なつやすみ

なつやすみ

らいうん

空にひとつ
ぽかりとひとつ
たぶんそれはわたし

浮いたまま
どうしようか
迷ってしまった

浮き上がるところまでは
うまくいったのだけど
そのあとを知らない

みんなは愚かとわたしを指した
そうかもしれないとうなずいて
つぎの瞬間稲妻を落としてやる

わたしは随分といじわるになった

猫は哲学をして生きる

哲学する動物を観察する人間
へちまの観察日記の続きから記録

放棄された精神が
呪いみたいに満ちている
この小さな部屋は自分の監獄

助けてくださいと拝む人間に
我関せずと眠る動物

嘆き悲しむ人間は
思索に値しないと動物は部屋を出る

真理さえあればと盲信した
はじまりから間違ってい

おもいで

そこにあるものなのに
見えないのにあるとは
なぞなぞみたいなこと

そんなことばっかり

よく冷えた水を飲む
それは体によくない
そう信仰されていた
体はすっかり冷えた

水に浮かぶ生命体になる
お腹に感じる故郷がある

それは何処にも無い場所

もう二度と会えないみたいに
寂しさを煽った波

缶ジュースに見る夢

缶ジュースを開ける
ひどい暑さの中の
軽快な音ひとつ

もういない人たち
わたしの心にも

缶ジュースは甘い
ひどく冷たく甘い
喉は冷えて凍えた

もういない人たち
私の記憶にだけ
残る人たち

あの騒ぎを通過して
誰もいない駅舎にて
缶ジュースを飲む日

望んでいた日に来た
青空の下は静かだ

在りし日の心象風景

飲みたくなるよな空の色
その下に日焼けしてる私

花火のあとのにおい
蚊取り線香のにおい

それは在りし日の夏休みです

まだ心で息をしている
在りし日はいつまでも

どこまでも澄んだまま
どこまでも広がります

わたしを追うか影法師

ひぐらし鳴いて
宿題に泣いてた

在りし日は青いままに

空想する思い出

雲の尻尾を掴んだ
やったあと喜んだ

そんなの嘘だよと
あの子が言うから

わたしは今日から嘘つきの子

砂場からダイヤモンド
銀の円盤ジグザグ飛行

誰にも言えないまま大人になった

わたしだけの世界
誰にも言えない
秘密を抱いてる

嘘じゃないよ、

雲の尻尾を掴んだ手
あの感触わすれない

御伽噺の侵食

銀の杯をひっくり返して
星たちを放流したのは誰?

宇宙はあまりに明る過ぎて
星座たちはねぶそくだ!

天の川は氾濫して
織姫も彦星も逃げ出した!

天帝様はお怒りだ
いたずらものを探してる

星は自由に飛び回り
好きな色に光出す

金平糖をこぼした日
笑いながらできたお話だ

虫食いの遺跡

肝心なところが読めない石板
タイムマシーンはクレーム屋

ちゃんと書いてよと言えば
想像してよとあの日の私

ここはどう言う意味かと問えば
野暮だねまったくとの答え

あの日の私たちから
今の私たちへのクレーム

想像力が乏しくなって
そのうえ野暮ったい未来人へ!

過去と未来の痴話喧嘩

みどりの上に

高く飛んだ星が下を向いた
なんて綺麗なみどりだろう

星は草原の夢を見る
馬や羊と共に駆け回る夢

星から躍動の希望を見る
つめたい宇宙空間の孤独
埋めるための熱情は輝き

駆け回りたい
重力に抱き寄せられ
あの星のみどりの匂いに
どこまでも深々と抱かれたい

星が焦がれた
みどりの惑星

恋文

またあたらしい言葉に
生まれる感情を抱いて

この波に揺られる日々
そのものが愛だと知る

痛くて苦しくて泣いた
心地よく喜びに震えた

全てが一枚の絵の中に
全てが一枚の織物の中に

描き込まれ
編み込まれ

初めてこの日々を
心から愛しいと思う

すべてをはじめから
また紡いで
描いていく

優しい忘却に抱かれる

思い出は呆気ない
そうして素っ気ない

縋り付く者に冷たい
それは優しさであった

忘れられる寂しさを
その身ひとつに抱いて
泡になることもなく消滅する

忘却は優しさである
去りゆくものは皆優しい

与えてくれた恩義
それひとつに感謝して

私から離れゆく日に、
それは恩返しのつもりで

まぼろしのこども

まどろみの中に見た
積木遊びをする子

私の枕元で笑ってる
誰でしょうか?

泣いていたのは正午
叱られたのね?

もうねむいと
積木は崩れる

ああ、
私の塔が、
やっと崩れた

ほっとした時
目を覚ました

子供なんていない
たまに来て遊ぶ
幻の子供が

今夜は叱られませんように

あまやどり

木の下で雨やどり
雨粒はおしゃべり

僕の心をうたうな
しずかにしてくれ

僕は恥ずかしくなる
僕はたまらなくなる

雨粒は楽しくなる
雨粒は騒がしくなる

何も知らないふりをして
みずたまりになって
僕を見逃してくれ

僕はいたたまれない
おしゃべり雨粒の
たわむれに

夢見た自由の中

吹き抜けの電車
大空の下はしる

しがらみから離れて
遠くまで連れて行って

青と薄桃の空
田園風景の中

大きなつば帽子の
有閑マダムたちが
料理を囲む午後

もうすぐトンネルだ
ここを抜けたら私は

私は全てを投げ出した
私がはじめた逃亡劇

薄暗い気持ちを消して進め

もっと吹け強い風

さようなら

もっと傷つけてやればよかった
もっと笑い合えればよかった

けれども羅針盤の向きは
まるで逆の私たちだから

これから先
もう二度と

目も合わせることはないと

季節の境目に立って
今日ようやく知った

それが寂しいことであると
今日になってようやく知った

それでも宿命は曲げられない

せいめいかつどう

空気が変わるたびに
傷口はまた痛み出す

季節を乗り越える
大きな波を見つめ

心細さと感傷は鍵になる
つまらない自尊心と意地
愛は心臓に付随する臓器

外されないもの
この先は憧れた道

休んで転んでまた進む
私は強い生き物だから

ピリオド打った先に

つなぎ目をほどく
もう一度、最初から

時間はない
自信はある

最も難しいことが
自分を信頼することでも

それを通すこと
もう一度、最初から

ピリオドひとつ
そしてはじめて
新しいものたちの上に

朝日を見る
月夜を見る

私は見る
私の本当

現在進行形の
私の進軍を
見届ける

勇気がある

かわるものたち

風はかわる
季節はかわる
空気はかおる

誰も置いていかない
大気は見捨てない
何もかもをすくう

蝉が鳴くタイミングを
誤っていた昨晩のこと

何もかもが気まずかった

朝になったなら

命の形が変わる日は
そそがれる光をすくって

何をうたおうか
柔らかな今日に
何をうたおうか

定規は未来の夢を見る

夕闇そらに羽ばたく鳥たち
列をなしたら黒い線になる

定規で引いたままの線
ノートに横たわるまま

この先のことは
誰にもわからない
今日の星座占いも外れてた

運命なら随分かるいもの
わからないなら明るい未来

みんな同じ方向を歩けば
あの鳥たちみたい
無個性の直線

反時計回りに飛ぶ瞬間

なつやすみ

白線の向こう
彼岸に立つ日
夏至を超えた
雲が立ってる

あの夏空に
気持ちは弾けて
シャボン玉は飛ぶ

蝉時雨
風鈴の音
真っ白の絵日記
ソフトクリーム

全部置いて来た
心は空を飛んで
手元をはなれて
滑空する日には

何を食べている?
私のために飛ぶ日
なまぬるい風には
どんな思いがある?

なつやすみ

なつやすみ

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-12

Copyrighted
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  1. らいうん
  2. 猫は哲学をして生きる
  3. おもいで
  4. 缶ジュースに見る夢
  5. 在りし日の心象風景
  6. 空想する思い出
  7. 御伽噺の侵食
  8. 虫食いの遺跡
  9. みどりの上に
  10. 恋文
  11. 優しい忘却に抱かれる
  12. まぼろしのこども
  13. あまやどり
  14. 夢見た自由の中
  15. さようなら
  16. せいめいかつどう
  17. ピリオド打った先に
  18. かわるものたち
  19. 定規は未来の夢を見る
  20. なつやすみ