うたうたい

ギターを弾けすらしないのに、次の誕生日が怖いと言った。
やすい愛しか語らないのなら捨ててしまえば良かったうたを胸にしまったまま、土の匂いの中を歩く。一つ手を動かせば角が立つ、一つ足を踏み出せば流される。何もするなと擦り切れたカセットテープが繰り返すからセピア色のメビウスの輪から未だ抜け出せないでいるのだ。終わり良ければ全て良し、なんて楽観的と退廃的を履き違えた帳尻合わせに付き合う暇はないのです、午後六時の青色に覆い隠される前に、目印の蛍光色をブロック塀の向こうまで飛ばす。
枯れて縮んだアザレアの花片を口に含んで、まだ夢を見た振りができると確認する。全体の幸福がなければ個々人の幸福すらも有り得ないのだ、幸福とは幸福であると思うこと、その場凌ぎのトートロジーが現実になるのなら成程なんて現実は軽々しいのだろう。
百年後の生態系に思いを馳せながら今晩も石油にまみれている、軽挙さを身に付けたところで体重は1ミリグラムも減ることはない。減るのは呼吸ごとのうそいつわりの純度ばかりだ、あまりにも易い言葉に浮き足立って、もう少しであの雲にも手が届くところだった。薄っぺらいソーダ水みたいな空に軽率に風雪をひらめかせて、また1枚、麻の着物が増えました。
あのうたを忘れてしまいたい、願うほどに濃くなっていく、体内へ潜り込んだ母音と子音のゆくえを探したときにはもう、舌の上を苦々しい言葉が転がり落ちていった。この場この時間の存在に思い当たるまでのまたたきがあればわたしたちでさえも星になれた、しかし何べんも灼かれては堪らないからたんに人であることを選ぶのだ、27回目のひとひに。
だからギターを置いて、祝福のうたをうたう。

うたうたい

うたうたい

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-07-22

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