ボクをロボットに改造するなんて

菜月進(なつきすすむ)

 ボクは群れから離れて、本を読んでいた。船の中では同じ種類の動物で群れを作る習慣があるのだけれど、ボクのように群れになじめなくて、一人を好む動物はちらほらいる。
 でも今回は、単独行動が仇になった。宇宙船で事故が起きたんだ。
 宇宙船が大きく揺れ、警報が鳴る。ボクは飛び起きて、周りを見た。この船は動物が住むエリアだけでも、端から端まで行くのに丸一日くらいかかる。揺れると言ったら、隕石の衝突くらいしかない。
 腕輪には現在位置と、自室への最短ルートが表示されている。戻れと言っているんだ。警備ロボットがいっぱい出てきた…………見つかったら、言い訳が出来ない。ボクは急いで群れのみんなに合流した。
 船の中の動物はみんな部屋の中へ戻されて検査を受けた。結果、ボクは群れから離されることになった。宇宙放射線を浴びすぎたらしい。宇宙船は動物をありのまま残しておくために何百年も、何千年も飛び続けている。遺伝子が傷ついてしまった動物は、群れから隔離しなきゃいけないんだ。
 ボクは船の奥へ連れて行かれた。船の奥は動物が立ち入っちゃ行けない場所って言われてる。ボクはもう、動物じゃないのかな。
「ホムラオオカミのキューイだな?」
 船の奥には広い部屋があって、そこには初めて見るロボットがいた。牧場で見かけるロボットたちと違って、動物に似た姿をしている。二本足で立ってるし、耳も尻尾もある。顔もなんだか動物っぽくて、何だろう……黒豹、なのかな。背格好はボクと同じくらいだから、子供なんだと思う。身体のあちこちに機械がくっついてるからロボットには違いないんだけど、なんていうか、普通のロボットとは違う、特別な感じがする。
「はい、ボクがキューイです」
 特別なロボットは手を後ろで組んで、背筋を伸ばしたしたまま喋ってる。偉い人みたいだ。
「気の毒に思っているよ。あれは事故だった、お前のせいじゃない。でも箱船の規則で、遺伝子の傷ついたおまえを保護することはできない」
「規則、ですか」
 そんな規則知らなかった。ボクは不満だった。
「事故が原因とはいえ、お前が居た場所は基準値レベルを越える宇宙放射線が降り注いでいた。船の決まりでは、お前は無断で群れから離れて、立ち入っては行けない場所へ入ったということになる。立ち入り禁止を破ることが悪いことなのは、知っているな?」
「知っています。でもそれは、理不尽だって……」
「分かっている。お前に集団行動の命令は出ていなかったし、立ち入り禁止の指示も届いていなかった。だがオレはロボットで、箱船を動かしてるのはコンピューターだ。お前たち動物と同じように、気持ちで物事を決めるようには出来ていないんだ」
 そっか、機械だったらそうなるよね。ボクはなんだか、すごく納得できた。
「ボクは、どうなるんですか」
「決まりでは殺すことになっている……そう身構えるな、話には続きがあるんだ。特例として、マスターが認めた動物はロボットに改造して、箱船のクルーとして運用できる決まりがあるんだ」
「マスターって、誰なんですか」
「箱船の制御コンピューターだ」
 ボクは部屋の中を見渡した。ボクが住んでた牧場エリアと違って緑が全然ないけど、監視カメラはしっかり付いてる。船そのものを制御するコンピューター、あれでボクを見てるんだろうか。
「ボク、認められたの?」
「気の毒に思っていると言っただろう。オレもマスターも機械だが、動物を理不尽に殺したいとは思ってないんだ。これくらいの融通は利かせる」
 ロボットって、思ったより優しいのかな……ロボットに改造されるって、どんな感じなんだろう。
「あの、聞いてもいいですか」
「なんだ」
「あなたは、ロボットに改造された動物なんですか?」
「そうだ。この身体を触ってみろ」
 ロボットさんはボクに近づいて手を差し出した。触ってみると固くて、冷たくて、スベスベしてて、とても触り心地が良くて……動物だったなんて思えなかった。でも動物だったって思うと、ボクと同じで、毛並みがあって、温かかったって思うと……ドキドキして、胸が苦しくなるような気がした。
「やっぱり固いですね」
「手だけでは分からないだろう、他も触ってみろ」
 ロボットさんは両腕を開いてボクに身体を見せてくれた。固い肌には分厚い金属の板が付いてて、板はネジで留めてあって、排気口が付いてて、排気口からは熱い空気が吹き出していた。ものすごく頑丈そうだけど、身体の中、熱いのかな? 身体に直接くっついてて、肌じゃないのに肌みたいで……スベスベとは違うけど、触ってて、なんだかドキドキした。
 穴は他にもあったけど、シャッターで閉じられてて、何のための穴かは分からなかった。
「気は済んだか?」
「あ、はい」
 名残惜しかったけど、ボクは手を離した。
「ロボットに改造された動物は、他にもいるんですか?」
「かつてはいたが、壊れてしまった。今はオレだけだ」
「そう、なんですね」
 ひとりぼっちの、改造された動物……なんで、なんでこんなにドキドキするの?
「もう質問はないのか? 部屋を用意するから、そこで少し考えるといい」
「い、いいえ! ロボットになります。ボクを改造してください!」

