた私を心配してくれたのか、
ミタラシさんは、喉をゴロゴロと鳴らしてくれた


自分のオーダーによって、
自分が見たり経験したりするものが変わる

これに例外がないのだとしたら…

別次元の自分達と一緒にオーダーをすれば、
多くの次元の人々に、この仕組みを知ってもらうことも、
できるかもしれない……

…少なくともこの次元のみのオーダーではなくなる

で、でもどうやって別次元の自分に会えばいいんだろう?

ここまで考えて、何故だか少し眩暈がしてきた

うぅ…ちょっと頭の回転をオフにしないとオーバーヒートしそうだ…


ミタラシ「愛菜ちゃ~ん?」


愛菜
「あっ、あの…すみません…少し疲れちゃいまして…
休憩ついでに、ちょっとだけ歩いて来て良いですか?」


ミタラシ
「スイッチャーの仕事は休み休み、
自分を整えながらやるのが一番らしいからニャ
行っておいで~ワタクシはまだ、ここで作業しているから」


愛菜「行ってきます」


ミタラシ「ニャ~」


----------------
----------------



私は、昔からどんなに考えても、
果てがないようなことを想像するのが好きだった

とはいえだ…ここに来てからは、未知の思考の波の連続で、
私の頭からは今にもプシューっと湯気が出てきそうだ


こんなときは、一度思考をオフにするに限る


ぼーーと周囲を見ながら歩いていると、
私はこの空間の端に来たみたいで、そこには階段があった


この空間には上階なんて見当たらないのに、どこへ続く階段なんだろう?


好奇心を刺激された私は、少しワクワクしながらその階段を上った


上っていくと、そこは柵の無い回廊のようになっていた


階下は吹き抜けになっていて、スイッチャーさん達がよく見える


回廊のフロアは周囲の色味と同化していたので、
遠目からでは分からなかったようだ


それにしても、
ここはどこからか風が吹いていて気持ちがいい


なんだか…海風みたいだなぁ…


…においまで潮の香りがするような…


まぁ、でも気持ちいいから良いか…



肌に感じる風を楽しんでいると…

突然背後に気配を感じた

ゾワリと鳥肌が走るのを感じていると



?《…おや?どうやってここへ?ようこそヒトの子よ、
あの階段をみつけて上ってこれるなんて、キミ何者だい?》



声が聞こえたというより、
脳内に直接言葉が響いた感じだった

私は鳥肌の大元が気になって、
ゆっくりと振り返えった



すると…



立っていたフロアがすこんと無くなってしまった



咄嗟に落ちる!と目を瞑ると、
ごぽごぽと耳に水が入って来きた

何事かと慌てて目を開けると、
私はなんと水中…というか海中にいた


海中と分かったのは、
少し離れたところに大きな魚群がいたからだ


思考がまったく追いつかないまま息を止め、
上を見上げると、とても遠くに水面らしき光が見える
下方は底が全く見えなくて、ものすごく深そうだ…


……ってかなにこれ!?


不意打ち過ぎるんだけどっ!


ちょ…まって…すぐ息が持たなくなっちゃうっ!


ど、どうしよう……っ
そうだ!オーダー!!昔やったことのある、
ダイビング姿の私をオーダーするんだ!!



【私は今ダイビングのフル装備でここに居る!!】



目をぎゅっと瞑ってオーダーをすると、口の中に異物を感じた

ダイビング用マウスピースだと分かると、
私は鼻をつまんで耳抜きをしてから、
思いっきり空気を吸い込んだ

息ができたので目を開けると、水中ゴーグル越しに
首から下げていたペンダントがフワリと浮かんでいるのが見えた

私はペンダントを握り、ゆっくりと呼吸を繰り返した

とりみだしたら、命とりになりそうな状況だからだ

ありがたいことに、
コウさんが言っていた通り、
慌てふためきそうな状況なのに、
すっと心が凪いでいった



?《あぁ、そうだったヒトの呼吸は、
頻繁にしなくてはならないものだったね…

それにしても…咄嗟にオーダーをして、
心身の落ち着きまで得るとは…なかなかやるなキミ…》



少しからかい気味で響いた声に、私はカチンと来てしまった



愛菜
《なかなかやるなキミって…バカなの?オーダーのこと思いつかなくて、
死んじゃったらどうしてくれるの!?…文句の一つも言ってやりたいけど、
ここは海中だし、私はマウスピースを咥えてる…く…悔しい…》




《バカだなんてはじめて言われたな…

あ、キミの思考は流れて来てるから安心して
会話したければ、思考で応えておくれ…と、
その前に…謝罪が必要だな…

…すまない…

わたしはヒトに会うのが初めてなのだ…コウから、
新しく来たヒト科の話は聞いていたのだが……

キミから私の領域に入ってきたので、
正直なところ…驚いたのはわたしも同じなのだよ》



愛菜
《…無断で入ってしまってすみません…
貴方の領域に入った認識はなくて…

私はただ、スイッチャーさん達がいた
フロアに階段があったので、上って休憩していたら
ここに来ちゃってたんです…

それから、私には平乃愛菜という名前があります…
貴方は?どなたですか?姿を見せてください》



《平乃愛菜、わたしはフロー…
姿を見せても良いのだが、
貴女とって、わたしはとても大きくて
怖がらせてしまうかもしれない…
それでも見たいかい?》



愛菜
《恐怖ならついさっき、
突然海中になったときに感じましたから…
気にしないで姿を見せてください…
虚空と話しているようで、
今の方が落ち着きませんから》



?《わかった》



頭の中の声が収まると、
辺りにホーーンホーーンという、
透き通った声が響き渡った…

透き通った声は、
どこまでもどこまでも届くように響き続けている

程なくして、前方から白くて巨大な者が、
ゆっくりと近寄ってくるのが分かった



それは……

紛れもなくシロナガスクジラであった



物凄く巨体なため、真正面ではなく、
片目が私の正面にくるような位置取りで、
フローさんはとまってくれた



フロー
《あらためて…はじめまして、
わたしはシロナガスクジラのフロー
平乃愛菜、どうぞよろしく》



まさか
シロナガスクジラさんと
会話ができるだなんて…と、
ついさっきの怒りはどこへやら…
私は目の前に居る存在の雄大さに、
ただただ見惚れてしまい、
暫くポーっとしてしまった


