王女と道化師

それはヨーロッパの中心に位置する王国である。
人々が羨ましがるほど立派な宮殿の中で王様の一人娘のアンは美しい大きな王女の椅子に腰掛けてあくびをかみ殺していた。
「何か面白いことはないかしら」
アンは一日中そんなことを考えていた。すると戸が開いて一人の少年が入ってきた。少年は孤児で、掃除夫として宮殿に住まわせてもらっていた。餓えと寒さで、宮殿の前で倒れている所を衛兵に見つけられた。王様に報告すると、掃除夫兼道化師として宮殿に住まわせることとなったのである。少年は、ぼろをまとっていたが、美しい金髪とやさしい瞳をもっていた。少年は、毎日決まった時刻に宮殿の各部屋を掃除に来るのだった。少年は黙って入って来ては、床や椅子を磨いては帰っていくのだった。アンは少年が力なく働くのをちょっと意地悪ないたずらっぽい気持ちで見るのだった。そして部屋がアンと少年だけとなった時、アンは王女の椅子に腰掛けて少年を呼び寄せるのだった。
「ニールス。こっちへおいで」
そういってアンは少年を呼び寄せた。
「私の靴をお磨き」
アンにそう言われると少年は伏せ目がちにオドオドとアンの足元にひざまずいて靴を磨いた。弱々しく脅えながら、手を震わせて一心に磨いていた。それをみているとアンの心に意地悪な気持ちが起こるのであった。アンは少年をつきとばした。
「ふふふ。何をそんなにおびえてるの」
少年は黙ってうずくまった。
「ゴメンなさい」
アンは少年を見るとますます笑った。
「つまらないわ。お前は将来、私の道化師となるのよ。私を退屈させたらひどい目にあわすわよ」
アンは意地悪な目を少年に向けた。少年はオドオドしている。
「連続バク転10回しなさい」
「で、出来ません」
「じゃあ、何か手品をしなさい」
「で、出来ません」
「じゃあ、一体、何が出来るの?」
「な、何も出来ません」
「しょうのない道化師ね」
「ゴメンなさい」
「つまらないわ。何かおもしろい話をしなさい」
アンは少年の鼻をつまんで言った。少年は、おどおどと話し出した。
「むかし、むかし、ある森に白いキツネがいました」
「うんうん。それで・・・」
アンは身を乗り出して聞き耳を立てた。
「そのキツネは、顔が真っ白でした」
「うんうん。それで・・・」
アンは話の続きを求めた。
「そのキツネは、腹も真っ白でした」
「うんうん。それで・・・」
アンは好奇心いっぱいの顔つきだった。
「そして、そのキツネは尾も白いのでした」
「うんうん。それで・・・」
アンは話の続きをワクワクした表情で求めた。
「で、ですから、おもしろい話です」
少年はオドオドと答えた。
アンの顔が怒りに変わった。
「あんた。私をバカにしてるの」
アンは少年の頬をピシャンと叩いた。
「一分以内に、面白い話を考えなさい。出来なかったら、ひどい目に合わすわよ」
そう言って、アンは一分はかる砂時計をさかさまに立てた。
容器の上の部分の砂は、細いくびれを通って、どんどん容器の下に落ちていく。少年は焦った。
「し、します。します」
そういった時、丁度、砂が落ちきった。
「ぎりぎりセーフにしてあげるわ。さあ、面白い話をしなさい」
アンが言った。少年はオドオドと話し出した。
「昔々、ある国のお城に、わがままなお姫様と、やさしい道化師がいました」
「うんうん」
「王家の一族は、国民に重い税金をかけて、自分達は、豪勢な広い宮殿に住み、国民は貧乏に苦しんでいました」
「うん。うん。それで・・・」
「国民は、怒って革命を起こしました。王と王后は隣国に逃げのびましたが、一人娘のお姫様は捕らえられてしまいました」
「うんうん。それで・・・」
「国民は、お姫様をギロチンにかけろ、と主張しましたが、やさしい道化師が、革命軍に命乞いをしたので、お姫様は助かりました。めでたし。めでたし」
少年はおそるおそるアンを見上げた。
「見え透いたイヤミね。しょうちしないわよ」
「ご、ごめんなさい。で、でも、お姫様は助かったのですよ。よかったじゃないですか」
「何が、わがままなお姫様と、やさしい道化師よ。私はね、王権神授説によって、神から選ばれた人間なのよ。イヤミを言った罰として、お前をギロチンにかけてやるわ」
そう言って、アンは呼び鈴を鳴らした。すぐに侍従が来た。
「はい。なんでございましょうか。王女様?」
侍従は直立したまま、恭しく聞いた。
「ギロチンを持ってきなさい」
「はい」
侍従は、キリッと返事すると、すぐに部屋を出て行った。しばしして、二人の侍従がギロチンを押してやって来た。アンはニヤッと笑った。
「もういいわ。返って」
「はい」
アンに言われて、二人の侍従は、深々と頭を下げ、去っていった。部屋には、アンと少年だけである。黒金の重そうな不気味な刃がギロチンの上で縄で固定されている。その縄が解き放たれると、その重みによって、刃は一気に加速して落下し、首枷に固定された、罪人の首をスパッと切断する。処刑される人間にとっては、一瞬で死ねる安楽な処刑法と、物理的には言える。しかし、首枷に首を固定されるまでの恐怖感。重い刃が解き放たれて、自分の首めがけて落下していく、空恐ろしい恐怖。そして、刃がスパッと首を切り落とし、切断され、血を大量に流した首が、前方に転げ落ちていく光景。その光景をありありと、処刑される罪人の意識に写し出すという点では、これほど身の毛もよだつ恐怖を罪人にかきたてる残酷な処刑法はない。ほとんどの人は、誰しもギロチンを見ただけで震え上がるだろう。アンは意地悪な目を少年に向けた。
「さあ。ニールス。首枷の上に首を乗せなさい」
アンが命じた。
「王女様。ど、どうか、それだけはお許し下さい」
少年は、王女の前に土下座して、ペコペコ額を床に擦りつけて哀願した。
「ダメよ。いくら謝ったって。さあ、早く乗せなさい」
アンは急かすように言った。だが少年は蹲ってしまって、ペコペコ頭を下げるだけで動こうとしない。
「さあ。早くお乗り。どうしても乗らないのなら、侍従を呼んで、無理矢理、乗せるわよ」
そう言ってアンは、呼び鈴を手にとった。
「わ、わかりました。の、乗ります」
侍従達に無理矢理、捕まえられて、手足を押さえられて、断頭台にのせられるのを見られる醜態を少年は恐れた。いずれにしても、断頭台には乗らなくてはならないのだ。少年は、気力なく、ブルブル震えながら断頭台に近づいて、腹這いになり、開いている首枷の下半分に首を乗せた。アンは、王女の椅子からサッと降りて、楽しそうに首枷の上半分を降ろし、首枷をくっつけて、カチリと鍵をかけて、首枷を固定した。
