壊れた教室

 くるおしいほど、つめこめられた。胃に。花を。やわらかな花は、無限にはいるような気がしたと、(むく)はつぶやき、半壊した教室の、乱雑に放置された机と椅子が風に吹かれて、悲鳴をあげた。恋人を、花壺にする儀式ほど、イカれていて甘美なものはないと思いながら、窓を失ってより近くなった空の青を、吸いこまれるような気分でみていた。椋は、ぼくのみぎてをとり、親指からていねいに、一本、一本の指先に、キスをした。微かに聞こえる、電車の音が、遠のく意識に薄紙をはさむようで、ぼくは、際のところで、なんとか、ぼくと、椋、という存在を認識していた。いまは苦しくても、花はやがて肉体と同化し、ぼくは、永久的に椋のものとなるのだが、ぼくには、まだ、その覚悟が足りない気がして、次第に熱を持ちはじめた胃が、いっそのこと焼き切れてくれないかとひそかに祈った。椋は、すでに、永遠の愛をてにいれたかんちがい野郎みたいに微笑み、ぼくのひたいを撫でた。

壊れた教室

壊れた教室

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-07-15

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