呆けたままの私に気付いたのか、フローさんは
もう一度ホーンホーンと美しい歌を歌ってくれた



愛菜
《はっ…あ…う…歌声とっても綺麗です…
あの、お会いできて光栄です…
よ、よろしくお願いたてまつります》


フロー
《はははっ歌を褒めてくれてありがとう、
けれど…急にそんなに畏まらなくても良いよ

わたしは、さっきの歯に衣着せぬ感じのキミの方が好きだよ》


へんな日本語になったのに気付いて、
ちょっと恥ずかしくなったところに、
さっきまでの私の方が良いと言われてしまい、
昂った高揚感がスッと溶けていった

……たぶんフローさんなりの気遣いなのだろう



愛菜
《……それじゃぁフローさん、
あの…聞きたい事があるんですが良いでしょうか?》


フロー
《どうぞ》


愛菜
《貴方もこの次元に居るということは、
スイッチャーなんですか?》


フロー
《大枠ではそうだね》


愛菜
《大枠?…》


フロー
《わたしはコウと同じような立場だよ

コウは地球の陸と空と中を受け持ち、
わたしは地球の海と魂を受け持つ…
スイッチャー兼まとめ役といったところさ》


愛菜
《えっ…き…規模が大きくて、
ちょっとあの……凄いです……

というかコウさん…そんな重鎮的なポジションなのに、
新人案内役のスイッチャーって名乗ってましたよ…》


フロー
《……コウはいつもそうなんだよ…いつだったか…
役割を新入りにきちんと伝えないのは何故か、
聞いたことがあるんだ…そうしたら、
『僕は僕のしたいことをしているだけ』と言われたよ

彼は異星出身だから、少しとっつきにくいかもしれないが、
頼れる者だと思うから、よかったら仲良くしてあげておくれ》


愛菜
《え…コウさん異星出身なんだ…
というか…とっつきにくい?コウさんが?

空間構築の練習の時、
コウさんにやりかたを教えてもらったんですけど、
とっても話しやすい方でしたよ?》


フロー
《…おや…?わたしの認識では、
彼は自分の興味の向くもの以外は、
酷くたんぱくだったはずなんけれど…

どうしてキミには……
あぁ…なるほど…キミの魂の色が、
少しだけ理由を教えてくれたよ…》


愛菜
《私の魂の色?…》



私が問うと、
とても遠くからホーンホーンという歌が聞こえて来た


フロー
《おっと…そろそろ
わたしは行かねばならないようだ…
行く前に…わたしも聞きたい事が
あるんだけれど答えてくれるかい?》


愛菜
《わかることでしたら》


フロー
《平乃愛菜、貴女はいったい何者だい?》


愛菜
《何者…?えっと私は平乃愛菜27歳、
地球は日本からきたヒト科担当のスイッチャー…です》


フロー
《……ふむ……次なる邂逅まで、
貴女はしばしの冒険を楽しんで、
ゆっくりと心の赴くまま自分自身を探究してごらん、
そして自分が何者か分かったら、またわたしに
話に来ておくれ……楽しみにしているよ……》



声が脳内で響き終わると、
フローさんは大きな巨体を旋回させ元来た方向へ、
遠くから聞こえる歌と共に去って行ってしまった


---


とんでもなく神秘的な者と会話をした後だというのに、
私は感動に打ち震えるというよりは、気になることを言い残され、
ポツンと一人残される、この言いようのない感じにデジャヴを感じていた

妙な感覚に浸ってしばらく漂っていると、
水面から差し込んでいた光が徐々に少なくなってきたのが分かった


夜が来る


咄嗟にそう思った私は、
静かに目をとじて、元居た場所に
自分がいるのをオーダーしたのだった


つづく



今回の主要キャラクター紹介

---------------------

名前/平乃 愛菜(ひらのめな)
年齢/27歳 性別/女-独身
容姿/身長はやや低めな152cm
服装/黒のパンツスーツと
白黒ツートンの上着からのダイビングスーツ
髪型/青みの強い黒髪のおかっぱ
小物/黒メガネとコウから貰ったペンダント、
ダイビングアイテム一式
雰囲気/どことなくハリネズミに似ている
趣味/考えてもきりがないようなことを想像すること
種族/人間
出身/地球は日本
特徴/契約社員だったが契約が切れて無職
親も他界していて天涯孤独

----------------

名前/ミタラシ
年齢/不明
性別/女性-伴侶なし
容姿/三毛猫で尻尾が二股にわかれている
服装/なし
小物/光沢のある純白の首輪
種族/猫族-ネコマタ科
出身/地球は日本
特徴/愛情深く面倒見がいいが、
決して恨みを買ってはいけない

-----------------

名前/フロー 
年齢/不明
性別/女性-無数の子供たちがいる
容姿/シロナガスクジラ全長約45メートル
(確認されている最大全長は約29.9メートルほど)
種族/シロナガスクジラ-ルテン科
一人称/わたし
役割/地球の海と魂を受け持つスイッチャー兼まとめ役

-------

※この作品は星空文庫/note、
小説家になろう/アルファポリスにてお読みいただけます。

第9話-白と黒の飴

…オーダーの仕方…

まだよくわかっていない証拠だよねこれ…

元居た回廊に戻るのかと思ったら、
スイッチャーさん達が作業をしているフロアの端に出てきてしまった

…びちゃびちゃのダイビングスーツのままで…

と、とりあえず…スタンドミラーを構築して、
『いつもの私』をオーダー…っと、
白黒ツートンの上着を忘れるところだった
…まとめて構築しちゃお

目を開けたままオーダーをすると、
鏡に映る私の姿が、映像がバグった様にカクつき、
ついで『いつもの私』の姿となった

元に戻った自分と目を合わせると、
さっきのフローさんの言葉がまた脳内で響いた気がした

-

フロー
《……ふむ…次なる邂逅まで、
貴女はしばしの冒険を楽しんで、
ゆっくりと心の赴くまま自分自身を探究してごらん、
そして自分が何者か分かったら、またわたしに
話に来ておくれ……楽しみにしているよ……》

-


愛菜「私は何者であるか…かぁ…」


…頭をリフレッシュする為に散歩してたのに、
余計に考えることが増えちゃったな…

そんなことを思っていたら、
頭上からバサバサと羽音が聞こえて来た

見上げると、コウさんとがっちり目が合ってしまった


コウ「…愛菜さん?どうしたんですか?こんなところで」


ゆっくりと私の前に降り立ったコウさんは、
軽く首を傾げながら、大きくてつぶらな瞳を向けてきた

フローさんの話を聞いた後だと、
なんというか…余計に賢者の様に見えてきてしまうなぁ


愛菜
「さっきまでミタラシさんと
スイッチャー作業をしていたんですけど、
ちょっと休憩がてら散歩をしていたんです
そうしたら、間違ってフローさんの空間に入っちゃっ…」


