22世紀のまだ見ぬ子孫へ
セワシよ、これは時を跨ぐ遺書だ。
お前は私の孫の孫にあたる。
お前やお前の両親に多額の借金を残して死ぬ私をどうか許してほしい。
そして私の頼みをどうか聞いてほしい。
私はお前と違って、子供の頃ドジでノロマで頭が悪かった。
おまけに目が悪く、子供の頃から度のきついメガネをかけていた。
同級生のガキ大将Jにいつも虐められ、金持ちのSからいつも揶揄われ、成績優秀のDにいつも嫉妬していた。
だから学校生活はあまりうまく行かず、Sちゃんという好きな女の子に想いを寄せておったが、いつも空回りで、男として不甲斐ない毎日を送っていた。
そんなある日、私の家に未来から猫型ロボットがやって来た。
タイムマシンに乗って、私の部屋の机の引き出しから突然出て来たんだ。
この前ニュースを見ていたら、科学の進歩でついに私が生きているこの時代にタイムスリップが可能な理論が完成し、試作のタイムマシンが過去に向けたタイムスリップの実験に成功したらしい。
セワシの時代では家庭用タイムマシンの実用化が進んでいるはずだが、未来から私の家にやって来た猫型ロボットはセワシがいる時代からやって来た猫型ロボットだった。
その猫型ロボットはセワシがダメな先祖である私のために未来から送ってくれたものだった。
礼を言う。
ありがとう。
猫型ロボットのくせに、見た目は二頭身の丸くて青いタヌキみたいだったがな。
その猫型ロボットが我が家に来てから、それまでの不甲斐ない私の暮らしが一変した。
猫型ロボットと猫型ロボットが出す未来の便利な道具のおかげで、毎日がエキサイティングで楽しいものになった。
語り尽くせない思い出がたくさん出来た。
しかし道具は便利でも、それを使う人間が私みたいな愚かな人間であれば、結果散々な目に遭うこともある。
楽したい。
得したい。
私はそんな欲望に駆られ、よく道具の使い方を間違えた。
そして予期していた結果と違う結果を引き寄せた。
猫型ロボットはそんな私のドジな性格も承知の上で、私の教育係を努めていた。
ずる賢く狡猾な人間が猫型ロボットの道具を使えば、世界はあっという間に滅びてしまうだろう。
だからその猫型ロボットは私以外の人間に未来の道具を悪用されないよう、私が成人になるまでの間だけ私の教育係を務めるようプログラムされていた。
猫型ロボットの最終目的は成人した私とSちゃんが無事に結ばれるのを見届ける事。
それが実現すれば私の人生もお前たちの未来も幸福なものになるはずだった。
しかしその任務が完了したら猫型ロボットは自動的にスクラップになる。
そんなプログラムも組み込まれていた。
教育係の猫型ロボットとはいえ、私は長年連れ添ってくれた彼に家族や友達以上の感情を持ってしまった。
私がSちゃんと結婚する事で彼がスクラップになってしまう事は、私にとって死ぬほど辛かった。
だから私はその猫型ロボットの延命を計り、Sちゃんと結婚しなかった。
それでもその猫型ロボットはなぜかスクラップになってしまった。
だから私はそのスクラップになった猫型ロボットを研究し、生き返らせるために再開発する事を決意した。
Sちゃんと私が結婚してもスクラップにならないプログラムを組み、さらに未来で私のような社会的に弱い子供を教育するための便利な道具を生み出すために、莫大な借金を背負って研究開発に尽力した。
私はそれが自分の果たす社会貢献だと人生を捧げ、私の息子にもそれを引き継ぎ、孫の代でやっと猫型ロボットと道具の開発に成功したのだ。
だが開発した特許を金に目が眩んだ者たちに奪われ、莫大な借金の返済目処が立たず、結果お前たち家族を不幸にしてしまった。
全ては私のエゴと思い上がりのせいだ。
私はこの時系列をやり直したい。
過去に遡ってお前たちが幸せになるためのパラレルワールドを平行させたい。
だからセワシよ、過去の私のところへ、もう一度お前たちの時代の猫型ロボットを送って欲しい。
今度はきっとうまくいく。
お前たちを不幸にした私のワガママをどうか許してほしい。
よろしく頼む。
野比のび太
22世紀のまだ見ぬ子孫へ