嘆きの天使
女には余分なものが、つきすぎている。その贅肉をとらないから美しくないのだ。
女には余分な夾雑物がついている。それが人間の美を失わせているのだ。哲也は、SM写真集や、SMビデオを見て、猿轡をされて、喋りたくても喋れず、眉を寄せて、首を振って、煩悶している女を、この上なく、美しいと感じた。哲也は、SM写真集や、セクシーなビキニ姿のグラビアアイドルを集めるのが趣味だった。しかし、その女の動画を見て、女がペラペラ喋るのを見ると幻滅することが、しょっちゅう、あった。それで、哲也は、動画は見ないようにした。哲也は女を人形と見ていたのである。女は喋らない方がいいんだ。
余計なことを、喋るから、女は、美しくないんだ。
そう哲也は、思っていた。
哲也は、現実の女性が愛せなかった。そのくせ、女に対する想いは、人一倍、強かった。そのため、哲也は、遠くから、女を見ているだけだった。
写真で、美しいと、思った女を、動画で見ると、哲也は、必ず失望した。
写真の女は喋らない。ただ、美しさだけが表現されている。
しかし、現実の女は、怒り、妬み、恨む。
それが哲也を幻滅させた。
ついに、哲也は、現実の女を愛することをやめた。
哲也は、女の写真を見ることだけに、とどめることにした。
写真の女は、罪が無く、優しく、思い遣りがあり、人間の悪徳というものが無い。
また、学校で、好きな女子が出来ても、決して、愛を告白することも、無く、付き合うこともなかった。付き合うことによって、女の嫌な部分が見えてきて、女を愛せなくなることを、何より恐れたからである。いわば、哲也は、女の汚い部分から目をそむけて、女の美しい部分だけ、を愛する、という、「幻想の愛」で女を愛したのである。
そして、それで、哲也は、満足だった。
○
しかし、ある日のこと。哲也は、不純物の全く見受けられない、現実には、あり得ないはずの、女に出会ってしまったのである。
哲也の町には、オシ(蔑視語)の学校があった。
朝の登校の時と、夕方の下校の時、哲也は、その、オシの学校の生徒達と、すれ違っていた。
彼らは、お互い、手話で、話していた。
哲也には、手話は、全くわからなかった。
なので、何を喋っているのか、さっぱり、わからなかった。
その生徒たちの中に、一際、可愛い女子生徒が一人いた。
哲也は、友達がいないので、登下校は、いつも、一人だった。
その女子生徒は、いつも、数人の友達と、一緒だった。
一緒に、歩きながら、彼らは、手話で、会話していた。
彼女が一人の時に、哲也と、すれ違うと、彼女は、ニコッと、笑顔で哲也にお辞儀した。
哲也も、頭を下げて、お辞儀を返した。
ただ、それだけの関係だった。
しかし、何て、可愛い、女の子なんだろうと、哲也は思った。
言葉を話さず、美しい笑顔と、優しい心だけを、彼女は持っていた。
哲也にとって、彼女は、生きた理想の女性だった。
哲也にとって、彼女は、理想の女神になってしまった。
彼女の名前は、学校の噂で、佐々木美奈子、ということを、哲也は、知った。
○
ある日の、放課後のことである。
それは、学校からの帰り道だった。
哲也は、美奈子が、自分の学校のワルの不良生徒達4人に、取り囲まれているのを、遠くから見つけた。
彼らは、学校で、札つきのワル達だった。
4人は、美奈子を、取り囲んでいた。
彼女は、ワル達に、取り囲まれて、おびえている様子だった。
哲也は、何事だろうと、そっと、彼らに、見つからないように、物陰に、身を潜めた。
やがて、不良生徒達が、美奈子の腕をつかんで、雑木林の中に、連れ込んでいった。
美奈子は、嫌がっていた。
彼らは、哲也に気づいていない。
4人は、美奈子を、雑木林の中に、引きずり込むと、美奈子の着ている服を、脱がせ出した。
哲也は、大きな大木の、木陰から、そっと、彼らの行為を見つめた。
美奈子は、泣きながら抵抗した。
しかし、屈強な4人の不良どもの力には、か弱い女の膂力では、太刀打ち出来なかった。
美奈子は、セーラー服を脱がされ、スカートを脱がされた。
そして、ブラジャーと、パンティーも脱がされて、丸裸にされてしまった。
不良たちは、みな、スボンを降ろし、パンツも脱いだ。
彼らのマラは、天狗の鼻のように、ビンビンに勃起していた。
不良たち4人は、美奈子に襲いかかろうとした。
その時である。
哲也が、木陰から、現れた。そして、
「おい。お前達。やめろ。お前達の、したことは、スマートフォンの、ビデオに録画したぞ。先生に言ったら、お前達は退学だぞ」
と、言った。
不良たちは、口惜しそうに、チッと、舌打ちして、服を着て、去っていった。
哲也は、美奈子に近づき、
「たいへんだったね」
と、言って、慰めた。
美奈子は、シクシク泣きながら、ブラジャーと、パンティーを身につけ、セーラー服と、スカートを履いた。
美奈子は、カバンから、メモとシャープペンを取り出して、
「助けてくれてありがとう」
とメモに書いて、哲也に渡した。
哲也は、美奈子が、雑木林の中に、連れ込まれる前に、美奈子を助けることも出来た。
不良たちも、美奈子も、哲也の存在に、気づいていなかった。
なので、美奈子は、てっきり、林の中で、初めて、自分が犯されそうになるのを、哲也が、見つけて、制止したと思い込んでいる。
しかし、哲也は、わざと、それをしなかったのである。
それは、不良たちが、美奈子を襲う、瞬間の、確たる証拠を、取ること、も、目的で、あったが、それ以外にも、哲也には、理由があったのである。
それは、その光景が、あまりにも、美しかったからである。
優しい心をもった美しい女が、(つまり、善であり、美)、が、悪によって、冒涜される、光景が、あまりにも、美しかったからである。
その美しい光景を、見たいために、哲也は、美奈子が、犯される直前まで、待っていたのである。
しかし、美奈子は、そんなことは、知る由もなかった。
○
哲也は、昼休みに、学校の近くにある、小さな公園の、ベンチで、昼食を食べていた。
コンビニのパンと、牛乳だけだった。
哲也の、両親は、共働きで、それでも、収入が少なかった。
父親は、一応、正社員だが、母親は、パートの非正規社員だった。
そのため、収入は苦しかった。
○
ある時、哲也が、昼休みに、いつもの、公園のベンチに座っていると、一人の女子学生がやって来た。
美奈子だった。
彼女は、おそるおそる、ノートと、シャープペンをとりだして、
「となりに座ってもいいですか?」
と、ノートに書いて、哲也に見せた。
「ええ」
と、哲也は、答えた。
少女は、哲也の隣りに座った。
哲也の、心臓はドキドキしていた。
なにせ、哲也は、人見知りで、シャイで、女と話をすることなど、今までに、一度も経験がなかったからだ。
彼女は、弁当箱を取り出した。
彼女は、また、ノートと、シャープペンを取り出して、
「これ。私が、作ったんです。よろしかったら、召し上がって下さいませんか?」
と、ノートに書いて、哲也に見せた。
「ありがとう」
哲也は、そう言って、弁当箱を受けとった。
弁当は、幕の内弁当のように、ご飯と、いくつかの、おかず、が、きれいに、そろっていた。
哲也は、ムシャムシャと、食べた。
彼女は、哲也が、食べるのを、嬉しそうに眺めていた。
「ありがとう。とても、おいしかった」
哲也は、そう言って、彼女に、空になった弁当箱を返した。
「私は、佐々木美奈子と言います。よろしく」
彼女は、そうノートに書いて、哲也に見せた。
「僕は、岡田哲也と言います。よろしく」
と、哲也は、言った。
「明日も、お弁当、持ってきても、いいですか?」
彼女は、そうノートに書いて、哲也に見せた。
「うん。ありがとう。嬉しいよ」
哲也は、笑顔でそう言った。
こんなことが、きっかけで、二人は、付き合うようになった。
美奈子は、毎日、二人分の弁当を作って、持ってくるようになった。
そして、昼食は、公園のベンチで、哲也と一緒に、食べた。
哲也は、美奈子に、色々と、勉強を教えてやった。
哲也は、生まれて、初めて、生きた、可愛い女と、付き合えるようになって、最高に幸せだった。
しかし、親しくなったとはいえ、男の、女に対する想いと、女の、男に対する想いは、生理的に違う。
男は、性欲ぬきには、女を見れないのである。
ましてや、哲也は、性欲、真っ盛りの年頃である。
一方、女は、男を、友達として、しか、見ていない。
男は、一年中、発情しているが、女は、男を、恋愛のロマンスの対象として、見ているのである。
そんなことで、哲也の性欲の煩悶は、以前より、一層、激しくなった。
哲也は、想像の内に、美奈子を犯した。
犯した、というより、嬲った。
哲也は、想像で、美奈子を、嬲りに嬲った。
哲也は、先天性倒錯者の、サディストであり、女を優しく愛撫する、という形では、性欲を満足できなかった。
哲也は、想像で、美奈子を、丸裸にした。そうして、後ろ手に縛ったり、吊るして、ムチ打って、明るく、可愛い、天真爛漫な、美奈子が、泣く姿を想像した。
そういう想像でしか、哲也は、性的に興奮できなかった。
また、哲也は、美奈子が、不良たち4人に、嬲られそうになった時の光景を、何度も思い出した。
その時の、美奈子の、つらそうな顔。
それは、善であり美、が、悪によって、嬲られる、まさに哲也にとって、理想の光景だった。
哲也は、その光景を思い出して、何度も、激しくオナニーした。
もう一度、あの光景を見てみたい、と、哲也は、熱望した。
また、哲也は、サディズムと、同時に、マゾヒズムも、同じようにあった。
哲也は、美奈子に、踏みつけられ、いじめられたい、とも思った。
しかし、優しい美奈子に、そんなことが出来るはずはなく、そういう想像は、出来なかった。
しかし、現実には、そんなことは、出来ない。
なので、哲也の煩悶は、どんどん、膨らんでいった。
毎日、昼休み、あまりにも、純真無垢な、美奈子の、顔を見ているうちに、哲也は、ある想念に悩まされるようになった。
その想念を行動に移すことは、哲也にとって破滅だった。
しかし、その想念は、美奈子の、純真無垢な笑顔を見る度に、日に日に、どんどん、大きくなっていった。
もはや、哲也は、その想念を行動に移さずには、いられなくなってしまった。
ついに、ある日、哲也の欲求は、理性を越した。
しかし、それが、哲也にとって美奈子との、幸福を、破壊する行為であることは、哲也は、重々、承知していた。
しかし哲也にとってみれば、ささやかな幸福を、ブチ壊してまでも、破滅的な行動をとることの方が、「正解」だったのかも、しれない。
むしろ、哲也は、破滅を望んでいたのかも、しれない。
その判断は、もはや、哲也という一個人の人間の、人知を超えていた。
○
ある日、哲也は、今度の日曜、近くの小高い山にピクニックに、行こう、と、携帯のメールで連絡した。美奈子は、喜んで、「行きます」、という返信メールを哲也に返した。
哲也には、美奈子が喜んでいる姿が、ありありと想像のうちに、見えた。
○
さて。日曜になって、ピクニックの当日になった。
二人は、山の麓の、バス停で、会うことになっていた。
哲也が、行くと、すでに、美奈子は、先に来て、ナップサックを持って、哲也を待っていた。
バスに乗っている、哲也を見つけると、美奈子は、満面の笑顔で手を振った。
哲也は、バスから降りて、美奈子と、山に登り始めた。
人も、ほとんど、来ない山である。
美奈子は、バードウォッチングが好きで、ナップサックから、双眼鏡を取り出しては、さかんに、野生の鳥を観察した。
美奈子は、鳥の鳴き声から、もう、鳥がわかるらしかった。
美奈子は、とても、嬉しそうだった。
しかし。嬉しそうな美奈子をよそに、哲也は、黙っていた。
山頂についた。
哲也が、腰を降ろすと、美奈子も、腰を降ろした。
ちょうど、正午頃だった。
美奈子は、ナップサックから、たくさんのサンドイッチを、取り出した。
二人分、くらい、たくさん、あった。
美奈子は、天真爛漫な笑顔で、哲也に、サンドイッチを、手渡した。
そして、水筒のお茶も、哲也に差し出した。
哲也は、美奈子から、サンドイッチと、水筒のお茶を受けとった。
○
それから、哲也は、信じられないことを、しだした。
哲也は、美奈子から、受けとった、サンドイッチを全部、ポイと、地面に投げた。そして、靴で、地面の上に広げられている、サンドイッチを全部、グチャグチャに踏みつけた。
美奈子は、何事かと、目を皿のようにして、驚いていた。
哲也は、さらに、美奈子から水筒を奪って、美奈子の頭の上で、水筒を逆さにした。
水筒の中は、麦茶で、美奈子の頭や、服は、びしょ濡れになった。
美奈子は、一体、どういうことなのか、わからず、気が動転している、といった様子だった。
「さあ。服が濡れちゃったね。乾かさなきゃ」
そう言って、哲也は、美奈子のブラウスを脱がしにかかった。
美奈子は、ここに至って、少し抵抗しようとした。
しかし、哲也の力には、かなわず、美奈子は、ブラウスを、剥ぎとられてしまった。
美奈子は、どうして、優しい、友達であるはずの、哲也が、自分に、こんなことを、するのか、わからず、困惑している、といった様子だった。
ブラジャーまでは、濡れていなかったので、美奈子は、恥ずかしさ、と、不安感から、胸のブラジャーを押さえた。
「これも、濡れているから、脱いで、乾かさなくちゃ」
そう言って、哲也は、哲也は、美奈子のブラジャーも、剥ぎ取ろうとした。
美奈子は、訳が分からず、それでも、か弱い力で、必死にブラジャーを押さえようとした。
「脱ぐんだ」
そう言っても美奈子は、聞こうとしない。
それで、哲也は、美奈子の頬を、思いっきり、ビンタした。
そして、美奈子から、ブラジャーをむしり取った。
ここに至って、美奈子は、泣き始めた。
「さあ。着ている物を、全部、脱ぐんだ。脱がないなら、脱がすぞ」
そう哲也は、美奈子を、おどした。
しかし、美奈子は、どうしたらいいのか、わからず、泣きながら、服を押さえていた。
哲也は、また、美奈子の、頬を、思い切り、ビンタした。
そして、力づくで、泣きながら、抵抗する、美奈子から、スカートを脱がし、パンティーも脱がした。
美奈子は、一糸まとわぬ丸裸になった。
哲也は、ズボンを脱ぎ、パンツも脱いだ。
哲也のマラは、天狗の鼻のように、怒張していた。
哲也は、泣きながら、抵抗する、美奈子の両手を、押さえつけた。
そして、美奈子の、女の股間の穴に、怒張した、自分のマラを、挿入した。そして、腰を前後に揺すった。
泣いて、首を左右に、振っている美奈子は、哲也にとって、この上なく美しく見えた。
同時に、哲也のサディズムの性欲は、激しく興奮していた。
しばしすると、クチャクチャと、哲也のカウパー氏腺の音がしだした。
美奈子は、激しく首を左右に振って、泣いていた。
その姿に、哲也のサディズムの性欲は、増々、激しく刺激された。
「ああー。で、出る―」
哲也は、そう叫ぶと、精液を、美奈子の体内に射精した。
射精後、しばし、哲也は、射精後に起こる虚無感に、浸っていたが、やがて、パンツを履き、ズボンを履いた。
美奈子は、裸で、泣いていた。
見ると、彼女の女の割れ目には赤い血がついていた。
彼女は、処女だったのだ。
「すまなかった。ごめん」
哲也は、美奈子に謝った。
だが、美奈子は、クスン、クスン咽び泣いている。
いつまで経っても、美奈子は、泣いていた。
仕方がないので、哲也が、美奈子に、下着を履かせ、ブラウスと、スカートを履かせた。
美奈子は、人形のように、されるがままに、哲也に、服を着せられた。
「美奈子さん。僕が憎いだろ。殺したいほど。僕を、どうとでもして」
そう言って、哲也は、ポケットからナイフを取り出して、彼女に渡そうとした。
しかし、美奈子は、ナイフを受けとろうとしなかった。
それで、哲也は、強引に、美奈子にナイフを握らせた。
「さあ。刺すなり、切るなり、好きなようにして。心臓を刺して殺してもいいよ。僕は君に殺されるんなら幸せなんだから」
彼女は涙の内にも、躊躇いがちな目で哲也に目を向けた。
「君は、犯罪者には、ならないよ。僕がこうすることは、全て、僕のパソコンに書いておいたから」
そう言っても、美奈子は、黙っている。
「そうか。殺人幇助罪になるね。じゃあ、僕が君を傷つけた分、僕も自分を傷つけるよ」
そう言って、哲也は、彼女からナイフをとり上げた。そして自分の心臓の辺りをめがけて、ナイフを振り上げた。
グイッと振りかぶった時、美奈子は、急いで、立ち上がって、哲也の手を止めた。
彼女は、激しく首を振った。そんなことをしちゃダメ、と必死に訴えているジェスチャーであるのは明らかだった。
彼女は、メモ用紙と、シャープペンを取り出し、「そんなことをしちゃダメ」と書いて、哲也に見せた。
○
美奈子は、途方に暮れているので、哲也は、一人で、山を降りた。
○
それから、数週間ほど、美奈子は、学校に来なくなった。
登下校の時も、哲也は、美奈子と、会うことが無くなった。
昼休みも、哲也は、公園に行って、パンと、牛乳の、昼食を食べたが、美奈子は、現れなくなった。
○
1ヶ月ほど、した、ある日のことである。
昼休みに、哲也が、公園のベンチに、座っていると、美奈子が、やって来て、おそるおそる哲也の隣りに座った。
「美奈子さん。ごめんね」
哲也は、謝った。
美奈子は、黙っている。
「美奈子さん。僕は自分を正当化する気は、全くない。君は僕が、どうして、あんなことをしたか、わかるかい?」
美奈子は首を横に振った。
哲也は、話し出した。
「君は優しいから、僕が、君を犯した責任をとろうとして、自殺しようとすれば、君が、止めるだろうと、そんな計算なんかして、自殺しようとしたんじゃないんだ。確かに、まず、君が、止めるだろうと、は、確信していたけどね」
美奈子は黙って聞いていた。
「僕は、君が止めなかったら、僕は、本当に自分を刺していたよ。そう言っても、君は、信じないだろうし、こんなことを言う僕を偽善者だと思うだろうけど」
美奈子は、「思わない」とノートに書いた。
「僕は、君のような、天使のような、美しい心を持った、人間が、乱暴に犯されて、それでも、人を恨むことが出来ず、シクシク泣く、そんなこの世で最も美しい姿を、どうしても見たくて、日に日に、その欲求が、高じて、我慢できなくなって、ついに、ああいう、乱暴をしたんだ。予想通り、あの時の、君は、何と美しかったことか。僕は、あの日の、君の美しい姿を見れば、死んでも、人生を台無しにしても、いいとさえ、本当に、思いつめていたんだ。君はまさに、イエス・キリストのように、汝の敵を愛せ、という心を持っている、と確信していたんだ。ただ、君は、優しいから、まず、僕を、憎まないとも、思っていた」
美奈子は、哲也の告白を、黙って聞いていた。
「さらに、僕の本心を言おう。ぼくは、君の手にかかって、殺されたいんだ。僕は、君の裁きを受けたいんだ。なぜなら、君は僕の神さま、なんだから」
美奈子は、黙っていたが、
「自分を追い詰めないで」
と、彼女は、ノートに書いた。
美奈子は、カバンから、サンドイッチを、取り出して、「よかったら、食べて下さい」、と、ノートに書いて、哲也に渡した。
「ありがとう」
そう言って、哲也は、サンドイッチを、食べた。
○
それ以来、また、美奈子は哲也と付き合うようになった。
はじめは、美奈子は、おそるおそる、だったが、だんだん、元のように、笑顔が美奈子に現れ出した。
哲也は、高校を卒業して、医学部に進み、医者になった。
美奈子とは、その間も付き合っていた。
哲也と美奈子は結婚した。
二人の間には、女の子が生まれた。
結婚後、哲也は、美奈子を、いとおしく愛した。
哲也は、まれにみる愛妻家だった。
哲也の愛に対して、美奈子も哲也を心から愛した。
平成28年3月1日(火)擱筆
嘆きの天使