コウ
「…カ…カァー!?
フローの空間ですって!?
お怪我はありませんか!?」


ち、近い近い……

食い気味に接近してきて、
感嘆符疑問符だらけの言葉を叫び、
毛を逆立てながら、心底取り乱している

心配させといてなんだけれど…
やっぱり…何だかコウさんは可愛い


愛菜
「ダイジョブですよ!ほら元気いっぱいです!…っ…」


って……あれ??
軽くラジオ体操の冒頭でも見せようとしたら、
思いっきり視界がぐにゃりと歪んでしまった


コウ「!?」



-------
-------


ここはコウの専用空間である


空は漆黒の空で、
美しく水を湛えた青い星が、
ただ一つだけ輝きを放っていた

それは、月ほどのサイズで地上を照らしている

青い光の下には、
広大な森が果てしなく広がっており、
万年木(まんねんぼく)が生い茂っていた

中には一際大きな大木が、
天にのびる塔のようにそびえたっている

その世界樹(せかいじゅ)かと
見紛うほどの巨木のちょうど中腹に、
風車小屋のように背の高い立派な
ツリーハウスが建っていた

このツリーハウスは円形状で、
屋根には大きな丸い天窓がついていた

そして、その内部の天井はとても高く、
吹き抜けになっている

内壁は、すべてが本棚になっていて、
各本棚の前には、内壁を伝う蔦が、
うまいこと足場のようになっていたりする

コウが飛んできて、そこで読書をする為だ

ツリーハウスの最下部、床のあるフロアには、
青々と苔むした止まり木が設置されている

その止まり木は、コウの特等席であった

-

常ならば、コウはこの空間で、
壁面の書物を読みふけったり、
床に置かれた苔リウムの世話をしたり、
スイッチャー作業をしたりで忙しく過ごしている

しかし今のコウは、
そわそわと落ち着かない様子で、
トコトコと歩き回ったり、ただ一点を見つめて
溜息を吐いたりしていた

黒い羽毛で出来たベッドで、
静かに寝息を立てている存在が、
コウの周波数を波立たせるのだ


-


ペンダント越しに、愛菜さんの周波数の乱れを
感じて様子を見に行って正解だった…

愛菜さんの体温…酷く低くなっていたな…

僕の羽毛で温かくなるとは思うけれど、
まさかヒトの身でフローの空間へ迷い込むだなんて…

それに…なんだ?

あの白と黒の上着は?

ちょっと見ない間に、愛菜さんに何があったんだ…


愛菜「ん…」


コウ「…目を覚まされましたか?」


彼女は大きく伸びをして瞬きをし、
そのまま僕に視線を合わせると、
少しの間だけ、静止したようになり、
次の瞬間、その眼を大きく見開いた


愛菜
「……え?…コウさん!?…
私どうして…あ…倒れて…」


コウ
「はい…大丈夫ですか?どこか不調はございませんか?」


愛菜
「…あ…あの…
よく寝かせていただいたので、
少しすっきりとしました…その…
ずっと診ていてくれたんですか?」


起き上がろうとするので、
僕は、翼を彼女の背に添えてサポートをした

しかし…なんと答えたものか…

貴女の魂の色に既視感があるので、
気になって仕方がないのです

…だなんて言っても…

ヒト科の愛菜さんに伝わるかどうか…


コウ
「…僕は…その…
愛菜さんの案内役ですから…

そ…それより、
貴方がお休みの間に、
テレパシーでフローと話しをしたのですが…

あの空間に、
生身で迷い込んでしまったと聞きました…

僕でさえ、
地球担当になったときの挨拶で、
1度訪れただけの場所なのです…

あのとき、僕は上空からでしたし…
いや…本当に…ご無事でよかった…」


とは言ったものの…
僕は…いまの愛菜さんの周波数
(いろ)が酷く気がかりであった

寝ている間でさえ、
朝と夜の両極を、常に行ったり来たりしているような、
激しいコントラストを、今の愛菜さんからは感じる…

だというのに…
この状態で均衡が取れているようにも視える

これは…いったい…?


愛菜
「…私…どうしてフローさんの
空間に入ってしまったのか、
自分でもよく分っていないんです
突然海中になってしまって…」


コウ
「…フローに限らずなのですが、
スイッチャーの自己空間への立ち入りは、
空間構築者が許可した者しか入れないのです

中の者に用がある場合は、
思いで強く呼びかければ、
それが呼鈴代わりとなって、
招き入れることができる…
という仕組みでして

愛菜さんは、フローを知るはずもなく、
フローも愛菜さんを話の上でしか知らずにいた

本来ならば…貴女がフローの空間に
入れるはずがないのです…」


愛菜
「どうしてあぁなったのか、
私も知りたいです…今後の自分の為にも…」


コウ
「原因を突き止めねばなりませんね…」


愛菜
「はい…フローさんにも、
自分の探究をしなさいって
言われちゃいましたからね…」


コウ「…え?…」


フローが…
愛菜さんに自己探求を勧めた?

この次元を超越した者でもない限り、
彼女がそんなことを言うはずが…

そこまで考えた僕は、
ふと壁のフックにかけてある、
白黒ツートンの上着に視線を奪われた

そうだ…この上着…ずっと気になっていんだ

愛菜さんの周波数に関係があるとすれば、
この上着だ…通常ならば、白い飴を選んだのだから、
白い上着になっているはずだ

この目で、白い飴を食べていたのも確認している
だが…ここにあるのは白と黒の…


愛菜「コウさん?」


コウ
「…ひ…ひとつお尋ねしますが、スイッチャーになる際に、
愛菜さんは白い飴を選んで食べたので…したよね?」


彼女は暫く思案顔を浮かべると、小さく「ぁ」とこぼし、
ほんのり眉間に皴をよせ、言いにくそうに口を開いた


愛菜
「じ、実は…白い飴が…
とっても美味しかったので、
黒い飴も美味しそうだなと思って

…その…こっそり…
食べ…ちゃったんです…

ま、まさかあれが原因なんでしょうか?」


コウ「………カー」


愛菜「コウさん?」


コウ
「ァ…僕…
『よくよくお考え下さい』と…
お伝えしませんでしたか?

あ、あの飴は…
スイッチャーの所属次元を、
無意識化で選んもらうものなのです
…それを…貴女は…両方…
食べちゃったんですか…」


驚きのあまり、僕の声は
抑揚のない声色になってしまい、
愛菜さんは完全に眉を八の字にして縮こまっている

き…気の利いたことを言ってあげたいが、
今の僕にそんな余裕はない…

なぜって…両方食べてなお、
この次元に弾かれることなく留まり続け、
スイッチャー作業をこなし、意図せずフローに会い、
彼女に自己探求を勧められた…

こ…これは…


愛菜
「しょ…所属次元?…
そんなに重要な飴とは知らず…
…と、とっても美味しかった…です…
ち、違う……ご、ごめんなさいーっ!!」


あの状況で選択式で出した飴を、
両方食べてしまった者なんて…
どこの次元でも会ったことがない

しかも…あの黒い飴を、
何の疑いもなくただ『美味しそう』と思ったと…

実際に食べてみての感想も…
『とっても美味しかった』と…

黒い飴を選んだ方々の飴玉の感想は、
酷く苦かったとか、臭かったとか、酸っぱかったとか、
そんな感想しかもらったことがないぞ…

大変だ…これは…っ…
愛菜さんは新たな次元者だっ!!


愛菜「…ゔっ…あ…あれ?」


コウ
「!?愛菜さん?どうなさいました?」


愛菜
「な、なんだか寒気がしてしまって…風邪かな…」


コウ
「僕としたことが…
さっきまで臥せっておいでだったのに、
責めるようなことを…

飴については、
貴女の体調が万全になったら、
またきちんと話をいたしましょう

なに、食べてしまったものは仕方がありません
僕が傍におりますから、ご安心ください

さぁ今はとにかく、冷えた身体を温めなくては」


愛菜「コウさん…ありがとうございます」


---------
---------


一方その頃---…


ここはスイッチャー達が作業するフロア、
先程まで、たくさんのスイッチャー達が
忙しそうに作業をしていたが、
それぞれ自己空間に帰ったのか、
残っている者は疎らになっていた


ミタラシ
「愛菜ちゃん戻ってこニャい…
迷子にでもニャっちゃったかニャー?…ふぁ~っ」


独り言ちながら、
ミタラシはひとつ欠伸をこぼす

そこに通りかかったのは、
空色の肌で恰幅が良く、
頭部だけが象のダン・アスラであった


ダン「おぉ…猫又のミタラシさん、
お疲れのようですな?そろそろ終いですか?」


ミタラシ
「ニャー…ダンさん、
ワタクシもそろそろ、
自己空間に帰りたいんだけどニャ、
一緒に作業をしていた愛菜ちゃんが、
休憩で散歩に出たまま、
戻ってこニャいニャ…どこかで、
愛菜ちゃんを見かけニャかった?」


ミタラシはダンの前にちょこんと座り、
二又の尻尾をしなやかに揺らした


ダン
「平乃さん?そういえば、さっき遠目から、
ちらっと見かけましたな…
コウ殿の背に乗せられて、
そのまま彼の自己空間へ
入ってくとこでしたなぁ…平乃さんは…
酷くお疲れだったようで、寝ちょるようでしたが」


ミタラシ
「ね…寝ている愛菜ちゃんを、
ワタリガラスが自己空間に連れてった?
ワ…ワタリガラスは…どんニャ様子だったニャ?」


ダン
「遠目からだったんで、
確かじゃありませんがね…
少し慌てていたような……」


ダンの言葉を聞いた途端、
ミタラシは無意識に毛を逆立て、
いつもは細い猫目を満月の様に大きくした


ミタラシ
「ニャんか…嫌ニャ予感がするニャ…
わ、悪いんだけれどダンさん、これからワタクシと一緒に、
ワタリガラスの空間に行ってくれニャいかニャ??
愛菜ちゃんが心配ニャ…」


ダン
「直感で…何か察知なさったんですな?…急ぎましょう」


ただならぬ雰囲気をミタラシから感じたダンは、
素直に申し出を受けたのだった----


つづく


今回の主要キャラクター紹介
---------

名前/平乃 愛菜(ひらのめな)
年齢/27歳 性別/女-独身
容姿/身長はやや低めな152cm
服装/ダイビングスーツからの、
黒のパンツスーツと白黒ツートンの上着
髪型/青みの強い黒髪のおかっぱ
小物/黒メガネとコウから貰ったペンダント
雰囲気/どことなくハリネズミに似ている
趣味/考えてもきりがないようなことを想像すること
種族/人間
出身/地球は日本
特徴/契約社員だったが契約が切れて無職
親も他界していて天涯孤独

-------------

名前/コウ 
年齢/1劫年
性別/男-伴侶なし
容姿/170cmくらいの大カラス
服装/自身の漆黒の羽を誇りに
思っているので、基本的に衣服は着用しない
小物/左目に金の片眼鏡を着用している
種族/ワタリガラス族・地球では渡り大烏
出身/〇〇〇〇〇〇〇と地球

--------------

名前/ダン・アスラ
年齢/不明
性別/男-故郷に大家族あり
容姿/200cmくらいで頭だけ象で肌は空色で、恰幅が良い
服装/純白(元はベージュ)の布を法衣のように身にまとっている
種族/ダン族
出身/地球のアンタリク帯域
特徴/温厚で情に厚いが、真逆の面も持っていたという

---------------

名前/ミタラシ
年齢/不明
性別/女-伴侶なし
容姿/三毛猫で尻尾が二股にわかれている
服装/なし
種族/猫族-ネコマタ科
出身/地球は日本
特徴/愛情深く面倒見がいいが、
決して恨みを買ってはいけない

--------------

※この作品は星空文庫/小説家になろう/
note/アルファポリスにてお読みいただけます。

第10話-え?-

コンコンッコンコンッ!


