孤独な男

山野純は孤独な男である。彼の母は妊娠中毒症で純を産むのと入れ替わるように死んでしまったのである。
高校を卒業して、都会に出て、ある小さな会社に就職した。家賃三万のアパートを借りた。
給料は少ない。純は子供の頃から内気で友達がいなかった。彼は母親を知らずに育った事もあって、女の子の友達がほしかったが、どうしても自分から言う勇気は持てなかった。
アパートに帰っても、また休日も何もする事がない。
会社に就職すると、彼はすぐに車の免許をとって、ローンで車を買った。
純はどうしても車が欲しかったのである。車があれば、あちこち好きな所に行ける。また車に乗れば、運転者同士の対話も出来る。
純はよく一人で海に行った。対向車を見ると、彼女を横に乗せて運転している男がほとんどである。純も彼女を乗せてドライブしたいと熱烈に思った。だが、純には女に声をかける勇気などない。純の車はいつも純一人きりである。
「ああ。かわいい女の子を横に乗せて走りたい」
純はそんな事を思ってため息をついた。

純と同期に入社した社員の中に京子という一人のかわいい女がいた。同期の男の社員達は、彼女によく話しかけた。彼女も彼らとよく話した。純も彼女に惹かれた。
純も彼女と友達になりたいと思った。しかし、内気な純は京子に話しかける勇気はなかった。昼食も純は一人で食べた。その後の昼の休み時間も純は一人きりだった。

ある日の事である。
仕事が多くなって、純は勤務時間がおわっても、残って仕事を片づけた。夕方から降り出した雨が激しくなった。やっと仕事を片づけて、帰ろうとカバンを持って立ち上がった。その時、もう、みんな帰って誰もいないと思っていたが、京子が黙って机に向かっていた。純はびっくりした。
「お、お先に失礼します」
純はどもりどもり言ってコソコソと去ろうとした。
その時、京子が立ち上がった。
「あ、あの。純さん」
「は、はい」
二人きりの部屋で京子に話しかけられて、純は真っ赤になった。
「あ、あの。私、今日、傘もってこなかったんです。あ、あの。あつかましいお願いで申し訳ありませんが、駅まで車に乗せてもらえないでしょうか。遠回りになるのであれば、いいです」
京子は顔を赤くして言った。
純も真っ赤になった。
「い、いえ。いっこうにかまいません」
純はへどもどして言った。
「ありがとうございます」
京子はニッコリ笑って言った。
京子を乗せて純は車を出した。
となりに女性を乗せて走るのははじめてである。
しかも、相手は憧れの京子である。
純の心臓はドキドキ早鐘をうった。
京子は黙っている。
それは見合いで共に照れている男女のようだった。
車を運転しながら、純は遠慮がちに話しかけた。
「あ、あの。京子さん」
「は、はい」
「京子さんの駅から家まではどのくらいの距離でしょうか」
「そんなにはありません。歩いて30分くらいです」
「30分なら、かなりの距離ですね。今日は天気予報で、降水確率20%と言ってましたから、傘を持たずに出社した人は多いでしょう。タクシーも行列が出来ていると思います」
純はゴクリと唾を飲み込んで言った。
「あ、あの。よろしかったら、このまま家までお送り致しましょうか」
「あ、ありがとうございます。助かります。でも純さんに悪いです」
「い、いえ。僕まだ車、買ったばかりで、運転するのが楽しいんです」
京子はニコリと笑った。
「じゃあ、お願いします」
純はカーナビを住所検索の表示にした。
「京子さん。京子さんの住所を入れて下さい」
「はい」
言われて京子はカーナビの画面にポンポンポンとタッチして自分の家の住所を入力した。
これで目的地が定まった。
純はほっとして、FMラジオのスイッチを入れた。
ラジオから心地のいい音楽が流れた。
純は、京子とドライブしているようで、最高の幸福に浸っていた。
「しているようで」と書いたが、実際それは女性とのドライブだった。
ある交差点で信号が赤になったので止めた。
少し先に焼き肉屋がある。
「純さん。あそこでお食事しませんか」
そう言って京子は、焼き肉屋を指差した。
「は、はい」
信号が青にかわった。
純は焼き肉屋の一階の駐車場に入った。
その店は一階が駐車場で、二階が店だった。
純は駐車場に車を止めて、京子と店に入った。
テーブルを挟んで純と京子は向き合って座った。
純は真っ赤になった。
憧れの女性と二人きりで食事するなんてデートしているような気持ちになったからである。
店員が注文を聞きにきた。
京子はロースとカルビとライスと玉子スープとキムチとジュースを二人分、注文した。
純は真っ赤になって、うつむいている。
すぐに店員が焼き肉を持ってきた。
熱くなっている網の上に京子は、どんどん肉を載せていった。
「純さん。焼き肉は好き?」
「は、はい。大好きです」
肉はジュージュー音をたてはじめた。
京子は、片面、焼けた肉を裏返した。
肉が両面、焼けると、京子は、
「はい」
と言って、どんどん純の皿に焼き肉を乗せていった。
「ありがとうございます」
と言って純は焼き肉を食べた。
京子は、あまり食べずズズーと玉子スープをすすっている。
「京子さんは食べないんですか?」
純は自分一人で食べていることに申し訳なさを感じて言った。
「私、いま、ダイエット中なの」
そう言って京子はニコッと笑った。
純の顔が赤くなった。
ともかく、京子はあまり食べず、肉をどんどん焼いていくので純が食べるしかない。
残すわけにもいかない。
結局、純が二人分の焼き肉を食べてしまったようなものになった。
食べおわって、二人は立ち上がった。
レジでは、京子が財布を出して金を払った。
純はそれをとめなかった。
こういう時、強引に自分が払う、と言うのは無粋である。
それは相手の好意を拒否する事だからである。
好意はありがたく受け取って礼を言う方が、相手にいいのである。
二人は店を出て車に乗った。
「京子さん。ごちそうさまでした。おいしかったでした。ありがとうごさいました」
純はペコリと頭を下げて礼を言った。
「でも、京子さんにおごってもらっちゃってわるいです」
「いいの。私を送ってくれたお礼」
そう言って京子はニコッと笑った。
「でも、わるいです。何かお礼をします」
「じゃあ、私のたのみを聞いてくれる?」
「はい。何でも」
「私、海を見に行きたいの。今週の日曜、連れてってくれる?」
純の顔がほころんだ。
「はい。喜んで」
純はエンジンをかけ、車を出した。