◆◆◆

 ボクは大きな機械が吊してあるコンクリートの壁の部屋に案内された。分厚くて平べったい鉄板が立ててあって、その前に立つように言われた。
「すぐにでも初めて欲しいだなんて。キューイ、なぜそんなに急ぐんだ?」
「自分でも分からないけど、ドキドキして、急ぎたいんです。あなたの……あ、あの」
 ボクは自分が思ってる以上に焦っていることに気がついた。急いではいたけど、こんなことにも気がつかないなんて。
「なんだ」
「名前を、聞いてもいいですか」
 動物だったロボットさんの名前を、まだ聞いてなかった。
「クウロQW-93が正式名称だ。クウロが名称、QW-93が型式番号だ。胸のプレートにも書いてある」
 胸に書いてあるアルファベットと数字は、やっぱり名前だったんだ。
「型式番号は正式な呼称だ、理由がなければクウロと呼べ」
「分かりました。クウロさんは改造される前、黒豹だったんでしょうか」
 クウロさんは顔を指でかきながら答える。
「そうだ。改造されたのはだいぶ前だが、面影は残っているかな」
「は、はい! 今でもちゃんと分かります! あの、男の人、ですよね?」
「そうだ、キミと同じ、男の人だよ。ロボットの性別がどちらであろうと意味はないがね」
 クウロさんと話が出来て、嬉しかった。そして、ドキドキの正体が分かった。ボクはクウロさんに一目惚れしてしまったんだ。
 ボクは恋をしたことが無かった。発情期になっても、女の子にも男の子にも惹かれなかった。なのにロボットのクウロさんに触ったときから、こんなにドキドキして……きっとボクはホムラオオカミなんかじゃなくて、ロボットになったほうがいいんだ。
「あの、教えてくれてありがとうございました。あと、その、ロボットになるのって、痛いですか?」
「痛くはない。苦痛の類いは極力排除してある。ただ、性的な心地よさを感じるから、淫らな振る舞いを見られたくないなら、オレはなるべく見ないようにするよ」
 改造されるのって、気持ちいいの? しかも、クウロさんに見られる……。
「い、いいえ。恥ずかしくありません。ただ、それでもちょっと怖いです……見ていてくれませんか? 何が起きてるのか、教えてくれると嬉しいです」
「いいだろう。心の準備はいいか?」
「はい」
「何か身につけているものはあるか?」
「アクセサリーを少し」
「じゃあ外して。外したら、その鉄板の前に立って」
 機械のアームが降りてきて、ボクを宙づりにし、鉄板に押さえつける。クウロさんが言った通り、痛くはない。アームの先端には柔らかいゴムみたいなものが付いているし、動きも優しい感じがする。制御は自動らしく、クウロさんは座ってモニターを見てるだけで、操作してる様子はない。
「あの、クウロさん」
 クウロさんは返事する代わりに、ボクのほうを向いた。
「ロボットに改造するんですよね、部品は用意しないんですか?」
 クウロさんはボクを指さした後、横にあるタンクを指さした。
「キューイは金属の部品からロボットを組み立てると思ってるようだが、それは一般のロボットの話だ。ロボットの部品は、動物だ。動物の身体をナノマシンでロボットそのものに変換するんだ。変換して分解し、消耗部品を取り付けて組み立てて完成だ。キミの横のタンクにナノマシンが入っている」
 ボクは自分の身体を見る。ボクが、部品。ボク自身が部品なんだ……なんだか、ドキドキしてきた。
 身体のあちこちに冷たい液体が吹き付けられ、そこにチューブのようなものがくっつけられる。腕や太もも、耳の付け根、お尻の穴……何をするんだろう。
「痛くないだろう? 麻酔が効いてるからな。チューブがくっ付いた場所にはもう穴が空いてるんだよ、そこからナノマシンを流し込んで……ほら、もう始まる」
「始まるって、ひゃああ!」
 あああ、熱いいい! 身体が、火照ってぇ! 目、目が変になる、ボクの姿が鏡みたいに見えて……なにこれ、全身に緑色の線が走ってる、光ってるよ?
 チュィィッ!
「ああっ!」
 キュイン、キュイン!
「て、手が回るぅぅ!」
 いつの間にか、手が金属、機械仕掛けの、ゴツゴツしたものに変わっていた。動かすとモーターの回る音がする。指をこすり合わせると、金属のガリガリって固い感じがする。流れる電気と油の量まで分かる、これは機械の手だ。
 プシュゥゥ!
「ふぅぅ!」
 熱い、痺れる感覚に思わず身震いする。足? いや、下半身が全部機械になってるんだ。両足の油圧シリンダーが腹部の油圧オイルタンクからオイルを受け取って動き始めてる。
 プシッ!
「きゃああ!」
 身震いしたのは、冷却水タンクが完成して、全身が冷え始めたからだ。ボク、生身の身体から、どんどん機械になってる……本当に、ボクの身体が、そのままロボットになってるんだ。
 ガキン!
「おっおああああ!」
 ロボットになっていく自分が嬉しいと思った、そのときだった。感情ではない、感覚的な気持ちよさがボクの全身を襲って、身体が跳ねた。目の前に自分の全身が鏡映しのように映った。ボクのおちんちんがズームアップされる。勃起したおちんちんが少しずつ、金属に変わっていく様子が映し出される。
 ジジ、ジ……。
 お腹の中で完成したバッテリーから、ナノマシンに電力が送られているのが分かる。おちんちんは根元から金属化が進んでいるが、まだ生身が残っていて、少量の精液を吐き出している。気持ちいい、でもなんで精液が? ロボットは子供なんか作れないのに。
 ゴバァァァァ!
「ああっ! かっ、はぁ!」
 全身を冷却水が駆け巡り、冷やされた油圧オイルタンクからオイルも流れ出し始める。胸の水冷装置と排気ブロワが完成し、動き始めたのだ。ボクの肺は消滅し、口は呼吸をしていない。代わりに、胸にある吸気口と排気口がブオオオオと大きな音を立てて呼吸している。熱の制限で動けなかった体中のいろんな装置が一斉に動き始めて、ボクという装置がせわしなく動いている。ボクは自分の機能に振り回されて一呼吸置くことも出来ない。それどころか、徐々に金属化していくおちんちんが気持ち良すぎて、でもどうにも出来なくて、まともに状況を把握できない。おちんちんはもう半分以上が機械化している……いや、それどころか首から下、胴体のほとんどはもう機械に変わっているようだった。
 チュイ、チュィィ……。
「く、クウロ、さん」
 目もカメラのようになっていて、前とは見え方が違う。ボクは不慣れな目を動かしてクウロさんの姿をなんとかレンズに収め、フォーカスを合わせる。クウロさんがボクに近づいてくる。
「なんだ、キューイ」 
「た、たすけ、て」
 ボクは、自分でどうにも出来ない現状が不安だった。
「絶頂できないんだな、それなら不安にもなる」
 クウロさんがボクのおちんちんをつまむと、ボクは射精した。
「ふあああああ!」
 おちんちんは完全に機械化し、絶頂が脳を支配した。いや、もう脳みそじゃなかった。ボクの脳は半分以上機械に変わっていて、ボクの思考はAIが行っていた。ボクはそれに気がついていなかった。
「クウロ、サン……ガッガピィィィ! ぼ、ぼく……キィィィイイ……ボク、ロボット、ニ?」
「ああ、キューイはロボットになれるよ」
 クウロさんはボクの胸の中に指を入れると、何かのスイッチを押した。
 バチィッ!
 ピー! CPU冷却開始……頭のハッチが開いて、CPUが露出する。冷却液が周囲に流れ込み、シュウシュウと湯気を立てている。頭から湯気が出るなんて、ボク、脳みそも機械になっちゃったんだ。じゃあボク……ザザ、ザ……。
 AI変換率が50%を超えました。制御をAIに切り替えます。
 え、A、I? ボク、プログラムに、なっちゃった……制御、できる。機械の身体が、制御できる、よぉ。
 カメラアイが、よく見える。クウロさんの姿も、よく見える……あっ、CPU変換率が100%になった。ボクもう、完全にロボット、なんだね。
 ガジュン! ゴッ、ゴッ……。
 分解が始まった。首が、手足が、外されていく。動力炉が、外される。ボクの電源が、落ちる……。
 ベーシックシステム、起動チェックOK。
 型番割り当て……QY-94。
 正式名称……キューイQY-94、登録完了。
 ロボットモード起動します。
 関節用ショックアブソーバー装着……完了。
 過充電保護回路装着……完了。
 吸排気ファン用エアフィルター装着……完了。
 緊急用補助冷却装置装着……完了。
 予備バッテリー装着……完了。
 予備ナノマテリアルタンク装着……完了。
 各部メンテナンスハッチ取り付け……完了。
 外部デバイスおよび外部ストレージ用コネクタ取り付け……完了。
 CPU思考制御モジュール装着……完了。
 キューイQY-94組み立て開始。快楽信号受信。生殖器ユニットをハッチに収容……組み立て完了。
 ロボットモード終了、再起動します。システムグリーン、初期設定完了、システム復元ポイント作成開始……完了。ヒューマノイドモードで起動します。
「っはあ! はあ、はあ……あれ?」
 クウロさんが目の前にいる。終わった、の?
「キューイQY-94、プロセスは正常に終了したのか?」
「ピッ! はい、正常に終了しました」
 今の、なんだろう。QY-94って呼ばれたら、急にAIがロボットモードみたいになって、人格より、もっと基本的な、CPUの機能みたいな、そんなところが反応したような気がした。
「クウロさん、プロセスってなに?」
「再起動すれば分かるようになる、そういう風に作られているからな」
 クウロさんは黙ってボクの頭を撫でて、そのまま部屋を出て行ってしまった。ボクを固定していた機械は自然と外れた。
 ボクの電脳にはいつの間にか自分の部屋や任務がインプットされていて、誰にも案内されずに、自分の部屋へ行くことが出来た。
 部屋に着くと、箱船のコンピューターと接続するためのコンソールが備えてあった。ボクはインプットされている手順に従って、自分とコンソールを接続する。初めて与えられたのは、システムの電源を落とす許可。今日はもう任務が無いから、休んでいいんだって。
 ボクは身体を震わせた、許可が無ければ自分の電源も落とせない身体になっちゃったんだ。クウロさんと同じ、ロボットの身体。自分のお腹をさする。固い、スベスベで、冷たい。ボクの身体だったはずなのに、こんなになっちゃうなんて。股間だってそうだ、おちんちんがあったところはハッチで閉じられてて、中を触ることもできない。ハッチはプレートの上にあって、外せそうな見た目なのに外れなくて、触った感触も肌みたいで、ボクの身体の一部で……そうだ、ボクはロボットだから、部品は身体の一部なんだ。そういえば、クウロさんの股間も同じ形をしてた。クウロさんと同じ部品、おなじおちんちん、同じ作りのロボット。
「はあ、はあ」
 ドキドキ、する。ロボットって、ドキドキするんだね。あ、ケーブルが繋がってるの、忘れてた。こうしてるの、全部船のコンピューターに、マスターに分かっちゃうのかな。ボクがクウロさんが好きだってこと、これでもう、分かっちゃったよね。
「でも、それがロボットなんだよね、きっと」
 ボクは自分の、クウロさんと同じ部品の部分を触り続けた。特に、動物だったときになかった、プレートの部分と、アンテナの部分が気持ち良かった。ボクとクウロさんのおそろいの部分、ロボットの部分。固くて、金属みたいに光ってて、でもセンサーが入ってて、触ると感覚があって……気持ち良くて。
 結局、ボクは強制的にシャットダウンされるまで、ベッドの上で自分の身体をまさぐり続けた。

◆◆◆

「キューイQY-94、初任務を与えます。船外の様子を調査してください。壊れていたり、不審なものを見つけたら、報告してください」
 マスターからの通信だ。ボクの初めての活動は、船外の見回りだった。ボクの身体は追加装備なしで宇宙での活動ができる。箱船は大きく、全体にナノマシンが使われているから自己修復が出来るんだけど、その大きさのせいで、ごく小さな異常には気付きにくい。だからボクらのような、ロボットを使った見回りが必要なんだ。
 帰ってくると、クウロさんが出迎えてくれた。
「初仕事、ご苦労だったな」
「ありがとうございます」
 それだけ言うと、クウロさんは自分の仕事に戻ってしまった。

「キューイQY-94、ロボットの身体に慣れてください。戦闘訓練を命じます」
 模擬戦闘として、ボクはクウロさんと戦うことになった。ボクはライフル、クウロさんはレーザーナイフだけで戦う。訓練場所は船の入り口、ドッキングベイ。
 ボクのゴーグルはクウロさんを捉え、照準を定めていた。プログラム通りの正確な狙いでクウロさんを撃ったのにペイント弾はかすりもせず、クウロさんは物陰を使って距離を詰めてきて、いつの間にか後ろに回り込んでいて……ボクは背中を刺されて負けてしまった。後ろから組み伏せられたとき、久しぶりにクウロさんの固い肌に触れた。改造されてから、初めて触れるクウロさんの肌。センサーで感じるクウロさんの肌はやっぱり硬くてスベスベで冷たくて、でもそれだけじゃなくて、プレートが当たる部分はゴツゴツしてて、ネジが擦れて……それはボクも同じで、お互いに擦れ合って、でも、今のボクらは耐熱耐レーザー素材が使われてて、お互いを擦り合ったくらいじゃ傷一つ付かないって分かってるから、ぶつかり方に遠慮がない。
 それと、ボクはクウロさんの金属の肌にもセンサーが入ってるって分かってて、クウロさんもボクの冷たい肌の感触やプレートやネジが擦れる感覚を感じてくれてるんだってドキドキしたんだけど……クウロさんは何事も無かったみたいにボクから手を離して、訓練結果をマスターに報告して仕事に戻っちゃったんだ。
 ボクはなんだかガッカリして、でもそれを悟られたくなくて、がんばって落ち込んでないふりをした。

 今日、ボクは仕事を失敗した。レーダーの修理だったんだけど、周波数を合わせ損ねて、計器をオーバーロードさせてしまった。
「キューイ、あんな簡単な仕事を失敗するなんて」
「ごめんなさい」
「ナノマシンは有限なんだ。直せるからいいなんて考えでは」
「ごめんなさいって言ってるでしょ!」
 ボクは思わず、怒鳴ってしまった。ボクは自分の部屋へ駆け込んだ。ボクは悪いロボットだ。

「キューイQY-94、今日は昨日失敗したレーダーの修理の続きです。クウロQW-93と共同で作業してください」
 ボクはクウロさんと合流した。
「あの、よろしくお願いします。クウロさん」
「悪いが、仕事ではミスはできない」
 クウロはボクの後ろに回り込み、スイッチを押した。
「あっ……ロボットモード起動しました。ご命令をどうぞ」
「オレの言うとおりに作業しろ、いいなキューイQY-94」
「かしこまりました」
 作業は問題なく終わった。でも、ボクは最後までロボットモードのままだった。

「キューイQY-94、今日の任務はレクリエーションです。クウロQW-93と合流してください」
 マスターの命令で、クウロさんと二人でレクリエーションルームにやってきた。昨日あんなことがあったから、ちょっと気まずい。
「マスター、レクリエーションとしか指示を受けていない。具体的には何をするのか」
 クウロさんがマスターに問いかけている。クウロさんの指示でレクリエーションするわけじゃないらしい。
「お互いの肌に触れあい、センサーで感知し合ってください。命令です」
 マスターの命令とあっては、クウロさんも逆らえない。ボクらはまず視覚センサーから初めて、お互いを認知し合った。クウロさんの黒くて精悍な顔つき、黒いボディ、光沢のある肌。ボクと同じくらいなのに、どこか大人びた雰囲気。恋しい、愛おしい。触れてみたい。そうだ、今は触れていいんだ。命令なんだもの。ボクはまず、手に触れるところから始めた。
「む……」
 ガチャン、と重々しい音がする。金属同士がぶつかる音、ボクとクウロさんの手がぶつかる音。触る度にガチャガチャとやかましい音がする。ボクらの金属板には高精度のセンサーが内蔵されていて、触れる度に相手の肌を感じる。ボクもクウロさんも、固くてツヤツヤで、冷たい手をしている。その感覚がセンサーを通じでCPUに流れ込んでくる。心地よい信号、生身だったら絶対味わえない感覚。ボクは大胆になって、クウロさんの顔に手を触れた。
「おい」
「命令だよ。ほら、クウロさんも」
「あ、ああ……」
 やっぱり顔も硬くて、ネジや装甲板がゴツゴツしてて、冷たい。生身と違って、相手の目も触ることが出来る。ボクの金属の手で、クウロさんの綺麗な黒い瞳を撫でる。つやつやの綺麗な水晶だった。この水晶で、クウロさんはボクを見てるんだ。あっ、クウロさんもボクの目を触ってくれてる。ボクの黄色の水晶、今はクウロさんの黒い手で覆われてる。嬉しい、もっと触って欲しい。
 そのまま胸も触った。乳首みたいになってるネジ山も触った、ここにもセンサーがあることは知っている。触るとクウロさんがぴくって反応した。嬉しかった。ボクの硬い手がクウロさんを感じさせてるんだ。やられるままが嫌だったのか、クウロさんもボクの胸を触る。気持ち良かった。
「いつまで甘いことをしているのです、センサーは触覚だけでは無いでしょう。味覚や聴覚のセンサーも使いなさい」
 くちゅ……くちゅくちゅ。
 マスターに言われて、ボクらは味覚センサー同士……つまり舌を重ね合わせた。キスをした。口の中は意外にも温かくて、でも鉄とオイルと冷却水の味がして、伝わってくるのは心臓の鼓動じゃなくて、奥の冷却ファンの振動だった。嗅覚もおんなじような感じだ。お互いの身体のにおいを嗅ぎ合ったけれど、鉄と油と電解液の匂いばかりで、ロマンチックな感じはしない。
 でも、ボクは興奮していた。クウロさんの股間を間近に見ることが出来たからだ。ボクと同じなら、股間にある閉じたハッチの中に、クウロさんのおちんちんがあるはずなんだ。見てみたい、触ってみたい、舐めてみたい。ボクの全てで感じてみたい。でもそんなこと、許されるはずないよね。
「レクリエーションが不足しています、ケーブルでお互いを接続し、電気的な接触を図りなさい」
 ケーブルで繋がるの? ボクは機械と繋がったことはあるけど、ロボット同士で繋がるのは初めてだ。しかもクウロさんと……どうなっちゃうんだろう。いや、そもそも、どうやるんだろう。
「あの、クウロさん」
 伏し目がちに見ると、クウロさんは察してくれたみたいだった。
「頭と胸のハッチを開くんだ。ケーブルは部屋の中にあるから、それを使おう」
 準備をして、ボクらは互いをケーブルで繋ぐ。リンクを開始して、お互いのデータを送り合う。その状態で、さっきのレクリエーションをやり直す。
 ボクがクウロさんの胸部ハッチに触れると「冷たい」「固い」「スベスベしてる」「触り心地が良い」「興奮する」「好き」といった感情がCPUから溢れ、電脳のケーブルからクウロさんの電脳へと飛ぶ。ああ、ボクがクウロさんに一目惚れしてたことが、バレちゃった……ボクの信号に対して、クウロさんの信号が帰ってくる。
「嬉しい」「気持ちいい」「オレも好き」
 クウロさんが、ボクのことを、好き? ボクはクウロさんに想いを伝えたい一心で、開いた胸のハッチの中に手を当てる。ガチャンと音を立てて、ボクのコネクターがクウロさんの胸のジャックに刺さった。
「一目惚れでした」「ずっと好きでした」「クウロさんが好きだから、ロボットになりました」
 返ってきた答えは、こうだった。
「ロボットになってくれて、うれしかった」「ずっと一人で、寂しかった」「嫌われたくなかった」
 ボクはもう、我慢が出来なくなった。
「クウロさん、大好きです」
「オレもキューイが好きだ!」
 ボクとクウロさんは抱き合った。二人ともハッチを開けていたから、ガチャガチャと大きな音が鳴った。ハッチが邪魔でしっかりは抱き合えなかった。でも、それが良かった。
「やっと、やっとクウロさんを感じられるよ!」
 お互いの身体が邪魔で抱き合えず、四苦八苦して金属の身体をぶつけ合う感覚はセンサーが全て感じていて、その感覚はケーブルで二人で共有していた。二人で最適な動きでハッチに邪魔されぬよう抱き合える角度を探し、計算し、無言で抱き合ってキスをするのは、ロボットらしい連携ができていて嬉しかった。
「ん、ふっ……」
 潤滑液に濡れた金属の舌が擦れ合って、シャリシャリと磨くような音が聞こえる。
「ふふ、ハッチを開いたままだというのに、こうして二人で抱き合ってキスをして……オレの動作プログラムは優秀だと思わないか? キューイQY-94」
「ピィィ! はい、クウロQW-93に同意します……そ、その名前で呼ぶのはずるいよぉ!」
 クウロさんも、機械の身体が気に入ってたんだ。だから、ロボットらしい解決法で二人が抱き合えるのは嬉しかった。
 レクリエーションはどんどん過激になっていった。開いたハッチの中にマズルをゴツンと押し当て、通常なら絶対にセンサーが触れない相手の動力炉や循環ポンプ、吸気・排気ブロワ、CPUなど、あらゆる箇所に嗅覚や味覚のセンサーを当てた。センサーは異常な値を示すが、これらの部品が「かつて生身だった相手から作られた部品」だと思うと、興奮した。その数値を知ってることは、特別なことだと思った。
「クウロQW-93、データの提供に感謝します」
 気がついたら、ボクらは型番で呼び合っていた。お互いをロボット扱いすることすらもはや気持ち良くて、もっともっと、少しでも気持ち良くなりたくて、出来ることはなんでもしたかった。クウロさんも同じ気持ちだった。同じ気持ちが、ケーブルから伝わってきた。
「キューイQY-94、データ検証のための実試験を提案する」
 数値の記録が終わった後は、子供が機械で遊ぶように、指で無造作に触れた。まず、ブロワのファンに触れた。チュインチュインと指先が火花を散らす。ファンが回転数を落とし、機能不全のエラーが目の前のモニターを赤く染める。センサーも異常を感知し、胸の中をくぐもったような熱い感覚が駆け巡る。それが心地よかった。
「はああああ! く、クウロQW-93、ボクは気持ちいいです!」
「はあ、はあ……キューイQY-94、オレも強い快楽を感じている。多くのエラーが認められるが、それを無視することを提案する」
 相手を支配し、相手に支配されている感覚。ケーブルで繋がれている今、その気になれば相手をロボットモードにして意のままにしてしまえるその状況で、オモチャで遊ぶように相手の身体で遊ぶのが心地よかった。一歩間違えば壊れてしまう、そんな危うい状況が、性的興奮を呼び起こした。
「楽しんでいるようですね。股間ハッチの解放と生殖器ユニットの使用を許可します」
 マスターに許され、ボクらの遊びはより性的な段階に足を踏み入れる。プシューっと音を立てて、股間のハッチが開き、機械化したおちんちんを露出させる。ボクらのおちんちんに、もう生殖器としての意味は無い。ただの通信用コネクタだ。でも、使い方次第で気持ち良くなることはできる。
「はあ、はあ、キューイQY-94! オレを受け入れてくれ!」
「受け入れます! クウロQW-93!」
 ゴリ、ゴリッ。
 ボクらはおちんちんを重ね合わせて、こすり合わせた。固すぎる二本のおちんちんを擦り合わせると、冷却水があふれ出てきた。固いとは言え通信用コネクタだ、あまり頑丈では無い。やり過ぎれば壊れてしまうだろう。
「キューイQY-94……もうひとつ、お願いが、あるんだ」
 クウロさんは、相手がいたら試したかったことがあるという。ボクは言われるまま、自分のおちんちんを外してクウロさんに渡した。クウロさんも自分のおちんちんを外して、ボクに渡した。クウロさんは股間の後部ハッチをシュッと開き、そこへボクのおちんちんを差し込むよう言った。
「規格は合うはずだ、頼めるだろうか」
「喜んで、クウロQW-93」
 エッチな気分が十分盛り上がってたボクは何でもやってみたくて、言われるまま、クウロさんの中にボクのおちんちんをブスッと入れた。
「はああああ!」
 気持ち良かった。感覚がリモコンで伝わってきて、金属同士の擦れる感覚がCPUに直接流れ込んでくる。促されるまま、ボクも股間の後部ハッチを開いて、クウロさんのおちんちんを入れてもらう。ズブズブと音を立てて入ってくる……入れられるのも、気持ち良かった。
「はあ、はあ……思ったより、気持ちいい」
「クウロQW-93、すごいよぉ」
 金属を締め付けるギリギリというきしむ音が響く中、ボクとクウロさんは腰が砕けて立ち上がれなくなっていた。クウロさんは柱に手を付けてふらふら立ち上がり、ボクに手を伸ばす。
「まだだ、本番が残ってる。データを送るから、指示通りにするんだ」
 ボクはクウロさんの手を取って立ち上がり、データを受信する。合体のコードだった。ボクらは今、股間ハッチを開いておちんちんを外した状態になっている。前の股間は空いた状態だ。そこで、互いの股間を合わせる格好でくっ付け、コネクタとして接続してしまおうというのだ。こんなところで情報をリンクしようなんて、クウロさん、実はすごくエッチな人なんじゃないかな。
「いいよ。ボク、やってみたい!」
 立ち上がり、二人で股間を突き出す。開いたハッチをくっ付け合い、上手くつなぎ合わせると。
 ピピピ……ガチン。ビー! バチバチバチ!
「ふああああああ!」
 流れる信号が大きすぎて、読み取れない。ただただ気持ち良くて、CPUの温度がどんどん上がっていく……緊急冷却装置を作動します!
 ブシュー!
 頭から勢いよく湯気を噴き出すボクとクウロQW-93。でも股間ハッチの接続は止めなくて、オーバーヒートしても続けてて、空冷ブロワがブォォォォってすごい勢いで風を出してて、冷却ポンプがチュゴオオオオって聞いたことの無い勢いで水を循環させてて、油圧タンクまで冷却のためにブシュブシュって油を全身に流してて、そのせいでボクらの全身から汗みたいに冷却液が漏れてる。
「クウロQW-93……ボク、壊れちゃう、よ」
「まだだ、まだ我慢しろキューイQY-94。快楽信号は増幅し続けている」
 びしょ濡れになってるのに、ボクとクウロQW-93は気持ち良くなりながらCPUをバチバチ言わせて、ずっと抱き合ったままで、時々感電してショートして、パンッって音を立ててコンデンサーが破裂して、それでも収まらなくて、ボクから……いや、クウロQW-93からだったかな? キスをして、クチュクチュして、二人でお互いの鉄と油の味を楽しんで、クウロQW-93が顔を傾けてボクの口に更に深くキスをして、冷却水をズズズって吸い出してくれて、でもそのせいでボクの冷却水が足りなくなっちゃったから、一度口を離して、二人の開いてた胸のハッチから循環パイプのホースを引っ張り出して共有して、二人で同じ冷却水を使って……クウロさんの冷却水がボクの身体に流れ込んでくるのがとても気持ち良くて、ボク気持ち良すぎて絶頂しちゃって、クウロさんの中に入れたおちんちんが射精しちゃったんだ。
「クウロQ、W-9、3……ガピィ!」
「エラー! エラー! まずい、機能の限界が……」
 機械になったおちんちんも射精すると小さくなるみたいで、クウロQW-93の中からおちんちんが抜けかけたから、クウロQW-93は戻そうと手を伸ばしたんだけど、二人で股間ハッチをくっ付けたままだったから手が届かなくって、代わりにボクが押し込むことになったんだけど、ボクの手も届かなくて、仕方ないからボクは自分の右腕を外して、左手で持って右手を遠隔操作で突っ込もうとしたんだ。
「遠隔、操作……エン、カク」
「システムメッセージ! 股間ハッチに負荷がかかりすぎています、原因を取り除いてください!」
 けど……遠隔操作って加減が効かなくて、クウロさんの股間ハッチの中をすごく強く触っちゃって、ボクの金属の指がガリッてこすっちゃって、クウロQW-93がものすごく感じちゃって、クウロQW-93の気持ちいいが繋がった股間ハッチを通じてボクにまで入ってきて、二人のCPUがまたバチバチ鳴り始めて湯気が噴き出したんだ。おちんちんはなんとか押し返せたんだけど、抱き合ったままだったから外した腕は付け直せなくて、ボクの右腕は外れたままで、クウロさんはボクの右腕の断面を愛おしそうに左手で撫でるんだ。
「Q、W……カイラク、シンゴウ……」
「エラーは、無視……ビビィー!」
 金属の手で断面を撫でられると電気回路がショートしてパチパチして気持ち良くて、でもエラーが出て目の前のモニターは赤くなって、これ以上は止めろって出たんだけど止めたくなくて、もっと、もっとって思って、ボクとクウロQW-93はCPUを直接繋ぐことにしたんだ。
「ビーッ! ビーッ!」
「深刻なエラーが発生しています。深刻なエラーが発生しています」
 CPUを直列で繋いでボクとクウロQW-93は一つになって、ロボットモードが起動した。異なるロボットのCPUを直列で運用することは想定されてなかったから、激しいエラーが起こったけど、ボクら二人は強制的に結びつけた。
「CPU、結合、完了」
「システムバス、確保できません」
「ストレージの共有を提案、提案」
 強引なコマンドはキューイQY-94とクウロQW-93の快楽信号を危険水準に引き上げるのに十分だった。両機体は自発的に機能を停止することができず、かといって自力で回復することも不可能だった。
「クウロさん、好き。愛して」
「キューイ、好き。消えないで」
 キューイQY-94とクウロQW-93はもう、自然に壊れるのを待つだけの鉄くずに過ぎなかった。

◆◆◆

 結局、あのレクリエーションはボクら二人が壊れるまで続いて、後でマスターが助けてくれた。すごく怒られたけど、ボクとクウロさんはとっても仲良くなった。今ではケンカもせず、二人できちんと、船の防衛用ロボットとして働いている。
 実は、あのときの壊れる寸前のデータは保存してあって、二人でこっそり追体験して楽しんでいる。

ボクをロボットに改造するなんて

ボクをロボットに改造するなんて

  • 小説
  • 短編
  • SF
  • 成人向け
  • 強い暴力的表現
  • 強い性的表現
更新日
登録日 2021-08-03

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