ノックが室内に響くと、
コウは天井付近の天窓を嘴で開け、
そこから顔を出して返事をした


コウ
「あぁ、お二人とも!
いま羽が離せないので、
勝手に入ってきてください!
鍵は開いていますから!」


キィと鳴る戸が開くやいなや、
するりと入ってきたのはミタラシ、
ついで後ろからゆっくりと
入ってきたのはダンであった


ミタラシ
「愛菜ちゃん!無事ニャ!?
ワタリガラスに変なことされてニャい!?」


とんでもない事を言いながら、
ミタラシは愛菜が座っているベッドに飛びのり、
そのすぐそばでグルグルと喉を鳴らした


愛菜
「ミタラシさん……
散歩のあと戻れなくてすみませんでした

ちょっといろいろとありまして…
ご心配をおかけしちゃったみたいですね

でもコウさんは、倒れた私を
介抱してくれただけですよ

ほら、いまも身体を温めるために、
コウさん特製のアップルティーを頂いてますし」


言いながら愛菜は
太ももの上にあるトレーを、
軽く指でとんとんとやってみせた

するとミタラシは、ガラスポットに入った
アップルティーをクンクンと嗅いだ


ミタラシ《変ニャもんは入ってニャいニャ…》


愛菜「?」


ダン「疲労で倒れた?…いったい何が?」


ダンのよく響くバリトンボイスを聞いて、
天井付近の書物を読んでいたコウは、
空気を切りながら、下に降りて来た


コウ
「お二人とも、
愛菜さんはお休み中ですので、
詳しくは僕からお話します

こちらにいらしてください」


言いながらコウは、
嘴をカチンカチンと2回ならした

すると、ベッドから離れた位置に、
天然の木でできた応接セットが創られた

ミタラシとダンは、軽く顔を見合わせると、
応接セットの方へ向かって行った


コウ
「では愛菜さん、ゆっくりお休みください」



愛菜「はい、ありがとうございます」



コウは愛菜に軽く頷くと、もう一度嘴をならし、
今度は深い紺色の天蓋をベッドに構築して、
その仕切り布を静かに閉じたのだった


----
----



各々が席につくと、
コウはミタラシとダンに、
愛菜の今の状況を話して聞かせた


ダン
「めでたいことのはずなんですが…
正直面喰っとります…うーむ…こりゃぁ
ダン族の長老にも知らせねばならんな…」


腕組をしながら、
難しい表情をするダンに、
コウは神妙な顔つきで応えた


コウ
「はい…そうしていただく為に、
聞いていただいたのです」


二人のやりとりを聞いていたミタラシは、
何かを思い出したように、髭を揺らした


ミタラシ
「そういえば…ダン族のみニャさんは、
ヒトの見守り役だったニャ」


ダン
「えぇ…地中のアンタリク帯域では、
いまもダン族の皆が見守り役を務めちょります

…ヒトの力は、それこそソース
そのものなんですがね…

なかなか己の力を思い出さんから、
一族皆でじりじりしとったんです…

それが…ついに突破されたとなれば、
ダン族としても立ち位置を見直さねばならん」


そこまで言ったダンは、
愛菜が眠るベッドの方へ視線を向けて目を細めた


ダン
「しかし…齢27歳にして、新次元の創り手とは……
平乃さんの魂は…本人に自覚があるかは分からんが、
実は相当な手練れなのかもしれんですな」


コウ
「……手練れ…かぁ…
そうかも…しれませんね

ところでミタラシさん、
愛菜さんと一緒にスイッチャー
作業をしてみて、彼女に何か
変わったところはありませんでしたか?」


顔を洗い出していたミタラシは、
コウの質問に居住まいを正して口を開いた


ミタラシ
「ニャー…あ、そうだ…愛菜ちゃん、
一度だけ表示が消えていたニャ」


ミタラシの言葉に、
コウは何か思い当たる節があるようで、
軽く何度か頷いてみせた


コウ
「表示?…アー…次元移動者の選択に、
介入しようとしてしまったのですね…
それは、ここの新入りなら、
珍しくはないことですね…他には?」


ミタラシ
「んー…その後は、多次元について教えたニャ
1次元のみの選択を変えても、あまり意味がニャいって、
分かってもらいたくてニャ」


ダン「平乃さんに多次元についてを?」


ミタラシ
「そうニャ、ワタクシはほら、
9次元を股にかける猫又だから、
ワタクシに分かる範囲で、
多次元とは?を教えたニャ

…あの後からかニャ?…
愛菜ちゃん、ニャんかすごく考え込んで…
その後スイッチャー表示が元に戻ったと思ったら、
休憩で散歩に行くって…」


コウ
「なるほど…そこで何か…
僕達の思いつかなかったオーダーを
行ったのかもしれませんね」


ミタラシ
「……ワタリガラスは、
あの場所に愛菜ちゃんが居るのを知ってて、
ワタクシに傍にいるように言ってたから……
白と黒の上着のことも、知ってたのかと思ってたニャ」



コウ
「…あの上着については、
ついさっき知りました……

臭いに敏感なミタラシさんは
お気づきでしょうが…

その…愛菜さんには、
僕の羽石(うせき)を込めたペンダントを
渡しているので、彼女の周波数の乱れがあれば、
すぐにそれが伝わってくる…はずなのです

僕の感知できる周波数帯であればですが…」



ダン
「ふむ…いずれにしろ、事情を少しでも分かっちょる
あっしらが、しっかりと見守ってやらにゃなりませんな

この宇宙トーラスのことも、多次元の事も、
ヒトである彼女は、仕入れたばかりの知識ばかりで、
それこそ…パンク寸前でしょうからな…」


この言葉に、コウ、ミタラシ、
ダンは深く頷きあったのであった



------
------


一方、天蓋の内側で寝ている愛菜は、
水風呂にでも浸かっているような寒気と戦っていた

--


愛菜
「うぅ…めちゃくちゃ寒い…
でも…心細くはないな……
天蓋の向こうに、コウさん達が居るんだもんね…」


それにしても…自分を探究かぁ

別次元の自分に会う方法だって、
全然わかっていないし…

仮に会えたとして…
現実というスクリーンに映し出されるものを、
自分の…気持ちや考えが決めているなんて、
どうやって広めたら良いんだろうなぁ


うぅ…寒っ…

いまは考え事してないで…
湯たんぽでも創って寝よ…


【足元に~タオルで包んだ湯たんぽがある~…】


愛菜
「あー…あったかい…これで寝れそう」


難しいことは…また起きてから…



-

-

-

-

-


------


ここはトーラスの次元の狭間


柱も天井もない、
黒を基調とした広大な空間に、
光沢のある黒衣のような物を身にまとった者達が、
きっちり2メートル間隔で横並びになって、
何やら作業をしていた

彼らの眼前にはモニターなど無いのだが、
大量のSNSのアイコンのようなものと、
音量のボリュームゲージのようなものが空中に表示されている

ゲージは忙しなく動き続けており、
その動きにあわせて、スイッチャー達も何だか忙しそうにしていた


《ん?…》


横目で彼らの動きを見つつ、
10平米ほどの何もない空間へ案内されてきた


コウ
「コホンッ…僕は新入りの
案内役を行うスイッチャーのコウ

さて、この次元の狭間で
スイッチャーとなるか否かは、
貴方達の判断に任されています

今回のお三方は、
ここまでで何か質問はありますか?」


《あれ?なにこれ夢?…》


コウと名乗った者は、
全身真っ黒で大きなカラスに見える

背丈でいえば、私より少し大きいから
170cmくらいはあるかな?

左目には金色の片眼鏡をつけていて、
大きく鋭い嘴が、なんだかちょっと怖い…
こういう存在を妖怪さんとかって言うんだろうか…


《はい?怖い?どこが?
妖怪さんを悪く言うわけじゃないけど…
どっちかっていうと、かっこいい賢者でしょうよ》


…?…何かさっきから、
妙な思考が湧いてきてるような…


私が違和感を感じていると、
コウは一拍置いてから、
嘴をカチンカチンと鳴らした

すると、何もない空間に真っ黒な
椅子が人数分出現した


《ふーん…この夢では
黒い空間、黒い服に黒い椅子……
何か黒いものが目立つなぁ…》


そこに座るようにコウが身振りで促してきたので、
『新入り3名』は、それぞれの椅子へ座った



ダン
「俺の名はダン・アスラ、地球のアンタリク帯域から来た。
あ、アンタリクってのは地中の帯域のことな。以後、よろしく頼む。
ところで…俺は断ったりはしねぇけど、仮に断ったとしたら、
何か不利益とかあんの?」


ダンと名乗った者は恰幅がよく、
頭部だけが象で、藍色の肌に灰色の布を身に纏っていた
東洋の信仰対象のような風体だ


《おわ、ダンさん見た目も喋り方も…
ぜんっぜん違う…夢だから何でもありなのかな?
こっちのダンさんもかっこいいけども…》



コウ
「いえいえ不利益などございませんよ

断った場合、この次元の狭間へ
来た記憶は抹消されてしまうが、
もとの次元軸へ帰って
『いつもの日常』に戻ることもできる

ただ…僕としては、
こうして貴方達はここへ来られたわけだから、
是非とも、その力をかしてほしいのだがね…
見てもらった通り、ここは常に忙しいところだから」


コウはそう言いながら、
先程と同じように嘴を鳴らす

すると『新入り』の前に、
先程と同様、それぞれのサイズにあわせた机と、
透明なシュガーポットが2つずつ出現した

その光景を見るや、
別の『新入り』が口を開いた


ミタラシ
「アタシは9つの次元を又にかける、
猫又のミタラシニャ…お膳立ての上での
選択式なんていらニャいのにニャー…」


ミタラシと名乗った者は、
ニャーと言った通り、どうみても猫だ

見た目は、黒毛に茶色い斑点が
ところどころに入っている

なんていうんだろ黒三毛?錆色?
そんな感じの毛色をしている

それにしても…
9つの次元を又にかける?…
何だか想像以上に不思議な存在なんだな猫又って

ミタラシは、さきほどコウが
出現させた椅子に座りながら、
まるっきり猫がするように、
股付近の毛繕いをしている

ふぐりが見えないあたりメス…
いや女性なんだろな…たぶん


《えぇ…ミタラシさんも全然違う…
なんか…こういう次元もあったりするのかな?
それにしても…妙にリアルな夢だなぁ》


コウ
「はは…手厳しいですね…これは古典的ですが、
大事なことですので御辛抱願います

御覧の通り、貴方達の前には、
『黒と白』二種類の飴玉があります

どちらを選ぶかは貴方達次第です
よくよくお考え下さい

あ、そちらの方は?自己紹介をお願いできますか?
質問もありましたら、遠慮せずにどうぞ」


そう言ってコウは、
私に視線を合わせてニンマリと笑みを見せた

彼はカラスだが、何となく雰囲気で表情がわかるのだ



平乃
「…えーっと、私は平乃愛菜27歳、
2021年地球は日本からきた人間です

私は…帰ったって私を待つ人なんか居ないし、
仕事だって契約切れで探さなきゃいけないんです…

だから…何か面白そうだし、スイッチャーって
仕事やってみたいです」


私がそう言うと、3人ともが軽くフリーズした

え、私何か変なこと言った?


《…ずいぶん簡単に決めるなぁ…
人のこと言えないけど》



ダン
「平乃さんだっけ?もっとよく考えてから、
選択した方が良いんじゃないか?大ガラスのダンナも、
よくよく考えろって言ってたろ?それに…俺はヒト科の身にゃ
辛い仕事だと思うんだがなぁ…」


これは私の選択でしょ…
よく考えたって同じ答えだし


《いやいや、
心配してくれてるんだから
そんな反応はないでしょうよ…》


ミタラシ
「そうニャね~ヒト科は
多次元のことも忘れているだろうし…

アタシは猫だからヒト科には、
親しみある姿だろうけど、
ニャきついてこられても困るニャよ

それにここは黒を…いや…
ちゃんとよく考えなよ…お嬢ちゃん」


多次元を忘れてる?…
そりゃ分からないことは多いけど…

なんで新しい選択をするときって、
こう一言お節介を言う他人が登場するんだろ?


平乃
「お二方とも、
ご心配ありがとうございます

……でも、もう決めましたから
あ、そうだ飴は…私は黒い飴を選びますね」



私はそう言って、
目の前にあるシュガーポットから
飴玉を取り、さっさと口に放り込んだ



平乃「何だ…普通のコーヒー飴だ」

《嘘…味が分かる…美味しいけど…
何で?ま、まって…どういうこと!?…》


《食べたんだから、
味分かるの当たり前でしょ……
っていうか、さっきから何?人の頭の中で
ちらちら好き勝手な感想言ってくれちゃって

私、2重人格になった記憶はないんだけど?
あ…これが多次元とかってあれなの?》

《え、2重人格?多次元?
ちょっとまってこれ夢じゃないの!?》


平乃
「ちょっとあの…質問なんですが…
さっきっから、私の思考の中がひどく
煩いんですけど、これって普通なんですか?」


コウ「…え?…」


平乃
「え?」
《え?》


つづく

---
---

今回の主要キャラクター紹介

---------

名前/平乃 愛菜(ひらのめな)
年齢/27歳 性別/女-独身
容姿/身長はやや低めな152cm
服装/黒のパンツスーツ
髪型/青みの強い黒髪のおかっぱ
小物/黒メガネ
雰囲気/どことなくハリネズミに似ている
趣味/考えてもきりがないことを想像すること
種族/人間
出身/地球は日本
特徴/契約社員だったが契約が切れて無職
親も他界しており天涯孤独

-------------

名前/コウ 
年齢/1劫年
性別/男-伴侶なし
容姿/170cmくらいの大カラス
服装/自身の漆黒の羽を誇りに
思っているので、基本的に衣服は着用しない
小物/左目に金の片眼鏡を着用している
種族/ワタリガラス族・地球では渡り大烏
出身/〇〇〇〇〇〇〇と地球

--------------

名前/ダン・アスラ
年齢/不明
性別/男-故郷に大家族あり
容姿/200cmくらいで頭だけ象で肌は藍色で、恰幅が良い
服装/灰色の布を、法衣のように身にまとっている
種族/ダン族
出身/地球内部のアンタリク帯域
特徴/温厚で情に厚いが、真逆の面も持っていたという

---------------

名前/ミタラシ
年齢/不明
性別/女-伴侶なし
容姿/黒三毛(錆)で尻尾が二股にわかれている
服装/なし
種族/猫族-ネコマタ科
出身/地球は日本
特徴/愛想が悪いが、愛情深い一面もある
決して恨みを買ってはいけない

--------------

※この作品は星空文庫/小説家になろう/
note/アルファポリスにてお読みいただけます。

第11話-黒-

---
---


平乃
「ちょっとあの…質問なんですが…
さっきっから、私の思考の中がひどく
煩いんですけど、これって普通なんですか?」


コウ「…え?…」


平乃
「え?」
《え?》



コウ
「…っやっと…やっとみつけた!」


これまで真面目に案内に徹していた
170cmほどのワタリガラスは、
永く探し求めていた存在の気配を感じ、
我を忘れてしまった



平乃
「っ」



咄嗟の事だったのだが、
平乃は昔習った護身術を思い出し、
両羽を広げて突進してくるコウをひらりと
かわしたついでに、勢いづいたままのコウの背を、
すれ違いざまにトンっと地面方向に軽く叩いた



すると



コウ
「グェッ」


1劫年生きている存在
らしからぬ悲鳴をあげたコウは、
予期していなかった力により、
派手にすっころんでしまった

その場に居た新入り2名は、
何が起きたのか分からず、
一瞬シンっと静まり返った


平乃
「…しまった…」
《…っちょっと!なんてことするのっ!!》



ダン
「…ぷ…ブハッハハハハッ!
何だなんだ?大ガラスのダンナッ
いきなりだったなッ…ほれ大丈夫か?」


ダンは豪快に笑いながら、
床につっぷしているコウに歩み寄り、
その長い鼻でコウを助け起こした


コウ
「~~っ痛たたっ…あぁ…ダンさん、
ありがとうございますっ…ダイジョブ…です」



ミタラシ
「…ワタリガラス…気に入ったからって、
いきニャりは駄目ニャよ…しっかし…
アンタけっこうやるじゃニャいの!
ちょっとだけ見直したニャ」


平乃
「…ハハハ…それはどうも…」


喜んで良いのか分からない誉め言葉と、
さっぱり意味が分からないこの状況と、
脳内でワーキャー叫び続けている声に、
平乃はただ空笑いを返すしかなかったのだった



---……
-------



ここは平乃愛菜の自己空間である

決して広いとは言えないアパートの台所には、
170cmほどのカラスが脚を縮め、大きな嘴を、
少し涙目になりながら両羽で擦っている姿があった

平乃はコウの様子を正面に座りながら見つつ、
困惑顔で、脳内にいるもう一人の自分と会話を続けていた


愛菜
《いきなり抱き着こうとしてきた
コウさんも悪いけど…なにもあんな…
ねぇ…お願いだから、失礼のないようにしてよっ!
ここへ来る前、私ホントにお世話になったんだから!》


平乃
《…それはそっちの話でしょ?
私のことじゃないし…ってかさ…
こっちは頭の中に別次元の
自分がもう一人いるって話とか、
多次元の話とか、空間構築とか、
それこそ一気に情報開示されすぎて
驚いてるんだからへそ曲げないでよ…》


愛菜
《…だって…》


平乃
《あー…分かったって…ちゃんと謝るから…
これ以上頭の中でキーキー騒がないでよ…
酷い二日酔いより気持ち悪いから…》


愛菜
《……》



平乃
「あの…コウさん…
その…すみませんでした」


コウ
「…いえ…貴女は悪くありません…平乃さんは、
事の次第を全く知らなかったのですから…
僕こそ…とりみだしてしまって申し訳ない」


シュンとなっているコウと、
頭の中で《お茶でもだしてあげて》とか、
《コウさん『私』がごめんなさい》
とか言い続けているもう一人の自分に、
平乃は深い溜め息をついた

そして小さく「空間構築」と言って、
2人分の緑茶をキッチン机の上に構築した


平乃
「お茶どうぞ…カラスさんが
飲めるか分かりませんけど、
もう一人の自分が飲めるって
言うので創ってみました」


何の気なしに出された緑茶を見て、
コウは少しだけ驚いたような表情を見せた


コウ
「緑茶…あぁ…大好きな飲み物です
ありがとうございます…いただきます」


平乃
「それじゃ話の続きをお願いします
コウさんは、別次元から中身だけ消えちゃった私…
私の中にいる私…ややこしいな…を…
色んな次元を渡って探していたって言うんですか?」


コウ
「はい…もう…何次元渡ったか
覚えていないくらいには、探し続けていました
愛菜さんが弱っていたとき、僕が傍にいると
豪語したというのに…情けない話です

しかし…本当に…良かった…
あの…僕が言うのもなんですが…

平乃さん、愛菜さんの意識の受け皿に
なってくださってありがとうございます

元の次元へ愛菜さんが戻れるようになるまで、
いま少しだけ、意識をシェアしてさしあげてください…
どうか…お願いします」



愛菜
《コウさん…》


平乃
《…私に選択肢ないじゃない…》



平乃
「…戻れるようになるまでってことは、
拒んだってどうしようもないことじゃないですか
……少しの間でしょうし、仕方ありません」


平乃の言葉を聞いたコウは、小さくうなずいて、
実に美味しそうに緑茶を飲み干した


コウ
「緑茶、ごちそうさまでした」


深呼吸をして居住まいを正したコウは、
自身の発する空気をピリリとしたものに変え、
平乃愛菜の目を真っすぐ見据えて口を開いた



コウ
「さて平乃さん、さっそくですが、
この次元の狭間の特性と、黒スイッチャーの役割、
そして何よりも大事なルールを1つ…お伝えいたします
心してお聞きください」


平乃
「…はい」


コウ
「この次元の狭間のスイッチャーの仕事は、
担当する種族のもつ、黒に想起される
概念をまとめあげ、現象化する仕事となります」


愛菜
《…え…》

平乃
《…?…》


眉をひそめた平乃の表情に何か感じたのか、
コウは少しだけ口調を和らげて説明を続けた


コウ
「…黒スイッチャーは、オーダーされたもの、
つまり願いをそのまま、現実というモノに投影する、
手助けをしているにすぎません」


平乃
《あー…映写係とでも思えば、
余計なこと考えなくて済むかな…
でも…人類の黒の想念って…》


平乃
「お…思ったよりも大変そうですね」


コウ
「そう…思われますか?…」


平乃
「まぁ…黒の一般的イメージって言ったら、
重~い感じかなと…少し前に立ち読みした雑誌に、
そんな感じのことが書いてあったんですよ

黒は不吉や死、恐怖、不安とかのイメージが根底に
あるとかなんとか…あと…強さとか権威…だったかな」


コウ
「書いてあった…?それをそのまま、
貴女も受け入れたということですか?」


平乃
「ん~私は何か違和感があったかな…

黒は全部の色を含んでいる色だし、
私は昔っから『これはこうである』って
事前表示されているものが苦手なんですよ
ビシっと黒い服着ている方は
かっこいいと思いますし

あの…私個人のイメージと人類の想念って、
何か関係があるんですか?…あ…私も人か…」


平乃の言葉を聞いたコウは、
片羽の先で金の片眼鏡を
クイクイと触りながら目を細めた


コウ
「…統合と個では差があると?…」


平乃
「統合と個の差?」


コウ
「あ…いえ…それについては、
また別の機会にお話しましょう

あ、次元の狭間のルールを、
またお伝えし忘れるところでした
【自分を否定しないこと】が、
ここのルールとなります

これは簡単なようですが、
貴女の周波数に影響することですので、
よく覚えておいてください

…ここでの経験が『貴女達』にとって、
よき経験となるよう祈っています

さぁ僕はそろそろ行かなくては…
っとその前に、『今回も』貴女には僕の
羽石(うせき)をお渡ししておきます

使い方は内なる愛菜さんにお尋ねくださいね
それでは…また今度」


そう言って、コウは平乃が口を開く間もなく、
軽くお辞儀をして、去って行ったのだった



----
----


ここは黒スイッチャー達が
作業をするトーラスの次元の狭間

光沢のある黒衣を身にまとった者達が、
とても忙しそうにスイッチャー作業をしている

そんな中、彼らから少し離れたところに平乃の姿はあった


--


コウさんが去ってから、
頭の中のもう一人の私は、
妙に静かだった

ここへの来かたを聞けば教えてくれたし、
前に居た次元の事を聞けば、一言二言で答えもした

けど…なんだろう何か悩んでいるような感じがする

こう、胸のあたりがモヤモヤとする…
でも…私が聞いて何か解決するのかな…

もう一人の自分との会話は、
意識が駄々洩れになるって訳じゃなくて、
どうやら『会話する』って意思がないと、
声がお互いに伝わらないみたいで、
もう一人の自分が何に悩んでいるのか、
私にはさっぱり解らない

…それなのにモヤモヤはする
…正直…めんどくさい……


平乃
《ねぇ、何か悩んでるの?
胸がモヤモヤするんだけど…》


愛菜
《あ…ごめん…あのね…
前の次元でスイッチャー作業をしたとき、
凄く暗い想念を持つ少女を次元移動させたんだ
あ…あっちのスイッチャーは、次元移動のサポートなの
移動を手伝うときに、その者の想念というか記憶が、
陰陽どっちも流れ込んでくるのが特徴でね》


平乃
《おわー…そっちも凄そうだね》



愛菜
《うん凄かった…それで私オーダーをしたの》


平乃
《オーダーってどんな?》


愛菜
《少女を気に掛ける直前に、私が軽い気持ちで、
暗い色の人はネガティブなんだろうって思ったから、
この目で見るフィルム(現実)は、
暗い少女を私に見せた…だから…》


平乃
《あー…オーダーで自分の
見るものを変えたってことか…
別次元の少女の色味をオーダーしたのね…》


愛菜
《そうそう!…さすが私っ話が早くて助かる》


平乃
《…それで…なんで悩んでるの?
いまのところ順調にオーダーが通ったっていう
良い話な気がするんだけど?……あ……
もしかして…『私』が人類の黒の想念を
具現化するって知って悩んでるの?》


愛菜
《うん…まさか黒スイッチャーさん達が、
黒いオーダーを具現化していたなんて…》


平乃
《…うーん?…
ほかの黒スイッチャー達の
……想念がどういうものか、
私達には分かりようがないじゃん

知らないのに抵抗感あるなら、
それはただの妄想ってことになるし

人類の黒のイメージだって、
私はまだ実際に作業していないから
分からな………》



平乃愛菜
《あ…そうだ…自分のイメージが投影されるんだった》
《あ…そうだ…自分のイメージが投影されるんだった》



二人のイメージが重なると、
不思議と胸に燻っていた靄は、
清い風に吹かれたように
晴々としたのだった


愛菜
《わ、なにいまの凄い重なった感じだったね》


平乃
《…たしかに…いや…ただハモっただけでしょ
それより、スイッチャー作業するのに
必須アイテムって言ってたあの上着、
どうやって創るの?やりかた教えてよ》


愛菜
《ふふっ…えっとまずはね…》



---
---


一方その頃…


ここはダン・アスラの空間


地球のアンタリク帯域出身ということもあり、
彼の空間は地中を模していた

広大な地下空間の壁面や天井には、
びっしりと水晶がくっついていて、
ジオードの様相を見せている

そしてそれは淡く、
青白い光を放っていた

四方八方が光っているので淡い光であっても、
地下空間とは思えないほどの明るさである

光を放つのは水晶だけではなく、
水晶の間に生えている、
キノコや苔さえも光っていた

そしてこの空間には、
エメラルド色をした大きな湖があり、
その中央には長い桟橋がかけられている

その桟橋の先には、
黒い大きなドーム型の船が、
一隻だけプカリと浮かんでいた


--

ドーム型の船の甲板には、
クリスタルで出来た椅子が、
玉座の様に設置されていて、
椅子の左右には、色鮮やかな花束が飾られいた

さながら小さな謁見の間のようである


コウ
「さすがはダン族の方ですねぇ、
『落ち着く空間をイメージする』だけだとお伝えして、
すぐさまこれほどの空間を構築できてしまうだなんて……
それに、とても美しい光景です」


ダン
「俺ん家の周辺をそのまま再現しただけだが、ありがとさん
そういえば、次元の狭間でスイッチャーになっているのは、
ほとんどが内部地球の者だって聞いたことがあるぜ

大ガラスのダンナは、
それこそ俺が知らない連中とも交流があるんだろな」


コウ
「永く案内役をしていますから、
色々な方と交流を持たせていただいてます

…貴方もこれからはここで
過ごすのですから、交流を持たれてみては?

…内部地球の方々は勿論、
ダン族の観察対象とも自由にお話いただけますよ

ここには守秘義務なども特にありませんから」


ダンはクリスタルの椅子に座り、
真っ黒な大きな扇子で自身を扇ぎながら、
少しだけ沈黙した


ダン
「…ふーん?守秘義務がないってのは驚いたな…
ってことは、さっき食べた飴についても
聞かせてもらえるんだよな?」


コウ
「はい、ご質問いただければ、大抵の事はお答えできます
あの飴のなにをお知りになりたいのですか?」


ダン
「……黒い飴を選ぶように、
おたくが演出をしていたことについてだよ」


つづく

-----
-----


今回の主要キャラクター紹介
---------

●名前/平乃愛菜(ひらのめな)
所属次元/黒
年齢/27歳 性別/女-独身
容姿/身長はやや低めな152cm
服装/黒のパンツスーツ
髪型/青みの強い黒髪のおかっぱ
小物/黒メガネ
雰囲気/どことなくハリネズミに似ている
趣味/考えてもきりがないことを想像すること
種族/人間
出身/地球は日本
特徴/別次元の自分が内にいて、
会話しようと思えば会話ができる


●〇名前/愛菜
平乃の内にいる別次元の愛菜


-------------

名前/コウ 
年齢/1劫年
性別/男-伴侶なし
容姿/170cmくらいの大カラス
服装/自身の漆黒の羽を誇りに
思っているので、基本的に衣服は着用しない
小物/左目に金の片眼鏡を着用している
種族/ワタリガラス族・地球では渡り大烏
出身/〇〇〇〇〇〇〇と地球

--------------

名前/ダン・アスラ
年齢/不明
性別/男-故郷に大家族あり
容姿/200cmくらいで頭だけ象で
肌は藍色で、恰幅が良い
服装/黒色(元は灰色)の布を、
法衣のように身にまとっている
種族/ダン族
出身/地球内部のアンタリク帯域
特徴/温厚で情に厚いが、
真逆の面も持っていたという

---------------

名前/ミタラシ
年齢/不明
性別/女-伴侶なし
容姿/黒三毛(錆)で尻尾が二股にわかれている
服装/なし
種族/猫族-ネコマタ科
出身/地球は日本
特徴/愛想が悪いが、
愛情深い一面もある
決して恨みを買ってはいけない

--------------

※次回の更新は9/26の12:00を予定しています。
※この作品は星空文庫/小説家になろう/
note/アルファポリスにてお読みいただけます。

ORDER-願いは既に全て叶っている-

※トップで使用している画像は、『Guu19』さんの素材です https://onl.tw/ERtidVp

ORDER-願いは既に全て叶っている-

自分が発する周波数で、瞬時に自身が存在する場が変化する世界『トーラス』が舞台である。この物語の世界とは宇宙全てを指す。主人公は平乃愛菜(ひらの めな)27歳でごく普通の契約社員だったのだが、職場の契約が切れてしまった日、ふらりと立ち寄ったコンビニで買った本『ORDER-願いは既に全て叶っている-』がきっかけで、彼女の見る世界は全てが大きく変化していく---

  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-08-20

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted