金色夜叉

浅野浩二

ある高校である。
そこは野球の強豪校である。
野球部は、ほとんど、毎年、確実に、甲子園に出場している。
強豪校に入れば、甲子園に出られるから、将来、プロ野球選手を目指す、中学生は、強豪校に入りたがるので、全国から、野球の強い生徒が、集まるから、高校は、何もしなくても、ますます、強豪校となっていく。
これを、強豪校の、「神の見えざる手」の法則という。
ある年の、野球部である。
初夏の頃である。
三年には、最速160km/hのストレートを、投げられる、エースの富山唯継がいた。
野球部、そして、富山は、去年も、そして、その前年も、甲子園に出場した。
彼は、バッティングも出来て、二刀流、として、一年で、すでに、プロのスカウトに、目をつけられていた。
去年の地区予選の決勝では、富山が、パーフェクトゲームを達成して、しかも、富山の二本のホームランによって、勝ったので、もう、このチームは、富山のワンマンチームだった。
野球部には、かわいいマネージャーがいた。
名前を鴫沢宮といった。
宮は、内心、富山に、憧れていて、将来は、富山と結婚したい、と思っていた。
「富山君。お願い。私と結婚してもらえない?」
とまで、宮は、富山に告白した。
しかし、富山は、
「う、うん。ありがとう。でも、いきなり、言われても、困っちゃうな。少し、考える時間をくれない?」
と、お茶を濁す返事で去った。
そんな、富山の背中に投げかけるように、宮は、いつも、
「わたし、待ーつーわー。いつまでも、待ーつーわー♪」
と、アミンの、歌を歌った。
そんな、二人の姿を、グランドの木陰から、間(はざま)寛一は、さびしそうに見つめていた。
寛一は、宮を熱烈に愛していたからである。
寛一と宮は、幼馴染じみで、幼稚園、小学校、中学校、と、一緒だった。
二人は、大の仲良しで、いつも、一緒に遊んでいた。
子供の頃は、夏は、一緒にプールで、水遊びをし、冬は一緒に雪だるま、を作ったりして、遊んだ。
ふたりは、中学生の時には、将来は、結婚しよう、とまで、誓い合った。
しかし、高校へ入ると、宮の心は、だんだん、富山の方に移り出したのである。
しかし、寛一の宮に対する、想いは、つのる一方だった。
そこで、ある日、寛一は、勇気を出して、宮を呼び出した。
もちろん、熱海の海へ。
「なあに。寛一君。用って?」
宮が聞いた。
「宮ちゃん。君と話すのは久しぶりだね、君は、最近、富山と、ばっかり、付き合っていているね。僕には、全然、口を聞いて、くれないね」
と、寛一が言った。
「だからどうしたの?」
と、あっさりした口調で、宮が聞いた。
宮は、寛一の存在など、全く無いような態度だった。
「宮ちゃん。僕たちは、将来、結婚しようと、中学の時、誓い合ったよね」
と、寛一が、昔の約束を確認するように、言った。
「だから、どうだっていうの?」
宮は、また、あっさりと言った。
「宮さん。愛しています。どうか、僕と結婚して下さい」
と、寛一は、言って、手を差し出した。
ちょうど、ねるとん紅クジラ団のように。
しかし、宮は、プイと、顔を、背けた。
「なんだ。用って、そんなことだったの。嫌よ。私。ラーメン屋の親爺になるような、将来性の無い男なんかと結婚したくないわ」
宮は、非情なことを、いとも、あっさりと言った。
無理もない、といえば、無理もない。
寛一は、しがないラーメン屋の息子で、将来は、父親のラーメン屋を、継ぐことが決まっていたからである。そこらへんは。今時の、女は、現金で、将来性の無い、男より、将来性のある、男と結婚するからである。女子アナが、みんな、年俸3億円以上の、スター、プロ野球選手と、結婚している事実から、見ても、明らかである。
しかし、寛一は、ガーンと、金槌で頭を打たれたような、ショックを受けた。
「ひどい。宮さん。僕たちは、将来、結婚、することを誓い合ったじゃないか?」
と、寛一が声を荒げて言った。
「ええ。誓ったわ。でも、あれは、子供の、遊びじゃない」
と、宮が言った。
「確かに、まだ、あの時は、また子供で、子供の遊びだった、かもしれない。しかし、君は僕を、好いてくれていたし、僕も君が好きだった。子供とはいえ、お互い、本気の誓いだったじゃないか。あの時、以来、僕の君に対する想いは、変わっていないよ」
と、寛一が熱烈な口調で言った。
「そうなの。ありがとう」
と、宮は、素っ気なく言った。
「ところで、君は、今、僕のことを、どう思っているの?」
寛一が聞いた。
「嫌いじゃないわ。今でも、好きよ」
と、宮が淡泊な口調で言った。
「君は、僕と、富山と、どっちの方が好きなの?」
寛一が、さらに聞いた。
「性格では、あなたの方が好きよ。でも、あなたは、ラーメン屋の親爺になるんじゃない。私も、どうせ、ラーメン屋の、仕事を手伝わされるんでしょ。出前とかも、手伝わされるんでしょ。そんなの、嫌よ」
と、宮は、素っ気なく言った。
「宮ちゃん。目を覚ましてくれ。人間の幸せは、金では買えないよ」
寛一は、宮を揺さぶった。
「そんなことないわ。幸せは、金で、買えるわよ。ルイ・ヴィトンも、エルメスも、シャネルも、ブランド物の高級品は、何でも買えるわよ」
と、宮が堂々と言った。
寛一は、目から、ボロボロと涙を流して、泣き出した。
「そうか。宮さん。君と会うのも、もう今日限りだ。もう、僕たちは、一生、会うことは、ないだろう。宮さん。月を見てご覧」
そう言って、寛一は、月を指差した。
お宮も、月を見た。
きれいな満月だった。
しかし、涙に濡れた寛一の目には、月は、曇って見えた。
「宮さん。今日は、1月17日だ。あの月を、よく覚えておいで。一生、忘れないでおくれ。今月今夜の、この月を。そして来年の、今月今夜の、この月を。そして再来年の、今月今夜の、この月も。十年後の今月今夜の、この月も。一生を通して僕は今月今夜の、この月を忘れないよ。忘れるものか。死んでも僕は忘れないよ。いいかい。宮さん、1月の17日だ。来年の今月今夜になったならば、僕の涙で必ず月は曇らして見せるから。月が・・・月が・・・月が・・・曇ったらば、宮さん。貫一は何処かでお前を恨んで、今夜のように泣いていると思ってくれ」
そう言って、寛一は、お宮を蹴飛ばした。
「あーれー」
と、宮は、悲鳴をあげて、熱海の海岸の、砂浜の上に、倒れ伏した。
熱海の砂浜の上に、倒れ伏している、宮を、残したまま、寛一は、去っていった。
学校の、野球部は、甲子園には、当然、出場した。
そして、決勝戦でも優勝した。
これは、ひとえに、富山の、160km/hの、剛速球のストレートと、甲子園での打率6割の、驚異的な、バッティングの、おかげだった。
10月半ばになって、ドラフト会議が行われた。
野球は、チームワークのスポーツだか、プロ野球の各球団は、チームでなく、当然、技術力のある、選手、個人を欲しがる。
富山は、最速160km/hの、ストレートを、投げられるので、当然のごとく、全球団がドラフト一位で彼を指名をした。
くじびきで、富山は、ドラフト一位で、北海道日本ハム・ファイターズに入団が決まった。
秋も深まって、少し肌寒くなりだした11月の下旬のある日のことである。
富山と宮の、二人は、町の小さな教会で、二人だけで、結婚式を挙げた。
高校三年生での、秋の結婚である。
年齢的には、結婚するには、早すぎるが、これは、お宮が、富山に、「富山君。好きよ。好きよ。世界一、愛しているわ。早く結婚しましょう」、と、連日、熱烈に、訴えたからである。
宮が結婚を急いだ理由は、富山が、スター選手になって、自分より、綺麗な、世間で、人気のある女子アナと、結婚したくなる気が起こるのを、おそれて、その前に結婚してしまおう、という計算からだった。
白髪の牧師が聖書を開いて、寛一に向かって、厳かに言った。
「富山唯継。汝、この女を妻として娶り、その健やかなる時も、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも 富めるときも、貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り真心を尽くすことを誓うか?」
牧師が言った。
「誓います」
富山は、力強く言った。
次に、牧師は、宮の方へ視線を向けた。
「鴫沢宮。汝、この男を夫とし、その健やかなる時も、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも 富めるときも、貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り真心を尽くすことを誓うか?」
牧師が言った。
「誓います」
宮は、厳かに言った。
二人は、エンゲージリングを交換し合った。
これで、二人は、正式に結婚した。
やがて12月になり、冬になった。
そして、年が明け、鴫沢宮、間寛一、富山唯継たち、三年生は、卒業した。
富山は、一億円の、契約金で、北海道の、高級マンションに、移り住んだ。
宮も、富山について、北海道へ、引っ越し、富山の高級マンションに、同居した。
宮は、最高に幸福だった。
(ああ。幸福って、こういうものなのね)
と、エルメスの、ガウンを羽織り、高級ブランデーを、飲みながら、リビングルームのフカフカの、ソファーに、座りながら、宮は、思った。
そして三月に入り、野球では、オープン戦が始まった。
富山は、入団一年目から、一軍での先発ピッチャーとして、レギュラーとなり、スターティング・メンバーに加えられて、活躍した。

一方の、寛一、は、父親のラーメン屋で、ラーメン作りの修行に励んだ。
ある日、寛一は、所用があって、東京に出てきた。
寛一は、驚いた。
なぜなら、博多では、当たり前の、豚骨ラーメン店が、東京には、一店舗もなかったからである。
「あんな、旨い豚骨ラーメンを、どうして、東京人は、食べないのだろう?」
寛一にとっては、ラーメンといえば、豚骨ラーメン、だけが、真のラーメンだった。
「よし。東京で、豚骨ラーメンの店を、開いてやろう」
そう寛一は、決意した。
寛一は、世田谷区の環七通り、に、豚骨ラーメン店、「なんでんかんでん」を開いた。
豚骨ラーメンが、東京人の口に、うけるか、どうかは、賭けだった。
しかし、寛一は、東京者は、豚骨ラーメンを食べたことが、ないので、あの旨さを知らないだけで、一度、豚骨ラーメンの旨さを知れば、客は、必ず来る、という絶対の自信を持っていた。
蓋を開けてみると、寛一の予想は的中した。
醤油ラーメンや、味噌ラーメン、しか、食べたことのない、東京人にとって、豚骨ラーメンは、「?」だった。
しかし、ラーメン好きのグルメ達が、試しに、豚骨ラーメン店、「なんでんかんでん」、に、入って、食べてみると、それは、醤油ラーメンや、味噌ラーメン、とは、比べものにならないほどの、旨いラーメンだった。
口コミ、や、ネットで、話題になり、豚骨ラーメン店、「なんでんかんでん」、は、大繁盛となった。
行列が出来るほど、客が、店に来た。
一日の売り上げが、何と、100万円を、超える大繁盛となった。
一日の売り上げが、100万円を、超えるので、年商3億円という、奇跡的な、ラーメン店となった。
環7通りは、「なんでんかんでん」渋滞とまで呼ばれるようになり、警察官が、常駐して、交通整理をするほどまでになった。
寛一は、これに、自信をもって、豚骨ラーメン店、「なんでんかんでん」を、フランチャイズにしてフランチャイズ・チェーン店舗を、どんどん増やしていった。
「旨い。旨い」
と言って、東京の客達は、豚骨ラーメンを食べた。
ついに、間寛一は、年商600億円の、(株)豚骨ラーメン・チェーン「なんでんかんでんフーズ」の社長となった。
テレビの「マネーの虎」、にも出演した。

一方。富山は、入団した、一年目から、日本ハム・ファイターズの、エースとして、活躍した。
北海道日本ハム・ファイターズの、栗山監督も、ドラフトで、たいへんな、逸材を手に入れた、と喜んだ。
今年は、リーグ優勝、間違いなし、と自信を持った。
実際、富山は、ベテラン投手に、ひけをとらない、いや、それ以上の成績であった。
そして、その年、日本ハムは、リーグ優勝し、日本シリーズも、優勝した。
そして、WBSCプレミア12でも、優勝した。
その年の暮れ、富山は、最多賞、最優秀防御率、最高勝率、の三つのタイトルを獲得した。
しかしである。
プロ二年目になって、プロ野球の世界に慣れてくると、160km/hの直球を投げられるのは、オレだけだ、と、慢心の心が起こってきた。そのため、練習では、ランニングもせずに、怠け、夜は、高級クラブで、豪遊していた。
そのため、腕に無理な力が、かかってしまい、右肘の内側靭帯を完全断裂してしまった。
これによって、富山の野球選手生命は、終わってしまった。
富山は、戦力外通告され、無職になった。
プロ野球選手なんてのは、活躍しているうちは、国民的アイドルとして、みなの憧れで、ちやほや、されるが、野球が出来なくなったら、何も残らない。
年収一億といっても、日本の累進課税制度から、翌年には、前年の高額な収入の半分近く、の金額の税金が、課税される。
戦力外通告された、富山には、もう収入は無い。
年収一億が、かえって、災いした。
プロ野球選手は、年収、一億を超す、スター選手でも、戦力外通告された、翌年には、無職になるので、死ぬほど、焦るのである。
なにせ、野球以外は、何も出来ないのだから。
戦力外通告された野球選手は、その後、ほとんど全員、野球解説者や、高校、大学、社会人などの、野球部の監督やコーチなど、野球関係の仕事に就きたい、と思うのだが、そう、おいそれと、簡単には、なれないのである。
なにせ、小学生の頃から、何も考えずに、ただ野球一筋だけに、生きてきたので、自分の技術は凄くても、技術というものの理論や、運動の技術の上達の論理などは、全くわからないので、野球解説者やコーチの、能力など、全く無いのである。
プロスポーツの花形選手なんてのは、ファンにも、球団にも、その人間の、人格が愛されているのではなく、人格とは、全く関係のない、その選手の技術の高さ、だけが、愛されているので、技術が無くなったら、もう誰も、見向きもしなくなるのである。
やけになった、富山は、毎日、酒を飲んでは、グチを、宮にぶつけた。
「お前が、遊んでばかりいて、栄養を考えた食事も作らず、疲れたオレに、マッサージもしないで、贅沢品をやたら買い込んで、贅沢な生活ばかりしてたから、こんなことになってしまったんだ」
と、富山は、宮にあたった。
宮は、連日の、富山の、家庭内暴力(ドメスティック・バイオレンス)に耐えきれなくなって、ついに富山と、協議離婚した。
富山は、絶望的な虚無感におちいり、やけになって、覚醒剤にまで、手を出すようになってしまった。
そして、その噂が、東京地検特捜部に知られて、富山は、覚醒剤の受け取りの、現行犯の場面を警察に、取り押さえられ、富山は、東京地検に、身柄も書類も送検されてしまった。
それが、連日、スポーツ新聞で、スキャンダルとして、報道された。

そんな、ある日のことである。
その日は、土砂降りの雨が降っていた。
ある時、宮が寛一の麻布の豪邸に訪れた。
ピンポーン。
「あ、あの・・・」
イヤホンから小さな声が聞こえた。
「はい。どなたですか?」
寛一は聞き返した。
「あ、あの。鴫沢宮です」
と、か細い声が聞こえた。
「はい。少々、お待ち下さい」
寛一は、すぐに玄関に向かった。
そして、すぐに、玄関の戸を開いた。
そこには、忘れもしない、宮がいた。
外は、土砂降りの雨で、宮は、ずぶ濡れだった。
憔悴した顔つきで、玄関の前に、佇んでいた。
「やあ。富山宮さん。久しぶり」
寛一は、笑顔で挨拶した。
「お久しぶりです。寛一さん」
宮も、頭を下げて、丁寧に挨拶した。
「よく来てくれたね。とにかく入りなよ。ずぶ濡れで、寒いだろ」
「はい」
こうして、宮は、寛一の豪邸に通された。
「寒いだろ。風呂に入りなよ」
そう言って、寛一は、宮のために、風呂を沸かした。
宮は、温かい風呂に入った。
温かい湯に浸かっていると、冷え切った体が心地よく温まり、それと、同時に、寛一の、優しさに、疲れ果てていた心も、温まってきた。
かなりの時間、湯に浸かってから、宮は、風呂を出た。
脱衣場には、寛一の用意してくれた、パジャマと、ガウンが、置いてあった。
宮は、寛一の用意してくれた、温かい、パジャマを着て、ガウンを羽織った。
「さあ。座りなよ」
寛一は、宮に、リビングルームの、ソファーに腰かけるよう、促した。
それで、宮は、ソファーに、チョコンと座った。
「ところで用は何?」
寛一が聞いた。
「あ、あの。寛一さん。私と、付き合って頂けないでしょうか?」
「君は、富山の妻なんだろう?」
「別れました」
「そうなの。それで、なぜ、君は、僕と、付き合って、なんて、言うの?」
「あなたが、好きだから」
「だって、君は、ラーメン屋なんか、嫌いなんだろう」
「ごめんなさい。寛一さん。昔。軽はずみなことを、言ってしまって」
宮は泣いていた。
「私、今、ホームレスなんです。もう、三日も何も食べていないんです。このままだと、飢え死にしそうで・・・」
「そうかい。じゃあ。豚骨ラーメンを、作ってあげるよ。食べるかい?」
「お願いします」
「じゃあ、作るから、ちょっと、待ってて」
そう言って、寛一は、厨房に行った。
しばしして、寛一は、戻ってきた。
大盛りの、豚骨ラーメンを持って。
そして、寛一は、豚骨ラーメンを、宮の前に置いた。
「さあ。食べなよ」
寛一が言った。
「ありがとう。寛一さん」
そう言って、宮は、豚骨ラーメンを、貪るように食べた。
「美味しいわ。美味しいわ」
と、言いながら。
宮は、一杯だけでは、足りず、もう一杯、豚骨ラーメンを、食べた。
「寛一さん。どうか、私と、付き合って頂けないでしょうか?」
ラーメンを、食べて、落ち着いた、宮は、言った。
「君は、現金だな」
「ごめんなさい。そうです。私は、軽はずみな女です。しかし、どうか、私を哀れと、思って、見捨てないで下さい」
と、宮は言った。
「君の要求は何なの?」
寛一が聞いた。
「あなたと結婚したいのです。駄目ですか?」
「わかった。僕は、君と結婚しよう」
寛一は、あっさり言った。
「ありがとう。寛一さん」
宮は、嬉しさに涙を流した。
こうして二人は、付き合い出した。
宮は、寛一の、麻布の、豪邸に同居するようになった。
そして、二人は、三ヶ月後、婚姻届けを、市役所に提出して、結婚した。
宮は、鴫沢宮から、富山と結婚して、富山宮となり、そして、富山と離婚して、また、鴫沢宮にもどり、そして、今度は、間寛一と結婚して、間宮となった。
二人は、ハネムーンに、ハワイに行った。
ハワイ諸島には、無数の、無人島があって、寛一は、そのうちの、一つの小さな島を買っていた。
宮は、寛一に、飛行機の中で、寛一の肩に頭を載せて、幸せを噛みしめていた。
(ああ。幸せだわ)
と、お宮は、心の中で思っていた。
二人を乗せた、ジャンボジェット機は、オアフ島の、ホノルル空港に着いた。
寛一は、
「ちょっと、知人に用事があって、今日は、知人の家に泊まるから、君は、一人でホテルに泊まってくれ」
と寛一は、言った。
「はい。わかりました」
お宮は、その晩、ワイキキビーチの前の、豪華な、トランプ・インターナショナル・ホテルに一人で泊まった。
ホテルの大きな窓からは、美しいワイキキビーチが、見えた。
しかし、寛一が、いないのが、さびしかった。
翌日になった。
寛一が、お宮の泊まっているトランプ・インターナショナル・ホテルにやって来た。
「宮さん。僕は、ハワイ諸島の中にある、小さな島を買って、持っているんだ。行ってみるかい?」
「わあ。島を持ってるなんて、素敵。ぜひ、行ってみたいわ。ぜひ、行ってみたいわ」
「じゃあ。行こう」
そういうことで、二人は、ワイキキビーチから、モーターボートで、出航した。
風を切る心地よさに、お宮は、最高の幸福を感じていた。
お宮は、セックス・アピールの目的で、アクアドレスの極めてセクシーな、リゾート・ビキニを着ていた。
だだっ広い、大海原の中を、一隻のモーターボートが、青い海原をかき分けて、疾走していった。
しばしして、一つの、小さな島が見えてきた。
「あれが、僕の島さ」
寛一は、そう言った。
それは、小さな、横須賀の猿島くらいの大きさだった。
「面積は、0.055km2で、海岸線長は、1.6kmの、おもちゃのような、小さな島さ」
と、寛一は言った。
島には、小さな、簡易に、即席で、作られたような桟橋があって、寛一は、モーターボートを桟橋につけた。
二人は、島に上がった。
「寛一さん。どうして、こんな島を買ったの?」
お宮が聞いた。
「ふふふ。さあ。何のためかな?」
寛一は、思わせ振りな顔つきと、口調で、笑った。
「この島には、何があるの?」
お宮が聞いた。
「何も無いさ。ただ、あそこに、テントの道具があるから、それを組み立ててみな」
寛一は、そう言って、指差した。
島の、砂浜には、組み立て式の、テントがあった。
(こんな、殺風景な小さな島に、テントを張って、キャンプみたいたことをして、何が面白いのかしら?)
お宮は、疑問の目で、テントを見た。
その時。
バルルルッ。
モーターボートのエンジンがかかる音がした。
お宮は、咄嗟に、後ろを振り返った。
「寛一さん」
寛一は、いつの間にか、お宮から、離れて、モーターボートに乗っていた。
モーターボートは、桟橋から、少し離れて、海の中に、浮かんでいた。
お宮は、あせって、寛一の方へ走った。
「あっ。寛一さん。どうするの?」
宮が聞いた。
しかし、モーターボートは、桟橋から、離れているので、お宮は、モーターボートに乗ることが出来ない。
お宮は、桟橋の上から、モーターボートに乗っている、寛一の近くに行った。
「お宮さん。僕は、オアフ島にもどる。君は、ここで暮らしな」
「ええっ。どうして、そんなことをするの?」
「だって、君は、島を持っているなんて、素敵、と言ったじゃないか」
「それは、そうだけど・・・。何時間したら、ここに、来てくれるの?」
「さあね。それは、わからないな。まあ、色々と用事があるから、三日は来れないな」
「そ、そんなあ」
宮の困惑する顔を余所に、寛一は、モーターボートを走らせて、去っていった。
あとには、お宮だけが、さびしい島にポツンと、一人、残された。

お宮は、途方に暮れた。
寛一が、何を考えているのか、分からなかったからである。
(いつ、寛一さんが、やって来てくれるのだろう?)
寛一は、少なくとも、三日は来ないよ、と言った。
では、今日から、三日間は、この、さびしい島で過ごさねばならない。
なので、お宮は、ともかく、テントを張ることにした。
テントの、道具の中に、なぜだか、大きな金庫があった。
一体、ここは、ハワイ諸島の、どこら辺なのだろう。
テントは、一人、やっと、横になれる程度の小さな物だった。
お宮は、金庫の中を開けてみた。
すると、そこには、札束が、詰まるほど、一杯あった。
百万円が、白いテープで、一つの単位のように、まとめられていて、それが、30個、つまり、三千万円、あった。
そして、テントの中には、レトルトパックの、カレーが、6袋あった。
それと、ノート、シャープペンシルがあった。
お宮は、札束を置いていった、寛一の心が分からなかった。
(なぜ、寛一さんは、札束など置いていったのかしら?)
お宮は、しばし、迷っていた。
宮には、寛一が、なぜ、テント用具と、金のたくさん、入った金庫を、置いて、去っていったのか、その理由が、どうしても、わからなかった。
ここは、どんな島なのだろう、と、お宮は、島を一周してみた。
何も無い。
林の中にも、入ってみたが、特に、何も無い。
しかし。ハワイ諸島とはいえ、だんだん、日が暮れてきて、ビキニ姿だけでは、少し、肌寒くなってきた。
しかも、宮のビキニは、アクアドレスの、女の性器の部分を隠すだけの、セクシーな、ビキニで、保温のためとしての、着物としての役目は、ほとんど無かった。
しかも、その時、パラパラと、スコールが降ってきた。
お宮は、テントの中に入った。
食料も無く、水も無い。
食べ物も、水も無いと、わかると、無性に、腹が減ってきた。
しかも、テレビも、スマートフォンも無い。
(ああ。お腹がすいた。何でもいいから、何か食べたいわ)
お宮は、一人で、そう呟いた。
それで、お宮は、仕方なく、レトルトパックのカレーを、1袋、切って、食べた。
日が暮れて、真っ暗になった。
(ああ。お母さん。お父さん。寛一さん)
そう呟きながら、お宮は、縮こまって、横になった。
腹は減っていたが、精神的、肉体的な疲れから、お宮は、ウトウトし出した。
そして、眠りに就いた。
しかし、いつ、寛一が来てくれるのか、わからず、不安で、しかも、ビキニだけで、寒くて、熟眠など、とても出来なかった。

翌朝、お宮が、目を覚ますと、ちょうど日の出の頃だった。
ハワイ諸島の緯度は北緯20°くらいで、台湾と同じくらいであるが、海洋性気候のため、湿気がなく、暖かい。
お宮は、浜辺へ出てみた。
浜辺は、美しいが、今の、お宮にとっては、飢え死にしないために、島を脱出することが、何より、先決だった。
ここは、ハワイ諸島の中なのだから、島々を通る船が、この島を見つけてくれるかもしれない。さらに、飛行機も、ハワイ諸島の、島々を行き来することも、あるのだから、飛行機が、この島を見つけてくれるかも、しれない。
それで、お宮は、林の中の、木の枝を折って、それで、浜辺に、大きく、SOSと書いた。
こうすれば、この島の上空を通りかかった、飛行機が、見つけてくれるかも、しれない。
お宮は、何だか、ロビンソン・クルーソーになったような気持ちになった。
金庫の中には、一冊のノートと、シャープペンがあった。
なので、宮は、毎日、日記をつけた。
寛一は、三日は来ない、と言った。
ならば、三日後には、来てくれるのかもしれない。
なので、お宮は、レトルトパックのカレーを、一日、2袋だけ、食べることにした。
レトルトパックのカレーは、1袋、100gで、200Kcalしかない。

そうして三日、経った。
お宮が、浜辺で、船が通るのを待っていると、遠くから、一隻の、モーターボートが、遠くから、やって来た。
だんだん、島に、近づいてくるにつれ、それに乗っているのが、寛一だと、わかった。
しかし、お宮は、三日三晩、ほとんど、飲まず、食わず、の状態なので、走り出す体力が無かった。
寛一は、モーターボートを、桟橋に、つけると、お宮の所に、やって来た。
「やあ。お宮さん。元気だったかい?」
寛一が聞いた。
「元気じゃないわ。お腹は減るし、夜も、眠れないし・・・。いつ、あなたが、来てくれるのか、どうかも、わからないし。不安と、心細さで、死にそうなほど、辛かったわ。今日は、私を、オアフ島に、連れ返してくれるために、助けに来てくれたのね?やっぱり、寛一さん、って、優しいわ。私、嬉しいわ」
お宮は、嬉しそうに、そう言った。
しかし、寛一は、黙っていた。
「いや。宮さん。僕は、今日、君を、オアフ島に、連れて帰るために、ここに来たんじゃないよ」
そう、寛一は、冷たい、突き放した、言い方で、言った。
「寛一さん。じゃあ、何のために、やって来たの?」
お宮が、寛一の眼を覗き込んで、聞いた。
しかし、寛一は、黙っていた。
「ところで宮さん。お腹は減っていないかい?」
寛一が、唐突な質問をした。
「それは、お腹、減っているのに、決まっているわ。三日間、ほとんど、何も食べていないんだもの。お腹が減って、もう死にそうだわ」
宮が言った。
「じゃあ、何か、食べたい?」
寛一が聞いた。
「もちろんよ。寛一さん。お願い。お腹が減って、死にそうなの。何か、食べさせて」
お宮は、目に涙を浮かべて、訴えた。
「でも。三日間、何も食べていないから、ウェストが、細くなって、プロポーションが良くなったじゃない」
寛一は、宮の訴えと全く関係のない、そんな意地悪なことを言った。
「寛一さん。お願い。意地悪なこと、言わないで。何か、食べさせて」
お宮は、目に涙を浮かべて、訴えた。
寛一は、麻袋の中から、缶詰を取り出した。
さばの味噌煮の缶詰が、10缶、あった。
「お腹が減っただろう。じゃあ。これを、売ってあげるよ。ただし、一缶、100万円だよ。高くて、嫌なら、別に、買わなくてもいいよ」
寛一は、そう言った。
宮にとっては、背に腹は変えられない。
「か、買います」
お宮は、シクシク泣きながら、テントの中の、金庫から、百万円札の束を、10枚、合計1千万円、取り出して、寛一に渡した。
「よし。じゃあ、売ってあげるよ」
そう言って、寛一は、お宮が、差し出した、百万円の札束を十枚、つまり、1千万円、受け取った。そして、代価として、10缶の、さばの味噌煮の缶詰を、お宮に渡した。
「寛一さん。私。寛一さんが、来てくれなかったら、死んでしまう、という不安に、発狂しそうなほど、悩まされていました。寛一さんが、来てくれて、すごく、嬉しいです」
と、お宮は、泣きながら、言った。
だが、寛一は、何も言わずに、黙っていた。
お宮は、10缶の、さばの味噌煮の缶詰を、受けとって、それを見て、ゴクリと、生唾を飲み込んだ。
しかし、缶詰があっても、缶切り、が無ければ、食べられない。
「あ、あの。寛一さん」
お宮が、ためらいがちに言った。
「何?」
寛一は、極めて淡泊な口調で聞き返した。
「あ、あの。缶切り、を、貸して貰えないでしょうか?」
お宮が、聞いた。
「ああ。そうだったね」
寛一は、そう言って、缶切り、を取り出した。
「これが欲しいかね?」
寛一が聞いた。
「ええ」
お宮が答えた。
「それじゃあ。売ってあげるよ。ただし、缶切り、一つ、百万円だ。どうだね。買うかい?」
寛一が聞いた。
「か、買います」
お宮は、シクシク泣きながら、金庫から、百万円札を、取り出して、寛一に渡した。
「よし。じゃあ、売ってあげるよ」
そう言って、寛一は、お宮が、差し出した、百万円の札束を、受け取り、そして、交換として、缶切りを、お宮に渡した。
缶切り、を、受け取った、お宮は、急いで、さばの味噌煮の缶詰を、開けて、ムシャムシャと、貪るように、さばの味噌煮を食べた。
あまりにも、腹が減っていたので、お宮は、続けざまに、もう、一缶、さばの味噌煮の缶詰を食べた。
「ありがとう。寛一さん」
お宮は、泣きながら言った。
さばの味噌煮の缶詰を、二缶、食べただけでは、まだ、物足りなかったが、お宮の不安は、寛一が来てくれないのでは、ということが、大きかったので、目の前に、寛一がいる、ということが、お宮の不安を、かなり和らげていた。
「寛一さん。どうか、私を、モーターボートで、オアフ島に、連れていってください?」
お宮が必死に訴えた。
「いや。今日は、僕は、一人で、帰りますよ」
と、寛一は、冷たく、突き放した。
「ええー。そ、そんなー。で、ては。一体、いつ、私をオアフ島に、連れ戻してくれるのですか?」
お宮が聞いた。
「さあ。それは、わからないな」
寛一は、意地悪なことを、淡泊な口調で言った。
「ひどいわ。寛一さん。もう意地悪は、しないで」
お宮は、シクシク泣きながら、言った。
寛一は、ニヤニヤ笑っている。
「宮さん。南国といっても、夜は、毛布が無いと、寒いだろう?」
と、泣いている宮に、寛一は、言った。
「ええ」
宮は、肯いた。
その通りだった。
南国といっても、スコールもあるし、風も吹く。
アクアドレスのリゾート・ビキニだけでは、寒いし、毛布が無いと、寝る時、心もとない。
ビキニだけで、寝ると、寝ている間に、体力を消耗してしまう。
実際、宮は、テントの中で、寝た、三日間は、睡眠が浅く、十分な、睡眠を、とれず、レム睡眠で、悪夢ばかり見て、寝ても、精神と体力を、消耗するばかりで、疲れるだけだった。
「じゃあ、宮さん。毛布をあげるよ」
そう言って、寛一は、宮の前に、毛布を一つ、差し出した。
「ありがとう。寛一さん」
宮は、嬉しくなって、毛布に手を伸ばした。
その時、寛一が、毛布を、サッと、引っ込めた。
「ああっ」
宮は、小さな声を上げた。
「この毛布もタダじゃない。一枚、百万円だよ。買うかい?」
寛一が聞いた。
「ええ。買います」
お宮は、ポロポロ涙を流して、泣きながら、寛一に、百万円の札束を渡した。
それで、寛一は、その対価として、
「はい。では、あげるよ」
と言って、お宮に、毛布を渡した。
「じゃあ。またねー」
寛一は、まるで、中学校の生徒が、別れ際に挨拶するような、軽い口調で、言うと、サッと、モーターボートに飛び乗った。
バルルルルッ。
寛一は、モーターボートのエンジンを駆けた。
「ああっ」
うろたえる、お宮を残して、寛一のモーターボートは、青い、海原を掻き分けて、去っていった。
そして、ついに、寛一のモーターボートは、視界から、なくなった。
お宮は、ガックリと、肩を落とした。
今度、いつ、寛一が来てくれるのかは、わからないのである。
お宮は、それから、1日に、さばの味噌煮の缶詰を、2つだけ、食べて、過ごすことにした。
寛一が、今度、いつ、来るのか、わからないからだ。
百万円で買った、ただの普通の毛布は、助かった。
毛布が、こんなにも、有り難い物だということを、お宮は、あらためて知った。
お宮は、出来るだけ体力を消耗しないように、テントの中で、一日中、毛布にくるまって過ごした。
お宮は、あまりの、寂しさから、一人で、シャーリーンの、「愛はかげろうのように」を歌った。
シャーリーンの、「愛はかげろうのように」の、歌が、何だか、今の自分の気持ちに、ふさわしいように、思えたからである。
しかし、一人で歌うと、余計、さびしくなって、お宮は、また、ポロポロ涙を流して泣いた。
この世の、全てのことが、虚しいように、お宮には、感じられた。
お宮は、ただただ、生きていられることの、素晴らしさを、それを、失いかけて、初めて、知り始めた。
寛一が来てくれることだけを、ただただ、毎日、祈った。
三日後のことである。
モーターボートの音がしたので、お宮は、テントから出た。
寛一が操縦する、モーターボートが、海原をかき分けて、やって来た。
「ああ。寛一さん」
お宮は、涙が出るほど、嬉しかった。
さばの味噌煮の缶詰も、ちょうど、昨日、食べつくして、もう、食べ物は、何も無かった。
寛一は、モーターボートを、桟橋につけた。
そして、寛一は、モーターボートを降りると、お宮の方に向かって、無人島の砂浜を歩いた。
「ああ。寛一さん。来てくれてありがとう。私。嬉しいわ」
お宮は、そう言った。
お宮は、今回も、また、寛一が、少しの食糧を、持ってきた、のだと、思った。
もう、お宮は、生きていられるだけで、生きていられることの幸せを、痛感していた。
「宮さん。君は、昔、幸福は、金で買える、と言ったよね。今でも、君は、幸福は、金で買えると思うかい?」
寛一が聞いた。
「思わないわ。富山さんと、結婚した後には、お金持ちになれたわ。欲しい物は、何でも買えたわ。でも、欲しい物を手に入れても、もっと、高級な物が、欲しくなって、それが手に入らないと不満だったわ。人間の欲望って、とどまることがないのね。だから、いつも、不満だったわ」
「では。今、君は、何が欲しい?」
「何でもいいから、食べ物が欲しいわ。でも、欲を言えば。日本に帰って、普通の安アパートに住みたいわ。超高級フランス料理じゃなくてもいいわ。働いて、お腹をすかせて、松坂牛などの、ブランドものでなくても、キャビアや、フォアグラでなくても、安くてもいいから、食べ放題の焼肉や、ラーメンや、カレーライスなどを、腹一杯、食べたいわ。それと、温かい、普通の、布団が欲しいわ。それだけだわ」
「ふむ。そうか。それを聞いて、安心したよ。それじゃあ、今日、モーターボートで、君を連れて、オアフ島に帰るよ。そして、日本に帰るよ。僕は、君が、そう言ったら、君を、オアフ島に、そして、日本に、連れて帰ろうと、思っていたんだ」
寛一は、そう言った。
「ほんとう?ありがとう。寛一さん。信じられないわ」
お宮は、ポロポロと、嬉し涙を流していた。
「日本に帰ったら、どうする?こんな、意地悪をした、僕とは、離婚する?」
「いえ。あなたと、暮らしたいわ。あなたのおかげで、私は、人間にとっての、本当の幸せ、というものを、知ることが出来たんですもの」
お宮は、涙を流しながら、言った。
「そうか。じゃあ、もう、こんな無人島からは、帰ろう。そして、日本に戻ろう」
「ありがとう。寛一さん」
寛一は、お宮を、モーターボートに乗せた。
そして、エンジンを駆けた。
バルルルルッっと、強い、エンジン音が鳴った。
宮は、寛一と、オアフ島に帰った。
オアフ島では、見る物、食べる物、全てが、宮には、新鮮だった。
そして、一週間ほど、オアフ島で過ごした後、寛一と日本に帰った。
宮は、寛一から、豚骨ラーメンの作り方を、習った。
半年で、宮は、豚骨ラーメンの作り方を、完全に覚えた。
宮は、2011年の、3月11日に、起こった、東日本大震災の、福島の相馬町の、仮設住宅街に、豚骨ラーメン「なんでんかんでん」の、店を開きたいと、寛一に言った。
寛一は、快諾した。
宮は、なんでんかんでん相馬店の、店長になった。
店長といっても、厨房で、朝から夜まで、汗水流して、豚骨ラーメンを作った。
寛一は、環七通りの、「なんでんかんでん」の店での、豚骨ラーメン、作りの仕事で忙しかった。
なので、寛一とは、籍を入れたまま、しばらく別居という形の夫婦生活になった。
きれいな女店長と、おいしい、博多の豚骨ラーメン店が出来た、ということで、相馬町および、近くの人が、多くやって来た。
店に来る客が多いので、おおいに町の活性化になった。
次に、宮は、宮城県、福島県、岩手県の、東日本大震災で、甚大な被害を受けた、漁港の町に、次々と、豚骨ラーメン「なんでんかんでん」の、チェーン店を作っていった。
JR東日本も、東北の地方のテレビや、メディアも、その宣伝を大々的にした。
そのおかげで、店は、大繁盛となった。
それによって、東北に観光に来る客が、どんどん増えていき、ついに、東日本大地震の被害前の状態にまで、福島、宮城、岩手の三県は、奇跡的な復興を遂げた。
宮は、ラーメン作りの経験のある者を募集して、豚骨ラーメンの、作り方を伝授した。
そして、その人を店長にした。
それを、東北に、新しくつくった、チェーン店、全てで、やった。
それが、全て、終わると、宮は寛一のいる東京にもどった。
お宮と寛一は、仲むつまじく、幸福に暮らしている。



平成28年3月5日(土)擱筆

金色夜叉

金色夜叉

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-07-28

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted