妖精姫の闘争

薄暗い山林の中を、影のようにひた走る者たちがいた。
「して、こたびの獲物は手練れなのか?」
一人が鋭い声を発する。つき従う二名がニコリともせず答えた。
「仔細は不明。なれど、妖精国の王族の血統とか。なまじな者ではありますまい。」
「高貴な身分の妖精は荒事にも長けると聞き及びますれば、容易い相手ではないかと。」
先頭をゆく男は不敵で凄みのある笑みを浮かべた。
「ククク…………楽しみよ。ギリギリの死闘が出来ればよいがのう………冷酷かつ残酷に、のう………」

郊外ののどかな土手の道。学校帰りの中学生たちで賑やかだ。
その中に周囲の視線を独り占めしている美貌の少女がいた。腰まで延びたピンクのストレートの髪。雪のように白い肌。あどけないながらも整っていて、色っぽい顔立ち。
近寄り難い雰囲気のせいか、たった一人で歩いている。
と、そこへ近づく数人の女生徒のグループ。気の強そうな子が、ピンク髪の子に声をかける。
「ちょっと、水神さん!」
「え?!な、ななななんでしょう!?!」
見た目に似合わずずいぶん落ち着き無い態度の、ピンクの子。
「いつもいつもさあ、うちらの方見てにやついてんのは何でよ?」
「え、えええ!?に、にやついてませんけど!」
「いや、今もニヤニヤしてんし!」
水神さんと呼ばれた美少女は、サッと目を反らした。そして両手で顔をぐにぐにして真面目な表情を繕おうとしているが、明らかにニヤニヤしてしまっている。
「それにさあ、うちらに話しかけられた時、目を合わさないよね。絶対、下見てる。」
露骨にギクウッと痙攣する水神さん。実際、彼女の目は下を見ていた。正確には、相手の短めのスカートからのぞく生脚を見ていた。そしてにやついていた。
「とにかくさあ、水神さん可愛いのに挙動不審過ぎるんだよ。そういうの直さないと評判落ちるよ?それだけだから。じゃあね!」
言いたいだけ言うと、女生徒たちは去っていった。
気の強い子の後ろ姿を見送る水神さん。じっと見つめているのはお尻。非常にニヤニヤしていた。
右手で、スカートの前をまさぐりながら呟く。
「今夜のおかずは、あの子にしよう…………はぁはぁ、お家まで我慢出来ないかもぉ……ちょっと自販機の陰ででも………」
「おやめ下さい、白昼堂々妖精王家の証をさらけ出すなど!」
自販機の裏から突然現れたのは、水神さんよりいささか長身の、黒髪美少女。変わった和服のような、珍しい服装をしている。
「あぁ………小滝ちゃぁん!どうしたのぉ?昼間から会いに来てくれるなんてぇ?」
「ハ、忍の者として、明るいうちから姿を現すのはあまり好ましくないのでありますが、事が危急でして…………ところで。その発情した顔を収めていただきたい。」
ニヤニヤ緩みきった顔だった水神さんだが、言われて慌てて表情を引き締めた。
「真面目ぶった顔をなさっているが、目線がわたくしの太ももや脇の下に集中しているご様子。」
「だってぇ、小滝ちゃん露出激しいんだもぉん!小滝ちゃんが悪いんだよ、責任とってもっと近くで見せなさいよね!」
「渇!」
小滝は水神さんの目を、畳んだ扇子ではっしと打った。
「痛ぁい!」
「早急にお帰りを。大事な話がありまする。」
水神さんの家は、小山の上の、ちょっとした屋敷だった。
池のある大きな庭を眺める縁側にて、小滝は真剣な顔で切り出した。
「実は、姫様のお命が狙われておりまする。下手人は…………何をされておられるか?」
小滝がどうも背後で衣擦れの音がすると思って振り向くと、水神さんは制服のスカートを脱ぎ捨て、パンツまで下ろしていた。
その股間には、女の子特有の器官のみならず、男性器までがあった。しかも、真っ赤に大きくそそり立っている。
「……………昼間から王家の証を放り出すのはおやめいただきたい。」
キツイ口調で注意する小滝。しかしその顔は言葉とは裏腹に弱気で、赤面し、目を泳がせている。
水神さんは余裕ありげに語る。
「だってもう我慢出来ないんだもーん。一度スッキリしないと話きけなぁーい。」
「な、何と下品な!女王陛下が知ったらお嘆きになられますぞ!」
「えぇー?そんなことないよぉー、人間の女に子供産ませるための人間界留学だもん。えへへ、小滝ちゃんが産んでくれてもいいんだけどなぁー。」
「金で雇われた忍びゆえ、そこまでしてさしあげる義務はありませぬ。さっさとトイレででも解決してこられい!」
「わかったぁ、お風呂場でヌクね。その間、小滝ちゃん、脱衣所にいて話し相手してね。それくらいの命令は聞いてくれるよね?」
「ふええええ!?」
しばらくのち。
シャワーを浴びて色々な意味でスッキリした水神さんと、悶々とした小滝は、居間でおやつの煎餅を食べていた。
「…………と、いうわけで。悪魔騎士団よりの刺客が、近いうちに襲来すると思われます。」
「ふーん、なるほど。でも、小滝ちゃんが守ってくれるんでしょ?」
「ハ、それはもちろん小滝も身を挺して戦いまするが………手強い相手やもしれませぬゆえ、姫様も重々ご注意を。」
「あ、でも小滝ちゃん、お金で雇われてるだけの人だもんねー。あんま敵が強かったら逃げ出しちゃうかなー?」
あさっての方をみながら煎餅をかじり、一人言のように言う水神さん。それを聞いて、小滝は色めき立った。
「姫様!確かに小滝は雇われの身ではありますが、忍びのプライドがありまする!どんな困難な任務でも、逃げ出すなどあり得ませぬ!」
「えぇー、でもさあー、敵が強すぎてお金に見合わなかったらさぁー、わたしのこと見捨てて逃げるんじゃないの?」
「そんなことはありませぬ。お金の問題などではないのです!いかに我が身を犠牲にしようとも、あるじの為にいかなる任務もやりとげる。それが忍びのプライド。この小滝、どのような困難も姫様の為にやりとげまする、この命に代えても!」
「だったら今、裸になってよ。」
「ぴひゃ!?」
「どんな困難でも逃げないんでしょ?ほらほら脱いで!はーだーか、はーだーか!」
小滝はうつむいて涙目になった。
「………………………ぱ、ぱんつを、お見せしますからそれで勘弁して下さい………ぐしゅっ……」
「あぁーあ、小滝ちゃんは言うことがデカイだけで当てにならないなー。ほらほら、さっさとたくしあげて!……お、おほぉー………可愛いの履いてるね………」
水神さんは鼻息を荒くして堪能した。
「それにしても………わたし、命狙われてるのかぁ…………ちょっと、お母様と話してくるね。」
急にシリアスになった水神さんは、立ち上がって出ていった。
一人残された小滝は、赤面して震えている。
「この辱しめ…………忘れぬぞ………」

水神さんは、母の寝室を訪れた。育ての母であり、血のつながりは無い。人間でありながらも、妖精の血筋のことを理解しており、女手一つで水神さんを数年間面倒みてきた。まだ三十手前の若く、美しい義母である。
体が弱く、今も病気に伏せっている。
「お母様、お加減はいかがですか……?」
気遣わしげに入室した水神さん。
「愛美……こほこほ!」
咳き込む母。
「お母様、ずいぶん汗をかいてらっしゃいますね。」
汗ばんだ若い義母の姿を見て、水神愛美はよだれを垂らさんばかりだった。
「お体を拭いてさしあげましょう。」
「お止めなさい、けだもの!」
思わず我が身を庇う母。
「あ、いえ、言い過ぎましたね。思春期の義理の娘への警戒心から、つい………」
「いいえ、いいのです。親子ですから遠慮無くなんでも言って下さい。それに、遠慮無く娘に面倒見られて下さい。お体、拭きますよ。」
「親子といっても義理なので!遠慮は必要です!」
「義理ということは………つきあってもいいってことですよね?」
「だめです出ていきなさい。」
仕方なく愛美は、体を拭くことをあきらめた。
「それで、愛美?何の用かしら。」
「あ!実は、大切なお話があるんです。わたし、命を狙われているのです。」
「まあ!何者に?」
「悪魔騎士団といいます。悪魔を崇める新興宗教結社です。信者は、全国に五千以上。」
「まあ!何て恐ろしい………大丈夫なの?」
愛美は窓を開け、空を眺めた。
「今度ばかりは………わたしの命運も尽きるかも………それでお母様、相談があるのです。最後にお慈悲を下さい。おっぱい吸わせてくれるだけでいいです。」
「出ていきなさい。」
「お願いです、それ以上のことはしませんから!わたし、はじめての相手は同級生か年下と決めてるので!うんと大人びた性格の幼女が理想です。」
「いいから出ていきなさい。果物ナイフで刺しますよ?」
そこへとことこと軽快な足音。からりと襖が開けられた。
「ただいまですー、お母様!あっ、愛美お姉様も!」
顔を見せたのは、小学二、三年とおぼしき美少女。ショートヘアで、見るからに明るく活発な元気少女だ。
「千菜ちゃぁーん!お帰りー!汗かいてる?汗かいてるよね?お姉様とお風呂入りましょ!」
凄い勢いでむしゃぶりつこうとする愛美。が、もっと凄い勢いで母親が千菜を抱きしめた。
「寄らないで!実の娘はあなたの毒牙の餌食になんてさせないわ!」
母の目は血走り、鼻息は闘牛のように荒い。
「う、うーん………このままじゃ、お母様の病気が悪くなりそう………愛美、出ていきまーす………」
愛美はとぼとぼ立ち去った。

警察署内。床にゴロゴロと、警察官が転がっている。むせかえるような血の匂い。警官達は、死んでいた。
あきらかな部外者が三人、無惨な光景を見下ろしている。
「やれやれ、ターゲットの所在が掴めないものだから………イラつきすぎて警察署で無差別殺人してしまったよ。」
「さすが悪魔騎士アスモデウス先生……鮮やかなお手並みでございました。」
「何、大した戦いではなかった。」
一人の男が、血塗られた刀を机に置き、小バカにしたような笑みを浮かべた。
そこへ、一団の警察官が踏み込んできた。
「そこまでだ、侵入者!降伏しろ!」
先頭にいるのは五十代とおぼしき、顔つき凛凛しいダンディーな男前の警察官。地位が高そうだ。手に拳銃を持ち、侵入者に真っ直ぐ狙いをつけている。
侵入者のリーダーは、じろりと一瞥。
「やめておけ。貴様の腕前では俺には勝てん。」
「何だと!」
リーダーが血刀を手に持ったかと思いきや、次の瞬間には警察官の構えた銃が真っ二つに斬られていた。
「な………何という達人………」
悪魔騎士アスモデウスは、ニターリと酷薄に笑った。
「暴れたら、いささか催してきたのう………」
従う二人があからさまに動揺した。それによって、警察官達は気づかされる。アスモデウスの股間が大きく迫り上がり、あり得ない程巨大なテントを張っている。
若い婦警が悲鳴を上げた。
「さて…………我が生まれつきの相棒たる槍が……美味そうな獲物が居ると言っておるわ……」
アスモデウスは警察官達に近寄った。
「待て!私の部下には、手を出させんぞ!」
半泣きの婦警の前に立ちはだかり、庇うダンディー警官。
「見くびるな。女などというぐにゃぐにゃに軟弱で気色の悪い生物などに興味は無い。俺が欲するのは………お前だ!」
アスモデウスの手が伸び、ダンディー警官の尻をがっしり掴んだ。
同時に。バキィン!と音を立て、アスモデウスの股のチャックが弾け飛ぶ。同時に、ビリビリ!とパンツまで跡形も無く破れ散った。
そして姿を見せた悪魔の御神体。天を突く肉棒は、十数個の真珠が埋め込まれ、グロテスクにゴツゴツしていた。信じられぬほどの長さ、そして極太。まさに、魔界の御神木。禍々しき真珠の膨らみに彩られた、この世の怪物。生々しい獣の男臭が、空気を犯す。
警官達は震え上がる。アスモデウスに従う二人も、震えていた。
ダンディー警官は怯え果て、
「こ、ここに若い男がいます!イケメンですよ!」
と、若い男性警官を盾にした。
「いらぬ。俺のストライクゾーンは、中年だ。貴様………三十回ばかり使ってやろう。もう普通の男に戻れないと思え。」
「嫌だ!やめてくれ!そんなことされるなら殺された方が………やめろおおおお!」
ダンディー警官はアスモデウスにズルズルと引っ張られ、別室に消えた。そして響くダンディーな悲鳴。
「やめろ!あああ!ぐううう!くっ……あ、ぐあ、あぁぁぁぁぁ………!あふ………ああん、天国ぅぅぅ………」

朝。愛美の寝起きはよくない。目覚めてから数十分は、ベッドでダラダラしている。
しかし体の一ヶ所、へその下の可愛らしい突起物だけは大いに覚醒して、いきり立っている。
愛美は寝ぼけた状態で、ついついそれをまさぐりしごいてしまうのが日課だった。
「あん………ふぅ!はひ……」
寝ぼけながら悶える愛美。
それを窓の隙間から覗く影。猛烈に赤面し、食い入るように見いっている。
小滝であった。じゅるじゅるとよだれをすすり、夢中になっている。
「何をしておる?」
背後から不意に声をかけられ、ギクリッと跳ね上がる小滝。
「い、いや、姫様の警護を……」
振り向くとそこには異形の者が何人も。一見して、人間ではないとわかる。
異形が、物々しく告げる。
「大変なことになった。地平線先警察署が襲撃され、警察官が多数殺された。悪魔騎士団の犯行だ。」
「何ィ!?」
驚愕する小滝。しばらくしておずおずと尋ねる。
「……………地平線先村って、隣の県だよね?そんな遠くの出来事、我らになんか関係あります?いや、確かに悪魔騎士団は姫様の殺害予告してきましたけど、それ以外普段敵対なんかしてませんし………」
「現場周辺にこんな張り紙がしてあった!」
異形は小滝に一枚の紙を手渡した。
「何々………“OL風俗・濃厚サービス残業”……?こんな店興味ありませんが。」
「これには悪魔の暗号が使われている。OLとは、“お姫様、拉致殺害”の意。風俗とは、風邪をひいたようにゾクゾクさせる………濃厚は、“ノー、こうしたくはなかった”。サービスは、“さあ、ビスっと殺してやる”、残業とは…………“残酷に、地獄の業火で燃やす”!さらに複雑な暗号解読式に当てはめた結果………“妖精の王女よ、姿を現せ。さもなくば第二、第三の事件が起こることになる”という意味とわかった。」
「はぁ…………」
「つまり、姫様が戦いに赴かねば再び犠牲者が出るということ!かくて、近隣の妖精騎士がここに集結した。いざ、姫様を総大将に、戦いの時!姫様ぁ!」
異形の者は、愛美の部屋の窓を全開にした。
「ひぁぁぁん……!」
寝床より発せられる甘い声。
バタン!と小滝が窓を閉めた。
「いくら何でも、十代の女の子の恥ずかしいところを見ちゃダメでしょう!」
「どきなさい、一刻も早く戦場に駆けつけねば!姫様ぁ!」
再び開け放たれる窓。
「うひ……気持ちい……」
寝ぼけ眼でアへる愛美。小滝が大急ぎで窓を閉める。
「あなた方、妖精騎士を名乗るなら恥を知りなさい!女子中学生のこんなシーンを見ようだなんて!」
「よくわからんが開けろ!グズグズしている場合ではない!」
「さすがにこれはダメです!いくら姫様がオープンな変質者でも、見ちゃダメなところです!」
「そういう君も、さっき覗いていたようだが………」
「ギクギクゥッ!!何を言っているのかわかりませんねとにかく今は待って下さい三十分で多分終わりますから!」