   ☆   ☆   ☆

日曜になった。
純は京子と海へ行った。
駐車場に車を止めると浜辺に出て、シートを敷いて座った。
初夏の日差しが心地いい。もうすぐ海開きである。風はなく海は凪いでいた。
「はい。純さん」
京子はバッグから弁当箱を二つとり出して、一つを純に差し出した。
「ありがとう。京子さん」
純は受けとった弁当箱を開けた。
豪勢なおかずが、御飯と一緒にたくさん並んでいた。
卵焼き、海老のてんぷら、焼き魚、しゅうまい、などが、きれいに並んでいる。
「うわー。すごい。これ、みんな、京子さんがつくったんですか」
「ええ」
京子は頬を赤くして答えた。
純は卵焼きをパクッと食べた。
「うわー。おいしい」
そう言って純はパクパク食べた。
京子も、急いで掻き込む純を見て微笑しながら、食べた。
「海っていいですわね。気持ちがほっとします」
「僕もそうです。海はいつまで見てても厭きないですね。水平線のかなたに未知のロマンを感じますね。まだ地球が丸いとわからなかった時の人達はなおさらでしょう」
そう言って純は水平線のかなたに目を向けた。
しばし二人は心地良い海風に身を任せて海を眺めていた。
純は言いにくそうな様子で京子に話しかけた。
「京子さん。どうして僕なんかとドライブしてくれたのですか。僕には何もない。僕が持ってるのは車だけです」
京子はニコッと笑った。
「そんな事ありませんわ。純さんは素晴らしいものを持っています」
「それは、なんですか」
純はすぐに聞き返した。
「純さん。よくお爺さんや、お婆さんをを車に乗せてあげてますよね。社内で人が言っているのを聞きました」
「え、ええ」
純は照れくさそうに言った。
「純さんは、やさしさ、という素晴らしいものを持っています。車に乗ってる人でああいう事をしている人は、いません」
「そ、それは、乗ってくれる人がいなくて、さびしかったからだけです」
純は照れくさそうに言った。

純は世間のマイカー主義者と違っていた。それは純の言った通り、乗ってくれる人がいない、さびしさもあったが、それ以上に純は心が優しかった。純は車を持ってない時から、自分が免許をとって、車を買ったら、出来るだけ困ってる人を乗せてあげようと思っていた。タクシー代は高いし、バスは待ち時間が長い。せっかく車を買ったなら、自分のためだけじゃなく、人に親切にしてあげようと思っていた。それで、行き先が同じ方向なら、純はバス停で、なかなか来ないバスを待っている人に声をかけて乗せてあげたり、突然の雨に困っている人や、老人などに声をかけて、乗せてあげたりしていた。乗せてあげた人が降りる時の「ありがとうございました」と言う喜びの言葉が何よりも嬉しかったのである。

空が曇りだし風が出てきた。
「京子さん。寒くなってきましたね。もう帰りましょう」
「ええ」
そう言って二人は立ち上がった。
二人は自動車にもどって乗った。
純はエンジンをかけ、車を出した。
「純さん。私、ちょっと疲れちゃったの。少し、あそこで休ませて」
そう言って京子は先にある建物を指さした。
純はびっくりした。
それはラブホテルだった。
だが京子の頼みとあれば仕方がない。
純はラブホテルの駐車場に車を入れた。
ラブホテルに入るのは純は初めてである。
純は緊張してガクガク震えていた。
京子は受け付けに行って、部屋のキーを受けとった。
そして純の手を牽いてエレベーターにのり、部屋に入った。
密室に二人きりになって純は緊張してガクガク震えていた。
京子はバタリとベッドに体を投げ出した。
「さあ。純さん。好きにして」
京子はうつ伏せになって言った。
純は興奮と緊張で心臓が止まるかと思った。
だが純は立ち竦んでしまった。
純にとって女とは、ひたすら崇拝する神のような存在だった。
どうして神に襲いかかることが出来よう。
しばしの時間がたったが、純は叱られた生徒のように立ち竦んでいる。
「私って魅力がないのね。触るのも汚らわしいのね」
京子がさびしそうな口調でボソッと呟いた。
「そ、そんな事ないです」
純はいきりたって言った。
「じゃあ、どうして何もしてくれないの」
こう言われては純もせざるをえない。
純はベッドに乗った。
そしてマッサージのようにうつ伏せの京子の足の裏や脹脛などを揉んだ。
「ああ。気持ちいいわ。純さん」
そう言って京子はうつ伏せのまま目を閉じて純に体をまかせた。
純は一生懸命マッサージした。
「まって」
瞑目して黙っていた京子が制した。
「服が邪魔だわ」
そう言って京子はムックリ起き上がり、ブラウスとスカートを脱いだ。
京子はブラジャーとパンティーだけになると、またベッドにうつ伏せになった。
「さあ。純さん。好きにして」
京子は目を閉じて体を投げたしている。
純は、また京子の足の裏や脹脛を揉み出した。
しかし目の前には京子の太腿やパンティーに包まれた大きな尻がある。
京子がうつ伏せになって目をつぶっているのをいい事に、純はしげしげと京子のブラジャーとパンティーだけの体を眺めた。
純は女の体の実物を見るのは、これが初めてだった。
純は興奮して激しく勃起した。
「純さん。足だけじゃなく、体中を揉んで」
目を閉じて気持ちよさそうに純に体を任せていた京子が言った。
純は女に頼まれると断われない性格である。
純は太腿を揉み出した。
純は女の体を触るのは、初めてなので激しく興奮した。
太腿から、弾力のある大きな尻へとつながっている。
「純さん」
「はい」
「もっと上の方もやって」
言われて純は太腿の付け根の方に手を伸ばした。
純は力を入れて揉んだ。
「ああ。そこ。気持ちいい」
京子が言った。
目の前にはパンティーの縁から尻がかなり見え、大きな尻が揉む度に揺れた。
純の興奮は最高潮に達した。
「ああっ」
純はとうとう射精した。
「どうしたの」
京子が聞いた。
「い、いえ。何でもないです」
そう言って純はマッサージをつづけた。
純のマッサージが心地良く眠気を起こしたのだろう。
スースー寝息が聞こえてきた。
ああん、と言って京子はゴロンと寝返りをうって仰向けになった。
ブラジャーとパンティーだけの女の下着姿を、こんなに間近に見るのは純には初めてである。
美しい女の曲線美の全てと、ふっくらした乳房を収めたブラジャーの二つの山と、パンティーの女の部分の盛り上がりが顕わになった。
純は興奮して心臓がドキドキしてきた。
純は京子が寝ているのをいい事に、そっとパンティーに鼻を近づけてみたり、京子に気づかれないようブラジャーを触ってみたりした。
柔らかい肉の感触に純は興奮した。
純が女の胸を触るのは、初めてだった。
純は京子が寝ているのをいいことに、京子の顔をじっくり見ようと顔を近づけた。
美しい眉、整った鼻、小さなかわいい口、全てが美しかった。
純はこんな機会はもう滅多にないだろうと思い、勇気を出して、そっと京子の唇に自分の唇をふれた。
幸い、京子は起きない。
純は唇を離し、再び京子の体を隈なく眺めた。
華奢な肩、くびれたウェスト、そこから一気に腰が盛り上り、太い太腿へとつながっている。
女の体はなんて美しいんだろう、と思いながら純は京子の体をまじまじと眺めつづけた。
しばしして、ようやく京子が目を覚ました。
「あー。よく眠っちゃった。純さん。マッサージありがとう」
と言って京子はニコッと笑った。
「もう時間ね。出ましょう」
そう言って京子は起き上がって、スカートを履き、ブラウスを着た。
二人はラブホテルを出た。

その夜、純は京子の体を思い出して、蒲団の中で興奮して眠れなかった。

翌日の月曜になった。
純が京子を見ると、京子はニコッと笑った。その姿が悩ましかった。
ピチピチの上下そろいの制服がまばゆい。男達はただ、その姿を仰ぎ見るだけである。しかし、その中までは見れない。しかし純は昨日の京子の下着姿が網膜に焼きついてしまって、意識を切り替えると、すぐに京子が下着姿になった。純は凛々しい制服姿の京子を見ると、自分はその中を見たんだという心地良い優越感が起こって夢のような気分になった。
そんな事で仕事も上の空だった。

その翌日の昼休み、京子は純の所に来て話しかけた。
「純さん。今週の週末もドライブ連れてってもらえませんか」
「はい。喜んで」
「嬉しい」
京子は飛び上がって喜んだ。
「今度はどこへ行きたいですか」
「ここの旅館です」
そう言って京子はパソコンで、その旅館のホームページを出した。
「どうですか?」
「は、はい。いい所ですね。楽しみです」
「嬉しい。では楽しみにしてます」
そう言って京子は去っていった。
純は平静をよそおっていたが、内心、緊張で心臓がドキドキした。
旅館ということは京子と一緒に泊まることだ。
その様子を想像すると純はドキドキした。
純の女に対する見方は普通の男と違っていた。普通の男は好きな女が出来ると裸になって、思うさま愛撫しあう。しかし純は京子にそうしたくはなかった。純にとって京子は、憧れの女神であり、裸になりあって抱き合って、対等の男女の関係になりたくなかったのである。夢は叶えられないから夢なのであって、夢が現実になってしまっては、もはや夢ではなくなってしまう。全てを知ってしまうと嫌な所だって出てくるかもしれない。純は憧れは憧れのまま、そっとしておきたかったのである。そういう点、純はウブな夢想家だった。
しかし一組の男女が旅館に泊まるのに別々の部屋に泊まるというのもおかしい。
そもそも京子が提案した、旅館に泊まる、というのは京子が純と一緒の部屋に泊まる事を要求してきた、という事である。

純は、旅館でどのように京子に接しようかと悶々とした思いで、その週を過ごした。

さて週末の土曜日になった。
純は京子の家に行き、京子を乗せて目的地へと車を飛ばした。
高速を一時間、飛ばした後、インターチェンジでおりて、田舎道を走った。
ほどなく旅館についた。
わりと大きな旅館だった。
両側に木が青々と茂った山があり、その間に大きな石ころの河原があり、清流かサラサラと流れている。
旅館の駐車場には、小型のバスが止まっていた。
どこかの集団の客が来ているのだろう。
純は駐車場に車をとめた。
純と京子は車を降りて旅館に向かった。
旅館の玄関には、
「××会社御一同様」
と書かれた張り紙があった。
玄関の戸を開けると、
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
と旅館の女将が妙にニコニコして深く頭を下げた。
その時。
「あーあ、いい湯だった」
と言いながら5~6人の浴衣を着た男達がゾロゾロと帳場を通り過ぎて行った。
彼らは京子を見るとニヤリと笑った。
純と京子は部屋に案内された。
部屋からは外の自然の景色が一望される。
「いい景色ね」
京子が微笑して言った。
「そうですね」
純も微笑んで言った。
二人は軽い食事をしてから、さっそく旅館の中の男湯の温泉に入った。
檜づくりの大きな温泉だった。
室内の浴槽からも、外の景色が見える。
大きな温泉に浸かっていると、日頃の疲れも忘れて、心地いい気分になってきた。
同時に、女湯に浸かっている京子の裸の姿が想像されてきて、純の股間のものは勃起してきた。
ここには外に露天風呂もある。
露天風呂に入る女の姿は美しい。つつましそうに浴衣を脱ぎ、髪を上げ、誰も見ていなくてもタオルでそっと胸と秘部を覆って、温泉に浸かって肩に湯をかけている姿は、実に情緒と風情と恥じらいがあって美しい。
純は京子のそんな姿も何とか見れないものかな、と思ったりした。
湯から上がって浴衣に着替えて部屋で待っていると、すぐに京子が戻ってきた。
浴衣に羽織をかけた姿が似合ってて美しい。
「純さん。ちょっと外へ出てみませんか」
「ええ。行きましょう」
二人は下駄を履いて外に出た。
河原に沿って二人は少し歩いた。
両側の、木が青々と茂った山々がすかすがしい。
京子は河原を歩きながら時々、屈んで清流に手を浸した。
「気持ちいいわ」
京子はニコッと笑って純に振り返った。
「春には鮎が産卵のため、この川を遡るんですね」
「そうですね。川の上流はもっと激流でしょう」
「それで、産卵して死んじゃうんですね。何か、かわいそうですね」
「そうですね」
京子は清流をそっとすくっては、そっと指を開いた。
指の間から清水が宝石のように、こぼれ落ちた。
「京子さん。川の上流に行ってみませんか」
「行けるんですか」
「ええ。ドライブウェイがあって、行けます。30分もかかりません」
「じゃあ、行きましょう」
こうして話がまとまった。
二人は旅館に戻って服に着替えた。
そして旅館を出て、車に乗った。
純はエンジンをかけ、車を飛ばした。
急カーブの連続のドライブウェイを純は飛ばした。
高くなるに連れて、見晴らしが良くなってくる。
30分もかからず、終点の休憩所についた。
二人は車をおりた。
遠くまでが見晴らせてすかすがしい。
吊橋がかかっていて、その下を旅館の前の川の上流が流れている。
川幅は狭くなり、流れも速い。
釣り人が2~3人、渓谷釣りをしている。
純と京子は、柵から周りの景色を見渡した。
「いい景色ですね。こういう自然の中にいると気持ちが、清々しくなってきますわ」
そう言って京子は大きく深呼吸した。
「そうですね」
純も京子と同じように深呼吸した。
二人は、休憩所の椅子に腰掛けて、持ってきた茶を飲みながら、周りの景色を眺めた。
「京子さん。吊り橋を渡ってみませんか」
純が提案した。
「えっ。でも、こわいわ」
「大丈夫です。僕がついてます」
純は胸をはって自信ありげに言った。
「わかったわ。怖くなったら私、純さんにしがみついちゃいますから」
二人は吊り橋を渡りだした。ワイヤーでしっかり支えてあるとはいえ、歩くと板がギシギシ音をたてて揺れた。
「こ、こわい。純さん」
京子は腰が引けて、足取りがおぼつかない。
大丈夫ですよ、と言って純は京子の手をしっかり握って歩いた。
だが、進むにつれて吊り橋の揺れと、ギシギシいう音は激しくなっていった。
「こ、こわいー。純さん。助けてー」
吊り橋の真ん中まで来た時、京子は歩けなくなって純にしがみついて立ち竦んでしまった。
「はは。ごめんなさい。京子さん。では、もどりましょう」
そう言って純は京子の体を反転し後ろからガッシリと肩をつんで、ゆっくりと一歩一歩あるいて吊り橋を引き返した。
「あー。こわかった」
京子は休憩所にもどると、ドキドキした胸を撫で下ろした。
風が出てきた。
「京子さん。もう、帰りましょう」
「ええ」
二人は車にもどった。
そして、つづら折りのドライブウェイを降りて旅館に戻った。
部屋にもどると純と京子は浴衣に着替えた。
「夕食が楽しみですね」
純はニコッと笑って言った。
「え、ええ」
だが京子の返事は何か、オドオドしていた。
その時、誰かが部屋の戸を叩いた。
宿の女将だった。
女将は京子を見るとニコッと笑った。
「あの。京子さん。約束の事、宜しくお願い致します」
そう言って女将はペコリと頭を下げた。
「は、はい。わかりました」
京子は顔を赤らめながら声を震わせて言った。
純には何の事だかわからない。
「京子さん。約束の事って何ですか?」
純が聞いた。
「あ、あの純さん。私、これからお風呂に入ってきます。少し、長くなるかもしれません。もし、長くなるようでしたら、先にお食事、食べて下さいね」
純は驚いて聞き返した。
「ええー。どういう事なんです。京子さんと一緒に夕食、食べるの楽しみにしていたんですよー」
純は仰天して京子を見た。
「あ。京子さん。お友達には言ってなかったんですか?」
女将が聞いた。
「え、ええ」
京子は顔を赤くして小声で言った。
「あ、あの。純さん。今日の夕食は、私、××会社の人達と御一緒することになっているんです。純さんがよろしかったら、一緒に来て下さい。××会社の人達には、ちゃんと知らせてありますから大丈夫です」
そう言って京子は部屋を出て行った。
純はなにか狐につつまれたような気分だった。
一体どういう事なのか、さっぱりわからない。
京子は芸者ではない。何で××会社の人と食事をするのだろうか、と首をひねった。
そろそろ腹が減ってきた。
遅くなってもいいから、京子と一緒に食事しようと思って待っていると、宿の女将がやってきた。
「あの。山野さん。お食事になさいますか」
「いえ。いいです。京子さんが戻ってきてから一緒に食べます」
「でも、それでは、ちょっと、かなり遅くなってしまいそうです」
「一体どういう事なんですか。なんで京子さんが××会社の人達と食事するんですか。教えて下さい」
「そ、それは・・・」
と言って女将は一瞬、言いためらった。
「それは、ちょっと説明しにくくって、申し訳ありません。てっきり山野様も御存知の事かと思っておりました」
女将は言いにくそうにつづけて言った。
「あの。山野さん。もし山野様がお望みであれば、××会社の人達と御一緒にお食事なさいませんか。京子様も向こうの方も、いっこうにかまわない、と言っておられます」
「そうですか。では行きます。どういう事なのかさっぱりわからないと気持ちがすっきりしません」
純は強気の口調で言った。
「では、ご案内いたします。ちょうど今から××会社様のお食事が始まりますので」
と女将が言ったので純は女将についていった。
ある大きな客室の前で女将は立ち止まった。
「失礼いたします」
と言って女将は戸を開けた。純も、
「失礼します」
と一礼して部屋に入った。
「ああ。君。君も遠慮しないで、うんと食べて極上の味を楽しんでくれたまえ」
と一人が言った。
部屋には××会社の人達が、浴衣を着て夕食を待っていた。
すぐに二人の給仕が台車にのせられた大きな船の形のものを運んできた。ちょうど人間の身長ていどの小さな木製の船のようである。白い布がかかっていて何かわからない。給仕は台車を外して、船のようなものを畳の上に据え置いた。
「お待たせいたしまた。では、始めさせていただきます」
と言って給仕は白い布をとった。
純はびっくりした。
船の中には丸裸の京子が、まるで人形のように手と足をピッタリと揃えて目をつぶって仰向けになっている。そしてその裸の体には、様々な魚の切り身が隈なくきれいに盛りつけられて、のっていて、特に女の部分と乳房には、ちょうどそこを隠すようにピッチリと隙なく魚の切り身が並んでいる。
女体盛りである。純はびっくりした。どうして京子が女体盛りになっているのか。純には全くわからない。船の中には京子の体の回りに魚の切り身がビッシリと並んでいる。
給仕は酒や箸や皿を船の回りに並べた。さらに補充用に色々な魚の切り身が並べられている大皿を置いた。
「では、どうぞ、ごゆっくりお楽しみ下さい」
そう言って給仕は正座して深く頭を下げると、台車と白い布を持って部屋から出て行った。

