マネーの虎

浅野浩二

ある時の、「マネーの虎」である。
番組に出た社長たちは、今回は、堀之内九一郎、貞廣一鑑、加藤和也、高橋がなり、南原竜樹、の5人だった。
一人の女が入ってきて、社長たちと、向かい合った。
吉田栄作「いくらを希望しますか?」
女「はい。一千万円を、希望します」
吉田栄作「そのお金の使い道は?」
女「NYスタイルのハウスウェアショップを開きたいと思っています」
女「実は、私は、1991から1999までの8年間、NYの金融業界で、ファイナンシャル・プランナーをしていました。その時、日本に無い分野があることに気がついたんです。それは、Bed&Bath&Beyond。といって、Beyondは、周辺の、という意味です」
高橋がなり「具体的には、どんな事なんですか?」
女「バスローブ。バスマット。ピロケース。などで。特に私は、タオル地を用いたリネン用品を売るハウスウェアショップを開店したいと思っています」
堀之内九一郎「あなたがやるようなものは、今の日本には無いのですか?」
女「確かに、海外のラルフローレンなどは、あります。しかし現状では、ニーズに合ったものはないというのが、現状です。特に私は、20代から30代の、丸の内近辺の、エグゼリーナと呼ばれるOLを対象にしたいと思っています。かつて、芦屋ジェンヌ。シロガネーゼ。セレブ。などが、流行の牽引になったように、エグゼリーナの間で広まれば、それが、主婦たちにも、飛び火して、広まってくれるのではないか、と思っています」
南原竜樹「ブランドは、決まっているんですか?」
女「ありません。日本のオリジナルでやります。ですから、プライベートブランドということになります」
堀之内九一郎「日本人は海外のブランド嗜好だから、買うのであって。はたして、売れるんでしょうかね?」
女「アメリカやフランスのタオルは、日本の気候に合わないんです。日本は、湿度が高いですし、乾きにくいですから」
高橋がなり「僕、一度、ゴルフショップ、やったことがあるんですよ。それは、かなり、いい所で、やって。でも、オリジナルでやってしまって、売れなくて。あの時、仕入れていれば、それなりに売れていたんではないか、と、今だに後悔しているんです。石川さんは、オリジナルでやる、難しさは、知っていますか?」
女「私は、四国のタオル・メーカーを見学したりして、生地。特性などを、勉強したつもりです」
南原竜樹「日本で作るとコストが高いですよね?」
女「日本のタオル・メーカーは、世界一の品質といっても過言ではないんです。去年、四国タオル工業組合が、バスカテゴリーで、NYテキスタイル賞をとりました。これは、グッドデザイン賞にも匹敵するものなんです」
貞廣一鑑「石川さん。あなたは、サファディーは、どう思いますか?」
女「サファデーは、英国のブランドで、ロマンチックで色が豊富です。しかし、NYは世界の中心で、皆、意識していると思うんです」
加藤和也「かなり、ハイソな人を対象にしているようですね」
南原竜樹「でも、それは、趣味の物ですよね。それに、高級パジャマとか、エステティックサロンとか、そういう方向に、女性が、お金を使う傾向は、間違いなく、右肩上がりになっていますよね」
南原竜樹「商品の大体の単価、を教えて下さい」
女「バスタオル一枚、2500円です」
南原竜樹「高いですね」
女「そんなに高くはないと思います。品質から言うと。ブランド物の高級タオルでは、一枚、6000円のもあります」
堀之内九一郎「サンプルとか、ないんですか?」
女「これは、まだ試作段階なんですけど・・・」
(と言って女、は、上着を脱いで、持参した、自作の、バスローブを着た。それは、バスローブに、大きなバスタオルのフードのついた物だった)
女「これは、バスローブに、バスタオルくらいの大きさのフードをつけてみたものです。こうすると、体を拭くという作業と、髪を乾かす作業が、一つで済みます。また、女の人は、濡れた髪のままで、ベッドに横になると、ベッドが濡れるのが嫌だという人が多くて、回りの女性たちに大変、好評でした」
高橋がなり「仕入れ原価は、いくらですか?」
女「2500円です。それを8000円で売りますから、30%です。」
南原竜樹「ちょっと、質問があります。あなたは、今、何をしているのですか?」
女「はい。今、この事業の準備をしています」
南原竜樹「では、ファイナンシャル・プランナーの時の、年収はいくらでしたか?」
女「はい。7万ドルです」
南原竜樹「NYで、一千万円ほどの年収があったんですね。素晴らしいですね。ちなみな、石川さんは、新聞は、何を読んでいますか?」
女「はい。日本経済新聞です」
南原竜樹「あなたは、非常に優れています。今まで出てきた志願者の中で、一番、能力があり、優秀だと思います。私は、高く評価します」
高橋がなり「アイテム一覧は、ありますか?」
(女は、店の売り上げの計画書を皆に渡した。社長たちは、みな、すぐに、それを見た)
堀之内九一郎「これを見ると、大変な利益の出る会社ですね。4期で、五億八千万円?。経常利益、三億?。これは、たいへん御無礼ですが、完全な絵空事だと思います。まあ、この計画の二割もいけば、いいところだと私は、思っています」
南原竜樹「会社を株式で、公開することは、考えていますか?」
女「はい」
堀之内九一郎「サラ金で、借りても、儲かるじゃないですか」
南原竜樹「それも、眼中に入れていると・・・」
女「はい」
南原竜樹「こういう計数計画がしっかり、出来ている。というのは、素晴らしいですね。ですから、これは完璧だと私は思います」
堀之内九一郎「ちょっと待って下さい。タオルを売って、こんなに、儲かるなら、私は、自分でやる」
南原竜樹「でも。彼女は、それで、儲かる仕組みを考えているのですから・・・」
堀内九一郎「私は、今までに、250人くらい、創業させたことがあるんですよ。その中で、一番、失敗するタイプなんですよね。頭がいい。理屈が上手い。過去に給料が良かった。いい会社に勤めていた。計算が上手い。海外経験が長い。すべて、失敗する、要素なんですよ」
南原竜樹「それは、堀之内社長と、反対の人だから、じゃないですか?」
高橋がなり「石川さん。部下、持ったこと、ありますか?」
女「はい。ファイナンシャル・プランナーの時には、アシスタントはいました」
高橋がなり「たとえば、5人の部下、を持って、その成績の責任を、自分が取るような経験はありますか?」
女「そういうのは、ないです」
高橋がなり「この人が、部下のデキの悪い社員を教育できるか。といったら、自分が出来た、という場合、余計、難しい場合があるんですよ。あなたは、何事においても、全部、いい方ばかり、見ているんですよ。それを、雰囲気で感じるんですよ。この人、失敗するなって」
女「でも、数値の達成の方は、体張ってでも達成したいと思っています」
南原竜樹「高橋さん。論破されていますよ」
高橋がなり「いや、私。ぜんぜん論破されていないですよ。この人に何、言っても無駄だと思っているだけですよ」
貞廣一鑑「絶対、という言葉を使ったら、いけない、と云われていますが。僕、使いますよ。絶対、無理です。たとえば、一千万円、借りて事業が失敗したら、どうしますか・・・。死ねます?」
女「(小さな声で)は、はい」
貞廣一鑑「実は、私の伯父が、300万の借金で自殺したんですよ。ホントに机上の空論ですよ。商売なんて、1ポイント失敗したら、アウトですから」
南原竜樹「いや。彼女の悧巧さは、我々が思っている以上に、悧巧だと私は思っています」
堀之内九一郎「南原社長。彼女は、確かに悧巧だけれど。経営者としての悧巧さ、は無いですね」
高橋がなり「僕も、彼女は、マニュアルで覚えることは、上手いけど、未知の世界での能力は、どうかと思いますね」
堀内九一郎「優秀なコンピューター、という感じがしますね」
高橋がなり「人をだまして、儲けたいという顔もしていない、ですし・・・」
女「確かに、頭でっかちで、現場を知らない、というのは、私の欠点だと思います。ですから、失敗するタイプにならないように、自分を変えていきたい、と思っています」
南原竜樹「こうやって、テレビに出たのは、テレビで宣伝して、番組を、うまく使おうと考えたからですか?」
女「(泣きだす)いえ。そんな気は全然、ありません。私。タオル・メーカーとか、金融機関で動くことを、考えていたほどですから・・・。本当はテレビには、出たくなかったんです」
高橋がなり「南原さん。資本を出して。って、ことは、要するに採用する、ということじゃないですか。じゃあ、南原さんが出資して、彼女にやらせてみたら、どうですか?」
南原竜樹「ええ。それは、本気で考えていますよ。事業に失敗した時、我が社に就職する気はないのか、と。優秀な人材は高い、お金を払って採用する。というのは、当たり前ですから。その採用のコストだと考えれば、十分、価値があると思っています」
高橋がなり「石川さん。もし、会社つくって、倒産させたとしたら。どうしますか。南原さんの会社の、ある部門で働いてくれって、言われたら、働きますか。それとも、あなたは、自分が経営者になることにこだわりますか?どっちですか」
女「(しばし迷ってから)就職することは、考えていません。もちろん、失敗しないように、努力しますが、仮に、失敗したとしても、私は、事業を、あきらめません。大袈裟な言い方かもしれませんが、私は、自分の人生の情熱を事業というものに、注ぎたいと思っています」
南原竜樹「でも、その答えも、素晴らしい。あなたは、私の力を借りなくても、乗り越えられる能力があると思います」
吉田栄作「では。社長たちの合計額が、あなたの希望金額に達しなかったので、今回は、ノーマネーでフィニッシュ・・・」
と言おうとした時。である。

