泡沫

雪朔 凜翔

好きだったのに。きっと今でも好きなのに。

(どうしても、言葉に出来ないの。)

何度も夏を繰り返して、いつも思い出すのは、彼が吸ってたタバコ。
気づけば、自分も吸うようになっていた。悲しくなるくらい彼のことばかり。
連絡する勇気も、好きだと言う自信もなくて。
やっと、通話ボタンを押して、やっと、話せても、素っ気ない言葉しか出てこない。こんなに、手は震えていて、声も辿々しい。でも、そんな気持ちは、彼には伝わらない。
「会いたいんだけど。」
もう少し可愛く言えたら、違ってたのかな。それとも、もっと女の子らしかったら、よかったのかな。
彼の長い沈黙の後に、聞こえた声は、小さな拒絶だった。
『…………どうして?』
分かってて、聞いているのは、理解していた。ただ、会いたくなった。今なら会える気がする。そんな思いと、衝動で、彼の家の前にいることを、彼は気づいている。
それでも、問いかけてくるのは、きっと。
分かってる。分かっていた。彼が、そんなふうに聞いてくるのは。
「どうしてってなに?」
だから、聞き返す。また、長い沈黙だ。
『どうして、会いたくなったの?』
今度は、こちらが沈黙した。
言いかけた言葉が、出てこない。好きと、言うだけなのに。彼は、ずっとそれを待っているのに。
何度も、言葉にしようとして、口を開くのに、音にはならない。それを繰り返していると、小さく小さく、電話越しから、笑い声が聞こえた。
『バカだなぁ、ほんと。』
呆れたような、少しだけ寂しそうな。
涙が、溢れ落ちた。
音にはならなかった。言葉には出来なかった。
『…………またね。』
切られた通話音を聴きながら、彼女は、電話越しに、静かに、けれど、確かに、それは、言葉になって零れ落ちた。

「ばか。」
(すきだよ。)

泡沫

久しぶりに更新しました。しかもこんな夜中に(笑)
この物語は、友達が読む声劇の台本の続きの一つとして書かせて頂きました。
伝えたいけど、伝わらない。言葉にしたいけど、出来ない。
こんな経験はありますか?

果たして、これでよかったのでしょうか。別の道もあったのでは。と思ってしまいますね。

泡沫

  • 小説
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  • 恋愛
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更新日
登録日 2021-07-16

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