八月の偶像

 深いところで、まっていた。古代生物を愛するあまり、現代に生きることを放棄した、きみが、街はずれの廃墟にかくしている、ひみつの少年は未来人であり、みらいじん、という響きがなんとも、フィクションとノンフィクションのあいだの、ぼやけていて、どっちつかずの感じで、稀薄で、虚ろだった。だれかをうらむことで、ゆるしてくれるのは、じぶんだけだった。向日葵畑に眠っていたのは、いつも、どこか輪郭の曖昧な存在の、人類、と呼ぶには質量のない物体で、けれど、やわらかな感触の、あたたかいものだ。神さまを信じている、きみの、祈りの時間にみる夢は、きっと、うすやかなペールブルーの生地に包まれた、うまれたばかりのどうぶつの肉体である。燃えているのは森で、光っているのは海で、凪いでいるのは空で、朽ちていくばかりなのは生命体で、それでもやさしいのは、きみだけだった。

八月の偶像

八月の偶像

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-03

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