高橋がなり、が、
「吉田さん。ちょっと待って下さい」
と言った。
「どうしたんですか?」
吉田栄作が聞き返した。
「ちょっと、考えが、変わりました。私が全額、出します」
と、高橋がなり、が言った。
皆は、目を白黒させて、高橋がなり、を、見た。
「高橋社長。一体、どうした気の変わりよう、なのですか?」
堀之内九一郎が聞いた。
もちろん、否定派の、貞廣一鑑、加藤和也、そして、唯一の肯定派の、南原竜樹も、驚きの目で、高橋がなり、を見た。
「こんな事業、絶対、失敗しますよ。それは、あなただって、認めていたではないですか?」
堀之内九一郎が、唾を飛ばしながら、勢い込んで言った。
女も、高橋がなり、の気の変わりように、目を白黒させて、動揺している。
「まあ。いいじゃないですか。ともかく、ちょっと、ある思う所があって。僕が、一千万円、全額、出します」
と、高橋がなり、が、皆をなだめるように言った。
司会の吉田栄作も、驚いて、しばし、戸惑った。
しかし、ともかく、契約が成立したので、司会の吉田栄作は、気を取り直して、
「では、あなたの、希望金額が達しましたので、契約成立です」
と言った。
女は、訳が分からない、といった顔つきで、ともかく、立ち上がって、高橋がなり、の前に行った。
「石川さん。頑張って下さい。どうか、事業を成功させて下さい」
と、高橋がなり、は、笑顔で、一千万円の札束を、女に手渡した。
女は、ともかく、
「あ、ありがとうございます。事業は、必ず、成功させます」
と、言って、一千万円の札束を、受け取って、高橋がなり、と、硬い握手をした。
皆は、高橋がなり、の気の変わりように、訳が分からないので、拍手は起こらなかった。
しかし、ともかく、女は、NYスタイルのハウスウェアショップの開店資金、一千万円を手にしたのである。
こうして、番組は終わった。
社長たちは、ゾロゾロと、帰っていった。

楽屋で、女は、高橋がなり、に、再度、礼を言った。
「高橋さん。ありがとうございます。でも、どうして、急に、出資してくれる気になったんですか?」
女が聞いた。
「まあ、いいじゃないですか。理由なんて。それより、石川さん。自信のほどは、どうですか?」
高橋がなり、が聞いた。
「もちろん。絶対の自信があります。必ず、成功させます」
女は、自信に満ちた口調で言った。
「そうですか。僕は、あなたの、その自信を買ったんです。では、出資した、一千万円は、返してくれるんですか?」
高橋がなり、が聞いた。
「ええ。もちろん、事業が軌道に乗ったら、売り上げの中から、貸していただいた、一千万円は、利息をつけて、お返しします」
と、女は、自信に満ちた口調で言った。
「いえ。利息は、要りません。その代り、貸した、一千万円は、返して頂きたい。では。一応、念のために、契約書にサインして頂けないでしょうか?」
そう言って、高橋がなり、は、紙を出した。
女は、自信満々だったので、
「わかりました」
と言って、紙切れに、
「私。石川かおり、は、高橋がなり様に一千万円、お借りいたしました。事業が、軌道に乗ったら、全額、お返しします」
と書いて、母印を押した。
「ありがとうございます。私も、あなたの事業を応援します」
高橋がなり、は、嬉しそうに女に言った。
そして、二人は、別れた。

女は、さっそく、翌日から、NYスタイルのハウスウェアショップの開店の準備にかかった。
銀座の一等地にある、ビルの一室を、不動産屋に頼んで、獲得した。
内装をNYスタイルにした。
試作段階だった、フードつきのバスローブも完成させた。
ネットでも、広告を出した。四国のタオル・メーカーに、頼んで、オリジナルの、フードつきのバスローブを大量に作ってもらった。
準備は、万端に整った。

そして、彼女は、店をオープンした。
自己資金と、高橋がなり、から貸してもらった、一千万円の資金を、すへて、店の費用に使ったので、もう、あともどりは、出来ない。
しかし、彼女は、絶対の自信があった。
彼女の計画では、一日、200人は、来店する予定だった。
そして、一日の売り上げは、300万円くらいに、なるはずだった。
確かに、オープンした日には、客の入りは良かった。
「いらっしゃいませー」
女は、愛想よく挨拶した。
客は、予想した通り、金持ちそうな女が多かった。
しかし、客は、店の中を、珍しそうに見るだけで、結局、何も買わずに出ていった。
(これは、新しい店が出来たから、興味本位で、銀座に来たついでに見ているだけだわ)
女は、それを知った。
女は、自分の作った、フードつきのバスローブは、一度、着てみれば、絶対、気に入って、買ってくれるという、絶対の自信があった。
それで、もっと、積極的に、商品をアピールするようにした。
客が来ると、「いらっしゃいませー」と、挨拶すると、同時に、すぐに、商品の説明をした。
女は、フードつきのバスローブを、自ら着て、
「こうやって、風呂から出た後に、着て、髪をふくと、ベッドに横になっても、ベッドが、濡れることは、ありません」
「ちょっと、値段は高いかもしれませんが、これは、吸湿性が良く、とても、快適です」
等々。
そして、客にも、頼んで着てもらった。
「どうですか?」
女が聞くと、客は、
「これって、ブランドは、どこですか?サファデー?それとも、ラルフローレン?」
と、聞き返してきた。
女は、返答に窮したが、自信を持って、
「ブランドはありません。でも、とても、着心地はいいです」
と、懸命に説得した。
しかし、客は、不機嫌な顔をして、
「ブランド物じゃないんじゃね」
とか、
「実用的には、いいかもしれないけれど、こんな、大きなフード、がついていたら、格好が悪いわ。彼氏も見ているし」
とか、
「無料で試して着てみるなら、いいけれど、8000円も出してまで、買う気にはならないわ」
とか、みな、否定的な返事ばかりで、買う客はいなかった。
女は、あせった。
(こんなはずでは、なかったはずなのに。なぜ売れないのかしら)
宣伝が足りないからだわ。
そう思って、女は、多くの、女性週刊誌に、大金を払って、広告を載せてもらった。
しかし、客はやって来ない。
やって来ても、買わない。
女は、あせった。
二ヶ月過ぎ、三ヶ月過ぎても、全く、売れなかった。
かろうじて、中学、高校の同級生や、親戚に知らせたら、友達や、親族のよしみで、買ってくれたが、一般の客は買ってくれなかった。
女は、あせった。
そして、ふと、あることを、思い出した。
それは、ファイナンシャル・プランナー時に、アシスタントの、筒井順子が、女が、作った、フードつきのバスローブを、「グッド・アイデア」と、満面の笑顔で、誉めてくれたことである。
その誉め言葉が嬉しくて、女は、NYスタイルのハウスウェアショップを日本で開店させようと、決断したのである。
それで、女は、アメリカの、筒井順子に電話してみた。
電話をすると、すぐに、元アシスタントだった、筒井順子が電話に出た。
「順子。あなた、私のフードつきのバスローブ、とっても良いって言ってくれたわよね」
「ええ」
「でも、売れないの。どうしてかしら?」
「石川さん。正直に言うわ。私。本心では、あれ。ダサいと思っていたの。でも、それを、言うと、あなたが傷つくから、本心は言えなくって。良いって言ったの」
「ええっ。そうなの?」
「ええ。まさか、本当に、あれで事業をするなんて、思ってもいなかったの。ごめんなさい」
そう言って、筒井順子が電話を切った。
女の頭は、真っ白になった。
アシスタントの褒め言葉は、本当だと、女は信じていたからである。
女は、がっくり、と、肩を落とした。
その時、女に、また、ふと一人の人物が頭に浮かんだ。
「マネーの虎」の番組の時、彼女を徹底的に、コケにした、堀之内九一郎、貞廣一鑑、加藤和也、高橋がなり、に対し、一人だけ、自分を認めてくれた、南原竜樹の存在である。
女は、藁にもすがる思いで、南原竜樹の意見を聞いてみようと、電話してみた。
そうしたら、南原竜樹は、こう言った。
「石川さん。僕は、あなたのNYでの、経歴を聞いて、あなたを敬愛するようになってしまったのです。僕には、あなたのような、素晴らしい経歴がないものですから。それで、皆が、あまりにも、あなたを、ひどく言うものだから、つい、せめて、僕一人くらい、あなたを、認めてあげたいと思ってしまったんです。本心を言うと、事業は、僕も成功するとは思っていませんでした」
女は、頭をハンマーで殴られたような気になった。
ここに至って、女は、やっと、自分の事業が失敗だったことに気がついた。
なんせ、三ヶ月、必死に、売り込みしても、買ってくれる客は一人もいなかったからである。
堀之内九一郎、や、貞廣一鑑の、「絵空事」だの「机上の空論」だのの言葉が、ただでさえ、焦っている彼女の頭をよぎっていった。
ついに、彼女は、店を閉じる決断をした。