「ああっ」
少年は、思わず、声を出した。恐怖から、首を動かそうとしたが、鍵のかかった首枷からは、もはや逃れることは出来なかった。
ギロチンの上の桟には、滑車が取りつけられていた。刃に取り付けられている太い縄が、その滑車を通って、断頭台に取り付けられてある取っ手に、しっかりと結び付けられている。縄が取っ手に、結びつけられているため、刃は落ちないのである。取っ手に結びつけられている縄がはずされると刃は瞬時に落ちてしまう。アンは、取っ手に結び付けられた縄をはずした。
「さあ。これを持ちなさい。放すと刃が落ちちゃうわよ」
そう言って、アンは、少年の右手に縄を握らせた。
「ああー」
少年は思わず叫んだ。鋼の刃のかなりの重さのかかった縄を、少年は力の限りギュッと握りしめた。それは少年にとって命綱だった。手を放したら重い刃が落ちて、少年の首は、切断されてしまう。そんなこと、おかまいない、といった様子でアンは、ふふふ、と笑った。アンは、化粧用の等身大の姿見の鏡を持ってきて、少年の前に立てた。
「さあ。前を見なさい」
アンが言った。少年はおそるおそる顔を上げて前を見た。
目の前には、首枷をされて、ギロチンの命綱を必死で握りしめている自分の姿が鏡に写っていた。少年は、恐怖で真っ青になって、
「ああー」
と叫んだ。何とアンの残酷なことか。少年に、恐ろしい自分の姿を見せつけて、少年の恐怖感をことさら煽ろうという魂胆である。鋼の刃の縄は間違いなく、滑車を通して少年の手に握られている。縄を握っている手の高さが微かに動くと、刃もそれにともなって、微かに動いた。それは少年に、死の恐怖を、恐ろしい実感として知らしめた。
アンは、ふふふ、と笑って、フカフカの安楽椅子に座った。そして、面白い見世物を見るように楽しそうに、少年を見た。
「アン王女さま。こ、こんなことだけは許して下さい」
少年は真っ青になって訴えた。
「こんなこと、とはなによ。お前が面白い話を思いつけないから、私が面白い遊びを考えてあげたんじゃないの。スリルがあって楽しいでしょ」
「ぼ、僕は面白くないです。死ぬほどこわいです」
「お前は私を楽しますのが仕事なんだから、いいじゃない。嬉しがりなさい」
「誰がこんなことされて嬉しがりますか。い、いつまで、こんなこと続けるつもりですか?」
「さあね。私の気のむくまでよ。それまで我慢しなさい」
何を訴えても聞き入れてもらえないとさとった少年は、アンに訴えるのをあきらめた。少年は恐怖に慄いて、必死で縄を握りしめた。もし縄を放してしまったら、少年の命はないのである。
「ふふふ」
アンは、フカフカの王女の椅子にゆったりと座って、フルーツジュースを手にとって飲みながら、ゆとりの表情で、楽しそうに、地獄の恐怖に慄いている少年を楽しそうに眺めた。しばしの時間が経った。だんだん手が疲れてきて、少年は、ハアハアと息を荒くするようになった。額は汗でびっしょりである。
「王女さま。も、もう限界です。許して下さい」
少年は涙に潤んだ瞳をアンに向けて訴えた。だがアンは、フカフカの王女の椅子にゆったりと座って、フルーツジュースを飲みながら、ゆとりの表情で、楽しそうに、地獄の恐怖に慄いている少年を楽しそうに眺めている。
「わかったわ」
そう言って、アンは、フルーツジュースをサイドテーブルに置き、ソファーから降りて、少年の方にやって来た。
「か、感謝します」
少年は、泣き濡れた目をアンに向けて、弱々しげな顔つきで、ペコペコ頭を下げた。少年は、てっきり断頭台から降ろしてもらえるものだと思って、涙のうちに感謝を込めてアンを見つめた。だがアンは黙って少年を、見つめた。
「ふふふ」
とアンは笑った。その笑い方には、何か底意地の悪いものがあるように見えた。
アンは、必死で命綱を握りしめている少年の脇腹をコチョコチョとくすぐりだした。
「ああー。王女さま。何をするんですか」
少年は真っ青になって叫んだ。命綱を握っている左腕は、ただでさえ力の限界で、珠の汗にまみれて、プルプル震えていた。その脇腹をくすぐろうというのである。少年は、アンの残酷さに芯から戦慄した。
「や、やめて下さい。王女さま」
少年は、はり叫ぶような悲鳴を上げた。だが、アンはやめない。少年が苦しめば、苦しむほど、アンは、嬉しがっているように見えた。アンは、少年の首筋をくすぐったり、耳を引っ張ったり、鼻をつまんだり、と散々、動けない少年の顔を散々悪戯した。
「ああー」
少年は、アンに弄ばれて、苦しそうに眉を寄せて叫んだ。だが、アンは楽しそうに笑っている。アンは、ふふふ、と笑った。アンは、ティッシュペーパーを一枚、取り出すと、先を丸めて、紙縒りをつくった。そして少年の鼻の穴に紙縒りを入れた。紙縒りに刺激されて鼻がムズムズし出した。
「ああー。やめて下さい。王女さま」
これほど辛い責めはなかった。ただでさえ、重い命綱を握りつづける少年の力は限界に達している。そんな少年をさらに、苦しめようというのだ。アンは、執拗に少年の鼻を紙縒りで刺激しつづけた。少年は、鼻腔を刺激されるもどかしさに、ついに、
「はっくしょん」
と、大きなくしゃみをした。少年の鼻からは鼻水が垂れた。アンは、ふふふ、と笑い、少年の鼻をティシュペーパーで、挟んだ。
「さあ、チーンしなさい」
言われるまま少年は、勢いよくチーンした。
「王女に鼻をかませるなんて、ずいぶん無礼な道化師ね」
「アン王女さま。もう許して下さい。くしゃみする時に、命綱を放してしまいそうになってしまいました。もう限界です」
少年は、泣きながら目の前のアンに訴えた。
「しょうがないわね。じゃあ、情けをかけてあげるわ」
そう言うと、アンは、立ち上がって、少年の顔の前から、命綱を握っている少年の右側に位置を変えて座った。アンは、ブルブル震わせている少年から、命綱を両手でつかんだ。
「さあ。もう疲れたでしょ。私が綱を持ってあげるから、手から縄を放しなさい」
そう言ってアンは、ギロチンの命綱を両手でしっかりと持った。縄の引っ張る力がなくなって、少年は、生き返ったように、ほっとした。
「ありがとうございます。アン王女さま。感謝します」
