奏でる
プロローグ
彼女は今日も歌っている。
校舎裏で。
川辺で。
公園で。
その歌声は、悲しくも力強く。
私はそんな彼女を支えていく。
彼女は今日も演奏している。
校舎裏で。
川辺で。
公園で。
その演奏は、私を支えてくれる。
崩れそうになっても、彼女が後ろにいてくれる。
いつも二人一緒だった。
彼女がいればなんでもできた。
この世からいなくなることも。
1
彼女と私は幼いころからいつも一緒だった。だから趣味が一緒になるのは不思議なことではなかった。音楽を好きになり、歌うこと、奏でることが好きになった。彼女がある日一緒に音楽を創ってみよう。と言った。私は当然承諾した。彼女とずっと一緒にいたいから彼女と何かをしてみたら絶対に楽しいと思った。
彼女はボーカル、私はハモリ&ギターを担当した。昼は学校、夜にたまに路上ライブをするという日々が続いた。
学校は二人とも同じで、毎日電車に乗って通っていた。学業なんてそっちのけでひたすら音楽の話ばかり、当然登下校中も。
二人の作曲場所は地元にある川岸、公園、森の中、どこも子供のころ親しみのあった場所で作っていた。
理由はそこが一番落ち着くから。すれ違うことなどなく、いつも手を取り合って生きていた。
そんな毎日の成果が実ったのか、声がかかった。
夢はなかったけれど毎日音楽をしていられればそれでよかったから、デビューしてもそこまで変わらなかった。環境が整っただけと思った。
それから今までのように努力していればチャンスをつかめると思った。けれど話題になるもその後はあまり売れず、悪い状況が続いた。
きっと潮時だったんだと思う。この時、二人の考えは同じだった。死んでしまおう。もう悔いはないと。
これまで一緒にこれたこと楽しかった。私はあなたと一緒に死ねたら幸せだと。
それから…私は自宅で寝ていた。あたりを見回すと少女が鼻歌を歌いながらお粥らしきものを作っていた。聴き慣れたメロディー、けれどどこで聞いたかその少女が誰なのか思い出せない。ああ、これは夢か、と思う。シーンが変わり、彼女が余所行きの格好をして靴を履きながらまたメロディーを奏でている、どこかに出かけるらしい。どこに行くの?と声をかけても届いていない。歌うのに夢中なのか、本当に届いていないのかはわからないが。どこに行こうというのだろうか。
そんなことを考えていたら玄関のドアを開けて出かけてしまった。置いていかれてしまう、嫌だ。と無意識で体が動き、彼女を追う。また知っているけれど、知らないリズムに乗せて手すりをトントントンとたたきながらこちらも見ずに迷いもせずに彼女は歩いていく。夢なのか、彼女が叩いたところから光の球がはねて、光が音楽を奏でているように光った。追いながら、それは話しかけると今にも消えそうに光り、とても幻想的でずっと見ていたいと思った。
けれどそんなわけにもいかない。どこに向かっているのか、そもそも私は彼女を知っているのか。彼女は手すりや塀を叩き、なければ足元をリズムに乗せて楽しそうに歩いていく姿を後ろから見て、私は話しかけられないまま考えていく。
行く先々に楽しそうに音を奏でる二人組がいる。これは自分の体験したことがあるものだと思った、だがその時の私はいわゆる夢の中だからなのか、そのことを思い出せなかった。
後になって思う。たくさんの曲を二人で作ってきた、どの曲もいろんな場所でいろんな思い出がある。どれもきっと他人から見たらくだらないことばかり。けれどそれが幸せだった。
そんな思い出の場所を彼女はその時作った歌とともに巡っていると。
最後に彼女は二人が身を投げた場所に行きつき、やっと私のほうを見た。そして何か言葉を言った後、これまでに見たことのないような悲しそうに笑う顔をしていなくなってしまった。--まって!!
そして目が覚めた。
私だけが生き残ってしまった。
ああ、彼女はきっと別れの言葉を私に残したんだ。
「大丈夫。」
と、これからはわたしがいなくても大丈夫と。
そう伝えたかったんだろうか。
そんなわけないのに。
けれど死のうにも自分では度胸もない。彼女がいたから何でもできた。きっと彼女はこの先のことも見透かして大丈夫と、あなたなら生きていけると微笑んだのではないか、、、そう思いたい。
そうして、私は一人で音楽を続けている。音楽をしていれば彼女が近くにいるような気がした。彼女との思い出、彼女への思いをつづって今日も歌う。
奏でる