愛美が股間をティッシュで拭き、そのティッシュがあまりに美味しそうなので口に入れようか迷っていると、部屋に小滝が入ってきた。
さすがの愛美も恥ずかしかったので、サッとティッシュを捨てる。
そしてベッドから叩き起こされて引っ張られてゆくと、庭に異形の妖精騎士が集結していた。
「うわぁ………男しかいない………これじゃわたしの美巨根も萎えちゃうよ……」
「たった今、満足したばかりなのですから萎えていていいのでは?」
「え? 満足?小滝ちゃん、何でそんなこと知ってるの?」
「ゴホゴホゴホ!持病の労咳が!妖精騎士の説明に耳を傾けて下さい!」
異形の騎士が愛美の前に恭しくかしずいた。
「姫様、作戦を奏上致します。敵は地平線先湖の湖面に浮かぶ船におりまする。我が方は水上妖精騎士団と空中羽虫兵を以てしてこれを叩き、悪魔騎士を討ちまする。作戦名は、かっこよさを重視して、『令和ミッドウェー作戦』と致しました。」
「かっこよさ重視なの………?」
さすがの愛美も呆れた。
小滝が指摘する。
「その作戦名は縁起が悪いのでは………」
「ハ?何故です?」
不思議そうな妖精騎士。
「いや、ミッドウェー海戦て……日本が負けたじゃん?」
「はて?わたくしめが読んだ参考書にはそんなこと書いてありませんが。」
そう言って彼が懐から取り出したのは一冊の新書。タイトルは、『スーパーパーフェクト大逆転!!ミッドウェー海戦』とある。
裏表紙のあらすじを、小滝は読んでみた。
“二○××年、海上自衛隊の誇るイージス艦、「りべんじ」は、時空震に呑み込まれ、タイムスリップしてしまった。たどり着いたのは、一九四二年。帝国連合艦隊が、米機動部隊と雌雄を決すべく、まさにミッドウェーへと出撃するところであった。「待ってくれ!そんな愚かな作戦をやっちゃいけない!」現代の自衛官が、歴史知識とイージス艦の力で帝国海軍を勝利へ導く!大興奮の歴史伝奇ロマン!!!”
「…………………こんなの参考にしてどうすんの?」
「とかいって何で読みふけってんの、小滝ちゃん。」
一人の妖精騎士が挙手した。
「あー、わたくし参謀長でありますが、アメリカ出身です。わたくしの視点からしますれば、ミッドウェーは縁起悪くありません。」
「へー………」
半目で白ける小滝。
「実はわたくしの祖父は人間でして、高名な空母ヨークタウンに乗っておりました。ミッドウェーでは勇敢に戦ったと伝わります。」
「ヨークタウンって沈没したじゃん!やっぱ不吉じゃん!」
「…………小滝ちゃん、そういうの詳しいよね。」
ひたすらに白ける場。
「祖父は海の藻屑となりましたが、幼い遺児が成長して妖精女性と結婚し、生まれたのがこのわたくしでして……」
「あー、その話はもう良いから。」
他の妖精騎士にたしなめられ、参謀長は黙った。
妖精騎士の偉そうな人が一際声を張り上げた。
「ともかく!明朝ハチマル・マルマルを以て作戦決行とする!各員、地平線先村へ向かうぞ!」
「じゃあわたし、学校行くから。」
さりげなく出ていこうとする愛美の腕が、がっしと掴まれた。
「どこへゆくのです姫様!」
「学校……」
「姫様は総大将として最前線に出ていただきます。全軍の士気が上がりますので。」
「可愛い女の子いる?」
「いません。むくつけき筋肉の塊たる脂ぎった男児の群れがお迎え致します。」
「やだよお!わたしはクラスの女子のやらしい生脚を一日中観察してたい!」
「どうか大局を見て下され!戦に負けたら姫様の生活はどうなるか………もう二度と女の尻を追いかけることも出来なくなるやも……!」
話の途中で、小滝がズイッと割り込んだ。
「ちょっと待て。敵は姫様のお命を狙っている。その敵の眼前に姫様のお身柄をさらすのは愚策では?」
その疑問に、妖精騎士は明確に返答した。
「デメリットよりはるかに大きなメリットがあり申す!妖精兵達は、いずれ下半身の欲望旺盛な劣情男児!美しき可憐な姫様のお姿を見れば、暴走して前後不覚となり、死も恐れなくなりましょう。その為にここにビキニを用意してあります。ささ、姫様、お着替えを。」
「いやああああ!この人達、女子中学生を性的に利用しようとしてるううう!」
悲鳴を上げる愛美。
「さすがにそれは社会道徳的に容認出来んぞ!」
小滝は愛美を庇い、抱き締めた。するとそれを見た妖精騎士達は。
「うほぉ!百合っぺえ!リアル中学生百合画像…………てぇてぇ………!!」
皆してビクンビクンと痙攣。のみならず、腹を剥き出しにしている妖精騎士は、出ベソがバキバキと勃起した。ある者は鼻が長くそそり勃つ。またある者は、耳たぶが勃起した。
次の瞬間、全員が小滝に殴り倒された。
「何と不埒な………姫様、こんな奴らを相手にする必要はありませぬ。学校へ参りましょう。」
「うん、ありがとう小滝ちゃん。えへへ、おっぱい柔らかい……」
二人は学校に行こうとした。
「お待ちなさい!」
そこに凛と響く美しい声。
「誰?」
若い女の声だったため、足を止めた愛美。
ゾロゾロと庭に、警官隊が入り込んできた。率いるのは、女性警察官。若い美女である。
「酢愚身近署の、御色卦刑事です。水神愛美さん、いいえ、妖精王女ニンフ・マナミ!すぐに地平線先村に向かいなさい。」
「エエエ!?何で?」
「即刻悪魔騎士アスモデウスを倒さなくては………事はあなたの命だけでは済まなくなる。これは国際問題になりつつあるのです!」
「えー……………?」
愛美と小滝の声がハモった。

アメリカ。ワシントンD.C.。
「国防長官!極東から重要な報告が!」
執務室に入ってきた部下に、白人の紳士は机から顔を上げて発言を促した。
「それが……日本のカルト宗教教団が……核兵器を保有していると!」
「なんだと!?!それは大問題だ!……その教団の名称は?」
「報告によれば、悪魔騎士団ということです。」
「うん?何だ、我々の仲間か。」
「は?国防長官、今なんと………ぐは!」
部下の喉を長い爪が貫いていた。彼は絶命の瞬間に見た。親愛なる長官閣下の瞳が血のように赤く染まり、その口からサーベルタイガーのような牙が伸びているのを。
「フハハ………人間ごっこはそろそろやめだ。始めよう………アジア大絶滅戦争を!」
国防長官は体当たりで窓を破り、コウモリのように空へ飛び立った。

「アスモデウス先生、このお菓子は一体?」
地平線先湖。箱根の芦ノ湖に匹敵する巨大な湖の水上、一隻の武装船が浮いていた。その指令室にて、アスモデウスと二人の男が囲むテーブルの上に、一つの駄菓子がある。
「ククク、わからぬか。ハイチュウ型核爆弾だ。噛むと爆発する。」
「それは恐ろしい。して、どれ程の破壊力なので?」
「長崎に落ちた原爆ファットマンの五百万分の一程度。」
「それはなんとも……微妙………評価が難しい数字ですな。」
「フフフフフ………恐るべき兵器を用意したら……催してしまった。」
二人の男はサッと恐怖の表情になった。
「何を怯えている。安心しろ。」
アスモデウスは冷笑し、パチンと指を鳴らした。すると司令室に、幾人もの中年男性達が入ってきた。
「こ、この者達は……?」
「こやつは地平線先警察署長。これは消防署長。さらに地平線先村長。あとは地元有力企業の社長や大地主よ。暇潰しにさらって調教した。」
中年男達は一斉にひざまずく。
「アスモデウス様、私どもの尻はもう、あなた様の男根無しではいられません。ああ、今夜も滅茶苦茶に耕して壊して下さいませ………」
バキンと音を立ててチャックが破壊され、アスモデウスの邪悪な分身が光の下にさらけ出される。
「キヒヒヒヒ、可愛い奴らよ。飽きるまで使ってやろう。飽きたらゲイ・ライフ・マガジン編集部に紹介してヌードモデルにしてやる。クハハハハ、ハーハハハハハ!」
その光景を見せつけられている二人の男は、震えが止まらなかった。
「悪魔だ………真の悪魔!」

夜半過ぎ、地平線湖の岸辺に、一群の車列が到着した。そのうちの一台のワゴンの後部座席で、御色卦刑事が恰幅の良い異形の老人に詰めよっていた。
「今すぐ妖精軍は悪魔騎士を攻撃しなさい。治安を乱す悪魔を一刻も早く倒さなくては、大変なことになるんです、妖精元帥!」
「えぇー………攻撃は朝の予定なのにぃ………」
渋る妖精元帥。
「言う通りにしないと、姫を逮捕しますよ!彼女が騒動の発端ですからね!」
「そんなぁ!」
弱る元帥。
「わたし、御色卦刑事になら逮捕されていいですぅ!」
元帥の反対側に座っていた愛美が、御色卦刑事にしなだれかかる。
「くんかくんか、あー、いい匂いする………たまんねえ………」
愛美はひとしきり御色卦刑事の体臭を吸い込むと、小滝のもとへ戻った。
「でも小滝ちゃんのお肌の方がいい匂い。若いから?」
その言葉は、二十代半ばの御色卦刑事の微妙な女心に突き刺さった。
「元帥今すぐ攻撃しなさい、しないと姫を射殺するわよ!」

暗闇の中、地平線先湖に妖精騎士水上隊が漕ぎ出した。
空母が三隻。ちなみに、妖精界では空母は人間のお菓子にちなんで名付けられる。
出撃したのは、空母ショートケーキ、空母花林糖、空母ティラミス。そして護衛駆逐艦が五隻。
駆逐艦は、玩具の名が付けられる。
護衛駆逐艦隊の艦名は、けん玉、竹馬、ゲームボーイ、チョロQ、ビッグエッグ野球盤であった。
間もなく、三隻の空母より攻撃飛行羽虫隊が発艦。航空機(羽虫)は農作物の名が付く。この時使用された航空機(蝿)は、とちおとめ改。妖精軍の誇る高性能の新鋭機(蝿)であった。その総数は五十二を数えた。
湖上に浮かぶ悪魔騎士団の武装船たった一隻に、急降下して五十二機のとちおとめ改が襲いかかる。とちおとめ改が脚に掴んだ爆雷を次々に投下。
悪魔騎士団の武装船は、ジグザグ航法で爆雷をよけてゆく。水上に上がる爆発の水柱。
とちおとめ改は、波状攻撃で無限かとも思われる爆雷を落とし続ける。命中弾が出るのは時間の問題。妖精軍側の誰もがそう思った。
と、その時。湖面より上がる爆煙のさなか、悪魔騎士団武装船の甲板に、一人の男が姿を現した。アスモデウスである。手にはギラギラと不気味に輝く白刃。
「悪魔広角斬撃浄化剣………」
歌うように高らかに声を上げ、アスモデウスは刀でゆっくり弧を描いた。そして。
「煉獄の火。」
切っ先を虚空に立て、振り下ろした。刀身がまばゆく光り、穢らわしい白光が、半径数十メートルを包む。
光は一瞬で消える。そこでは、全てが変わっていた。とちおとめ改の大編隊のうち、大半が煙を上げ、落下している。撃墜されたのは三十五機以上。それどころか後方、駆逐艦隊にまで被害が出ている。けん玉とゲームボーイが大きく傷付き、航行不能となっていた。
水上隊旗艦たる空母ショートケーキの指揮所は、大混乱であった。
「一体どうなっとるか!状況を知らせよ!」
妖精元帥の怒号。
「何やってるの!さっさと仕留めなさいよ!」
御色卦刑事も怒鳴っている。
「ねえねえ、船酔いきつくておパンツの中がビンビンズキズキしてるの。トイレ行ってきていい?小滝ちゃんも来て。ドアの向こうで可愛い声出してくれるだけでいいから。」
小滝の手をぐいぐい引っ張る愛美。
「どういう船酔いですか!離して下さい、小滝には仕事がありまする!」
主君の手を振り払い、甲板へと出た小滝。和弓を携えている。
「天地神明よ、邪悪を払いたまえ!」
小滝は一矢を放つ。矢の勢いは凄まじく、風圧で湖面が波となり、矢の過ぎた後に白波の壁が出来ている。矢は閃光と変じて悪魔騎士団武装船を貫かんとした。
「ぬうん!!」
それをアスモデウスは、刀で受け止めた。彼の手元で火花が散り、矢は爆散して消えた。
「これは………!」
アスモデウスは自らの刀に大きくヒビが入っているのに気付く。刀身は惨めに黒ずみ、今にも折れてしまいそうだった。
「フ…………見事なものよ。今日のところは退いてやるとしよう………」
アスモデウスは船内に消えた。直後、武装船は水中へと沈み出した。ものの十秒とかからず、船は水面下に消えた。

「何か個人の能力で戦いが左右されてたわね………軍隊、居る意味無かった気がする。」
御色卦刑事がつぶやくと、妖精騎士達は一斉に目をそらして沈黙した。そのまま誰も発言せず一分経過。無かったことにした。
元帥が愛美に復命する。
「幸いにして地域の人間生活には被害は出ておりません。敵は水中に逃亡、恐らく地下水路にて湖を脱したと見られます。我が方には潜水艦戦力が無く、追撃はかないませんでした。」
「ちょっと黙っててよ!気が散るでしょ!」
愛美の冷たい声が浴びせられる。かなりイラついていた。
御色卦刑事は、軍の失態に姫君がお怒りなのかと思ったが、よく見たら愛美は十八禁マンガを読み耽っていた。
「おっさんの声とか、今一番聞きたくないからね!あっ、ねえねえ小滝ちゃん、これすごいよ!このふたなり女子高生、実の妹のアナルに無理矢理挿入してるー!可愛いよねー!」
「あ、いえ、小滝は何も見てません、ちょっと戦闘の疲労で視界不良で!」
真っ赤になってよそ見している小滝。大汗かいている。
御色卦刑事は大激怒して元帥以下の妖精騎士達に雷を落とした。
「あなた方の指導者は事件解決の為に全くやる気見せてませんが、どういう教育してるの!」
怒りをぶつけられた妖精騎士達は。
「女子中学生が二人してエロマンガ読んでる………こんな夢が、現実にあるとは…………もうどうにかなりそうだ……!」
一様にアへっていた。御色卦刑事はとりあえず元帥を射撃した。元帥の股間から大出血。人間ではないから死なないが、今後の趣味嗜好に致命的影響が出るのは間違いなかった。
残酷な粛清劇に、さしもむくつけき妖精筋肉男児達も、怯え果てて性欲を忘れる。場は静まった。
御色卦刑事は愛美のマンガを没収。
「あー、今ふたなりヤンキーヒロインが大型犬に獣姦レイプされるところなのにー!」
泣いてすがりつく愛美だが、エロマンガは返って来ない。
「つらいよぉ小滝ちゃん、散々盛り上がったおち〇ちんなのに、生殺しにされてるよぉ!」
「そんなこと言われましても拙者にはどうにも出来ませんっ!」
御色卦刑事は苦悶の叫びに一瞥もくれず、厳かに発表した。
「悪魔騎士アスモデウスから、書状が届いています。消耗戦はお互いの不利益にしかならず、短期決戦が望ましい。双方の総大将の一騎打ちにて決着をつけよう………そう伝えてきています。つまり姫君、あなたとアスモデウスの一対一の勝負。…………警察としても、市民の安全確保の為に戦闘規模を小さくしたいので、この案に賛成します。」
「えぇー…………わたし、小滝ちゃんと御色卦刑事に守られたいのにぃ………」
「ダメです。人間の市民優先に考えます。あなたは戦って下さい。」
「ちなみにですけど、アスモデウスって美少女だったりしません?そうだったらモチベーション出るんですけど……負けて掴まっていやらしい拷問されたりとか、夢がふくらむ………勝ったらこっちがそれやっても……」
「署の重要犯罪者データベースによれば、三十代悪魔男性ですね。」
「もう意欲ゼロです!せめて勝ったらご褒美に御色卦刑事がつきあってくれるとかして下さいよぉ!愛人契約でいいですからぁ!」
「む、無理です!ちゅ、中学生の同性とそんなの………ロマンチックで憧れちゃうけど………ドキドキ………」
「いえ、しばらく。刑事が姫様のワガママを聞く必要はありません。」
小滝が毅然と言い放った。
「姫様、平和を守るのは王族の責務。その為の戦いの見返りに女を求めるなんて………いけない子です。」
ニッコリ笑顔の小滝の手から、愛美の脚の間に短刀が放たれた。股間の至近にて、椅子にザックリ突き立つ刃。
愛美も萎えた。エロマンガの為に怒張していたスカートの前が、平たく落ち着く。
「姫様参りましょう。決闘の為、稽古をつけて差し上げます。」

