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 俺は『大海賊時代オンラインVR』ベータ版の相談センターに電話をかけた。

《 こちら、大海賊時代オンラインVR、ベータ版の相談センターになります。どのようなご用件でしょうか 》

《 あの。ゲームのキャラクターを作り直したいんですけど…… 》

《 申し訳ございません。ベータ版ではそのような機能は用意されていないので、ご案内する事が出来かねます。ただし、正規版でしたらキャラの作り直しが可能でございます 》

《 正規版はいつ販売されるんですか? 》

《 申し訳ございません。正規版の発売時期は現時点で未定となっております 》

《 ……分かりました。ありがとうございます 》

 俺は通話を終了した。

( もうベータ版をプレイするのはやめよう。あの老人と一緒に生活しようとは思わない。どうせ正規版が発売されるんだから。それまで待とう…… )

 俺はそう決めた。

 しかし午後のバイトを終えて自宅に戻る頃にはその決意は完全に揺らいでいた。バイトの休憩時間にスマホであれこれ余計なことを調べてしまった。

 ネットにはベータ版の情報がいくつか投稿されていた。それらの情報を見る限り、ゲームはすでに1日目の段階でかなりの人気になっていることが分かる。

「スキルカードをもらった」とか「船に乗って移動した」とか「士官学校に入学した」とか興味をそそられるネット情報をいくつも見かけた。

 俺はそれを見て焦った。

 ゲームの公式ホームページには『ベータ版のプレイデータは正規版にそのまま引き継がれる』と書いてある。つまりベータ版をプレイしている人が有利になる可能性が高い。

( あの老人に会うのは嫌だけど、他のプレイヤーに先を越されるのも我慢できない…… )

 そう思うとゲームをせずにはいられない。俺はすぐにGT8を起動してアイマスクを装着し、ベッドに入った。



【作者紹介】金城盛一郎、1995年生まれ、那覇市出身 

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-16

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