虫の息だった。つめたくなった、足の指から、蔓が巻きつく。甲、足首、脹脛、膝、太腿へと、蛇が這い上がってゆくように、あたしのからだの輪郭を蔽うように、半壊した教室で見る、きみの虚像。知らない植物に侵されて、花の苗床となる。可憐な、という言葉が、ぴったしはまるといいのに。単なる滑稽な鉢植えにはなりたくない。氷点下の放課後。先生のネクタイを締めて、それだけで満足している、ネオ。
 叶わないけれど、恋をしていた。命がけで。だから、それを無駄だと嗤うやつがゆるせなかったし、くだらない他人の戯言にいちいち傷つくネオを、すこしだけばかみたいと思っていた。
(うそ)
 ほんとうはいつも、かわいそうと思っていて、でも、ネオのことをかわいそうと思う瞬間は、あたし、というにんげんが、酷く傲慢めいている感じがして、いやだったのだ。きみに思われる、かわいそうは、あたしにとって甘美なのにね。
 あしたは晴れるかな、と呟くネオ。
 壊れた天井から、赤紫色を帯びた昼と夜の境の空が見える。
 そうだね、とだけ、あたしは答える。
 皮膚を撫でるように刺さる、棘が痛い。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-09

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