深夏

 二時の吐息は、淡く、真夜中の暗くて、深い、底みたいなところからながれてくる、空気が、夏なのにつめたい。
 わすれていた、きみの声。
 トーンと、色。
 夕景にそえた、白い花が、あっというまに枯れて、わずかばかりの罪悪感と、焦燥。
 身近にころがっている、生命のおわり。
 だれを好きになってもくりかえす、あやまちは、まるで、産まれたときからつながれている、足枷。
 窓をあけて、ぬけてゆく、冷房の風。たばこをくわえて、ああ、やめたいのに、と思いながら、火をつける。やめなくてはと思いながら、息を吸い、いまさらかとあきらめながら、紫煙をくゆらせる。目を覚ましたときにつくった、カフェオレの、グラスの表面が、いつのまにかぬれている。ねむっているひとも、ねむれないひとも、ねむらないひとも、いま、みんな、それぞれの居場所で、呼吸をしていて、守られていても、傷つけられていても、愛されていても、ちがう肉体のからだでも、異なる精神をもっていても、なにかしらが等しく、等しいが故に、この星にそんざいすることをゆるされている、というのは、ベッドでひとり安らかな寝息を立てている、ネオのことば。

深夏

深夏

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-07-28

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