恋した瞬間、世界が終わる -第35話「熱交換」-

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恋した瞬間、世界が終わる -第35話「熱交換」-

第5部 来るべき一瞬のために編「第35話 熱交換」

扉を開けると、冷気が足元を伝ってまとわりつくよう流れた
立ち上ってきた香りが自分の物だと気づくのに少し間が空いた
この研究室の一室に保たれた冷気は、循環されど
上へと昇るものだったか、下へと降るものだったか
その少しの間(あわい)に気を取られたあと気配に気がついた
されど、GIは後ろを振り向くことはなかった

「粒子が外へ漏れることはないと思っていたが」
GIは気配の先にいる“存在”に心の中を割ってみせた

「彼の消息が途絶えていることを
 あなたは知っているのか?」
“存在”は回答を避け必要な質問で埋めた

「ああ、分かっている」
GIはタッチパネルに左手で触れた

「彼にはもう、用がないのか?」
“存在”はGIの左手を目視した

すぐにその目線は実験室の窓に流れた
セキュリティ用のウィンドウシャッターが開いていった

「いや、ミツバチにはそのままでいて構わない」
GIはレベル4の実験室の窓を覗いた

透明なカプセルの中に人型の何かがいるのを認めた
「あの娘がいる」
“存在”はその窓越しの気配を読み取った
「新しい女王蜂の娘か」

「もう、話したのか?」
“存在”はGIとの距離を保ったまま話し掛けた

「ああ、もう知っている」
GIはその距離間に対しては注意しているようだった

「あれを黒だと思っている」
“存在”は自分の意見を述べた

GIはどこまで心の中を割ってみようかと探った目線で
実験室に並べられた価値を値踏みした
そうして、きっとそれ以上の事が訪れると判断した

「“あの”本は、翻訳しないのだろう?」
先に口を割ったのは“存在”からだった

身体に纏っていた冷気が、循環へと向かったあと
GIは窓の曇りに気を向けた
「monogamyだった…という事だよ」
GIの左手は目先の実験室の窓を撫でた

その気になれば、“向こう側”を触れる事ができる
だが、そうしない
敢えてのカーテンをGIは閉めていた

窓を撫でた左手の感触を確認するように
GIはもう一度、右手で実験室の窓を撫でた


黒い服の男は、その場を去っていった

恋した瞬間、世界が終わる -第35話「熱交換」-

次回は、近々アップロード予定です。

恋した瞬間、世界が終わる -第35話「熱交換」-

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  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2021-07-25

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