ふたあい
川向こうの工場がコンクリートを照らすから、東の空はいつも朝焼けだ。街灯も星も光らない道に伸びた電線はピアノ線になって、むらさきいろの雲を切り裂いている。
昼夜を問わず動き続ける配送トラックに、道端に咲くマツバギクに、側溝に落ちていた求人のフリーペーパーに蝶の羽ばたきを見ている。すぐに消費される些事とはなり得ないものなどない。だからこそどこかで誰かが私怨で傷付けあって、黄色のテープとブルーシートを巻くのだろう。
なにもない日常だけがあるのなら、画面の向こうの詐欺も炎暑も倒産も食糧不足も関係がない、はずがなかった。ひとつのまばたきが大嵐を起こすのだ、つぎにむらさきに染まるのは、きっとこの町だ。
予感をこっそりポッケにしまってから、また飛行機の点滅を探して歩いている。
ふたあい