ベテラン店主
瞼の奥は懐古の無限に。
セル画を何枚も重ねた空に、
激しく光量漏れした朝陽が昇る。
フレームに入り切れない雲が、
何枚も何枚も現れては消えする。
何も見えない時間から、
一瞬だけ許され瞼を開ける時。
一コマずつゆっくりと、
記憶が送られ終わる時。
回想したい思いを詰めた、
時のカプセルが出来上がる。
始まりは何時だったのか?
もう終わりの時間なのか?
続けようと思って良いのか?
もう諦めて次を目指すのか?
調子が悪いから静養するか?
この世に影が在る限り、
ぼくの一生は決して終わらない。
でも今は、
ジッと少し瞼を閉じている。
重なるセル画も汚れている、
元通りになるのはあと何十年。
それまではしばらく、
懐古の記憶を眺めて過ごそう。
年老いたカメラ屋の店主が、
そう呟いてシャッターを閉めた……
ベテラン店主