彼女は、店を閉じた。
売れないことは、もう、確実なのだ。
ならば、銀座の一等地のビルなどという、目玉が飛び出るほどの、テナント料は、即刻、中止した方がいい。
しかも、資金を全て、使ってしまった上、多くの、女性週刊誌に、大金を払って、広告を載せてしまったのである。
彼女には、一文無しになり、銀行に、必死で、お願いして融資してもらった、多くの女性週刊誌への広告料の、債務だけが残った。
しかし、彼女に一つの疑問が残った。
なぜ、「マネーの虎」の、番組中では、否定的だった、高橋がなり、が、最後に、突然、態度を変え、出資したのか、ということである。
これは、どう考えても、わからなかった。

都内のマンションに住んでいた彼女は、埼玉県の、家賃3万円の、安アパートに引っ越した。
彼女は、高橋がなり、に、おびえていた。
大見栄をきって、自信満々なことを言ってしまったからだ。
そして、それが失敗してしまったからだ。
失意で無為の日が続いた。
彼女の、毎日の、食事は、コンビニで、値段の割に、カロリーのあるものになっていた。
一日の食費は、500円、以内に抑えた。
彼女は、高橋がなり、に、おそれると、同時に、彼に会ってみたいという気持ちも、起こってきた。
理由は、全くわからないが、高橋がなり、は、彼女に、一千万円、投資してくれたのである。
しかも、笑顔で、「頑張って下さい」と言って、握手まで、してくれたのである。

無為の日を続けていても仕方がない。
彼女は、勇気を出して、高橋がなり、に、電話してみた。
トルルルルッ。
「はい。高橋がなり、です」
高橋がなり、が電話に出た。
「あ、あの。い、石川です。マネーの虎で、NYスタイルのハウスウェアショップの開店資金、一千万円を、出資していただいた・・・」
女は、高橋がなり、が、どう出るか、わからず、おそるおそる聞いた。
「やあ。石川さんですか。久しぶりですね。店は繁盛していますか?」
高橋がなり、が聞いた。
「あ、あの。誠に申し訳なく、言いにくいのですが、事業は、失敗してしまいました」
彼女は、勇気を出して言った。
「ええ。それは、知っています。この前、銀座に行った時、あなたの店が閉店して、テナント募集、の広告が貼ってありましたから」
高橋がなり、の、口調は、落ち着いていた。
そのことに、彼女は、ちょっと安心した。
「今、何をしているんですか?」
高橋がなり、が聞いた。
「埼玉県の、安アパートに引っ越して、これから、どうしようかと、迷っています」
女が言った。
「そうですか。もし、よろしかったら、一度、お会いしませんか?」
高橋がなり、が、聞いた。
「は、はい」
「明日で、よろしいですか?」
「は、はい」
女は、これから、どうしようかと、毎日、悩んでいる日々なので、都合などなかった。
ともかく、早く会いたかった。
「では場所は、私の会社の事務所で構いませんか?」
「は、はい。では、明日、お伺い致します」
そう言って、彼女は電話を切った。

翌日になった。
彼女は、久しぶりに、スーツを着た。
そして、JR高崎線に乗って、東京へ出た。
そして、高橋がなり、の会社である、ソフト・オン・デマンドに行った。
ソフト・オン・デマンドは、東京都中野区本町に、あった。

女は、「社長と今日、お会いすることになっています」と言った。
それで、通された。
社員たちが、忙しく、立ち働いている。
女は、社長室に通された。
「やあ。石川さん。久しぶり」
高橋がなり、は、女を見ると、笑顔で挨拶した。
「も、申し訳ありません。高橋さま。期待を裏切ってしまって」
女は、土下座して、頭を深く下げて謝った。
「いえ。いいんです。事業は、カケですから」
がなり、の口調は、冷静だった。
高橋がなり、も、二回ほど、事業に失敗しているので、こういう場合も自分が、経験しているので、冷静なのだろう。
「実は、僕は、あなたの事業は、必ず失敗すると、確信していたんです」
と、高橋がなり、が言った。
「で、では。どうして、出資して下さったんですか?」
女は、びっくりして、聞き返した。
「まあ。いいじゃないですか。それより、貸したお金は、返して頂けるんでしょうか?」
高橋がなり、が、聞いた。
「申し訳ありません。私は、今、銀行の、取り立てに追われていて、逃げているような状況なのです。とてもじゃないですが、今、お支払いすることは、出来ません」
女は、冷や汗を流しながら言った。
「しかし、お金を返す約束は、したじゃないですか?」
高橋がなり、の口調が、少し、ビジネスライクに、冷たくなった。
「も、申し訳ありません。そう言われましても・・・」
女は、それ以上、何も言えなかった。
「じゃあ、ある、お金を稼ぐ方法が、あります。それは、あなたにしか、出来ません。どうですか。やりますか。もし、やる、というのなら、貸した、一千万円は、チャラにしてあげます。さらに、もしかすると、あなたも、かなりの収入を得られるかもしれません。僕は、それを、あなたに、ぜひ、お願いしたいんです」
高橋がなり、が、突然、そんなことを言い出した。
「一体、何なんでしょうか。その、私にしか出来ない、お金を稼ぐ方法というのは?」
女は、がなりの考えていることが、さっぱり、わからなかった。
「あなたは、僕のしているアダルトビデオ会社を、どう思いますか?」
高橋がなり、が、聞いた。
「それは、もちろん、アダルトビデオ会社も、立派な、事業だと、思います。詳しくは知りませんが、アダルトビデオ業界も、競争が激しくて、たいへんだ、ということは、聞いています」
女が答えた。
「そうなんですよ。我が社、ソフト・オン・デマンドも、今一つ、ヒット作が出なくて、経営が苦しい状態なんです」
高橋がなり、が、言った。
「そうなんですか」
「それで。単刀直入に言いますが。私の、お願いとは、あなたに、AV女優を演じてもらいたい、ということなんですよ。一作品で、構いません。どうですか。やって頂けるのなら、一千万円は、チャラにしてあげます。あなたのギャラも、はずみますよ」
と、高橋がなり、は、言った。
女は、さすがに顔を真っ赤にした。
「で、ても。私。女優なんて、したこと、一度もありませんし。それに、私。そんなに、綺麗でも、ないし・・・」
女は、突然の、がなり、の申し出に、動揺した。
もちろん、いきなり、そんなことを、言われれば、女なら、誰だって動揺する。
「ははは。AV女優なんて、みんな、たいして演技など、上手くありませんよ。それと、あなたは、謙遜しているけれど、とても、綺麗ですよ。それと、セリフも、覚える必要もありません。あなたが思っていることを、そのまま、言ったり、やったり、してくれれば、それで、いいのです。下手に、お芝居するより、地、でやった方が、素人っぽかったり、リアル感が出で、いい、ヒット作が出来ることも、多いのです。そこは、私は、この仕事のプロですから、そこらへんの事情は、よく知っています」
と、高橋がなり、は、余裕の口調で言った。
しばし、女は、ためらっていた。
人前で、裸になったことなど、一度も無く、そんなことは、とても恥ずかしくて、出来にくく、しかも、いきなり、そんなことを、言われて、女は、激しく、動揺し、困惑していた。
しかし、たった一作だけで、借りた、一千万円を、チャラにしてもらえるのなら、こんな簡単で、いい話はない。
しばし、迷ったあげく、女は、
「わかりました。やります」
と、顔を赤くして、答えた。
それしか、一千万円を返済する方法が無かった。からだ。
しかし、自分のような、素人で、しかも、顔も、普通ていどの女なのに、その一作が、ヒットするとは、とても思えなかった。
「ありがとうごさいます。では、早速、始めましょう。このビルの地下で、撮影します」
高橋がなり、は、そう言って、立ち上がった。
女も立ち上がった。
高橋がなり、のあとについて、女は、地下室に降りていった。