そう言って少年は、縄を放した。少年は、長い時間、縄を握らせていた疲れから開放されて、グッタリと右腕を床に落とした。少年は、慈悲をかけてくれたアンに感謝の目を向けた。だが、何だか様子が変である。アンは少年を、意地悪な目つきで見て、ふふふ、と笑った。少年はおびえながらアンを見た。アンは、いきなりパッと持っていた命綱を放した。ギロチンの刃がサーと落ちてきた。
「ああー」
少年は真っ青になって悲鳴を上げた。あわや、少年の首が、という時に、アンは、ギュッと縄をつかんだ。ギロチンの刃は、少年の首のすぐ上で、止められた。アンは、ふふふ、と笑っている。アンは、またゆっくりと命綱を引っ張って、黒金の刃を上に引き上げた。少年は目の前の鏡で、恐ろしそうに刃とアンを見た。刃が上に上がるとアンは、また、パッと持っていた命綱を放した。ギロチンの刃がまた、サーと落ちてきた。
「ああー」
少年は真っ青になって悲鳴を上げた。アンは、また少年の首の上のギリギリの所で、命綱をギュッとつかんだ。ギロチンの刃は、少年の首のすぐ上で、ギリギリに止められた。アンは、ふふふ、と笑い、また命綱を引っ張って、黒金の刃を上に引き上げ出した。
「お、王女さま。やめて下さい。こんな恐ろしいこと」
少年は、縄を持っているアンに訴えた。
「こんなこと、とはなによ。お前の手が疲れて、可哀相だと思ったから、私が持ってあげてやっているのよ。感謝しなさい」
「で、でも、こんな恐ろしい事をするなんて思ってもいなかったんです」
「スリルがあって、面白いじゃない」
「僕は死ぬほど怖いです」
「じゃあ、縄はお前が持つ?」
少年は迷った。アンが縄を持ったら、アンは、また腋をくすぐったり、鼻に紙縒りをいれたりするだろう。それも耐え切れない。少年は決められずに、弱々しい顔でアンを見つめていた。
「さあ。どっちにするのよ?くすぐったりしないわよ。その代わり、明日の朝まで、ずっと持ち続けているのよ」
アンが、イライラして聞いた。
「ゆ、許して下さい。王女さま」
少年は弱々しい顔で、ペコペコと頭を下げてアンに哀願した。
「しょうがないわね。じゃあ、特別に情けをかけてやるわ。その代わり、お前は私の奴隷になって、私のいう事は何でも聞くのよ」
「は、はい。何でも聞きます。アン王女さま」
少年は目から涙をポロポロ流しながらペコペコと頭を下げた。
アンは、やれやれ、といった顔つきで、命綱をギロチンの桟に取り付けてある取っ手に、グルグルと巻きつけて、しっかりと固定した。
「か、感謝します。王女さま」
少年は目から涙をポロポロ流しながらペコペコと頭を下げた。
「さあ。足をお舐め」
アンは、ふふふ、と笑いながら、少年の顔の前に素足を差し出した。
「はい。アン王女さま」
少年はむしゃぶるように、アンの足指を犬のようにペロペロ舐めた。少年には、もう恥も外聞もなかった。アンのご機嫌をとることが、殺されないことなのだから無理もない。
「首枷をはずして欲しい?」
アンが聞いた。
「はい。お願いします。王女さま」
少年は、目に涙を浮かべながらペコペコ頭を下げて哀願した。無理もない。ギロチンの命綱は固定されてるとはいえ、絶対、落ちてこないという保障はない。縄が千切れるということだって、あり得なくはない。こんな首枷をされたままでいては、神経が参ってしまう。もう、ただでさえ少年の神経は参っていた。
「しょうがないわね。じゃあ、特別に情けをかけてやるわ」
アンは、そう言って首枷を固定している鍵を外した。そして、ソファーにゆったりと座った。少年は、首枷の上半分をそっと持ち上げて、首枷から頭を引き抜いた。これでやっと、完全に安全な身になった。少年はハアと大きなため息をついた。だが、ほっとしたのも束の間。少年は急いで、アンの元に行くと、四つん這いになった。
「アン王女さま。お慈悲を感謝いたします」
少年はそう言って、アンの足指を犬のように一心にペロペロ舐めた。
「ふふ。犬みたい」
アンは、一心に自分の足指を舐めている少年を見て笑った。
「お前も、疲れてお腹が減っているでしょ。美味しい物をあげるわ」
そう言ってアンは、皿に、パンを千切って乗せた。
「ちょっと後ろを向いてなさい」
「はい」
少年は言われるまま後ろを向いた。
「絶対、振り向いちゃダメよ」
「はい」
少年の背後で服の擦れる音がした。次に、シャーという水が物に当たる音がした。そしてまた、服の擦れる音がした。
「さあ。いいわよ。前を向きなさい」
アンに言われて少年は、振り返った。少年の前には、床に皿が置いてあり、それには千切られたパンの断片が5~6個、乗っていた。しかし、そのパンは濡れていて、皿も水で一杯に満たされていた。その水は少し、黄色く、湯気が立っていた。それがアンの小水であることは、明らかだった。
「さあ。犬のように四つん這いになって、それを食べなさい。私の特製の味付けのご馳走よ」
少年は、四つん這いになって、犬のように舌だけで、濡れたビスケットを食べ出した。
「どう。味は?」
アンが聞いた。
「お、美味しいです」
そう少年は答えたものの、それは、少し、しょっぱかった。しかし、殺されなくてすんだことを思うと、本当に美味しく感じられた。少年は濡れたパンを一心に食べた。
「皿にある液体も全部、飲むのよ」
アンが命令した。少年は、パンを全部、食べると、舌でペロペロと皿の液体をチューチュー啜って飲んだ。そしてペロペロと皿を舐めた。
「どうだった。味は?」
アンが聞いた。
「お、美味しかったです」
少年は、頬を赤くして答えた。
「そう。それはよかったわ。それなら、これからは、お前の食事は全部、私の特製の味付けにしてやるわ」
アンは言った。
「あーあ。疲れちゃった。でも楽しかったわ」
そう言って、アンはベッドにゴロンと横になった。

   ☆   ☆   ☆

その日から、アンは、毎日、少年を、色々な拷問にかけるようになった。鉄の処女。引き伸ばし。逆さ吊り。水責め。虫責め。ファラリスの雄牛。など。少年をありとあらゆる拷問にかけた。少年は精神も肉体もボロボロに参ってしまった。

   ☆   ☆   ☆

そんなある日のこと。
アンは少年を呼び寄せて腕をもませていた。
「鼻が痒いわ。かいて」
少年は震える手でアンの鼻をかいた。
「ふふふ。何をそんなにおびえているの」
「ゴメンなさい。ゴメンなさい」
「お前はゴメンなさいしか言えないの。だめね。罰として私の椅子におなり」
