赤点魔法つかいヨナカ

 「姫さま姫さま」高く澄んだ声がする。ああ、朝が来た。マジやだ起きたくない。「姫さま姫さま」「おーきーるーよー!」「起きてますね。さあ支度をしましょう」「…」暖かい布団の中で必死に抵抗する。朝日なんて見たくないもん。眩しいもん。「姫さま姫さま」「…」「もう7時ですよ」「!!!」あたしは飛び起きてものすごい速さで制服に着替えた。髪をとかして、顔を洗い、食卓に向かって猛ダッシュ。あそこまで必死に走って5分。ここは魔法界第三王国の偉い人が集うお城。首都コチョットの街の北にあって、大きくて、綺麗なお城。銀と白が基調の入り組んだ見た目で、世界名建築100選にも選ばれてる名城なの。どんな天気にも映える、そんなお城。我が家なんだけどね…。

あたし?あたしは、そんな素敵なお城に住まうお、ひ、め、さ、ま…ってワケ!うふふふふ!オホホホホ! 
「ゲッ!」「ゴラアアアア!姫ええ!」
あれはコックのライラじゃんか!「なーにいいい?あたし何もしてないよおおお!」「してるがなぁ!飯が冷めるよお!」「分かったよもー!」
「そこから10秒で来なさい!」「うおおおっ!」
ダダダダダーッ「あっスゴイ!速い」「ヤッター」ピース。そしたら「こらっ!廊下は走っちゃいけません。やっと起きたと思ったらこれですよ…朝は穏やかに過ごしましょう」「ハーイ…ていうかノエラ、私の部屋から来るの早すぎない」「いえ、そんなことは」「早く食えって姫」「はーい」
 「うーんあったかい好き!」「ガハハ可愛いなうちの姫は」「そうですね」長テーブルの隅っこに座ってできたでホワホワのスープを飲む私を、両脇で2人が見守る。「ごちそうさまでした。おいしかったです」「おう」「では行きましょうか姫さま」「はーい」さ、学校だ!「ノエラー、ホウキ頂戴」
「今日は学校じゃありません」「え!!??」「塾ですよ」「うわあーん」「大丈夫です。私が隣に居りますから」「そういうことじゃないのー」「ホラ!行きしょう」やだーーーっ!

 「古代から続くわが国の歴史において最も注目すべきは領域である。わが国は、各国より多い、最多の特別領域を保持し、その多くは世界中から注目され、価値あるものとして厳重に保護されている。一方で皆が知っているであろうが、わが国は世界に向けて非公開の領域をもつとされ問題になったことがある。しかしそれは事実ではなく、強大な力を放つ領域を隠すことはわれわれには不可能であることは法暦83年に第一王国のカルエラ調査団により証明されている。その他にも、各国、国内、地域内において領域に関する問題は数多くあり、今を生きるわれわれが一つ一つ、解決していかなければならない。」 
「読めましたね、素晴らしい!」「…あ、りがとーございます」「続けてどうぞ」「はい」
「領域とは、すべてを超越する存在である神々によって生み出された特殊な区域のことである。領域には属性があり、…云々」
「はい、そこまで」
「ありがとうございました」
「お姫様?領域についてどう思われますか?」「…とにかく、その、大事にしなきゃならないんだなって。」「よろしいです」


お城を出てお散歩中!
座学が終わったら、必ず外出するのが日課だから。あぁーー疲れたぁ!

西の方にあるいていくと、森がある。
真っ暗な森。私はあそこが怖くて、西の方には行かない。小さいときに、好奇心で行ったことがあるんだけどね…。

首都コチョットから少し離れた荒野に、1人の女が突っ立っていた。女のうっすらと見開かれたグレーの瞳には、光が一粒もたたえられていない。目の前には20メートルほどの大きな縦長の岩が二つそびえ立つ。目線の高さに注意書きが刻まれている

   立ち入るな 立ち入れば死 この先何も
   通用せず 人は皆 求め ここの奥へ奥へ
   探し物をしに 行くが 戻って来ぬ
   入るのなら 十歩歩いて 戻れ
   
と、記されている。その下に、小さな文字で、びっしりと、何か書かれていた。女は座り込み、砂を手で拭い去り認識を試みる。


   ここから 領域 ある 
   火の域 地の域 風の域 水の域
   そこには何も ない あるとすれば
   無 幻 狂気 また…

「…ダメだ、もう読めない」そう呟き、女は立ち上がった。「勉強不足かしら、これではだめね」真珠色と見間違えるほどの淡い灰色の髪を、白く滑らかな指でかきあげ、近くには変わらず冷淡な髪と同じ色の瞳があった。
 女はもう一方の、右側の岩を見てみることにした。岩には何も書かれていなかった。女は隅々まで見てみたが、何もなかったのでため息をつきその場を去った。


     
 



   

赤点魔法つかいヨナカ

赤点魔法つかいヨナカ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-10

Copyrighted
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