地下室は、電気が点いてなく、真っ暗だった。
高橋がなり、が、部屋の明かりのスイッチを、押すと、パッと、一気に、部屋は明るくなった。
「ああっ」
女は、思わず、悲鳴をあげた。
なぜなら、部屋には、椅子が、横一列に並んでおり、それに、堀之内九一郎、貞廣一鑑、加藤和也、が、座っていたからである。
「やあ。石川さん。久しぶり」
と、堀之内九一郎が、ニヒルな、そして、意地悪な顔つきで、挨拶した。
女は、戸惑った。
一体、どういうことなのか、さっぱり、わからなかったからである。
地下室には、カメラを持ったカメラマンもいて、撮影の用意は、整っている様子だった。
「高橋さん。これは、一体、どういうことなんですか?」
女が聞いた。
「ふふふ。私が電話したんですよ。あなたが、主役のAV作品を、作るから、出演しませんかって。皆、二つ返事で、出演を引き受けてくれたんです」
と、高橋がなり、が、説明した。
「ひどいわ。高橋さん。ただでさえ、みじめなのに、こんな、落ちぶれた女を、見せ物にしようなんて」
女は、高橋がなり、の袖を引っ張って言った。
「石川さん。あなたは、全然、わかっていませんね。単なる、ありきたりの、AV作品を、作っても、売れません。あなたが、マネーの虎、に出演した時から、もうすでに、ストーリーは、始まっているんです。この作品は、作り物ではなく、実話だからこそ、売れる、と私は確信したんです。もちろん、マネーの虎、の、映像も、作品の一部として使います」
と、高橋がなり、が言った。
「で、でも。あんまりですわ」
女は、今にも泣き出しそうだった。
「石川さん。僕は、ソフト・オン・デマンドで、成功するまで、会社を二つ、潰してしまいました。しかし、それが、いい勉強になったのです。人間は、一度、徹底的に、落ち切った方が、その後、強くなれるんです」
そう、高橋がなり、が説諭した。
「もう、作品のタイトルも、決まっているんです。「美人女社長。借金まみれ。地獄落ち」というタイトルです」
と、高橋がなり、が言った。
「ひ、ひどいわ」
女は、今にも泣き出しそうだった。
「さあ。石川さん。着ている物を、全部、脱いで下さい」
と、高橋がなり、が言った。
女は、佇立したまま、石膏のように、体か、ガチガチに固まってしまった。
無理もない。
かつて、「マネーの虎」で、自分の事業計画を、ボロボロに、言われた、社長たちが、目の前にいるのである。
しかし、彼女は、番組に出た時には、どんなに、貶されても、絶対、事業を成功させる自信をもっていた。
なにせ、念には念を入れて、徹底的に、調べ上げたからである。
それを、ボロボロに否定した、社長たちを、事業を成功させて、見返してやる、という気持ちが、負けず嫌いの彼女には、強くあったのである。
しかし、結果は、社長たちの言った通りの、大失敗におわったのである。
顔を合わせることさえ、恥ずかしいのに、社長たちの前で、裸になることなど、屈辱の極致だった。
そんな感情が、彼女の、頭を、グルグル駆け巡って、彼女は、立ち往生してしまったのである。
現に、今、脱がないまでも、社長たちに、見られていることに、死にたいほどの、屈辱と、みじめさ、を、彼女は、感じていた。
「さあ。石川さん。着ている物を、全部、脱いで下さい」
迷って、佇立している女に、高橋がなり、が、声をかけた。
しかし、彼女は、どうしても、服をぬぐことは出来なかった。
「石川さん。やっぱり、やりたくない、というのなら、それでもいいですよ。その代り、一千万円は、必ず、払って下さいよ」
高橋がなり、が言った。
彼女は、はっと、目を覚まされた思いがした。
社長たちの前で、裸になるのは、死にたいほど恥ずかしいが、一千万円を、返すには、それしか、方法が無いのだ。
「わ、わかりました」
そう言って、彼女は、灰色の、上下そろいの、スーツを脱ぎ出した。
ジャケットを脱ぎ、そして、スカートも、脱いだ。
そして、ブラウスも脱いだ。
彼女は、ブラジャーと、パンティーだけ、という格好になった。
しかし、それ以上は、どうしても、脱ぐことが出来なかった。
「ほー。石川さん。番組に出ていた時より、かなり、スレンダーになりましたね」
堀之内九一郎が、嫌味っぽい口調で言った。
それは、そうである。
店を閉めてから、彼女の食費は、一日、500円、以下におさえてきたのだから。
いやらしい目で、見られている、という実感が、瞬時に、刺すように彼女を襲い、彼女の顔は、羞恥心で、真っ赤になった。
彼女は、少しでも、体を隠そうと、胸と股間の辺りに、手を当てた。
一千万円を、返すためには、身につけている、ブラジャーと、パンティーも、脱がなくては、ならないとは、わかっているのだが、どうしても、それが出来なかった。
そもそも、社長たちは、大学も出ていない、成り上がり者ばかりだが、自分は、アメリカの大学を優秀な成績で出て、アメリカで、ファイナンシャル・プランナーとして、7万ドルの年収があった、エリートだというプライドが、彼女の心には、番組に出た時から、根強くあった。
自分ほど、頭が良く、能力のある人間はいない、と彼女は、自信をもっていた。
それなら、会社の一社員として、給料をもらっているより、自分が、事業者となって、もっと、自分の能力をフルに発揮して、大きな仕事をしたいと思うようになったのである。
そのプライドを、彼女は今でも、もっているのである。
佇立したままの彼女を見かねて、
「仕方がないですね。それじゃあ・・・」
と、高橋がなり、が言って、胸ポケットから、携帯電話を取り出した。
「もしもし。AV男優を、二人ほど、地下室に来させて」
と、高橋がなり、が言った。
すぐに、二人の、AV男優が、地下室にやって来た。
いかにも、スケベそうな顔つきである。
「彼女は、恥ずかしくて、どうしても、脱げないんだ。仕方がないから、お前達が、脱がせてやれ」
高橋がなり、が、そう、二人のAV男優に言った。
「へへへ。わかりました」
二人のAV男優は、舌舐めずりしながら、女に近づいて、獣のように、サッと、彼女に襲いかかった。
一人が、彼女の背後から、羽交い絞めにした。
そして、もう一人が、彼女の前に立って、女の、ブラジャーのフロント・ホックを外した。
ブラジャーに覆われていた、大きな乳房が弾け出た。
「や、やめてー」
彼女は、悲鳴をあげた。
しかし、前の男は、聞く耳など、持とうとする様子など、全く無く、女の、パンティーの、ゴム縁を、つかむと、サッと、パンティーを引き下げてしまった。
そして、パンティーを足から抜きとった。
これで、女は、一糸まとわぬ、丸裸にされてしまった。
二人のAV男優は、彼女の手首を、重ねて、縛ると、その縄尻を、天上の梁にひっかけた。
そして、その縄尻を、グイグイ引っ張っていった。
それにつれて、どんどん、女の手首は、頭の上に引っ張られていき、女は、梁から、吊るされる格好になった。
女の、全裸姿が丸見えとなった。
「ああー」
女は、激しい羞恥で、叫び声を上げた。
無理もない。
テレビでは、社長たちに、どんなに、コケにされても、事業を成功させる自信を持っていて、その自信の発言を貫き通したのに、その事業が、物の見事に失敗した上、に、その社長たちの前で、丸裸を晒しているのである。
女にとっては、いっそ、死んでしまいたいほどの、屈辱だった。
「どうですか。石川さん。今の気持ちは?」
高橋がなり、が聞いた。