山間の小さな草地。そこで、妖精騎士達が見守る中、愛美は小滝の特訓を受けていた。
「全然駄目ではありませぬか!」
罵声を浴びせられ、うずくまる愛美。
「だって………」
小滝は手始めに愛美の現在の実力を見ようと、竹刀で軽く何発か打ち込んだ。多少とも心得あれば避けられる程度の連撃にすぎなかった。
しかし愛美はことごとく喰らったのだった。
「姫様何をしておられる!剣術なら幼い頃よりやっておるでしょう!」
「違うんだよ聞いてー!小滝ちゃん、そんな露出激しい服で運動するからパンツ見えるし胸揺れるし、集中力乱すんだよ!」
「ひゃん!見ないで下さい!………い、いえ、そそそそうですか!邪な感情のせいで稽古にならないと!ではそこを鍛えましょう。」
小滝は忍びの手技で素早く、鋼鉄製のブルマを愛美に履かせ、ロックをかけた。
「な、何、これ?」
「貞操ブルマです。極めて頑強に出来ており、まず破壊不可能。ロックを外して脱がなくては………もう二度と、お股の恥ずかしいところを触ることは出来ません。鍵は拙者の手に。拙者を倒さなくてはもう一生オナニぐは!」
小滝は腹に痛撃を受けてうずくまった。手から鍵が奪われている。
「なっ………なんという姫様の動き……見えなかった………」
「ねえねえ小滝ちゃん、鍵が開かないよお!」
愛美は小滝から奪った鍵で鋼鉄ブルマのロックを解除しようとしているが、上手くいかない。
「ふふふ、それは偽物……本物の有りかは、小滝に参ったと言わせたら、お教えしましょう。」
「え、どうしよう………手加減出来ないよ?わたしにとって可愛い女の子はかけがえのない大切なものだけど……おち〇ちんが使えなかったら、女の子がいても何も楽しめなくなる!」
愛美の小滝を見つめる瞳が、この上無く獰猛になる。まるで虎が、生き死にを決さんとするかのような眼。
「ここで特別講師にご登場いただく。中国から招聘した伝説の偉才、ジョッキー・チュン先生。どうぞ!」
小滝に呼ばれ、霧の中から現れた長身の男は、いかにもなディスクジョッキースタイルをしている。そして、頭部が雀だった。雀の頭をした妖精男子だった。
「ボクは子供の相手は嫌いなんだ。何でこんな退屈な真似しなきゃならねーんだよ。でも、ま、貰ったギャラの分は働いてやる。まずは足さばきから直すか。ボクの言う通りにステップを」
言い終わらぬうちに愛美に殴り倒され沈黙するチュン先生。
ヘナヘナしりもちをつく小滝を、迫る愛美の影が覆う。
「死ぬほどボコボコにされて………マゾに目覚めたらどうしよう………」
小滝は満更でもなさそうだった。

「ほう、妖精王女は、貴様を一撃で沈めるほどの手練れ…………しかし性欲全開でなければさしたる強さではないと………でかした、スパイとして使った甲斐があったぞ、ジョッキー・チュン。」
秘密基地にて、アスモデウスにひざまずいているのは、雀頭の妖精の男だった。
「あのような危険な任務だとは聞いていなかった。中国格闘家の誇りが傷つけられた。償いはしてもらうぞ。」
チュンは怒りに燃えてすっくと立った。
「何?」
振り向いたアスモデウスの股間にチュンの回し蹴りが炸裂。弾き飛ばされるチャック、露出する巨根…………が、それはへし折れていた。
「ぐおおおおお!」
「アスモデウス様!」
お付きの二人が動揺して叫ぶ。だが、何も出来ない。
「カカカカカ、性欲全開でなければ大した力が出ないのはお前も同じだ、アスモデウス。死を以て償ってもらおうか。」
「ぬ…………ぬうううううん!」
全身に気合いをみなぎらせるアスモデウス。
「なっ……………折れたはずの陰茎がっ………再び上を向いているっ…………何故だ!?」
「ワハハハハハ、貴様の失敗は、タマを潰さなかったことよ。お陰で催してしまってな………欲求発散の為に海綿体が超回復して屹立した。貴様の尻穴……二度と閉じぬようにしてやろう。」
「フ、フフフフフ!それは出来ぬ相談!見よ!」
チュンは自らパンツを脱ぎ捨て、尻を見せつける。
「なんと……………!尻が、金属製になっているっ!」
「そうだ、格闘界最強となるため、サイボーグ手術を受け、下半身を金属にした。この尻穴は決して緩まぬ。しかも径二ミリしかない。挿入など不可能!…………アスモデウス、詰んだようだな。」
「ほう?それはどうかな?」
次の瞬間、アスモデウスは背後の壁に向かい、下半身を振るった。響き渡る破砕音。チュンは目を疑った。見るからに分厚い、鋼鉄の壁に、アスモデウスの巨根が根本まで突き刺さっている。
「では試してみようか、その尻穴に……本当に挿入出来ぬのか。」
「ま、待て…………来るな、来るなあ!」
数分後には、チュンはだらしないアへ顔で床に転がっていた。
「さ、さすがはアスモデウス様です。」
お付きの者が、青ざめた顔で称賛した。しかし称えられたアスモデウスの顔色も冴えない。
「だが無傷ではない。我が息子が張り裂けるように痛む。どうやら、妖精王女との決着を急がねばならぬようだな。」

翌朝。自宅に帰っていた愛美は、大音量のスピーカーの声に起こされた。
「妖精王女よ、我が前に来て戦え!こちらが勝利の暁には、戦利品として四十から六十歳の男を二十人、引き渡してもらう!」
スピーカーの声は、屋敷を囲む山林から響いている。
起きてきた愛美に、ここに対策本部を置いて待機していた酢愚身近署の御色卦刑事が懇願する。
「近所の住民から署に迷惑行為の通報が相次いでいます!早く出て戦って下さい。」
「でもぉ、わたしが勝ってもメリットないのに、負けたら何人も捕虜にされちゃうんだよ?」
小滝が考え込んでいる。
「敵の戦利品の要求は一体、何の為でしょう?妖精兵力が欲しいのでしょうか?」
御色卦刑事も思案顔になった。
「確かに気になりますね。それについては我が署で捜査しましょう。ですので、姫君はさっさと戦いに出て下さい。」
「でもぉー…………寝起きだし、やる気出す理由無いんし…………」
「もちろんそちらが勝った場合の戦利品もある!」
スピーカーの声が一段、大きくなった。
「年若い悪魔美女を二十人用意した。悪魔美女はいいぞ、非現実的爆乳だったり、合法ロリ幼稚園体型だったり、体からして罪深いが、中身も生来ド淫乱!ありとあらゆる性癖を満足させるプレイが可能でタブー一切無しのインモラルの塊!爛れきったセックスライフをお約束出来るぞ!」
「ふええええ?!?思春期の女の子としては、どうしても心牽かれてしまうよお!」
ひとたまりも無く屋敷の外に出て行こうとする愛美。
「へぇー………爛れきったセックスライフね……」
背後から涼やかな美声が聞こえて、愛美はギクンと飛び跳ねた。
「お、お母様…………?」
義母は冷めた目で愛美を見ていた。汗だくだくの愛美。
「い、いえ、わたしはそんなの興味無いですよ?中学生には早すぎますし!」
「あらそうなの?愛美はてっきり興味津々かと………よだれだらだら垂らしてるし………」
「いいえこれは朝御飯のことを考えていただけです!わたしには欲望といったら食欲しかないので!」
そこに、幼い愛らしい声も響く。
「ねーねー、いんもらるってなーにー?」
「千菜ちゃん!?」
さらに汗だくの愛美。
「どんなせいへきもまんぞくさせるってさー、どういう意味ー?教えてー?」
「それはママも知りたいですねえ。説明して下さい、愛美。」
「さ、さあ?わたしもよくわからなくて……中学生なので、そうゆう知識はあまり………」
ヒソヒソと、御色卦刑事と小滝が話している。
「あの子、今さら何取り繕ってるの!妹さんはともかく、お母さんには隠してもしょうがないでしょ!」
「いえ、十代ですから親に欲求をオープンにさらけ出せないんですよ!ああ見えて姫様は清純ぶりたがる性格なんです、上手く出来てませんが!」

屋敷を見はるかす山林で。
アスモデウス一行は焦りを覚えていた。
「出てこぬか…………早く勝負せねば………男根の痛みが激しくなっている。インポになってしまうやもしれぬ。」
「そうしたら我々も安心して暮らせます。」
「貴様、今何と?」
「いえいえいえいえ!アスモデウス様の下半身がとても心配です!」
「そうか。とにかく急がねばならん。敵をもっと脅迫しろ!」

スピーカーの声が、警告を伝えてきた。
「妖精王女よ、即刻勝負に応じろ!さもなくば、本日、近隣地域で通勤中の年輩サラリーマンが拉致され、肉体と精神に取り返しのつかないダメージを与えられることになるだろう!何人被害にあうかわからんぞ!」
屋敷内は戦々恐々となった。御色卦刑事がヒステリーを起こす。
「一般の人間に危害が及ぶのは警察は看過出来ません!早く、勝負に行きなさい!」
「いや、でもわたしにも立場があるのー!」
押し合いへし合いしている刑事と愛美。その横を、ついっと通る可憐な影。
「事ここに及んでは、戦わないわけに参りませぬ。しかし姫様の身を危険にさらすわけにはいかぬ。小滝が参ります。勝手ながら、お召し物をお借りしました。」
小滝は、愛美の制服を身に纏っていた。身代わりとなる気であった。
「うわ…………小滝ちゃんの制服姿……エロい……」
愛美の股間がテントを張る。愛美は、小滝の凛凛しいお尻をいつまでも見送っていた。

「来ました!妖精王女のようです!」
山林内に緊張が満ちる。アスモデウスは双眼鏡を覗いた。
「いや、あれは違う!地平線先湖の戦いで矢を放った少女だ。恐らく王女の側近………かなりの実力者よの。」
「いかがしましょう?」
「男根が本調子なら、軽く一蹴するところ………しかし今は大事をとって戦えぬ。お前らのうち一人が戦い、討て!」
「一人だけでありますか?二人で行った方が勝算ありますが………我ら悪魔騎士団に卑怯という文字はありませんし。」
「駄目だ。強敵を見て、催してしまった。ククク……痛みの中で我が相棒はまだまだ力溢れておる………一人は残って相手しろ。」
「いやちょっとそれは許して下さい!」
「待てよ、そうだこうしよう。二人とも、戦いの前の戦意高揚策として、快楽を与えてやろう。壊れぬ程度にかき回してやる!」
「ギャー!!!!」

「頼もう!」
山林中に怪しい気配を感じ、敵はここにありと突入した小滝。彼女が見たものは。
「少し待て、まだ終わっておらぬのだ。」
おっさんがおっさん達をレイプしている光景だった。
「ヤバイ気持ち悪すぎー!」
小滝は嘔吐して膝を屈した。

「小滝ちゃんが………負けた!?」
山林から狼煙が上がっているのが、屋敷の庭から見えていた。その狼煙は、小滝がもしもの為に持っていたもので、「戦闘不能」を伝えるものであった。
「どうしよう、掴まった小滝ちゃんが、取り返しのつかない性的暴行されたら………」
涙を流してわななく愛美。御色卦刑事も焦りを隠せない。
「小滝さんは可愛いから、その危険は大きいわね………!」
そこへ駆け込んできた一人の警官。
「刑事、捜査の結果、有力情報を掴みました!アスモデウスはハードゲイです!女に興味ありません!」
そんな重要報告も、二人の耳に入らない。
「小滝ちゃんを、助けなきゃ………」
愛美は決然と、庭の門に向かった。

芝生の上を、冷たい風が吹き抜ける。
愛美とアスモデウスの決戦は、近所の丘の上の公園で行われた。
たった一人、敵を睨み据える愛美。
対峙するアスモデウス。
「挑戦に応じた度胸は誉めてやろう、王女。しかしこれを見ても冷静でいられるかな?」
アスモデウスに従う者達が高々と掲げたのは、失神している小滝だった。亀甲縛りにされている。
「小滝ちゃん!」
「フハハ、見よ、この者達を!」
森から湧き出すように、中年男達がわらわら現れる。アスモデウスに捕らえられた地平線先市の有力者達だった。
「王女よ、貴様が救い出さねばこの忍びの娘は、脂ぎったオヤジどもの見るに堪えない性犯罪の犠牲になるぞ。見ろ、いかにも変態的な欲にまみれたオヤジばかりだろう?ガハハハハハハ!」
「あのー、わたくしどもはアスモデウス様のせいですっかり男の虜になってしまったので、少女の体などに全く興味無いんですがー……」
「黙っておれ!」
余計な事を言う村長はアスモデウスの一撃で再起不能にされた。
愛美は心配のあまり足元がふらついてしまう。
「どうしよう、小滝ちゃんが汚い変態オヤジの集団に寝とられちゃうよぉ…………」
愛美の股間は変な興奮で元気いっぱいだが、心は打ち砕かれそうになっている。
「どうした王女、この程度の揺さぶりでもう半分負けそうではないか。悪魔に正々堂々という言葉は無いからのう、このチャンス、存分に利用させてもらう。くらえ、悪魔闘技・プロミネンスレイン!」
アスモデウスが手を掲げると、宙天が不意に夜のように暗くなり、そこに無数の光点が輝いた。そして光が次々に降ってくる。その光は、灼熱の火の槍だった。地面に深々と刺さる勢いで降り注ぐ、燃える槍。周囲の芝が、炎上する。瞬く間に愛美の前後左右が、炎に包まれた。
「くっ………妖精幻術・ファンタジックストリーム!」
愛美がスカートを翻してくるりと一回転すると、スカートの裾の先から滝のように大量の水流が噴出。炎にぶつかり、もうもうと水煙が上がった。それが晴れ渡ると、芝を燃やす火は跡形も無かった。空の火の光点までも消えている。
「むうう、見事だ。さすが妖精王女、小手先の闘技など通用しないらしいな。」
「………そんなことない、普段のわたしだったらファンタジックストリームを使えないもの。これは愛液を一気に大放出する術。今だから使えた。」
「なるほど………忍びの娘が奪われてネトラレの興奮が………」
「それだけ悪魔っ娘に期待してるんだけどちゃんと勝ったらもらえるんだよね?二十人!」
「え?!あ、まあ、魔界の人身売買市場に代理人手配してるから、連絡すれば一日で届く手筈になってるよ。そういうとこはきっちりしてるから、悪魔って契約社会だから。」
その時、気絶していた小滝が目を醒ました。
「姫様………小滝よりも、悪魔女子の方がモチベーションになってるんですか………」
半目で落涙している小滝。
「う、ううん、もちろん小滝ちゃんが一番大事だよ?!いつもエロ服着てる小滝ちゃんのことしょっちゅうオカズにしてるし!でも勝った後のご褒美も欲しいし………ほらわたし思春期だからどうしても爛れたプレイってどんなかなって興味が………」
「しょ、しょっちゅうオカズに!?!何という許されないセクハラ!」
真っ赤になって羞恥におののく小滝。
立場が追い詰められている愛美を救ったのはアスモデウスの洪笑だった。
「ハハハハハハ、余裕そうだな、王女。ではこの剣擊はどうかな?」
俊速で距離を詰め、大刀で豪烈な斬擊を繰り出すアスモデウス。疾風の如くかわす愛美。が、スカートがざっくりと斬り裂かれた。露わになる太もも。
「姫様!」
小滝の悲鳴。しかし当の愛美は平静とした表情。
「アスモデウス………あなたは何故、わたしを殺そうとするの?」
「……そういえば説明していなかったな。王女よ、聞くところによれば妖精王家には女しか産まれず、歴代妖精王女は人間の女に子を産ませてきたそうだな。貴様を殺すのはそれが理由。細かい事を言えば、妖精勢力を目障りと判断した悪魔騎士団東京中央よりの指令ということもあるが………真なる理由は、この世界の生きとし生ける男………男の危機察知本能が、女だけで子作りする妖精王家に危険性を感じた………このままでは男が世界に不要になってしまうと!その思いが、俺を呼んだのよ。つまり貴様は全ての男の敵!男として、この世から排除せねばならぬ。」
アスモデウスの眼光が、愛美を射抜くようだった。しかし愛美はキッと睨み返す。
「アスモデウス……あなたはおかしい。女同士の子作りを喜ばない男なんて変よ。わたしと小滝ちゃんの関係に鼻息を荒くすることもない。百合に興味が無いなんて………それに、女子中学生の真っ白い太ももにも一切反応しない。わかったわ!あなたはゲイね!」
アスモデウスの顔にニヤーリと酷薄な笑みが浮かんだ。
「よくぞ見抜いた。そう………俺は、貴様と合わせ鏡の裏表のような存在。同性にしか興味が無いのは同じだが、欲望のままに犯し尽くし、喰らい尽くす、愛など無く、劣情だけの俺。かたや貴様は清純で純情だ。」
「ええ?………あ、まあ、清純ですけどぉ……エロいことなんて考えたことも無いかもー………」
「姫様………」
半目でため息の小滝。
アスモデウスが寂しげに笑った。
「エロいことを考えたことも無い………俺にもそんな時代があった…………懐かしい。俺はかつて、人間のふりをして学校に通っていた。中学生の時だ、担任の五十代男性教師に恋をしたのは。気にいられようと必死に勉強した。健全な恋だった。だが、自分でも気づかないうちに、男根が禍禍しい成長を遂げていて…………」
いきなり始まった思い出語りに愛美も小滝もげんなりした。アスモデウスの二人のお付きもげんなりして、話に水を差した。
「アスモデウス様、お話の途中で失礼しますが、妖精王女は清純ではないのでは。性欲全開で戦うタイプって話だったじゃないですか。」
「うぐぅ!」
ダメージをくらう愛美。取り繕って清純のふりをしてたのに真相がバレたのは、いくらエロ女子といえども十代の少女には大恥だった。
「普段からもっと恥じらって下さいよ………」
ため息が止まらない小滝。
アスモデウスも間違えた事が恥ずかしいらしく、さかんにゴホンゴホン咳き込んで誤魔化そうとしている。
「ゴホゴホ、あー……………えーと、どうも我が海綿体が限界近いようだ………超悪魔力による断裂修復が追いつかぬ……このまま俺死ぬかもしれん。」
誤魔化したいあまり、とんでもない情報を明かすアスモデウス。
「だから決着つけるぞ王女!見よ、我が最後の究極闘技!」
アスモデウスが言い放つや、その体がみるみる巨大化、全長二十メートルを超すロボットに変身した。
「ハハハハハハ!これぞ俺の最強形態!さらに駄目押しに卑怯な手を使うぞ!」
お付きの二人が、小滝の着衣をハサミでチョキチョキ切り刻み始めた。
「このままでは大事な忍びの娘の何もかもが脂ぎった変態オヤジどもに見られてしまうぞ?」
「いやー!助けて姫様ー!」
「王女よ、こんなプレッシャー下で、まともに戦えるかな?ほれほれ、今にも中年男の集団の目の前で、乳も尻も露出するぞ?」
「あのー、わたしどもは少女にはほんとに興味無いんで、乳首だろうがパンツの中だろうがまるっきりどうでもいいんですけどー……」
「黙っておれ!」
地平線先警察署長は蹴り倒された。
「うろたえたままで死ねぇーい王女!」
巨大ロボットの足が愛美の頭上に振り下ろされる。
「ガハハ、ひとたまりも無く踏み潰され………な、何?!俺の超重量の足を受け止めただと!?何という力、さすが妖精王女………と思いきや普通に踏み潰されてるー!!!」
アスモデウスが足を上げると、足跡の中に愛美が埋もれていた。
「な、何故だ?妖精王女は俺と同じで性欲全開だとパワーアップするはず。忍びの娘の露出増やしたら興奮して強くなって面白い勝負になると思ったのに…………」
愛美が泥まみれで起き上がる。
「あのねー、仕方ないでしょー!小滝ちゃんのあんなエロ姿見ちゃったらそっちに夢中になって、とても戦えないよー!」
小滝は羞恥で泣いてるが、その表情にも興奮して涎が止まらない愛美。
「貴様……結構純情だな………あ!やっぱり純情だったんじゃん!俺、間違ってなかった!な!な!俺正しかったな!」
お付きの二人に同意を求めるアスモデウス。二人は何の反応も返さなかったが、アスモデウスはすっかり自信を取り戻して恥をすすいだつもりになった。愛美はそんなこと気にせず楽しんでいる。なんだか戦場は平和になった。
しかしそんな中で一人、苦しみ嘆く者が。小滝だった。
「ぐすぐす、なんて辱しめ………もうお嫁に行けないなんて拙者は悩んでるのに姫様は悦んでるし………」
もうズタズタで本当に大事な部分しか隠せてないドエロ服の小滝の胸に、脂ぎった手が伸びて、モミモミ揉んだ。
「おやしまった、まるで興味湧かないのに過去の本能でおっぱい見たら手が勝手に………まあしかし揉んでも何とも思わないんですがね。」
地平線先消防署長は、仏のように穏やかに苦笑した。明らかに本当に何とも思ってなかった。
「いや困ったものですね、僕も手が勝手に少女のお尻を撫でてしまう……まるで勃ちませんけどね。」
地平線先建設会長も、やれやれと失笑していた。
「もうやだあ、いっそ殺してよー!」
号泣する小滝。そして。
爆発が起きて周囲の中年男達が吹き飛んだ。全員半殺しになっている。
爆心地に立つ小滝。亀甲縛りの縄がちぎれ飛んでいる。
「もう許せない…………今まで受けた数々の恥ずかしい仕打ち………これまでいっぱいセクハラされて、拙者もまだ思春期だからかなりショック受けたり思い詰めたりしたのに、姫様はいつも一人で興奮してるだけで拙者の気持ち考えてくれなかった。我慢の限界!小滝、謀反します!」
「ええええ!?ちょっとよく考えて小滝ちゃん、いっぺんフッたら振り向いてくれるかもみたいな恋愛テクニックはわたしには通用しないよ?!わたし、陵辱マンガとかリョナ系も好きではあるけど主人公に感情移入する時は甘々イチャラブしか受け入れられないし!エロ以外は赤ちゃんみたいに甘やかしてくれる系の日常百合コメしか読まないし!」
「恋テクとかそーゆーのじゃねーからー!何でそんな知能育たないのー!?こんな物があるからー!!」
思いあまった小滝は木刀で愛美の股間のテントを強打した。
「え…………?あ……………嘘…………」
放心したように、愛美はガクンと膝をついた。股の膨らみは消え、そこにみるみる真っ赤な血が滲んでいる。
あまりの光景に。
アスモデウスは、凍りついた。
「何ということを……………大丈夫かっ、王女ー!」
ロボットから人間大に戻り、アスモデウスは愛美に駆け寄った。彼が見たものは、もう膨らまないスカートを染める鮮血。
「忍びの娘…………」
パン、と、乾いた音が響いた。アスモデウスが、小滝の頬を平手で打ったのだった。
「チ〇ポコは叩き壊していいものじゃない………チ〇ポコを持たぬ貴様はわからないだろうが………わかれ!チ〇ポコは壊してはいけないっ!」
アスモデウスは涙を流していた。自らも極限の痛みによりもう勃たなくなりそうな男根を抱えた男の、清冽な涙だった。
小滝の頬にも、一筋の涙が伝う。
「拙者は何という過ちを………そうだ………もう永遠に、姫様の子種をいただけぬのだ…………」
小滝は肩を震わせ、さめざめと泣いた。
しかしその肩に、小さな暖かい手が、乗せられた。
「大丈夫、いつか注いであげるよ、小滝ちゃん。」
小滝の前に、愛美が立っていた。ニヘラニヘラして涎をすすり、そして股間にテントを張っている。驚きに目を見張る小滝。
「な……………何故……………姫様、どうして大きくなって…………」
アスモデウスも驚愕している。
「何故だ、その出血で何故勃つ?」
「え?これ生理の血。急に始まっちゃって。」
「いえ、でも手応えある一撃だったのですが。」
「俺の目にも希に見る痛擊に思えたが………」
「え、でも怪我する程じゃないよー、フルボッキの硬さなら。」
アスモデウスは地面に座り込んだ。
「負けたわ。」
その顔は爽やかだった。
「男根の硬さで負けた!完敗だ。戦いは終わりだ。貴様の勝ちだよ、王女。」
展開に微妙についていけない愛美に、アスモデウスは恭しくひざまづいた。
「申し入れる。王女、俺を家臣に加えてくれ。王女殿下の硬さに心打たれたのだ。これからは妖精王家のために身命を賭して働く。」
そこで小滝が半目になって冷静に指摘する。
「さっきお主はもう死にそうみたいに言っていたはずだがあれはどうなった?」
「ああ、男根は感激のあまり治った。」
小滝は頭の痛そうな顔をした。
「聞きたまえ王女殿下。殿下は妖精の権力者でありながら、これなる人間の娘、加えて悪魔の俺も従えた。複数の種族の君主………ならば皇帝を名乗ってよい。妖精皇帝として戴冠なされませい。」
「そんなの名乗りたくないんだけど………ってゆうかそうだ!そっち負けたんなら悪魔っ娘ちょうだいよ!約束破らないよねー!」
「いや、それは今どうでもいい話………」
言い淀んだアスモデウスは、閃光を当てられ発火して黒焦げになって転げた。
小滝が半目で愛美を見る。
「へー、そんなにエッチな悪魔の女がいいんですねー。でもこれは行きすぎたパワハラじゃないすかー?」
だいぶ苛ついている。何しろ謀反の実績ある人なのでかなり怖くて焦る愛美。
「ううんあのね、だいたい別にこの悪魔、家来と認めてないってこともあるんだけど、聞いて小滝ちゃん!今のわたしやってない!」
その時、高空よりおどろおどろしい声が降ってきた。
「裏切り者のアスモデウスを処刑したのはこの私だ。」
スラリとした長身の男のシルエットが地上に降り立つ。真っ黒いアスモデウスがヨロヨロと見上げ、信じられないという表情を浮かべた。
「貴様……………何故ここに!」
「久しいな、極東の愚鈍な同胞。妖精王女よ、自己紹介しよう。合衆国国防長官を合計十三年勤め、三人の大統領に仕えた男だ。無論、仮の姿。真の名は、大悪魔バアル!」
「また男ー?いらないよー!」
「この男はまともに女が好きなのかも……しかもロリコン顔だし…………いやー!こんなビリビリの服着てる拙者見ないでー!」
愛美と小滝の反応は、バアルの目には入っていない。アスモデウスが教えてあげた。
「バアル、王女と忍びの娘、ビビってないぞ?白けてるしロリコン疑惑も向けてるぞ?目に入らないのか?」
「入らないね。ナルシストの私の注意力は、自分の言動に酔うだけで手一杯だよいつでも。」
「あ、そう。」
アスモデウスは寝ることにした。
バアルはちょっと後ろ向きになって顔を上げ気味にして額に中指を当て、目を閉じて話を続ける。
「妖精皇帝の誕生など見過ごせないな。何故なら、アメリカ悪魔の狂気の大戦略の邪魔になる…………ここ日本から、アラブに至るまで、アジア全土から生きとし生けるもの全てを消し去って更地にするという終末破滅作戦のな!手始めに下らぬ裏切り者の同胞を血祭りにあげた。この男は核兵器まで所持していながら、それを未使用で降伏するなど、悪魔騎士の面汚しだ!」
「核のことは忘れていた。俺は王女の真の強さに自ら屈したのよ。悪魔騎士として、その選択を恥とは思わない。」
「ぬかせ!戯言は聞きあきた。殲滅作戦を始める。せいぜい無駄な抵抗をして見せろ、妖精皇帝!」
「別に皇帝じゃないんだけど………」
少女の訴えは、ナルシストの耳に届かない。バアルの行く手を阻んだのは、突如地割れした地の底より放たれた黄金の光だった。
地中から、まばゆい後光を背負い、蓮の花に座している者達が無数に現れる。
「我ら宇宙の秩序の危機を察し、混乱を防ぐためいっそ先に森羅万象を空虚に消し去ろうと現界した仏!こう呼ぶがよい、一切分解消滅大権現と!これより末法の世が来たると思え!」
バアルもさすがに驚愕。
「ブッディズムの神々か!面白い!悪魔、仏、妖精、三つ巴の終末戦争の始まりだ!」
雷が降り木々が吹っ飛ぶ。愛美もここまで来たら泣く。
「どうしよう小滝ちゃん、ほっといていいのかなあ?」
「普通に世界の危機っぽいですからね………でも姫様じゃ介入のしようがないですね。」
愛美の身を案じて妖精元帥が駆けつけた。
「姫様、汗をおかきになっておられますね。新しいお召し物です、あちらに簡易更衣室もご用意してあります。」
「え、珍しく気が利くありがとう。」
愛美は着替えて戻ってきた。
「わー、涼しー………ぎゃあ!これビキニじゃん!」
「ウオオオオオ!!!」
妖精軍全軍が鬨の声を挙げた。
「こんなに大勢に見られて恥ずかしいよ小滝ちゃん!後ろに隠れさせてよ!」
「いえ姫様、拙者こそ破けた服で恥ずかしいですし隠れさせて下さいよ!ひゃ!姫様のお肌が密着………いえいえいえ別ににやけてないですよね拙者!えええちょっと変なところこすりつけないでぇ………腰がくだけそう………」
「ウラァァァァァ!!!!」
元帥が宣告する。
「妖精軍は今が史上最強だ…………全軍特攻!!!」
暴走する下半身に狂った妖精兵はアメリカ悪魔軍と終末仏軍に壊滅的打撃を与えた。
「いいやアメリカ悪魔の世界戦略に修正は無い。私は必ずアジアに帰ってくるぞ。また会おう、妖精皇帝!」
バアルはコウモリのように羽ばたいて去った。
「この宇宙は、仏以外全てがまやかしで虚ろな物。仏への抵抗は無意味。いずれ思い知ることになろう。」
一切分解消滅大権現の集団も地中に没して消えた。
アスモデウスが愛美に進言する。
「これから大戦争となる模様です。お覚悟をされよ。」
「わたし嫌なんだけどー………それより悪魔っ娘に早く会いた……あ、小滝ちゃんは疲れてるから向こうで休んでていいよ!それで話の続きなんだけど」
「覚悟とは具体的には女への興味を絶ちきっていただくということ。下半身の欲望丸出しの権力者は評判悪いですからな、支配力強化の為、何の欲も無い清廉潔白タイプになって頂く、皇帝陛下。」
「ええええー!」
「無論、悪魔美少女の件は無かったこととなります。」
「ひどすぎるよー!」
小滝が愛美をいたわって、ポンポンと肩を叩いた。
「まあ仕方ないですね、あきらめましょう。でも姫様も可哀想ですし、せめてものなぐさめで拙者が膝枕なんかしちゃったりなんてしてさしあげようかなーなんて………あと、頭をいい子いい子したり………」
「忍びの娘、陛下のスキャンダルの可能性は徹底排除するから今後二度と会話しないように。」
「なんでよー!………もう姫様とおしゃべりも出来ないなんて…………ええい、今のうちー!」
とち狂って小滝は突然愛美にキスした。マウストゥーマウスだった。
「こ、こ、こ、小滝ちゃ……………いきなり………」
「あ、あれ?拙者は一体何を…………今の夢では…………現実じゃんうわあああああ!」
全妖精兵が二人をしっかり見ていた。そして極限を越えたパワーアップし、地域に無用の大破壊をもたらした。
ここから、世界の命運を左右する愛美の戦いがはじまったのだった。

妖精姫の闘争

妖精姫の闘争

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-14

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted