音楽
一
硬い革靴の爪先は
浮かれる『僕』を
繋ぎ止める
厳選された花言葉が
心配そうに
顔を揃えて
相続したての宝石に
託した
あの、決まり文句。
慣れない喉の
飲み込むものを
軽薄な夏に
と歩む『私』と
軽めの衣装で身を包む
晒して見せる音と、肌。
真上に向かって
「グラスを上げる」、
成り切る昼と、揺れるシャツ。
うーんと悩む脚本家、私、
まだまだ、全然、描けない(えがけない)。
バイクとアイスと、お姫様。
古典に属する、
インクだけ。
私の眼差し、黒くする。
あの真実だけを口にする。
二
青い好み!
真ん中の、
注意信号を
無視したあなたが悪いのだ、と
切符を切る警官に向ける
切られる側の
腰付き。
(小休止)、
交差する、
その瞬間を
今か、今かと
待ち続けるレンズを構えた、
姿を見つめる、
同じ格好の
僕か私。
さらに通り過ぎる第三者、それらを眺めれば
出会える老人。
カメラを構える様が良く、
交わす言葉が私的になる。
散髪屋、
水瓶座。
右に寝る癖、
肩を借りる頃。
ぽん、ぽんと、
軽い合図に交わす視線。
近い距離には
ねつが伴う。
色鉛筆は二、三本
机上の
片付けてはいないテーマ。
恥ずかしそうにそちらから、
繋がるようにこちらから、
思い出す振りしてばかりの約束だから、
「先程は。」
さっきから、
思うばかりで、
届かない。
二人掛け、無理をした
チェア。
新しいばかりで何も知らない。
照らされてばかりで動けない。
寄る辺になるのは、
そこらに積まれた
厚い古書たち。
厳しい(いかめしい)顔で愛を語り、
訳知り顔で普遍を説く。
その心を知らない
知る訳がない。
僕たちの、
私たちの。
館内。
静かになるばかりで。
三
ハリネズミに足りない仕掛け。
代わりに回る
男の子。
ハンチング帽がぶかぶかで
革靴が色褪せてぶかぶかで
スリーピースがずり落ちる。
一所懸命。
誰かが使っていたカメラは
もう、ボタンを押せない。
だから焼き付ける、日々。
カチンコ。
小さい両手で再現しても
上手くならないカットを
大切に拾い集める、動作。
延びて、延びて
夕焼けの影は名乗らない。
手足を進めて泣き出して
うずくまって誰かを待つ。
その姿、
男の子は駆け寄らない。
いい画には魂が宿るという
だから
その言いつけを守るかんとく。
じっと見て、ぐっとして
涙見て、
鼻をすする。
グジャグジャになった
ポケットティッシュ。
パパの名を借りて笑った。
おっけー!って
大きな声で言いたくて。
駆け寄る、
大きな影に包まれた、日。
両手を回して抱き締めた。
反対向きに見る月の、横。
通り過ぎる飛行物体。
懐かしいフィルムの空回り。
薬莢を、捨てずに持ち帰った悪いこと。
再生を、
出来ず見つめる青い鳥。
笑みを、
その嘴に乗せる、子。
置いて去る
ニュースペーパー。
三月三日、三十時三十三分という。
四
物にならないとは言わないさ。
ただ、君はまだ若すぎるって。
綺麗なのはもちろん認める。
キュートな笑顔も武器になるだろうよ。
だから、
デビューは遅らせていい。
ほら、
人気者のソイツも欠伸をして、
尻尾を振って、
画角に収まっているだろう?
時代の流れやタイミングがあるって決まり文句、
呪いみたいに収めても損はない。
懐を、
少し埋めてくれるさ。
温かくも、冷ややかに。
年の功さ。
こういう戯言を真摯に言えるのも、
君にこうしてお願いするのも。
それでも、
君の気持ちは決まっていて
既に
その歌声を街の片隅にまで轟かせているというのなら。
俺から言えることはない。
舌の根が乾かないうちからさっさと前言を撤回して、
シャッターを切る。
君の決意と正直に
動かされた気持ちを信じるからさ。
俺はね、
自分に正直に従って切るからそれなりなのさ。
イメージをひょいってね。
現像するんだ。
だから言うのさ。
君を撮らせて欲しい。
そこにいる人気者と一緒にって。
君の名を後世のあいつは知っているって言うんだ。
オカルトじゃないぜ。
記録はそういうことを可能にするんだ。
俺はそれを信じるよ。
そうじゃなきゃ一端の写真家を名乗れない。
それが俺の自負、最低ラインのな。
笑い事じゃないぜ。
君にとって大事なことだ。
君の決断はモノになったってことだ。
そして、
俺の予想は外れたのさ。
君の歌声は鳴り響いた。
だから俺の清々しい負けだ。
フィルムに大切に焼き付けたい。
そして一つだけ、
お願いしたい。
俺がシャッターを切る時、こっちを見ないでくれ。
理由は簡単、
その方が絵になる。
素敵な君を伝えられる。
いい仕事をしたって、自慢できるよ。
俺の願いを叶えてくれ。
それも君の、
望みだろうから。
音楽