「みじめです。恥ずかしいです。いっそ、死んでしまいたいほど」
女は、嗚咽しながら、言った。
「社長。これから、どうしますか?」
AV男優が聞いた。
「それじゃあ。まず、鞭打ってやれ。手加減は、いらないぞ。思い切りやれ」
高橋がなり、が言った。
「わかりました」
AV男優は、ニヤリと、笑って、彼女の、後ろに立ち、ムチを構えた。
そして、思い切り、ムチを振り下ろした。
ビシーン。
ムチが女の、ムッチリした、豊満な尻に命中した。
「ああー」
女は、苦しげな顔で、悲鳴をあげた。
全身が、プルプル震えている。
「もっと、続けろ」
高橋がなり、が冷たい口調で言った。
AV男優は、ニヤリと、笑って、女の、尻や、背中、太腿、などを、力の限り、続けざまに鞭打った。
ビシーン。
ビシーン。
ビシーン。
大きな炸裂音が、地下室に鳴り響いた。
「ああー。ひいー。痛いー」
女は、髪を振り乱し、泣きながら、叫び続けた。
体を激しく、くねらせながら。
女は、さかんに、モジモジと、足を交互に、踏んだ。
それは、耐えられない苦痛を受けている人が、無意識のうちに、とってしまう、やりきれなさ、から何とか逃げようとする、苦し紛れの、無意味な、動作だった。
その動作の激しさ、からして、女の、受けている苦痛の程度が、察された。
「よし。ちょっと、鞭打ちを、やめろ」
高橋がなり、が言った。
言われて、AV男優は、鞭打ちを止めた。
「石川さん。どうですか。今の気持ちは?」
高橋がなり、が聞いた。
「も、もう、許して下さい」
女は、美しい黒目がちの瞳から、涙をポロポロ流しながら言った。
もう、女には、元、ファイナンシャル・プランナー、のエリート社員のプライドなど、無かった。
ただただ、この、地獄の、鞭打ちの、苦痛から、解放されたい、という思いだけが、女の心を占めていた。
「よし。じゃあ。彼女も、立ちっぱなしで、疲れただろうから、縄を緩めてやれ」
そう、高橋がなり、が言った。
AV男優は、女を吊るしている、縄尻を緩めた。
ピンと張って、女を吊るしていた、縄が、緩んでいった。
それにともなって、女は、力尽きたように、クナクナと、地下室の床に座り込んだ。
座った位置で、女の、手首が、頭の上に残されている程度で、AV男優は、縄を固定した。
女は、シクシク泣きながら、横座りしている。
高橋がなり、は、女の手首の縛めを解いた。
女は自由になったが、もう抵抗しようとする気力は無かった。
「石川さん。あなたは、もう、全てのプライドを捨て切れたでしょう?」
高橋がなり、が聞いた。
「はい」
女は、シクシク泣きながら、言った。
「人間、落ちきる所まで、落ちきった方が、成長するんです。僕も、会社を二つ、潰したことが、たいへん貴重な経験となり、今の事業で成功したんです。堀之内九一郎さんも、30回も、事業に失敗して、ホームレスにまで、なったために、その経験のおかげで、今の事業で成功しているんです」
と、高橋がなり、が言った。
「はい」
と、女は素直に返事した。
「あなたは、もう、人間ではなく、メス犬になりなさい」
そう言って、高橋がなり、は、彼女の首に、犬の首輪を、つけた。
首輪には、ロープが、ついていた。
彼女は、精神も肉体も、力尽きていて、逃げようとも、抵抗しようとも、しなかった。
「さあ。あなたは、メス犬です。四つん這いになって、この部屋の中を、壁に沿って、這いなさい」
と、高橋がなり、が、言って、首輪についている、ロープをグイと、引っ張った。
女は、シクシク泣きながら、四つん這いになって、犬のように、地下室の中を、壁に沿って、のそり、のそり、と、這って歩き出した。
高橋がなり、は、ニヒルな笑いを、浮かべながら、丸裸で這って歩いている女の首輪についている、ロープを握りながら、女と共に、歩いた。
それは、まさしく、犬の散歩のように見えた。
しかし、それは、あまりにも、美しすぎた。
ムッチリ閉じ合わさった大きな尻は、歩くにつれ、左右に揺れた。
豊満な二つの、乳房は、熟れた果実のように、仲良く、並んで、実った果実の重さによって、下垂したまま、歩くにつれて、小さく揺れた。
美しい、長い黒髪は、自然に垂れて、髪の先は床に触れた。
地下室の、角に来た時。
「さあ。犬は、自分の、なわばり、の印をつけるために、散歩の時には、オシッコをします。あなたも、犬のように、片足を上げて、オシッコをしなさい」
そう、高橋がなり、が、命じた。
「は、はい」
女は、高橋に命じられたように、犬のように、四つん這いのまま、片足を上げた。
それは、この上ない、みじめな、姿だった。
しばしして。
シャー、と、女の陰部から、小水が、勢いよく放出された。
それは、まさに、犬の放尿の姿であった。
小水を、全部、出し切ると、女は、上げていた片足をもどして、四つん這いになり、また、高橋がなり、に、ロープをとられたまま、四つん這いで、壁に沿って、歩き出した。
地下室を一周すると、そこには、何かの物が入った、小皿が置いてあった。
「ふふふ。石川さん。これは、ドッグフードです。さあ、食べなさい」
高橋がなり、が、言った。
「は、はい」
女は、四つん這いのまま、シクシクと、泣きながら、皿に顔を入れて、ドッグフードの塊を、一粒づつ咥えて、食べた。
「石川さん。どうですか。今の気持ちは?」
高橋がなり、が、聞いた。
「み、みじめです。いっそ、死んでしまいたいほど」
女は、シクシク泣きながら、言った。
「では、社員たちのうちで、彼女に何か、したい人はいますか?」
高橋がなり、が聞いた。
「では、私が・・・」
そう言って、堀之内九一郎が、椅子から立ち上がって、ツカツカと女の前に来た。
「石川さん。やっぱり、私の言った通り、あなたの事業計画は、絵空事だったでしょう」
堀之内九一郎が、言った。
「はい。そうでした」
女は、素直に返事した。
「あなたは、せっかく、我々のような、事業の経験がある人間が、経験から、親身になって、アドバイスしたのに、あなたは、それに、全く聞く耳をもとうとしなかった。あなたは、性格が傲慢なのです。それが、事業が失敗した、原因の一つです。あなたが、聞く耳をもっていれば、こんなことには、ならなかったのですよ」
毎回、金は出さないが、やたら説教して、偉がってばかりいる、堀之内九一郎が、言った。
「はい。おっしゃる通りです」
女には、もう、プライドも、羞恥心も無くなっていた。
「では、私のアドバイスを聞かなかった罰として、私のマラをなめなさい」
そう言って、堀之内九一郎は、ズボンを降ろし、パンツも脱いだ。
そして、露出した、マラを、女の顔に突き出した。
「さあ。しゃぶりなさい」
言われて、女は、堀之内九一郎のマラを口に含んだ。
女は、もう、自暴自棄になっていて、激しい自己嫌悪から、一心に、堀之内九一郎のマラを、貪るように、しゃぶった。
だんだん、堀之内九一郎のマラが、怒張しだし、クチャクチャと音をたて始めた。
堀之内九一郎は、うっ、と、顔を歪め、
「ああー。出るー」
と叫んだ。
堀之内九一郎のマラの先から、精液が、ドクドクと放出された。
女は、それを、咽喉をゴクゴク鳴らしながら、全部、飲み込んだ。
「はあ。気持ちが良かった」
堀之内九一郎は、満足げに言った。
堀之内九一郎は、学歴も無く、30回も事業を起こして失敗し、ホームレスになったほどなので、彼女のような、インテリの、エリートには、激しい劣等感を持っているのである。

「貞廣さんは、彼女に何かしますか?」
高橋がなり、が聞いた。
貞廣一鑑は、手を振った。
「いえ。僕は、いいです。彼女も、本心から、自分の、非を認めていますから」
そう、貞廣一鑑は、言った。
「では、加藤和也さんは、彼女に何かしますか?」
高橋がなり、が聞いた。
「オレ。もう、イイっすよ。そんなに、発言していないし・・・オレ、そろそろ帰ります」
美空ひばりの息子で、ひばりプロダクションの社長の、加藤和也は、そう言って、椅子から、立ち上がろうとした。
「いや。加藤さん。あなたも、否定派だったじゃないですか。あの番組の時、否定した社長が、そろっている、ということが、大切なんですよ」
と、言って、高橋がなり、が、とどめた。
加藤和也は、
「そうですか」
と言って、椅子に腰を降ろした。

高橋がなり、は、自分の、腕時計を見た。
時計の針は、夜の9時を指していた。
地下室には、大きな、檻があった。
「彼女を檻に入れろ」
高橋がなり、が言った。
「はい。社長」
AV男優は、彼女の腕をつかんで、立ち上がらせた。
「さあ。歩け」
二人のAV男優は、彼女の、二の腕を、つかんで、檻の方へ、彼女を連れて行った。
「な、何をするのですか?」
女は、不安から聞いた。
「しれたことよ。お前を、檻の中に、入れて、飼うんだ」
AV男優が言った。
女は、真っ青になった。
「嫌―。やめてー。そんなことー」
女は、叫んだが、両側から、力のある男に、腕を、つかまれているので、抵抗することが出来なかった。
一人の男が、檻を開けると、もう一人の男が、ドンと女の背中を押して、女を檻の中に入れた。
「出して。お願い。ここから、出して」
女は、鉄柵を揺すって、訴えた。
しかし、二人のAV男優は、ニヤニヤ笑っているだけである。
「高橋さん。いつ、出してくれるんですか?」
女は、高橋がなり、に、視線を向けて、聞いた。
「ふふふ。さあ。それは、わかりません。まあ、あなたのアダルトビデオによって、一千万円の儲けが出るまでですね」
高橋がなり、は、薄ら笑いを浮かべて言った。
女は、いつ、この檻から、出してもらえるのか、わからない恐怖におののいた。
もしかすると、永久に、この檻の中に、入れられたままになるのではないか、という不安が、激しく、女を襲った。
「出して。お願い。ここから、出して」
女は、鉄柵を激しく、揺すって、訴えた。
「石川さん。あなたは、事業に失敗したら、死ねますか、と、私が、聞いたのに対して、あなたは、はい、と答えたじゃないですか。あれは、ウソだったんですか?」
と、貞廣一鑑が言った。
女は、答えられず、うわーん、うわーん、と泣き出した。
その時。
ガチャリと、地下室の戸が開いた。
「やあ」
と言って、豚骨ラーメン会社の、川原ひろし、が入ってきた。
「やあ。川原さん」
と、高橋がなり、が、挨拶した。
川原は、豚骨ラーメン、なんでんかんでん、の社長である。
しかし、南原竜樹は、彼を、ラーメン屋、と呼んで、バカにしていた。
南原は、川原を、事業者、社長とは、見なしていなかった、のである。
川原は、出前用の倹飩箱を持っていた。
川原は、檻の前に来ると、倹飩箱を開けた。
その中には、豚骨ラーメン、が、入っていた。
それは、温かそうな湯気を出していた。
「さあ。腹が減ったでしょう。うまい豚骨ラーメンですよ。食べなさい」
そう言って、川原やすし、は、豚骨ラーメン、を、檻の中に入れた。
女は、どういう意図なのか、わからなくて、高橋がなり、を見た。
もしかすると、豚骨ラーメン、の中に、青酸カリが入っているのではないか、という猜疑心まで、起こっていたのである。
「ははは。石川さん。毒など、入っていませんよ。あなたは、我が社の、大切な、AV女優なのですから。さあ。食べなさい」
と、高橋がなり、が、女の心配を先回りして、安心させるよう、言った。
女は、高橋がなり、の言葉を信じた。
すると、途端に、腹が減ってきて、女は、貪るように、豚骨ラーメン、を、食べ出した。
無理もない。
女は、ハウスウェアショップを閉じてから、毎日、食事代は、500円以下で、生活してきたのである。
裸で、檻の中、という状況ではあったが、豚骨ラーメン、は、この上なく、うまかった。
「石川さん。僕は、あなたが、出演した時には、出席しませんでしたが、テレビで観ていましたよ。あなたの事業は、絶対、失敗すると、確信していましたよ。南原竜樹は、いつも、私を、ラーメン屋、と呼んで、バカにしていましたが、あの男の予想は、見事に外れましたね。私は、それが、痛快でならないのです。敵の敵は、味方ですから、高橋さんに、来ないか、と、呼ばれた時、二つ返事で、行く、と言ったのです」
と、川原やすし、は、言った。
「さあ。皆さん。もう、今日は、遅いですから、お帰り下さい」
高橋がなり、が言った。
「彼女は、これから、どうするのですか?」
川原やすし、が、聞いた。
「さあ。まだ。決まっていません。ともかく、しばらくは、檻の中で、過ごすことになるでしょうね。一千万円、我が社が儲かるまで・・・」
と、高橋がなり、が言った。
「それでは、帰るとするか」
と、堀之内九一郎が言って、立ち上がった。
貞廣一鑑、加藤和也、そして、高橋がなり、も、立ち上がって、地下室を出ていった。
撮影していたカメラマンも、地下室を出ていった。
一人になると、今度は、耐えられない、孤独と、寂寞感が、襲ってきて、彼女は、わーん、と、号泣した。

かなりの時間が経過した、ように女には感じられた。
女は、激しい不安に駆られた。
せめて時計があけば、今、いつで、何時が、わかって、少しは安心できるが、ガランとした地下室には、何も無く、その空虚さが、女を、余計、不安にさせた。
明日は、一体、どんな責めをされるのかと、思うと、女は、耐えきれなくなって、泣いた。
一体、いつまで、この地下室に、入れられ続けられるのだろう。
せめて、それを、言ってくれれば、かえって、安心できるのだが、何をされるか、わからない、というのは、気の小さい、人間の不安を余計、あおって、不安をかきたててしまう。
未知の不安というものは、人間に、最悪な妄想をかきたててしまう。
女は、チラッと壁を見た。
すると。壁にある三つの点が、人間の目と口に見えてきて、それが、やがて、人間の顔に、そして、さらに、悪魔の顔に見えてきて、女は、怖くなって、壁を見ることも出来なくなってしまった。
女の脳裡に、ニューヨークで、ファイナンシャル・プランナーとして、バリバリ働いていた、充実した日々が思い出されてきた。
アシスタントに命令し、テキパキ仕事をこなしていた、自分が思い出された。
そして、日本で、NYスタイルの、ハウスウェアショップを展開して、バリバリ稼ぐ、女社長を、想像の内に、夢見ていた、幸福だった頃の自分も、思い出されてきた。
それが、現実には、事業に完全に失敗し、丸裸で、檻の中に入れられている自分を思うと、女は、天国から地獄へ落ちてしまった、その落差に、泣いた。

かなりの時間が経過した。
その時である。
ギイー、っと、静かに、地下室の戸が開いた。
南原竜樹が、立っていた。
女は、びっくりした。
丸裸を見られる恥ずかしさ、より、南原が、はたして、他の社長と同じように、高橋がなり、に頼まれて来たのか、それとも、そうではないのか、ということが、今の、彼女の最大の、関心事だった。
南原竜樹は、檻の前にやって来た。
「南原さん。どうして、ここに来たんですか?」
女は、南原竜樹に聞いた。
南原竜樹は、話し出した。
「石川さん。あなたが、銀座に、ハウスウェアショップを出したことは、当然、知っていました。その後の動向も。しかし、店は、儲からず、閉店してしまいましたよね。僕は、高橋がなり、が、突然、気が変わりして、あなたに、投資する、と言った、理由が、番組の時には、どうしても、わからなかったんです。僕は、その理由を考え続けました。しかし、どうしても、その理由が、わからなかったんです。しかし、堀之内九一郎、や、川原ひろし、が、さっき、私に、電話してきたんです。南原さん。あなたの判断は、見事に、間違いましたね。と、言ってきたんです。思わせ振りに、得意そうに。それで、もしかすると、こういうことになっているのでは、ないのか、と、思ったんです。案の定でしたね。僕は、忍んで来たので、高橋がなり、や、他の社長たちに、見つかると、やっかいです。さあ。逃げましょう」
と、南原竜樹は言った。
「ああ。南原さん。あなたは、私の救い主です。私の命の恩人です。何と、お礼を言ったらいいのか、わかりません。一体、いつまで、ここに、閉じ込められるのか、わかりません。もしかすると、死ぬまで、閉じ込められるのかもしれないと思うと、こわくて、こわくて。さらには、アダルトビデオを撮った後に殺されてしまうのではないかとも思えてきて。発狂する寸前でした」
女は、号泣しながら、言った。
「では、すぐに、逃げましょう。今、夜中の3時です。ここの会社には、今、誰もいません」
と、南原竜樹は言った。
「でも、檻には鍵がかかっています」
女が言った。
「社長の机の引き出し、の中に、キーホルダーがあって、いくつもの、鍵が、まとまって、いるのを、見つけました。まず、この中に、この檻の鍵も、あるはずです」
そう言って、南原竜樹は、鍵が、5つほど、ついている、キーホルダーを出した。
「この檻の鍵は、たぶん、これでしょう」
南原竜樹は、そう言って、鍵穴に、小さめの鍵を差し込んだ。
そして、鍵を回した。
ガチャリ。
鍵が開いた。
南原竜樹は、檻の戸を開けた。
「ああ。南原さん。あなたは、命の恩人です」
女は、檻の中から、出てくるなり、号泣して言った。
「・・・話は、あとにして、ともかく、はやく逃げましょう。この会社の外に、僕の車がとめてあります」
南原竜樹が言った。
「はい」
女は、素直に返事した。
地下室の隅には、女の着ていた、下着や、スーツが、散らかっていた。
女は、パンティーを履き、ブラジャーを、つけた。
そして、灰色の、スーツの上下を着た。
「さあ。ここを出ましょう」
「はい」
二人は、地下室を出た。
そして、ソフト・オン・デマンドの事務所も出た。
外には、南原竜樹の、BMWが置いてあった。
南原は、助手席を開け、彼女を乗せ、自分は、運転席についた。
南原は、エンジンを駆けた。
車は、勢いよく、走り出した。
時刻は、夜中の3時で、外は、真っ暗である。
24時間、営業の、コンビニや、ファミリーレストランだけが、その中で、ひっそりと、明かりを灯していた。
南原は、すぐに首都高速の入り口に入り、首都高速を、飛ばした。
車好きだけあって、南原の運転は、女に、格好良く、見えた。
しかも、自分を救出してくれたのである。
女には、南原竜樹が、とても、格好のいい、頼もしい、男に見えた。
女は、助手席で、うっとりしていた。
「石川さん。とりあえず、僕のマンションへ、行く、ということで、よろしいでしょうか?」
南原竜樹が聞いた。
「はい」
女は、うっとりした、表情で言った。
「あ、あの。南原さん」
「はい。何ですか?」
「あ、あの。肩に、頭を乗せても、よろしいでしょうか?」
女が聞いた。
「どうぞ」
南原竜樹が答えた。
女は、運転している南原の、肩に、頭を乗せた。
女は、何だか、南原と、ドライブしているような、ロマンチックな気分になった。
(ああ。南原さん)
と、女は、心の中で、呟いた。
やがて、車は、首都高速の出口から出た。
そして、六本木の高層マンションの、地下パーキング場に入った。
南原は、駐車場に車をとめた。
「さあ。石川さん。着きました。ここが私の住んでいるマンションです」
そう言って、南原は、サイドブレーキを引き、ドアロックを解除した。
南原と、女は、車を降りた。
そして、二人は、マンションのエレベーターに乗った。
南原の部屋は、15階だった。
「さあ。どうぞ。お入りください」
南原が言った。
「はい」
女は、南原の部屋に入った。
部屋は、3LDKのデラックスな部屋だった。
リビング・ルームには、テーブルを挟んで、ソファーが向かい合うように、配置されていた。
「さあ。石川さん。座って下さい」
南原に言われて、女は、ソファーに座った。
南原は、女と、向き合うように、向かいのソファーに座った。
「たいへんでしたね」
南原竜樹が、女を見て言った。
女は、わっ、と泣き出した。
「南原さん。ありがとうございました。南原さんのおかげで、私は、救われました。南原さんは、私の命の恩人です」
と、女は、嗚咽しながら言った。
「いえ。堀之内九一郎と、川原ひろし、が、わざわざ、自慢げな電話をしてきたからですよ。あの電話の、おかげて、僕は、やっと、気づいたんです」
と、南原は謙遜した。
「監禁中は、寒かったでしょう。さあ、これを飲んで下さい」
そう言って、南原は、テーブルの上に置いてあった、ワインをグラスに注いで、女にグラスを渡した。
「ありがとうございます」
女は、礼を言って、ワインをゴクゴク呑んだ。
「ああ。美味しい」
女の顔に生気がもどった。
「地下室では、つらい目にあわされたでしょう。風呂に湯が満たしてあります。どうぞ風呂に入って、疲れをとって下さい」
と、南原竜樹が言った。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて、お風呂に入らせて頂きます」
と、女は、言った。
女は、風呂に入った。
温かい湯船に浸かっていると、肉体と精神の、疲れが、一気に、癒されていくような思いになった。
女は、しばし、湯に浸かった後、風呂から出た。
風呂から、あがると、脱衣場には、自分の作った、フードつきのバスローブが置いてあった。
「どうか、これを着て下さい」
と書かれた、小さいメモが置いてあった。
女は、それに従って、自分の、制作した、フードつきのバスローブを着て、リビング・ルームにもどってきた。
「ははは。石川さん。風呂あがりに、また、スーツを着るというのは、不自然ですし、くつろげないでしょう。僕は、あなたの、フードつきのバスローブは、以前に、二着ほど、注文して、買わせてもらいました。男が風呂あがりに着ても、なかなか、着心地がいいですよ」
と、南原は、言った。
女は、顔を赤らめて、南原と、向かいのソファーに座った。
「南原さん。本当に、色々と、ありがとうございました。何とお礼をいっていいのか、わからないほどです」
女は、言った。
「いえ。私の方こそ、あなたに謝らなくてはなりません。私が、番組で、あなたを、認めたのは、他の社長たちが、あまりにも、あなたのことを、酷く言うものだから、彼らに対して、反抗したくなって、あなたを、全面的に認める発言をしたのです。金は出さずに、好き勝手な、説教をしている、彼らを、私は、最初から嫌っていました。もちろん、あなたの、細部にまで、しっかりと計画を練る、優秀な頭脳と、誠実さ、と、やり抜こうとする決断力の強さにも、感激しました。そのため、本心では、事業は、失敗するとは思っていましたが、つい、そのことは、言わずに、あなたを、全面的に、賛辞してしまったのです。ですから、こうなったことには、私にも責任があります」
と、南原竜樹は言った。
「ところで。石川さん。これから、どうしますか?」
南原竜樹が聞いた。
「・・・そうですね。やはり、高橋がなり、さんには、一千万円、の負債が、私には、あります。それは、返さなくてはなりません。高橋さんが、私をどうするつもりだったのか、その本心は、わかりません。檻に入れられた時には、このまま、一生、檻に入れられ続けられるのだろうか、とか、最後には、用無しになったら、殺されるのか、とまで、思ってしまいました。しかし、冷静に考えてみれば、高橋がなり、さんも、アダルトビデオ会社の社長で、そんなことを、するはずは、ありません。私の妄想です。私を、本気で、こわがらせるために、私を檻の中に入れたのだと思います。ましてや、高橋がなり、さんは、社長さんの中でも、優しい性格だと思います。私の、AV作品が、ヒットするとは、私には、思えませんが、ともかく、高橋さんとの約束は、守って、AV作品は、完成するまで、続けようと思っています。これからは、南原さん、が、私のことを、知っていてくれますから、また檻に入れられることになっても、安心です」
と、女は、言った。
「石川さん。あなたは、とても、誠実な人ですね。そういう、あなたの誠実さにも、私は、感激したんです」
と、南原竜樹が言った。
「石川さん。もし、あなたが、よろしければ、私の会社、オートトレーディング・ルフト・ジヤパン、に就職してみませんか。私は、あなたのような、優秀な人材は、ぜひ、欲しい。給料も、はずみますよ」
と、南原竜樹が言った。
「わかりました。高橋さんの、私のAV作品が、完成したら、ぜひ、就職させて下さい。やはり、私には、事業者の能力は無いのかもしれません」
と、女は、言った。
「あなたは、本当に誠実な人だ。私は、番組で、あなたの、プレゼンテーションを聞いているうちに、あなたを、素晴らしく、魅力のある、女の人、と、思ってしまっていたのです」
と、南原竜樹が言った。
「私も、南原さんが、好きです。愛しています」
女は、堂々と、告白した。
二人は、お互いに、相手の目を直視した。
二人の心はもうすでに、一体になっていた。
「石川さん」
「南原さん」
二人は、同時にソファーから立ち上がった。
そして、ガッシリと抱きしめあった。
二人は、お互いの目を見つめ合った。
二人は顔を近づけた。
二人の唇が触れ合った。
南原は、貪るように、女の唾液を吸った。
女も、貪るように、南原の唾液を吸った。
二人は、貪るように、相手の唾液を吸い合った。
「石川さん。寝室に行きましょう」
南原が言った。
「ええ」
女が答えた。
二人は、ベッドルームに、向かって、歩き出した。
男女の愛の営みをするために。
寝室に入ろうとした時だった。
「あっ」
女は、寝室の敷居に、足を引っかけて、前のめりに、倒れた。
「大丈夫ですか。石川さん?」
南原が、急いで女に近づいて聞いた。
「え、ええ」
そう女は、答えたが、右足の足首をおさえている。
南原は、女の足首の辺りを、そっと、押してみたり、伸ばしたり、曲げたりして、具合を確かめた。
「痛いっ」
南原が、女の足首を曲げた時、女は、思わず、声を出し、眉をしかめた。
「骨折は、していませんが、どうやら、足首を、捻挫してしまった、みたいですね」
南原が、言った。
「冷却スプレーと、湿布がありますから、持ってきます」
そう言って、南原は、冷却スプレーと、湿布を持ってきた。
そして、女の右の、足首に、冷却スプレーを、噴きつけた。
その時である。
ピンポーン。
チャイムが鳴った。
「ちょっと、待っていて下さい。今時分、一体、誰でしょう?」
南原は、そう言って、玄関に行って、戸を開けた。
そこには、高橋がなり、が、立っていた。
「あっ。高橋さん。どうして、あなたが、ここにいるんですか?」
南原竜樹が聞いた。
「ははは。南原竜樹さん。実は、あなたが、ここに、来ることは、予想していました。地下室には、隠しカメラを設置しておいたので、あなたが、彼女を救出する場面は、録画させてもらいました。堀之内九一郎と、川原ひろし、の電話で、頭のいい、あなたなら、気づくだろうと、思っていました。あなたが、ソフト・オン・デマンドに来て、そして、彼女を救い出して、ここに連れてくること、は、私は、予測してました。だから、この部屋には、いくつも、あらかじめ、隠しカメラを設置しておいたんです。あなたと、彼女の会話は、全て録画させて、もらいました。彼女は、役者の経験などありませんから、台本で、セリフを覚えさせて、演じさせることは、出来ないだろうと、私は、思っていました。だから、地のままの、彼女の行動を、撮るのが、一番、いいと、思っていたんです。予想通り、いい、撮影が出来ました。本当は、あなたと、彼女のベッドシーンも、撮るつもり、だったんですが、彼女が、捻挫してしまったので、出来なくなって、しまったので、ここで、撮影を中止することに、変更したんです」
そう、高橋がなり、が、言った。
「そうだったんですか。私は、見事に、あなたの計画に、はまってしまいましたね。まあ、ともかく、部屋に入って下さい」
南原に言われて、高橋がなり、は、部屋に入ってきた。
高橋がなり、は、捻挫して、座っている、女を見た。
「ははは。石川さん。南原竜樹さんとの、会話。よく出来ていましたよ。あれを、あなたに、台本で、セリフを覚えさせて、演じさせても、リアル感など、出やしません。下手な三文芝居になるだけです。あなたは、私の予想通り、誠実な人だ。もう、撮影すべきシーンは、ほとんど、撮れていますから、もう、ほとんど、完成です。ただ、南原さんとの、ベッドシーンが撮れなかったことは、残念ですが」
と、高橋がなり、が言った。
「高橋がなり、さん。撮影を放棄して、地下室から、逃げてしまって、申し訳ありません。でも私、本当に、こわかったんです。いつまで、監禁されるのか、と不安になってしまって・・・」
と、女が、言った。
「ははは。石川さん。いいんです。ラストは、あなたが、南原竜樹さんに、助けられる、というのが、私が、構想していた、ストーリーですから。もちろん、私は、あなたが、本当に、怖がるよう、わざと、冷酷な態度を、演じてはいましたけれど」
そう、高橋がなり、は、言った。

女の足首の捻挫は、軽いもので、翌日、整形外科に行って、電子針治療をしたら、すぐに治った。

高橋がなり、は、女に、「作品を完成させるためは、もう少し、撮影しなくては、ならない、シーンが、ありますが、足首の捻挫が、治ってからでいいですよ」と、言ったが、女は、真面目なので、「いえ。大丈夫です」と言った。
こうして、残りのシーンを撮影して、編集して、二週間で、AVビデオ、「女社長。借金まみれ。色地獄落ち」は、完成した。

高橋がなり、の、予測は、当たった。
「マネーの虎」で、女は、すでに、世間に、知られている上に、ノンフィクションの実話、ということで、ソフト・オン・デマンドのAVビデオ、「美人女社長。借金まみれ。色地獄落ち」は、大ヒットした。
もちろん、最初のシーンは、女の出演した、「マネーの虎」である。
今一つ、ヒット作が出なくて、困っていた、ソフト・オン・デマンドは、これによって、大儲けした。
女の、高橋がなり、への、一千万円、の借金は、約束通り、チャラになった。
女は、南原竜樹の、会社、オートトレーディング・ルフト・ジヤパン、に就職した。
だが、世間の、エグゼリーナ達が、興味本位から、ぜひ、女の製作した、フードつきのバスローブを欲しい、という注文が、殺到した。
銀座に出した、店は閉じてしまったが、女は、フードつきのバスローブを、発送して、かなりの利益を得た。
そして、半年後、女は、南原竜樹と、結婚した。
女は、南原と、幸せに暮らしている。
めでたし。めでたし。



平成27年12月10日(木)擱筆

マネーの虎

マネーの虎

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • サスペンス
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-07-24

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