給仕がいなくなると、男達は、ひひひ、と笑いながら船に近づいてきた。
「こりゃー絶世の美女だ。うんと味わおうぜ」
「でもこうまで、きれいに盛りつけられていると、魚を食べてしまうのが勿体なくなるな。しばらく、食べずに、とっくりと観賞しようか?」
「切り身をとったら、すぐに、そこを補充すればいいじゃないか。そうすれば、女体盛りの美しさは変わらずに、食べる事が出来るじゃないか」
「なるほど。名案だ。おい。みんな。魚の切り身をとったら、すぐに同じ物をそこに置け」
おう、と言って、皆は箸を持って、京子の体の上に乗っている魚の切り身をつまみだした。
「醤油はここがいいな」
一人がそう言って、へその窪みに醤油を注いだ。皆はニヤリと笑った。
一人が京子の乳房の上に扇状に並んでいる鯛の切り身をとって、京子のへその醤油をつけて口に入れた。
「うーん。美味い。最高の味だ」
そう言って彼は嬉しそうに食べた。
京子は人形のように目をつぶって、じっとしていたが、頬が紅潮し、かすかに体がピクンと動いた。
「おや。お人形さんが動いたぜ。不思議だな」
一人がそんな揶揄をした。皆はどっと笑った。
皆も京子の体の上の刺身を箸でとって、食べ出した。
「うーん。刺身に美女の味が浸み込んでいて最高の美味だ」
一人が感心したように言った。
男達は乳房や上半身の上の刺身をどんどん、摘みとって食べていった。
刺身をとられて、乳房があらわになりだした。
「これもおいしそうだな」
男の一人が言って、京子の乳首を箸で摘んで引っ張った。
餅のようにペッタリ胸に貼りついていた乳房がつられてもち上がった。
「ああん」
京子は眉を寄せ、小さな喘ぎ声を出した。
ふふふ、と男は笑った。
胸の刺身が無くなると男達の視線は、次に京子の腿の付け根の女の部分に向かった。
京子の女の部分は、刺身が隙なく並んでいて、女の部分は刺身によって隠されて見えない。
それが、よけいエロティックさを醸しだしていた。
男達はゴクリと唾を呑み込んで、そっと、そこの刺身をつまみだした。
京子の体が少しピクンと震えた。
だんだん女の部分が露わになってきた。
そこは女体盛りのため、毛がきれいに剃られていて、女の割れ目がくっきりとあらわれていた。
「ふふ。ここは醤油ではなく、女の汁をつけて食べた方がいいな」
男の一人がそう言って、つまんだ刺身を京子の女の割れ目に、しっかりと擦りつけた。
「ああん」
京子は眉を寄せ、小さな喘ぎ声を出した。
男はニヤニヤ笑いながら、刺身を口に入れた。
「うん。極上の味だ」
男は満足そうに言って、ゴクンと呑み込んだ。
「さあ。お前達も遠慮しないで食べろ。うまいぞ」
男に言われて、他の者達も、刺身をとって、京子の女の割れ目に、擦りつけて食べ出した。
「うん。女の味と匂いが浸み込んでいて最高だ」
男達は笑いながら、女体盛りを満喫した。
男達は、もう女の割れ目といわず、乳房や首筋や好きな所に、とった刺身を擦りつけては食べた。そして体に乗っている刺身が少なくなると、どんどん大皿の刺身を補充した。
「お嬢さん。あなたも食べなよ」
一人がそう言って刺身を京子の口に持っていった。
「ほら。アーンして」
京子は、言われて目をつぶったまま、口を開いた。
男は京子の口に刺身を入れた。
京子は、そっとモグモグと咀嚼してゴクンと呑み込んだ。
「ふふ。どうだね。自分の味の浸み込んだ刺身の味は?」
男は、そんな揶揄をした。
京子は真っ赤になった。
男達は笑いながら、酒も飲みだして女体盛りを満喫した。
腹が満たされると男達は、京子の乳首や唇や耳などを箸でつまんで京子の体を玩びだした。
「おっと。忘れてた。君も女人の美味を楽しみなよ」
一人が振り返って、それまで離れて正座して俯いていた純に声をかけた。
純は、もう見ていられないといった表情で、そっと立ち上がって部屋を出た。

部屋にもどった純は、座卓に座って目を閉じた。
どうして京子が女体盛りになったのか、その理由を考えめぐらしたが、どうしてもわからなかった。豪華な夕食を二人きりで向き合って食べる事を楽しみにしていた純には、何とも言いようのない気分だった。今、京子はどうなっているだろうかと想像しながら、純は目をつぶって、京子がもどってくるのを待った。

一時間くらい経って京子が浴衣に羽織を着て部屋に戻ってきた。
純と視線が合うと京子は顔を赤くした。
京子はテーブルを隔てて純と向き合って座った。
「は、恥ずかしいわ。純さんにあんな姿、見られちゃって」
京子は悪い事を見つかって教師に叱られている生徒のように、俯いて顔を赤くして小声で言った。
「京子さん。これはいったい、どういうことなんですか?」
純はすぐに聞き返した。
ちょうど教師が悪い事をした生徒を詰問するように。
「はい。説明します。私、タダで旅行をする方法はないかなって思って、ネットで探してみたんです。そしたら、ここの旅館があったんです。『容姿に自信のある女性、募集。女体盛り一回で20万円。宿泊料タダ』そう書いてあったから写真を送って応募したんです。そしたら、ぜひ来て下さい、って返事が来たんです」
純は、うーん、と唸って眉を寄せた。
「はい。20万円です」
と言って京子は札束を差し出した。
「い、いや。お金は貰うわけには行きません。それは京子さんの物です」
純はきっぱりと言った。
「じゃあ、半分っこ」
と言って京子は10万円、差し出した。
純は、首を振ってそれも戻した。
「あの団体は何なんです?」
「××会社の社員旅行の人達です。カメラには撮らないという条件で、向こうの人達も私の事は秘密という事になってるんです。だから安心です」
純はまた眉間に皺を寄せて考え込んだ。
「あ、あの。純さんの、お気にさわったかしら」
京子は小声で言った。
「そりゃあ、京子さんが多くの男達にあんな姿を、見られたかと思うと、京子さんが可哀相です」
「いいの。私、ああいう事されるとむしろ、楽しい性格だから。タダで泊まれるし、お金は貰えるし。いい事ずくめじゃない。それに、『伊豆の踊り子』のような哀愁があるじゃない」
京子はつづけて言った。
「純さんは、どんな気持ち?」
「何とも、ちょっと、素直に喜べないような複雑な気持ちです」
純は難しい顔をした。
「そういう性格だから、私、純さんが好きなんです。普通の男の人だったら、悩んだりしないわ」
「でも、何とも釈然としない気持ちです」
「じゃあ、私一人で来ちゃおうかしら。純さんのような人が見守っててくれていると私、安心なの」
純はウーンと唸って、眉を寄せた。
「でも、純さんが嫌がるなら、私、やめます」
京子は純に判断を求めるように言った。

その時、失礼します、という声がして、戸が開き、給仕が夕食を運んできた。
デラックスな御馳走である。
「わー。おいしそう」
京子は子供のように無邪気に微笑んだ。
「純さん。ちょっと遅くなっちゃってゴメンなさい。その事はあとにして、ひとまず御馳走をいただきませんか」
「そうですね」
いただきます、と言って二人は御馳走を食べ出した。
京子は、子供のように無邪気に、やたら、おいしい、おいしい、と言いながら食べた。
さっきの女体盛りのことなど、もう忘れてしまったかのようである。
純も京子の明るい表情を見ているうちに、さっきの事はひとまず忘れて京子と夕食を楽しもうという気分になってきた。
京子は刺身を箸でつかむと、純の口に持っていった。
「はい。アーンして」
京子が言うと純は目をつぶって口を大きく開けて顔を突き出した。
京子が刺身を純の口の中に入れると、純は目を閉じたままモグモグ咀嚼してゴクンと呑み込んで、目を開いてニコッと笑った。
何か、純は嬉しくなった。
「じゃあ、今度は京子さんが口を開けて」
純に言われて京子が口を開けると、純は京子の口の中に刺身を入れた。
そんなことで、気分がほぐれて、なごやかな夕食になった。

食事がおわるともう11時を過ぎていた。
「京子さん。今日は疲れたでしょう。もう遅いですし、寝ましょう」
「はい」
純が提案すると京子はニコッと笑って返事した。
二人は蒲団を敷いた。二つの敷き蒲団は隙間なく、くっつけた。そしてその上に仰向けに寝て、掛け蒲団をかぶった。純は、枕元のスタンドの電気を消した。部屋は真っ暗になった。糊の利いたフカフカの蒲団の肌触りが心地いい。いかにも日常から離れた、やすらぎの世界という気持ちである。すぐに蒲団の中で、柔らかい物が純の手に触れてきた。京子が手を伸ばしてきたのだ。純は京子の華奢な手をしっかり握った。
純にとって最高の気分だった。柔らかい華奢な京子の手を通して京子と体がつながっているような気分になった。純にとっては、こうする事が一番、嬉しかった。純は子供の頃から、男と女が結婚すると、寝る時は手をつないで寝るものだと思っていた。大人になってセックスという事を知っても純はセックスという行為に全く魅せられなかった。純は子供の頃、想像したものが最高のもので、それを大人になっても、とっておきたかったのである。女は生きた美しい人形で、ごつごつした男の体を女の体に触れ合わせるのは無粋な行為だと思っていた。そのため純は、いまだに童貞である。そんな事を考えているうちに、やがて睡魔が訪れて純は心地良い眠りに就いた。

  ☆   ☆   ☆

翌日、雀の囀りで純は目を覚ました。
昨日、あんな事をして疲れたのだろう。京子はまだ寝ていた。
髪が蒲団の上にばらけ、半開きの口からは涎が垂れ、子犬のようにクークー小さな寝息をたてている。
純は何とも言えない可愛らしさを感じた。全くの無防備である。こんな可愛い女性が、昨日のような、みじめな女体盛りをされたかと思うと、かわいそうで、出来ることなら自分が兄になって守ってやりたい、と思った。純は寝乱れている京子の掛け蒲団を、そっと肩までかけた。京子が寝ているのをいい事に、純は京子の顔をまじまじと見つめた。起きている時には人は他人を意識して、よく見せようと装う。特に女性は。しかし寝顔にはそれが無く、純は京子の寝顔から、彼女の日常の様子を見たような気持ちになって嬉しくなった。
その時、京子が目をぱっと開け、ニコッと笑って純を見た。
もしかすると、狸寝入りだったのかもしれないと思って純はあせった。
「おはよう。純さん」
京子は元気に挨拶した。
「お、おはよう。京子さん。昨日はよく眠れましたか」
純はちょっと照れぎみに挨拶した。
「ええ。ぐっすりとよく眠れました」
二人は起きて、蒲団を片づけた。
そしてフロントに電話して朝食を注文した。
すぐに給仕が朝食を運んできた。
純と京子はテーブルをはさんで、向き合って朝食を食べた。
「純さん。旅館の近くに大きな露天風呂がありますから入りませんか」
京子が言った。
純は、露天風呂と聞いてドキンとした。露天風呂がある事は知っていたが、京子の方から誘われて、どう答えていいのかわからなかった。
「え、ええ。そうですね」
純は顔を赤くして答えた。
「じゃあ、先に行っていて下さい。私は、ちょっと用事をすませた後、すぐ行きます」
そう言って京子はパタパタと部屋を出て行った。
純は緊張してドキドキと心臓が高鳴った。
温泉に来たからには露天風呂には入ろうとは思っていたが、当然、京子とは別々に入るものだと思っていた。だから海水パンツも持って来ていない。だが、入る、と言った以上、入らないわけにはいかない。
純は旅館を出て、脱衣所で浴衣を脱ぎ、タオルで前を隠して湯に入った。
入ってしまえば、タオルと湯の揺らめきで、体はかなり隠せる。
京子はどんな格好で来るかと思うと、純の心臓はドキドキした。
水着を着て来るか、それとも・・・。
水着だと、純は裸でタオルだけなので恥ずかしい。
やはり水着でなく、裸で来て欲しいと思った。
そう思って待っていると、脱衣所から京子がやって来た。
一糸纏わぬ裸で、小さなタオル一枚で乳房と秘部を覆っている。
丸裸の体を小さなタオル一枚で覆っているという、極めて扇情的な姿である。
純は思わず興奮して下腹部が膨張した。
それは、もちろんエロティックな姿ではあるが、つつましい女の恥じらいの美しい姿だった。長い黒髪を湯に濡れないよう、まとめて上げているのも、なんとも言えない趣が感じられた。
京子は足先から、そっと湯に入った。
「あー。気持ちがいい」
京子は肩まで湯に浸かるとニコッと笑って言った。
「そ、そうですね。気持ちいいですね」
純は焦りながら言った。
京子は首だけ出して、体は湯の中なので、湯に隠れてはっきりとは見えないが、湯の中で、裸の体の前をタオル一枚で覆っている姿は、周りの自然と溶け合って、何とも言えぬ風情のある官能的な美しさをあらわしていた。

その時、ドヤドヤと裸の男達がやってきた。
昨日の××会社の男達である。
「ふふ。あなたが露天風呂に行くのを一人が見つけましてね。一緒に入ろうと思ってやって来たんです」
そう言って男達はドボン、ドボンと湯の中に入っていった。
京子と二人きりで、何もかも忘れて風情のある心地良い官能を楽しめると思っていた純は、無粋な男達の突然の参加にじゃまされて、幻滅した。
「あー。いい湯だ。極楽。極楽」
男達は嘆息した口調で言った。
「湯も自然もいいが、こんなきれいなお嬢さんが一緒にいてくれる事の方が、もっと極楽だな」
一人が笑って言った。
男達の視線は京子に集中している。
京子は顔を赤らめて胸の前のタオルをギュッと握りしめた。
男達は湯の中を両側から京子を取り囲むように近づいていった。
「お嬢さん。昨日は楽しかったよ」
男達は笑いながら言った。
「あー。温泉に来ると気分が開放的になるな」
そう言って一人の男がザバッと立ち上がった。
男の物は隆々と怒張してせり上がっていた。
あたかも京子に見せつけるように。
京子はとっさに顔をそらしたが、顔は真っ赤になっていた。
「お嬢さん。昨日はありがとう。楽しかったよ」
そう言って両側の二人の男が京子と体が触れ合わんばかりに近づいた。
京子は真っ赤になってタオルをギュッと握りしめた。
「ふふ。実に瑞々しいきれいな肌ですね」
そう言って両側の男が京子の体をさわった。
あっ、と京子は反射的に声を出した。
両側の男は湯の中で京子の手をつかんで自分の方に引っ張った。
タオルが離れ、体の覆いがなくなった。
両側の男は片手で京子の手首をおさえ、もう一方の手で、そっと京子の豊満な乳房をさわった。両手をつかまれているため、逃げようがない。
「あ、ああっ。や、やめて下さい」
京子は思わず叫んだ。
だが両側の男はやめようとしない。
「ふふ。まあ、そう固いこと言わなくてもよろしかろうが。温泉は裸同士のつき合いじゃ。もっと開放的になりなされ」
片方の男が言った。
「あんたも女体盛りを自分から申し込むほどだから、本当は嬉しいんじゃろ」
もう片方の男が言った。
「女体盛りには20万円、払ったんだからな。これくらいのサービスはしてくれてもいいじゃろ」
最初に言った男が言った。
二人はニヤニヤ笑いながら、だんだん遠慮なく、湯の中で京子の乳房を揉んだり、太腿に手をつけて、付け根の方に這わせていった。
「ああー」
京子は眉を寄せて叫んだが、両手をつかまれているため、どうしようもない。
両側の男は、湯の中で京子の胸や恥部や尻など、京子の体を思うさま触りまくった。
その度、京子は、ああー、と悲鳴を上げた。
両側の男は興奮に耐え切れず鼻息を荒くしだした。
「ほれ。お嬢さん。これを触ってみなされ」
そう言って片方の一人が、つかんでいた京子の手を自分のマラに触らせた。
もう片方の男も、同様に、笑いながら京子の手を自分のマラに触らせた。
京子は湯の中で男のものを触れさせられて真っ赤になった。
だが京子は腕をつかまれているため、逃げようがない。
「さあ。お嬢さん。今まで、触ったから今度はあんたが触る番じゃ。しっかり握って、やさしく、さすっておくれ」
もう逃げようがないと観念したのだろう。京子は、言われたように両側の男のマラをつかむと、ゆっくりしごき出した。
みるみる二人の男のマラは怒張しだした。
「あ、ああっ。いいっ。も、もっと激しく」
言われて京子は、華奢な手で、つかんでいるマラを激しくしごいた。
「あ、ああー。い、いいー。で、出るー」
一人の男が叫んだ。
「待った」
回りで見ていた男の一人が言った。
「湯の中では、はっきり見えないよ。二人だけで楽しんでいるのを見てても面白くない。立って、俺達に、いくところを見せてくれ」
他の男達も、そうだ、そうだ、と囃し立てた。
「そうだったな。つい、調子に乗って、わしらだけ楽しんでしまって、すまなかった」
京子の横の男は、男達にペコリと頭を下げた。
そして間近の京子の顔を見た。
「さあ。お嬢さん。立っておくれ」
そう言って両側の男はザバッと湯から立ち上がり、京子の腕を二人して持ち上げて京子を立たせた。
京子の裸の体の全て、豊満な乳房、女の恥ずかしい所の割れ目が、丸見えになった。
男達は、おおー、と歓声を上げた。
二人の男のものは、天狗の鼻のように隆々と怒張してせり上がっている。
「さあ。お嬢さん。つづきをやっておくれ。皆にもしっかり見せるように」
言われて京子は、両側の男の怒張したマラを華奢な手でつかむと、ゆっくりとしごき出した。
両側の男は、興奮して息を荒くしながら、京子の胸を揉んだり、首筋にキスしたり、女の割れ目を触ったり、割れ目に指を入れたりした。
片方の男が、尻をキュッと締め、全身をピクピク震わせ出した。
「あ、ああー。で、出るー」
男は野獣の咆哮のような声を張り上げた。
次の瞬間、男の怒張したマラの先から白濁した液体がピュッ、ピュッと堰を切ったように飛び出した。白濁した液体は大きな放射線を宙に描いて、湯の中に落ちた。
もう一方の男も、
「ああー。いくー」
と叫んで、白濁した液を放出した。
二人は、力尽きてガックリしたように京子から離れて、湯の中に座った。
見ていた男達は、裸で立っている京子を見てゴクリと唾を呑み込んだ。
「よし。今度は俺たちの番だ」
そう言って男達は立ち上がって、裸の京子の所に行き、寄ってたかって、胸を揉んだり、首筋にキスしたり、怒張したマラを京子の女の割れ目にくっつけたり、丸出しの尻やまんこを触ったりと、京子の体を思う存分、玩んだ。
男達は怒張した自分のマラをガッシリつかんで、京子の裸を見ながら、激しくしごき出した。
「あ、ああー。で、出るー」
男達は叫んで、京子の体に向けて白濁した液体を放出した。
裸で立っていた京子の体に男達の放出した精液がペチャリ、ペチャリとくっついた。
京子の体は男達の精液まみれになった。
男達は全員が溜まっていたもの出してしまうと、ふー、と、ため息をついた。
「ありがとう。お嬢さん。楽しかったよ」
そう言って男達は湯から上がって、ゾロゾロと旅館に戻っていった。

黙って見ていた純は、裸を見られるのも気にせず、湯から立ち上がって、ザブザブを湯を掻き分け、裸で立っている京子の所へ行った。
そして、ガッシリと京子の肩をつかんだ。
「京子さん。旅館にもどりましょう」
純は力強く言った。
「はい」
京子は素直に返事した。
二人は湯から上がると、それぞれの脱衣場にもどって、浴衣を着て羽織をはおった。

部屋にもどると、純は黙って蒲団を敷いた。
「さあ。京子さん。着ている物を脱いで裸になって、この上に寝て下さい」
純は命令的な口調で言った。
「はい」
京子は、羽織を脱ぎ、浴衣を脱いで、一糸纏わぬ丸裸になった。そして蒲団の上に仰向けに寝た。純も羽織を脱ぎ、浴衣を脱いで、丸裸になると、京子の上に覆いかぶさった。
純は京子の首筋にキスし、乳房を揉み、恥部を触った。そして、乳首を口に含み、ペロペロ舐め、歯で軽く噛んだ。
「ああん」
京子は喘ぎ声を出した。だが純はかまわず、狂ったように京子の体を手の指から、足の指まで、体中を舐め回した。そしてうつ伏せにして、尻を舐め、尻の割れ目を開いて尻の穴まで舐めた。そしてまた仰向けにした。京子は目を閉じていた。純は京子の閉じた唇に自分の唇をつけた。そして、舌を京子の口の中に入れた。京子も舌を出してきた。二人は舌をからめあった。そして京子の唾液を吸った。京子の口からは粘々した唾液があとから、あとから、とどまることなく出てきたが、純はそれを、もらさず呑んだ。
そして、キスしながら、乳房を揉んだり、乳首をつまんだり、まんこの割れ目に指を入れたりした。京子のまんこからは、粘々した液体が出てきて、愛撫する度、クチャクチャ音がし出した。
「ああん。気持ちいいわ。純さん」
京子は、鼻にかかった声で言って、両手を純の背中に回して純を抱きしめた。
純も京子を、がっしりと抱きしめた。
しばし、抱きしめあったまま、二人はキスしていたが、純は、そっとほどいた。
「さあ。京子さん。足を開いて下さい」
「はい」
純に言われて京子は膝を曲げて足を大きく開いた。
閉じ合わさっていた京子の女の割れ目も、それにつれて開いた。
そこは粘ついた女の分泌液でネバネバしていた。
純は、怒張した男の棒をそこに近づけた。
「京子さん。入れますよ」
「はい」
純は京子の女の割れ目の襞をそっと、手で広げ、怒張した肉棒を女の穴に入れた。
京子の女の穴は、男を迎える液体で粘ついていたので、肉棒の挿入は容易だった。
純は怒張した肉棒を京子の女の穴の奥まで入れた。
同時に京子の女の穴の入り口がキュッと純の肉棒を締めつけた。
「ああっ。気持ちいいっ」
京子は忘我の表情で言った。
純は、ゆっくりと腰を前後に揺すった。
純は粘膜が擦れあう快美な快感に、だんだん興奮が激してきた。
出そうで出ないもどかしい快感に純は、うっ、と苦しげに顔をしかめた。
純は、自分の体の中にあるものを、全部、京子の体の中に放出したい欲求に突き動かされて、腰の蠕動を一層、激しくした。
京子の穴は純の蠕動にともなって、周期的にヒクヒク収縮しはじめた。
「京子さん。一緒にいきましょう」
「ええ」
純は肉棒の蠕動を一層、速めた。
「ああー。いくー」
京子が叫んだ。
「ああー。出るー」
純が叫んだ。
純の肉棒の先から、体内に溜まって澱んでいたものが、一気に京子の体の中に放出された。
同時に京子も、ああー、と叫んだ。
二人は同時にいった。
純は、体内の男の液体を全部、出し切ると、棒を穴から引き抜いた。
それは京子の愛液でヌルヌル濡れていた。
純は京子の体の上にがっくりと倒れ伏すようにのしかかった。
「純さん。私、幸せ」
京子が言った。
「僕もです」
純が言った。
二人はしばし、かるく抱き合ったまま快感の余韻に浸っていた。
「さあ。京子さん。起きましょう」
「ええ」
純はティッシュペーパーで、粘ついている京子の女の穴を拭いた。
そして、自分の肉棒のぬめりもティッシュペーパーで拭いた。
「京子さん。風呂に入って体を洗ってきましょう」
「ええ」
二人は浴衣に羽織を着て、旅館の中の風呂に分かれて入り、性交による汗や精液をきれいに洗い流した。そしてまた部屋にもどってきた。
二人は座敷の上に座り込んだ。
「京子さん。有難う」
純はやさしい口調で言った。
「いえ。お礼を言うのは私の方です」
京子は照れくさそうに俯いた。
「いえ。僕が鈍感でした。京子さんの気持ちがわからなくて」
純は語り出した。
「昨日の女体盛りもそうですが、京子さんは、わざと僕に裸を見せて困らせるような事をしましたが、その理由が、わかりませんでした。でも、さっき、京子さんが露天風呂で、男達に弄ばれているのを見てやっと、わかったんです」
と言って純は語りだした。
「京子さんは、僕が煮えきれない態度なので、僕に嫉妬させて、僕に、京子さんと裸で抱き合いたいという気持ちを起こさせたいと思ったんですよね」
「え、ええ」
京子は顔を赤くして小声で答えた。
「やっぱり。京子さんの計画通りです。僕は、彼らに弄ばれている京子さんを見て、激しく嫉妬しました。見知らぬ男達に弄ばれてしまうくらいなら、いっそのこと、僕が抱いてしまいたいとメラメラと燃えるような気持ちが起こってしまっていました。僕も何かふっきれた気持ちです」
純はニコリと笑った。
「そ、そうです。その通りです。あ、あの。純さん。・・・私、どうしても処女は、純さんに・・・と思ってたんです。女って、どうしても処女は自分の一番、好きな人にあげたいんです」
京子は小声で言った。
「そうだったんですか。僕も発見しました。男と女の肉体のつながりは、単なる物理的なものであるということを。男と女の本当のつながりは、精神的なつながりだ、と、わかったんです。僕は一生、童貞を守るつもりでしたが、京子さんのような素晴らしい人に童貞を捨てることが出来て最高に幸せです」
純は誇らしげに言った。



平成21年2月10日(火)擱筆

孤独な男

孤独な男

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-08-01

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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