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 繭。ぼくらは、ひとつのからだだったときに失った、おそらくとして、にんげん、という生きものを続けてゆく上でひつようななにかを、二度と手に入れることはできないのだとわかり、きみは空をにらみ、ぼくは海を想った。安っぽい味のハンバーガーが、でも、ときどき、無性に食べたくなる夜は、そのあとに行う営み、すでにもう、にんげんとしてのなにかが欠落しているぼくらの、それでも、にんげんらしい行為として、夜のさみしさを埋めるように丁寧に、とりおこなう。儀式めいている。安らかな朝の訪れを阻む、真夜中のバケモノのつめたい指先が、青白い月を撫でる仕草にならって、肉越しの骨に触れるみたいに、ぼくの肌をはう、きみの手。ふたりぶんの重さに沈む、ベッドの、ちいさな悲鳴。蛹だった頃のことを覚えてる、と訊ねると、きみは決まって、そんな昔のことは忘れたと嗤う。歪なくちびるで、ぼくの皮膚をじゅっと吸うのだ。薄皮の下の脂肪ごと。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-07

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