「はい」
少年は王女の前で四つん這いになった。アンはその背中に腰掛けた。
「ふふふ。らくちん。らくちん」
アンは腰をゆすった。少年は黙ったまま首をうなだれていた。アンは悪戯っぽく笑って言った。
「つまらないわ。何か面白い遊びはない」
少年は黙っている。力なく頭を項垂れていた。
「ねえ。何かお言いってば」
少年は黙っていた。少年が黙っているので、アンはイライラして立ち上がり、少年を蹴った。少年はしばらくじっとうずくまっていた。が、しばしののち顔を上げた。少年の顔にアンは今まで一度もみたことのない謎の微笑があった。少年は立ち上がってアンに近づいた。そしてアンに囁くように言った。
「アン王女様。とっても面白い遊びがあるんですよ」
「何よ。それ。教えてよ」
アンは好奇心でワクワクしたした顔で聞いた。
「ふふふ」
少年は思わせ振りな顔でアンを見つめて笑った。少年がアンに対して笑ったのはこれがはじめてだった。
「はやくおいいってば」
アンの心は急いた。少年はしばし無言で微笑んでいたが、何度かアンが急いて求めたので、おちついた口調で言った。
「面白いことはまず間違いないんです。でもこんなことしたら僕はきっと死刑にされるだろうな」
少年はアンから目をそらし、半ば独り言のように言った。
「死刑になんかさせないわ。本当に面白い遊びなら何でもいいわ」
アンはすぐに言った。少年は、また微笑んだ。
「でも王女様が許してくれても他の人は許してくれないだろうな」
少年はアンから目をそらし、半ば独り言のように言った。
「パパだって平気よ。パパは私の言うことなら何だって聞くんだから。だからはやくお言い。さもないと死刑にするわよ」
少年はまた笑った。少年の瞳の奥には安心感があった。
「誰にもいわないでくれますか?」
少年はアンに尋ねた。
「いわないわよ。だからはやくその面白い遊びをお教え」
アンの心は急いた。
「じゃ、ちょっと待ってて下さい。遊びに使う道具を持ってきますから」
と言って少年はアンの部屋をうれしそうな顔つきで出て行った。
『道具ってどんな道具なのかしら』
 一人になったアンは好奇心でそわそわしながら少年がもどってくるのを待った。数分もかからず少年は戻ってきた。少年は右手に何か持っているらしく、それをアンに気づかれないよう右手を背中に回したまま、左手でドアを開け、アンの部屋に入り、左手でドアノブをロックした。カチッというロックの音が静まり返ったアンの部屋に響いた。
「どうしてロックするの」
アンは少し不安を感じつつ、両手を後ろにして部屋に入って立っている少年に聞いた。アンが不安を感じたのは、少年には部屋に鍵をかける権限がなく、今はじめて、なんのためらいもなく、ロックした越権行為と、もう一つはことさらにアンに見えないようにして少年が背後に持っている何物かに対してだった。
「それは面白い遊びに邪魔が入らないようにするためですよ」
少年は余裕の含み笑いをしながら両手を後ろにまわしたまま、アンの前に立った。
「な、何を後ろに持っているの?」
アンの声は少し震えていた。
「何だと思います」
少年は余裕たっぷりといった感じで逆にアンに聞き返した。
「わ、わからないわ。早くお見せ」
アンの気は急いた。
「これだよ」
少年は無造作に背中に隠していたものをパッとアンの前に投げ出した。それを見た瞬間、アンは戦慄して、
「あっ」
と叫んだ。アンの目の前に投げ出されたもの、それは幾本もの荒縄のだった。アンは自分の心の中に、ほの暗い恐怖感が足早に高まってくるのを感じた。
「そ、それをどうするっていうの」
アンは声を震わせて少年に聞いた。
「どうすると思います?」
少年は泰然とした口調で聞き返した。
「わ、わからないわ」
アンは、不安を打ち消すように言った。
「こうするんですよ」
と言うや否や、少年は縄の1本を手にとって、素早くアンの背後に回り、アンの両腕を力強くとって背中にねじ上げた。
「な、何をするの?」
アンは声を震わせていった。
「楽しい遊びだよ」
少年は含み笑いをしながら言って、背中に捩じ上げたアンの両手首を縄で縛り上げた。そしてその余った縄の部分で一気にアンのふっくらした胸の上下を二巻き三巻き、厳重に縛り上げた。アンのまだ完熟していない小ぶりな乳房は、その上下を荒縄でくくられて、その輪郭をくっきりとあらわにした。
「こ、これの何が楽しい遊びなの。こ、こわいわ。縄を解いて」
アンは全身を小刻みに震わせながら、震えた声で言った。だが少年はアンの訴えに少しも頓着する気配もみせず含み笑いしながら強気な口調でアンに、
「さあ。その床に座るんだ」
と命令した。だがアンは少年のいつもと違う強気な態度に恐れを感じて両脚をピッタリと閉じてイヤイヤと頭を強く振った。
「さあ。座って。聞き分けのないことを言っちゃだめだよ。マリーアントワネットも往生際はよかったんだよ。王女は往生際をよくしなくっちゃ」
少年がそう言ってもアンは全身を小刻みに震わせながら、膝をピッタリ閉めていつまでたってもガンとして座ろうとはしない。
「さあ。座るんだ」
とうとう少年は業を煮やして、アンの後ろ手に縛られているアンの両手首と肩を掴んで強引にアンを床に座らせた。床は一面美しい色模様のあるペルシャ絨毯が部屋の隅々まで敷き詰められている。座らせられたアンは、これから何をされるのかという恐怖のため、美しい切れ長の瞳を閉じて、両腿をピッタリ閉じて全身を小刻みに震わせている。アンは縄を解こうと腕をゆすってみた。だがその頑丈な縛めは、か弱い少女の膂力に余った。アンは無駄な抵抗を諦めた。アンは少年から顔をそらすように顔を横に向けた。部屋に差し込む西日がアンの頬をほてらせた。そして、その頬のほてり、が、そして手首と胸の縛めが、そして自分が惨めな格好にされているという自意識が、アンに生まれてはじめて羞恥というものを、そしてその羞恥がもたらす妖しい快感をアンにもたらし始めていた。アンは瞑目したまま自分の惨めな姿を想像した。するとその想像の行為は瞬時にアンに妖しい甘美な快感をもたらした。と同時にアンはもう一つの当然の事に気がついた。それは瞑目していても、はっきりアンの脳裏に、まず間違いない正確さをもって映し出された。その事とは言うまでもなく、勝ち誇った笑みを浮かべ、ブザマなアンを見下している少年の目だった。その目の存在はアンに起こっている妖しい快感の奔馬に拍車をかけた。何度もアンは自分の惨めな姿を、瞑目したまま想像した。すると、その都度、それはアンに妖しい甘美な快感をもたらした。アンは自分に酔った。そして思った。できることならば時間が止まって、いつまでもこうしていたいと・・・。
ここにいたってはじめてアンは少年の言った「面白い遊び」の意味を理解し始めた。いつしかアンのバルトリン氏腺は乳白色の粘稠な液体を分泌し始めていた。ポンとアンの肩に手の触れる感触が伝わったため、アンの意識は甘美な想像のナルシズムの世界から現実に引き戻された。アンは咄嗟に手のかかった方に顔を向け、ゆっくり目を開いた。そこには少年が、アンの心を見透かすかのような慧眼な目つきで、満面に笑みをたたえて、じっとアンを見ていた。
「御気分はどうです。アン王女様」
少年は皮肉っぽく敬語を使って聞いた。強烈な羞恥心がアンを襲った。アンは再び固く目を閉じて激しくイヤイヤと首を振った。羞恥心。それは今までおそらくずっとアンの惨めな格好を観ていたであろう少年の存在に気づいたことによってもたらされた。だがそれ以上にアンの羞恥心に火をつけたのは、アンの心まで見透かしたような少年の慧眼な目つきと笑みだった。アンは再び目を閉じた。アンはもうこれで少年の言った「遊び」は終わりだろうと思った。その時。
「あっ」
アンはとつぜん片方の足首を掴まれた感触によって目を開いた。少年が立膝で座って片手でアンの足首を掴んで笑みを浮かべている。そしてもう一方の手には長い荒縄が握られている。アンは再びほの暗い恐怖感が足早に攻め上ってくるのを感じた。
「そ、それをどうするっていうの?」
アンは声を震わせて聞いた。だが少年はアンの質問に少しも頓着する気配も見せず、いきなり今まで閉じられていたアンの膝を無造作に大きく開き、アンに胡座をかかせた。そして交差されたアンの両足首を縄でギュッと縛り上げた。
「な、何をするの?まだ何かするの?」
アンは再び全身を小刻みに震わせながら声を震わせて言った。だが少年はアンの問いかけに少しも頓着せず、足首を縛った余りの縄尻をアンの首の後ろに回し、そしてアンの顔が足首に近づくほど縄をひいて、その縄を足首の縄に結びつけた。いわゆる胡座縛りである。アンは、
「ああー」
と叫び声を出した。背中の窮屈さもあったが、それ以上に、これほど惨めな格好はなかった。アンはもうこれで何をすることも出来なくなったのである。
「御気分はどうです。アン王女様?」
少年はいたずらっぽく聞いた。
「こ、怖いわ。縄を解いて。お願い」
アンは身を震わせて言った。腕だけの縛めだけならば、まだそこには情緒的な美があった。いやむしろ自然体以上の美があったかもしれない。だが、胡座縛りはぶざま以外の何物でもなかった。花恥らう乙女が大きく脚を開き、胡座を組み、傴僂のように背を丸めているのである。だがぶざまさ以上にアンの心にあったものは恐怖感であった。もうこうなってはアンは何も出来ない。少年が首を絞めようがナイフで心臓を刺そうが、アンは何も抵抗できないのである。アンの生殺与奪の権は今や完全に少年の胸先三寸にある。ましてやその少年はアンがいつも気まぐれで奴隷のように扱い、いじめてきた少年である。アンは生まれてはじめて死の恐怖を感じた。
「お願い。縄を解いて。お願い」
アンは今にも涙が出るかと思うほどの弱々しい口調で哀切的な瞳を少年に向け、声を震わせて言った。洞察力に富んだ少年にとって今のアンの心境を見抜くことなど何でもないことだった。少年はやさしい笑顔で、アンの鼻の頭を人差し指でチョコンと触って、
「大丈夫だよ。殺したりなんかしないよ」
と言った。そしてアンの背後に素早く回るや両手でそっとアンの両乳房を触った。
「あっ。な、何をするの?」
アンが聞くや少年は含み笑いし、
「楽しいことさ。すぐに気持ちよくなるよ」
と言った。少年はアンの服の上からアンの胸をゆっくりと、優しく揉み始めた。わざとアンをじらすように、くすぐるように、満遍なく。窓の外には宮殿の中庭に設けられた大きな人造の池の中央で、汲み上げられた水が止むことなく噴水器によって八方に、さまざまな角度で水の飛沫を元の池へ放ち続けている。沈みかかった夕日の光線はその水滴の一滴一滴に反射して美しく光り輝いている。そして池の中の幾羽もの少しも食に困らぬ水鳥達は噴水によって起こる小さな波に優雅に身をまかせ、時折身繕いをしたり、頭を水に突っ込んだりしている。少年がアンの胸を揉み始めてからかなりの時間がたっていた。それは物理的には短い時間であったが、アンにとっては精神的には非常に長い時間のように感じられた。時折少年がアンの乳房をつまんだ。アンは反射的に、
「ああー」
と苦しげな声をもらした。いつしかアンの心にはさっきまであった恐怖感はなくなっていた。それと入れ替わるように、少年の巧みな胸の愛撫が、そして手足の自由を奪われている拘束感が、いつしかアンに少年のこの不埒な行為に身を任せたいという、陶酔の感情をもたらしていた。アンのバルトリン氏腺は、再び乳白色の粘稠な液体を分泌し始めた。乳首はerectioを起こしている。アンは自分がとても素直になっていくのを感じた。
「どう?気持ちいい?」
少年はアンの耳元に口を近づけて聞いた。アンは耳たぶまで真っ赤にして首を振った。
「歳のわりには大きい胸だね。栄養がいいもんね。バストはいくつ?」
「し、知らないわ」
少年の意地悪な質問にまたもアンは首を振った。
「気持ちいいの?どうなの?」
少年は再び聞いた。だがアンは答えられない。黙って俯いたままである。何を聞いてもなにも答えないアンにいささか少年はしびれをきらせ、
「気持ちいいのかどうなのか言ってくれなくっちゃわかんないよ。答えて」
と、ちょっと強気の口調で言った。だがアンは黙ったまま答えない。
「そっ。答えられないってことはまだあんまり気持ちがよくないんだね。じゃ、もっと気持ちのいいことをしてあげるよ」
と少年は言って、右手を胸から離してアンのスカートの中に入れた。少年の手がアンの右の太腿に触れた。その瞬間、アンは咄嗟に、
「あっ」
と声を出し体を硬直させた。
「な、何をするの?」
アンは声を震わせて言った。少年は含み笑いをして、
「だからもっと気持ちのいいことさ」
と言ってゆっくりとじらすように、太腿の上の手をアンの脚の付け根の方へ這わせていった。
「や、やめて」
アンは硬直した体を震わせて、震える声で言った。だが少年はアンの必死の哀願など少しも聞くそぶりも見せない。ついに少年の手はその目的地であるアンのパンティーに触れた。アンは反射的に
「ああー」
と苦しげな声を洩らした。アンは、はじめて少年の方に顔を向け、今にも泣きそうな目で少年を見て、
「やめて。おねがい」
と言った。だが少年は笑窪がくっきり浮き出るほど、やさしい笑顔をアンに返しただけで、アンの必死の哀願など聞く耳を持たなかった。
とうとう少年はアンのパンティーの上に手をのせた。その瞬間アンは反射的に、
「ああー」
と苦しげな声を洩らした。
「おねがい。ニールス。お願いだからやめて」
アンはもう一度、少年に哀願した。だが少年はアンの哀願を無視し、ゆっくりとパンティーの上からアンの女の子の部分をやさしく揉みはじめた。左手はあいかわらず胸の愛撫を続けている。アンは首をのけぞらして、
「ああー」
と苦しげな声を洩らした。アンの体は硬直したまま小刻みに震えている。
「王女様。体の力を抜かなくっちゃだめですよ」
と少年はアンにやさしく言った。アンは自分の哀願は絶対受け入れられないと覚った。少年はアンの女の部分をやさしく揉み続けている。そして時折パンティーの上からrima pudendiをなぞってみたり、外側の花弁をつまんでみたりした。自分の哀願が受け入れられないと覚ったアンは一切を観念した。もう少年に身をまかすより他はないのだと覚った。すると徐々に体の力も抜けはじめた。
「女の子はね、ここを揉まれると、とっても気持ちがよくなるんだよ」
少年はアンの耳元に口を近づけてやさしい口調で言った。アンは耳たぶまで朱に染めて少年から顔をそむけた。どのくらいの時間がたったろう。それはアンにとっては物理的には短い時間であったが精神的には非常に長く感じられた時間であった。徐々にアンは少年の行為から、やめてほしいけれど、でも、もっとやってほしいという逆説的な興奮を感じ始めていた。アンの呼吸と心拍数は徐々に高まっていった。アンはついに耐えられず、
「ああー」
と叫び声をあげた。それは今までの辛いだけのとは違う、辛さを逃れたいという一方、もっと辛さを受けたい、という逆説的な情動から出たうめき声だった。少年の愛撫の技巧は実に巧みだった。アンの心の動きを観察しながら、じわじわと責め、そしてアンが求めたがっているのを察知するや否や、その手を休めた。いつしかアンのバルトリン氏腺からは乳白色の粘稠な液がとめどなく、溢れ出していた。Bulbus vestibuli も、女の子の一番敏感な真珠も強度のerectio を起こしていた。粘稠な液体はパンティーから沁み出して、それが少年の指にくっついた。少年はいったんスカートの中から手を戻して粘稠な液体がべったりついた手をアンの目の前の鼻先のところへもっていった。そうして、
「ほら。みてごらん。べちゃべちゃだよ。女の子はね、気持ちがよくなるとこの白っぽいネバネバした液体がたくさん出て来るんだよ。王女様だって強がり言ってても所詮、女の子なんだね」
とやさしく言った。
「い、嫌っ」
アンは羞恥心から顔を真っ赤にし、耳たぶまで朱に染めて、咄嗟に目を閉じて顔をそむけた。少年は立ち上がってティッシュペーパーをもってきて、再びアンの背後に座り、少年の手についた液体をぬぐった。そしてまた左手をアンの左の胸にあて、右手をアンのスカートの中へ入れ、再びアンの愛撫をはじめた。こんどは少年はアンのパンティーの中へ手を入れ、アンの女の子の部分を直接さわった。その瞬間アンはビクっと一瞬全身を硬直させた。少年は左手でやさしくアンの胸を揉みながら、右手で直接、じかにアンの女の子の部分を愛撫した。こんどは内側の花弁をつまんでみたりvestibulum vaginaeを念入りにさわった。アンの女の子の部分は粘稠な液体でべチョベチョである。少年はアンのhymenをさわったり、ostium urethrae externumをさわって、そのつどアンに
「これがhymenだよ」
とか、
「これがおしっこの出る穴だよ」
とアンの耳元に口を近づけて説明し、アンの羞恥心を刺激した。アンはそのつど耳たぶまで朱に染めて、少年から顔をそむけた。少年はついにアンの女の子の一番敏感な真珠をつまんだ。それは強いerectioを起こしていた。少年がそれにさわった瞬間アンは大きく
「ああー」
と苦しげな声を出した。少年はアンの耳元に口を近づけて、
「ふふふ。大きく尖ってるよ。これは女の子の一番敏感なところだよ。女の子は気持ちがよくなると、これが大きく尖ってくるんだよ。王女様だって言って強がっていてもしょせん女の子だね」
と、コトバでアンの羞恥心を刺激した。アンは顔を真っ赤にして少年から顔をそむけた。少年はアンの真珠の愛撫をはじめた。Corpusをやさしくしごいてみたり、皮をむいてcrusをむき出しにして、撫でたり、優しくしごいたりした。アンの呼吸はだんだん荒くなっていった。アンはとうとう耐えきれず、
「ああー」
と苦しげな声を出した。
「ふふふ。気持ちいいでしょ」
そう少年が言葉でアンの羞恥心をいじめるたびにアンは顔面を紅潮させた。だんだんアンの興奮は最初のオルガズムをむかえ始めていた。アンのmusculi perineiとmusculi vaginaeは律動的収縮を起こし始め、ロルドーシスも現れ始めた。少年の愛撫は実に巧みで意地悪だった。動けないアンをもてあそぶようにじわじわと責め、アンにオルガズムが起こりそうになるとすぐにその手を休めた。アンにとってそれは非常に苦しいことだった。三回目のロルドーシスが起こりそうになった時、それを察知した少年が、その手を休めようとした時、アンはとうとう耐えきれず少年の軍門に下った。アンは少年に哀切的な目を向け、
「おねがい。とちゅうでやめないで」
と言った。少年はやさしい笑顔でアンをみつめてからアンから手を離して立ち上がり窓の方へ向かった。
「どこへいくの?」
とアンが聞いたので、少年は、
「カーテンを閉めにさ。もう暗くなってきたからね。それと部屋の電気をつけにね」
と答えた。少年は窓に手をかけて外の景色を見た。夕日はその半分近くを水平線の下へ隠していた。美しい夕焼け空には一番星が見えている。その空を雁の群がV字型の編隊をつくってねぐらに飛んでいっている。少年は部屋のカーテンを閉めてから、部屋のドアの方へ行き、電気のスイッチを入れた。部屋の中央の大きなシャンゼリアがパッと点灯し、部屋は昼間のごとく明るくなった。そして少年は再びアンの前に座って、アンの顔をみた。アンは少年に哀切的な目を向けた。アンの羞恥心はもう尽きていた。そこにはただ願望、非常に強い、願望、だけがあった。だがそれを口にすることはできなかった。洞察力に長けた少年に今のアンの心境を見抜くことなど何でもないことだった。少年は哀れな顔をしているアンの鼻の頭を人差し指でチョコンと触って、
 「さあ。じゃ。続けようか」
と笑顔で言った。そしてまたアンの背後に回って左手を胸におき、右手をパンティーの中へ入れ、女の子の部分を愛撫し始めた。まず真珠を満遍なく、やさしくしごいたり、その皮をむいてcrusをむき出しにして、優しくしごいた。その間、胸の愛撫も続けていたことは言うまでもない。アンの真珠はすぐに再びerectioを起こした。バルトリン氏腺からの分泌液もあとをたたない。少年はアンの女の子の部分を満遍なく愛撫した。真珠がerectioを起こすや次は内側の花弁をつまみながら、中指をvestibulum vaginaeにのせ、真珠の付け根からcommissura labiorum posteriorまで満遍なく往復させ、その途中にあるostium urethraeやhymenは特に念入りにやさしく揉んだ。その次はcomissura labiorum posteriorを越えてanus近くまでperineal rapheをなぞってみたり、アンのまだはえそろわないpubesを撫でたり、ちょっぴりひっぱってみたりした。そしてそれが終わるとパンティーから手を出し、mons pubisを揉んでみたり、パンティーの上から女の子の部分全体を優しく揉んだ。さらに次はovariumのあたりのお腹を揉んでみたり、指ておしてovariumを刺激してみたり、アンのかわいいお臍をくすぐってみたりした。そんなことをじっくりとアンをじらすように何回も繰り返すうちに、アンの呼吸は再びだんだん荒くなっていった。とうとうアンは、
「ああー」
と苦しげな声を洩らした。アンのmusculi perineiとmusculi vaginaeは再び律動的収縮を起こしはじめた。それに気づくや少年は愛撫の手を休めた。そんなことが何回か続いた。四回目の律動的収縮が起こり始めたとき、少年が手を休めようとしたので、アンはとうとう耐えきれず、少年の方に顔を向け、
「おねがい。とちゅうでやめないで」
と、叫ぶように言った。少年はアンを陥落させたよろこびから、笑窪がくっきり浮き出るほどの笑顔でアンをみて、アンの鼻の頭をチョコンとさわって、
「いかせてあげてもいいけど・・・」
と言って少年は少し間をおいて、愛撫の手を休めると、思わせぶりな口調で、
「条件があるんだ」
と言った。
「な、何?条件って?」
アンは、羞恥心から少し顔を赤らめて小声で聞き返した。少年は余裕のある口調で、
「僕の言うことをきいてくれたらさ」
と言った。
「何?あなたの言うことって?」
アンは聞き返した。少年はアンの一番敏感な真珠をさわった。アンは反射的に、
「あっ」
と言って体を硬直させた。
「き、聞くわ。何でも。だからもうこれ以上いじめないで」
とアンは哀願的な口調で言った。アンにとってこんな状態を続けられることはどうしようもないほどつらいことだった。少年は右手をアンのスカートから出して、手についている分泌液をティッシュでふいた。そして左手で後ろからアンを抱いて、右手でアンの髪を優しく撫でながら、子供にものを教えるような口調で言った。
「王女様。この国の人達はとっても苦しい生活をしているんですよ。重い税金をかけられているため、みんなぼろをまとっているんです。食べ物も生きているのがやっと、というくらいしか買うことができないんです。それに貧民街では上、下水道もなく、伝染病で死ぬ人も後を絶たないんです。僕も貧民街で育ちました。僕のお母さんは、過労と、伝染病のため、僕が7才の時死んでしまったんです。それで行くあてのない僕は、掃除夫としてお城で住むようになったんです。王女様。そういう人達ってかわいそうだと思いませんか?」
少年はアンに聞いた。アンはしばらく考えた後、
「うん」
と言って小さくうなづいた。いうまでもなく、本心からそうだと思って首肯したのではない。世間知らずのアンに、この国の下層の人々の生活など知るよしもなく、また関心もなかった。ただ少年が賛同を求める形で聞いてきたので、わからないけど首肯したのである。
「君のお父様は君のいうことなら何でも聞いてくれるんでしょ?」
少年はアンに聞いた。アンはまた、
「ウン」
と言って小さく肯いた。少年はここぞとばかり真顔になって真剣な口調で言った。
「だったら君からお父様に頼んで、この国の貧しい人たちを救ってくれない。税金ももっと軽くして、貧民街の人たちも救ってくれるよう、頼んでくれない。僕のお願いっていうのはそれなんだ」
少年は言いたいことをいいきってしまった安堵感を感じた。そしてアンの返事を待った。アンはしばらくの間、少年の難解な要求に当惑した。だがアンは何と言っていいかわからない。少年はアンの髪を撫でながらアンの返事をまっている。それでアンは仕方なく、
「わ、わからないわ。私にはわからないわ」
と首を振って言った。少年はアンのこの返事を予想していたかのごとく、おちつきはらって髪を撫でていた手を再びアンのスカートに入れ、敏感な真珠をやさしくしごき始めた。そして再びまえと同じような手順でアンのじらし責めをはじめた。再びアンの呼吸は早くなっていった。そしてふたたび律動的収縮が起こりそうになったので少年は手を休めようとした。とうとうアンは耐えきれず、喘ぎながら、
「わ、わかったわ。パパに言うわ。だからお願いだから途中でやめないで」
と言った。
「本当?」
少年は愛撫を続けながら聞いた。
「本当よ。本当に言うわ。だから・・・おねがい・・・」
アンは苦しみから逃れたい一心で少年の頼みを受け入れた。少年はやっと肩の荷が降りたうれしさから、優しい口調で、
「じゃ、もう意地悪はしないよ。気持ちよくしてあげるよ」
と言ってアンの愛撫の手を早めた。アンの呼吸は一層早くなった。バルトリン氏腺からの分泌はあとをたたない。アンのbulbus vestibuliも、一番敏感な真珠も強度のerectioを起こしている。そしてmusculi perineiが律動的収縮を起こしはじめたのを知るや少年は、アンの強度のエレクチオを起こしている一番敏感な真珠をしごき始めた。今度は途中で手を休めるということはしなかった。かわりに逆に一層激しくしごきつづけた。律動的収縮は指数関数的に高まっていった。呼吸もそれにともなって荒くなっていった。
「ああー」
ついにアンは部屋の隅々にまでひびくほどの声をあげ、アンはオルガズムをむかえた。今までじらされていた分も加わって、その苦しみからの開放は天にも上るほどの快感をアンにもたらした。少年はアンのスカートから手を出してティッシュで分泌液を拭いた。アンのmusculi perineiとmusculi vaginaeはオルガズム後もしばし律動的収縮を続けた後、それは徐々に消失し、数分後、ついにその運動は消失した。アンはぐったりうなだれていた。アンの心はまだ快感の余韻の中にあった。しばらくたった後、少年はアンの両肩を掴んで嬉しそうな口調でアンに、
「どう。気持ちよかった?」
と聞いた。そのためアンの心は現実に引き戻された。アンはさっきのオルガズムの時の自分のあられもない声と姿を思い出し、アンの顔は一瞬真っ赤になった。アンには少年の質問に答えることなど出来なかった。しばしの後、アンの顔の赤みがひいた。アンは少年に、
「おねがい。縄を解いて」
と言った。少年は思い出したように
「ゴメンね。苦しかったでしょ。すぐ解くよ」
と言ってアンの縛めを解きはじめた。まず首にかかっている縄を解き、アンを傴僂のような格好から開放させた。アンの首の後ろには縄の跡がクッキリとついていた。ついで少年はアンの胡座縛りにされていた足首の縄も解いた。ここにも縄の跡がクッキリとついている。アンは極度の拘束状態から開放されてほっとした様子だった。あとは後ろ手の手首の縛めと胸の上下の縛めだけだった。少年がアンの後ろ手の縛めを解こうとして、その手が触れた時、アンは咄嗟に
「まって」
と言って、少年を制止した。
「どうして?」
と少年が聞くと、アンはうつむいたまま、顔を紅くして小声で、
「もう少しこのままでいたいの」
と消え入るほど小さな声で言った。
(アンはもう少しの間、快感の余韻を味わいたいのだ)
と少年はすぐに理解した。
アンの後ろ手と胸の上下の小さな縛めがアンに今まで一度も感じたことのない、妖しい快感、手の自由を奪われているという拘束感。それがアンに妖しい被虐の快感をもたらしていた。アンは自分の心がとても素直になっていくのを感じた。慧眼な少年にはアンのそんな心の動きを見抜くことなど何でもないことだった。少年は後ろから左手でアンを抱いて、右手でアンの髪の毛を優しく撫でながら、
「ごめんね。つらい思いをさせちゃって」
と言った。アンはすぐに、
「私の方こそごめんなさい。今まであなたを奴隷みたいに扱ったりして」
「ううん。いいさ。それが僕の役割だもん」
少年は極めておちついた口調で言った。アンは咄嗟に目頭が熱くなる思いがした。今まで奴隷のように扱ってきた少年が、何のためらいもなく、それを許すどころか、受け入れていることが、今日はじめて逆の立場になったアンにしみじみと感じられたからだ。アンの目尻に真珠のような涙がキラリと光った。同時にアンの鼻から鼻水がちょっぴり頭を出した。それを見た少年はティッシュを二枚重ね、アンの目尻を拭いて、
「王女様は泣かないんだよ」
と言った。そしてティッシュで鼻をかるくつまんで、
「はい。チーして」
と言った。アンは少年の言うままチーして少年に鼻をかんでもらった。少年はアンの鼻をきれいに拭いた。そして今までとはうって変わって真顔になって真剣な口調で、
「さっきのお願いだけど、本当にお父様に言ってくれる?」
と聞いた。アンも真面目な顔つきで、
「ウン。パパに言ってみるわ。でも・・・聞いてくれるかどうか」
「いいよ。言ってくれるだけで・・・。王様は一人娘の君を目の中に入れても痛くないほどかわいがっているんだ。もしかしたら聞いてくれるかもしれないよ」
少年は一縷ののぞみに命をかけるほどの気持ちで言った。そして再びアンを後ろから抱いて、髪を優しく撫でた。アンはうっとりした顔つきで少年に身をまかせている。アンは思った。出来ることならいつまでもこのままの状態でいたいと・・・。
しばしの時間が経った。
「もう、そろそろ縄を解いてもいいでしょ」
と少年はアンに聞いた。
「ウン」
アンは小さく首肯した。少年はアンの後ろ手の縄を解いて、胸の上下の縄も解いた。これでアンの拘束はすべて解かれた。少年は後ろからアンの両手をとって、
「ごめんね。つらい思いをさせちゃって。手痛くない?」
と聞いた。
「ううん。それほど」
とアンは答えたが、アンの両手首には縄の跡がくっきりと見えた。アンは拘束が解かれた後も、うっとりした顔つきで少年に身をまかせている。少年はアンを後ろから抱いて右手で髪を優しく撫でた。
「ねえ。ニールス」
アンは言った。
「なに?」
と少年は聞き返した。アンは耳たぶまで真っ赤にしてモジモジして、なかなか言い出せない。少年は痺れを切らして、慇懃に、
「なんですか。王女様」
と聞いた。
「お願いがあるの」
アンは消え入るくらいの小さな声で言った。
「なんですか?女王様」
少年は再び慇懃な口調で聞いた。アンは顔を真っ赤にして、しばらくの間もじもじしていたが、ついに覚悟をきめ、少し声を震わせて、
「また私を縛って。そして、やさしくいじめて」
と言った。少年は満面に笑みを浮かべ、優しい口調で、
「いいですよ。王女様」
と言った。
「でもあんまりいじめないでね」
とアンが言ったので少年はすぐに、
「うん」
と言った。


平成23年10月25日(火)擱筆

王女と道化師

王女と道化師

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • サスペンス
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-07-25

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted